熱岩石のデザイン

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今日は 2022年3月14日です。

教科書に書いてあることだけじゃ分からない(1)

・熱岩石の開発から学んだこと

 9年前(2013年)に開発した運搬式蒸気発生器「熱岩石」、ステンレスの鍋に石が入っているようなシンプルな構造ですが、今の形に落ち着くまでにはいろいろな試行錯誤がありました。
https://www.yokujoichiba.jp/view/item/000000000078

見た目がちょっとメトス社のikiストーブに似ていると思われた方もいらっしゃるかと思いますが、あれはデザイン的なオマージュというわけではありません。

重量のあるサウナストーンを保持しつつ、万が一石が爆ぜてもしっかり囲っているので飛び散る心配がないようにするためには、あのようなネット構造が良いのです。

丈夫なステンレスで作られていますが、1,700度以上に達するガスの炎で長時間加熱すれば、金属は柔らかくなります。それでも変形しないようにするにはどのくらいまでネット構造を頑丈にすればいいのか。金属量を増やせば重くなって運搬が困難になりますが、金属量を減らせば強度が落ちる。そのギリギリの線はどこなのかを追求していくと、結局あのようなデザインになったということなのです。

鍋は二重構造になっていて、加熱した高温状態の内鍋に直接肌が触れることがないよう、外鍋に収めて運搬する方式になっています。

内鍋の底は直接コンロで加熱する部分ですが、穴を開けることで炎の熱を鍋の中まで届けて、加熱の効率を上げています。この底の穴の形状も難しくて、初期の製品では熱で金属が徐々に伸びてしまい、サウナストーンの重量を支え切れずに底が膨らむという問題が発生したこともありました。当然すべて無償修理対応です。

モノの形というのは、安全性や耐久性などを試行錯誤した結果としてようやく辿り着くものであり、すべてに意味があるのです。

試作段階の熱岩石(2013年)

熱岩石は、浴場市場(株)社長の米澤さんとそのような苦労を重ねてリリースした製品ですが、「ロウリュをやってみたいと思うけど、自店のサウナストーブは水を掛けられない。ストーブ自体を交換してまではちょっと…もっと安価に、気軽にやれる方法はないの?」という超ニッチなマーケットに向けて開発したもので、そんなにたくさん売れたわけではありません。

開発の苦労と、これまでの累計販売台数×1台あたり利益を天秤にかければ、正直なところ「やって損した」と思うくらいです。

しかし、表面的な損得だけでは測れない意味がありました。弊社は熱岩石の開発実験プロセスにおいて、サウナストーンや金属の加熱、水蒸気の発生などについて多くの知見を得ましたし、熱岩石によって各地のサウナでロウリュを体験する消費者の急激な増加につながりました。

熱岩石を購入する施設ばかりでなく、一時的なイベントでのレンタル利用、施設同士での貸し出し、熱岩石を持ち歩く熱波師の登場などによって、多くの人がサウナ内で水蒸気を発生させる意味を知るようになったのです。

試しに熱岩石を導入してみた店舗は、その後お客さまの反応を見てロウリュをやめることができなくなり、結局水掛け可能なikiやISNESSなどの本格的ストーブの常設に切り替えることがほとんどでした。

熱岩石はあまり脚光をあびることもなく、酷使されて消えていく中継ぎ投手のような、寂しい存在なのです。

・サウナストーンに水を掛けると

 こんないきさつがあるので、サウナストーンの水掛けについては経験豊富です。加熱と水掛けを繰り返したサウナストーンはやがてボロボロと崩れてしまうのですが、石が割れる時にはパンッ!と爆竹のような音がすることがあります。水は水蒸気になる時に約1700倍の体積に膨張しますので、石の内部に浸み込んで行き場のない水分が蒸発すると、小さな爆発を起こすということなのでしょう。

以前聞いた話で私自身は経験がありませんが、「爆ぜた石の欠片がサウナ室の内装の木に刺さっていたことがある」とサウナメーカーの人が言っていました。

サウナストーンが爆ぜることの危険性については、法的な規制も消防署や保健所の指導もありません。過去に表沙汰になるほどの事故は幸いにして起きていなかったということだと思います。

これまでのサウナストーブはストーブガードに囲われていて、水掛けもしませんし、お客さまとの距離も離れていました。

しかし昨今増えているサウナには、ストーブガードに囲われていないものがあり、サウナストーンがむき出しだったり、石積みが薄く、ストーブに接して灼熱状態の石に水掛けする人との距離が非常に近いことがあります。

これは危険を感じます。具体的な基準や規制はなくても、もっと安全への配慮が必要だと思います。

(1)サウナストーンは全部が熱くならなくても良いので、ストーブに接して高温になる石を覆うために大量に使用する。

(2)できれば平積みではなく、ネット状のケースで大量のサウナストーンを囲うことが望ましい。

(3)長年の経験則でサウナに向いているとされてきた香花石などの専用ストーンを使用する。その辺に落ちている石を闇雲に使うのは避ける。

(4)人工セラミック製サウナストーンは、天然石よりも爆ぜた時の勢いが強いと言われるので、石積みの内側に使用するようにして、平積みでの使用は避ける。

(5)ロウリュ用の柄杓は柄の長いものを使い、できるだけストーブに近づかない。

といった対策を心掛けるべきでしょう。

 この、石が爆ぜる問題について書こうと思ったのは、サウナ開業塾の塾生さんから質問があったからです。

サウナを開業する前から、「サウナストーンが爆ぜるリスク」といった、どこにも答えが書いていないような問題に関心を寄せる人が同時にたくさんいるというのは…

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