温浴施設の本棚に並ぶ漫画と、検索画面を表示したノートパソコンを描いたイラストです。

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「漫画1万冊」と書いてあっても、お目当ての作品があるかは分からない。施設に着いてからも、広い本棚の前を行ったり来たり。そんな経験はありませんか。

前回、検索ランキングから漫画の楽しみ方を教えてくれた「スパコミック」の秋元さんも、その一人でした。しかも当時は、膝を痛めていたといいます。

自動車のエンジニアだった秋元さんが、温浴施設の本棚を調べ始めるまで。今回は、サービスの原点と、一つずつ作品名を記録してきた日々を伺います。

行くまで分からない。行っても見つからない

【アクトパス原田】

スパコミックをつくろうと思ったきっかけは、ご自身が温浴施設を利用したときの体験だったそうですね。

【スパコミック秋元さん】

もともと妻とスーパー銭湯によく行っていたんです。お風呂でリフレッシュできて、漫画も読めて、一日過ごせる。休日の遊び先の一つでした。

でも当時は、どの施設で何の漫画が読めるのか、事前に調べにくかったんですよね。漫画を楽しみに来ている人がいるのに、ホームページを見ても、読める作品が載っていない。

施設に行ってからも、読みたい漫画がどこにあるのか分からない。ちょうど僕はサッカーで痛めた膝の調子が悪くて、歩き回って探すのが大変だったんです。

周りを見ると、ほかのお客さんも本棚の前で探している。ご高齢の方もいて、「これは検索できた方がいいな」と思いました。

【アクトパス原田】

行くまで何があるか分からないし、行ってもどこにあるか分からない。その両方を解決したかった。

【スパコミック秋元さん】

そうです。さらに、いろいろな施設をまとめて検索できれば、漫画から行き先を選ぶこともできます。

「この温浴施設に行きたいから、読める漫画を調べる」でもいいし、「この漫画を読みたいから、読める温浴施設を探す」でもいい。どちらからでも行けるようにしたかったんです。

前職は、車の「違和感」を探す仕事

【アクトパス原田】

そのサービスをつくった秋元さんは、もともと温浴業界の方ではないんですよね。

【スパコミック秋元さん】

大学では機械情報工学を専攻して、ディープラーニングを使ったロボットの研究などをしていました。もともとロボットが好きで、ハードもソフトもやりたかったんです。

大学時代のロボット研究。カメラで人の動きを検出し、経路を生成する試験の様子。

卒業後は自動車会社に入り、群馬県の職場で、自動運転や運転支援に関わる実験・評価の仕事を5年ほどしていました。

例えば、高速道路で車線に沿って走るために、車がハンドル操作を支援する機能がありますよね。カーブでハンドルを切り始めるタイミングが、人の感覚より少し遅い。そういう違和感を、実際に車に乗りながら見つけます。

それが車両側の問題なのか、カメラによる白線の認識なのか、ハンドルを動かす制御なのか。データを見て原因を絞り、設計の担当者と改善していく仕事です。

【アクトパス原田】

パソコンでデータを見るだけでなく、実際に車を動かしていたのですね。

【スパコミック秋元さん】

ほぼ毎日のように乗っていました。タイヤや足回りを組んだり、計測に必要なものを取り付けたりするところからです。

新しい機能をどうつくるか、どんな試験をするかを考えて、実際に試して、データを見て直す。そういう仕事でした。

【アクトパス原田】

そこから、自分でサービスをつくる方向へ進んだのは、なぜでしょうか。

【スパコミック秋元さん】

前職は、もともと自分がやりたかった仕事でした。ただ、働くうちに、その先の自分の働き方や将来について考えるようになったんです。自分で何かやってみたいという気持ちもあって、ウェブのものを触りながら、いろいろ試していました。

そのときに考えていたのが、「やりたいこと」「できること」「社会貢献になること」の三つです。それが重なったのが、スパコミックでした。

温浴施設で感じていた不便を、自分の得意なことで解決できるんじゃないか。そう考えた時期と、会社を辞めようと考えていた時期が重なっていました。

「ヒロアカ」で見つかるようにするために

【アクトパス原田】

検索する仕組みをつくるにしても、最初は施設や漫画の情報が必要ですよね。どうやって集めたのでしょうか。

【スパコミック秋元さん】

もう、泥臭いですよ。

まずGoogleマップで地域ごとに「スーパー銭湯 漫画」「温泉 漫画」と調べて、施設を一つずつリストにしました。SNSでも調べて、全部Excelにまとめていきました。

漫画の情報は、最初は十数店舗を実際に回って、スマホのメモ帳に作品名を入れていました。『呪術廻戦』『キングダム』というように、棚を見ながら一つずつです。

当時は、温浴施設に漫画をレンタルする会社があることもよく知らなかったんです。施設を回るうちに、「このPOP、ほかでも見たな」「こういう会社が入っているんだ」と、業界の仕組みも分かってきました。

【アクトパス原田】

まずは自分の足で調べていた。その情報を、そのままサイトに載せていったのですか。

【スパコミック秋元さん】

はい。ただ、作品名を並べるだけでなく、検索もしやすくしたかったんです。

例えば『キングダム』なら、「きんぐ」くらいまで入力したところで出てきてほしい。『僕のヒーローアカデミア』も、正式名称だけでなく「ヒロアカ」で見つかってほしいですよね。

そのために、読み仮名や略称も一つずつ登録しました。

前職ではExcelのマクロも使っていたので、入力した情報をまとめて処理できるようにして、少しずつ作業を速くしていきました。最初は力技でしたけど、その積み重ねが、後で大量の漫画を調べるときにも役立っています。

開発初期の検索画面。作品名や本棚の位置を表示し、
館内のマップと照らし合わせられるようにしていた。

営業経験ゼロから、泊まり込みの蔵書調査へ

【アクトパス原田】

施設の方に、直接サービスを提案するようになったのは、いつ頃からですか。

【スパコミック秋元さん】

自分で調べ始めてから、2、3カ月くらいして、「施設の人に連絡してみよう」と思いました。

ただ、前職では営業をしていませんし、名刺交換もほとんどしたことがありませんでした。そこから電話をかけていったんです。今も基本的には一人で運営しています。

最初に「面白いね、いいよ」と言ってくださったのが、埼玉県坂戸市の「ふるさとの湯」さんでした。メールでやり取りしながら、QRコードから漫画を検索できるようにしました。

その後、東名厚木健康センターさん(現在は閉店)や草加健康センターさんにもお話しするようになりました。

【アクトパス原田】

漫画の多い施設となると、調査も相当な量になりますよね。

【スパコミック秋元さん】

厚木さんには約56,000冊あって、当時、温浴施設の中で日本一と紹介されていたんです。逆に、「ここを掲載できれば、全国どこの施設でもできるだろう」という気持ちもありましたね。

そのときは、何巻まであるかではなく、まず何の作品があるかを確認しました。5,586タイトルだったかな。それを全部、一つずつです。

【アクトパス原田】

一巻ずつ数えるわけではなくても、5,000を超える作品を確認するとなると、相当な作業ですね。

【スパコミック秋元さん】

厚木さんで1週間くらいかけたと思います。草加さんでは、有料スペース「ラッコ荘」を利用させていただきながら調べました。連続ではなかったのですが、泊まって、夜な夜な漫画のタイトルを確認して。

本当に、いつも力技です。

【アクトパス原田】

ロボットを研究していた方が、本棚の前では自分で一つずつ確認している。

【スパコミック秋元さん】

そこは、数えていくしかないですね。試験的に写真から判定するシステムを組んだことはあります。ですが、2023年当時は精度が悪く、使い物になりませんでした。

もちろん、すでにExcelでリストを管理している施設なら、そのデータを使えます。ただ、自社で漫画を購入していて、まとまったリストがない場合もあります。

閉店した漫画喫茶からまとめて購入したようなケースだと、冊数は多くても、何が入っているかを把握しきれていないことがあるんです。

検索できるようになって、「便利になった」という声や、「この漫画はありますか、という電話が減った」という声をいただけたのは、うれしかったですね。

【アクトパス原田】

北海道・旭川の「SPA & SAUNA オスパー」さんでは、お客様も一緒に漫画を整理されたのですね。

【スパコミック秋元さん】

はい。2026年5月に、2万数千冊の漫画を確認して、本棚を整理しながら、システムのデータと照合していく作業をしました。

そのときは、皆さんが自分のスマホで、本棚にある作品を登録できるツールをつくりました。どの棚に何があるかを登録していくと、そのまま館内のコミック検索MAPができる仕組みです。

【アクトパス原田】

みんなで本を整理した作業が、その後の「探しやすさ」につながるわけですね。

【スパコミック秋元さん】

そうです。スパコミックを初めて知るお客様もいらっしゃったので、最初に、この作業が施設や利用する方にどう役立つのかを説明しました。

ただ、本を一つずつ確かめて、棚を整えて、データと照合するのは、なかなか大変なんです。単純に見えて、相当ハードな作業でした。

北海道・旭川の「SPA & SAUNA オスパー」での漫画整理。2万数千冊を確認し、本棚とデータを照合した。

取材後に見せていただいた初期のExcelには、縦に作品名、横に施設名が並び、蔵書がある交点に「1」が入っていました。今は別の仕組みで管理しているそうですが、検索サービスの出発点が伝わる一枚です。

初期の管理に使っていたExcel。作品名や読み仮名、施設ごとの蔵書情報を記録していた。

一緒に届いたのは、小さなお子さんを抱きながらパソコンに向かう写真。「夜泣き対応しながら開発してた頃」と、短い説明が添えられていました。

育児の合間にも、開発を進めていた秋元さん。

「ヒロアカ」と入力すれば、読みたい作品が見つかる。その当たり前のような便利さは、本棚の前で調べる時間と、パソコンに向かう時間の積み重ねでできているのですね。

ただ、便利なものをつくれば、それだけで広がるわけではありませんでした。次回は、施設への提案で直面した「それは集客につながるの?」という問いと、そこから始まった利用者アンケートのお話です。

(ハラダ)

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