「世の中には二種類の人間がいる。銃を持つ者と、穴を掘る者だ」
これは、1966年の名作映画『続・夕陽のガンマン』の中で、クリント・イーストウッド演じる主人公が放ったあまりにも有名な台詞です。特定の事柄を対比させ、複雑な世界をスパッと二分して見せるこの言い回しは、その後多くの物語やビジネスシーンで引用されるようになりました。
実は、温浴施設のターゲット戦略を議論する場においても、これに似た二元論がよく登場します。
「ターゲットは地元客か、広域客か」
「若年層を狙うのか、それとも年配客か」
「短時間滞在の回転重視か、長時間滞在の客単価重視か」
「新規客の獲得か、リピート率の向上か」
不特定多数のお客様を迎え入れる温浴ビジネスにおいて、このように両極の属性を定義し、それぞれのニーズを整理することは、マーケティング理論を組み立てる上で非常に有効なステップです。私自身も、コンサルティングやセミナーの場では、理解を助けるためにこうした表現を多用します。
しかし、ここでちょっと考えてみる必要があります。私たちの目の前にいるお客様は、本当にその二種類のどちらかにきれいに分類できる存在なのでしょうか。
例えば「地元客」と「広域客」という分類を考えてみましょう。
一般的に、地元客は車や自転車で10〜15分圏内の居住者、広域客は30分くらいかけて来館する層と定義されることが多いものです。しかし、現実には歩いてすぐのご近所さんもいれば、20分かけて来る「準地元客」もいます。さらに、普段は遠方に住んでいるけれど、帰省のたびに必ず寄ってくれる「心の地元客」のような存在も無視できません。
「新規」と「リピーター」も同様です。
今日が初めてのお客様は確かに新規客ですが、5年ぶりに足を運んでくれたお客様を、単純にリピーターと呼んで良いのでしょうか。施設の内容もオペレーションも変わっている中では、その方の心理状態は新規客と何ら変わりません。また、常連客が初めての友人を連れてきた場合、そのグループはどちらの対策を講じるべき対象になるのでしょうか。
滞在時間にしても、ひとっ風呂60分未満で帰る人と、一日滞在を満喫する人の二極だけではありません。その日の仕事の状況、懐具合、あるいは一緒に行く相手によって、同じ人物であっても「今日はクイックに」「今日はのんびり」と使い分けます。
現実は、白と黒の二色ではなくて、無限の階調を持つ「グラデーション」なのです。
もし経営者が「本当に二種類しかいない」と思い込んでしまったら、両極からこぼれ落ちる膨大な数のお客様を見落とすことになります。
温浴ビジネスの最大の特徴であり強みは、本来全方位のお客様を受け入れられる懐の深さにあります。裸になればみな同じで、肩書も上下関係もない。それなのに、「うちのメインターゲットは20代〜30代の若い男性」「ご近所のお年寄り」といった極端な絞り込みを耳にすることがあります。
しかし、これは戦略というよりも、思考の放棄に近い「雑な分類」なのかもしれません。
一口に「若い男性」と言っても、その構成要素を分解すれば、
「近隣住まいの、サウナ好きで、平日の夜に一人で来店し、サクッと入浴して食事はせずに帰るリピーター」もいれば、
「遠方から、友人と連れ立って、休日の午後に訪れ、食事やリラクゼーションまでフルコースで楽しむ初回来店客」もいます。
住まい、年齢、時間帯、滞在時間、飲食の有無、同行者、目的、来店頻度……。
これらの要素を組み合わせていけば、そのパターンは無限に広がります。本当の意味で「全く同じ客層」など存在せず、お客様はひとりひとり、異なるニーズを持って来店するのです。
もちろん、すべてのニーズに完璧に応える八方美人な施設を目指せば、結局どっちつかずのコンセプトがボヤけた施設になってしまうリスクはあります。しかし、コンセプトを明確にすることと、お客様を雑に分類することは違うのです。
本当のターゲット戦略とは、「うちはこういう客しか相手にしない」と線を引くことではなく、多様なグラデーションの中にいるひとりひとりのお客様に対して、施設側がどれだけ丁寧に歩み寄れるかを追求することではないでしょうか。
「短時間利用の人にも、長時間利用の人にも、それぞれの心地よさを提供するにはどうすればいいか」
「一人客の静寂と、グループ客のにぎわいを、どう共存させるか」
「初めての人には安心を、常連さんには飽きない変化を、どう同時に届けるか」
二元論は、頭を整理するためには便利ですが、現場で向き合うのは、目の前にいるひとりひとり違う、名もなき人たちです。
この多様で複雑なパズルを解き続け、解像度を上げることこそが、「集客力拡大」の本質なのです。
(望月 義尚)
この記事は、日刊アクトパスNEWSの一本です
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