五兆円の行き先

松の葉を手前に配置し、砂浜と海、遠くの山々を背景に数人の人物が歩いている京丹後の風景です。

今年1月から6月までに、日本を訪れた外国人は2,108万4,800人でした。
https://www.jnto.go.jp/news/press/20260715_monthly.html

観光庁の推計を合計すると、今年上半期の訪日外国人旅行消費額は、4兆8,469億円にのぼります。

直近の4月から6月では、一人当たりの旅行支出も24万4,000円でした。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00094.html

半年で約5兆円。

その大きさを、先日訪れた京都でまざまざと実感させられました。

一年ぶりでしたが、京都駅から四条まで歩くと、聞こえてくる言葉の多くが外国語でした。

ところが、温浴施設へ入ると、外国人観光客の姿が急に消えました。

街ではこれほど目にするのに、なぜ温浴施設では見かけないのか。

温泉への関心は高いはずですが、最近はその傾向が変わったのかと思い、最新の観光庁の調査を見てみました。

「次回の訪日で温泉に入りたい」と答えた人は、2019年49.2%、2023年48.2%、2024年46.0%、2025年51.4%でした。

年による上下はありますが、半数前後で推移しており、2025年は前年から5.4ポイント上昇しています。

また、2025年の旅行中に実際に温泉へ入った人は27.0%で、そのうち94.6%が満足したと回答しています。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/002003329.pdf

温泉に入りたい人は多く、実際に入った人の満足度も高い。

では、この需要と実際の利用との差は、どこで生まれているのでしょうか。

一つ考えられるのは、外国人観光客の頭の中で、「温泉に入ること」と街中の温浴施設が結びついていないことです。

雪を眺める露天風呂、山あいの旅館、浴衣や食事まで含めた滞在。

「温泉に入りたい」と答えた人が思い浮かべているのは、街中の温浴施設ではなく、そのような旅先の風景なのかもしれません。

旅館の温泉と、街中の銭湯やスーパー銭湯では、立地も目的も過ごし方も異なります。

日本の入浴文化に馴染みのない人にとっては、街中の温浴施設が「温泉に入りたい」という希望の延長線上にあるとは限りません。

さらに、「温泉に行ってみたい」という気持ちと、見知らぬ人の前で身体を覆わずに入浴することとの間にも距離があります。

2015年に、アジア8地域の海外旅行経験者4,111人を対象に行われた調査では、24枚の写真から選ぶ「行ってみたい日本の観光地イメージ」で、温泉が71%を集め、1位になりました。

一方、温泉や大浴場へ「ぜひ入浴したい」と答えた人は、地域差はあるものの、中国とインドネシア以外では3~4割にとどまりました。

水着などで身体を覆えるなら入りたい人まで含めると、すべての地域で6割を超えています。

さらに、入浴経験者の77%が「ぜひ入りたい」と答えたのに対し、未経験者は35%でした。
https://www.jtb.or.jp/research/inbound-onsen/

10年以上前の調査なので、現在の需要をそのまま表す数字ではありません。

それでも、温泉には興味があっても、身体を覆わずに入ることに抵抗を感じる人は少なくないのでしょう。

ただ、一度経験した人の77%は、また入りたいと答えています。

だとすれば、利用するまでのどこかで止まっているのかもしれません。

初めて日本の温浴施設を利用する人の立場に立てば、日帰りで利用できるのか、男女別の裸浴なのか、タオルは借りられるのか、タトゥーがあっても利用できるのか、予約は必要なのかと、来館前に知りたいことがいくつもあります。

日本の温浴施設に慣れた人なら、書かれていなくてもある程度想像できます。

しかし、初めて利用する人には、その「当たり前」が分かりません。

そうした小さな不安が一つずつ重なり、候補から外れているのであれば、設備や運用を変えなくても、伝え方を変えるだけで利用につながるお客様はいるはずです。

とはいえ、言葉や入浴マナー、タトゥーへの対応、既存のお客様への影響、現場の負担まで考えれば、受け入れに慎重な施設が多いのも無理はありません。

だからこそ、最初から大がかりな対応を始めるのではなく、いまの設備や運用でも受け入れられる外国人客がどれくらいいるのか、小さく確かめるところからでよいのだと思います。

まずは、フロントで外国人のお客様から受けた質問を記録してみる。

近隣のホテルに、宿泊客から温泉や銭湯についてどのような質問があるかを聞いてみる。

そこから、いまの設備と運用のままで迎えられる人に、何が伝わっていないのかを探していく。

その約5兆円の行き先に、自店も入る余地があるのか。

設備を変える前に、伝え方を変えるだけでも、届く相手はいるはずです。
(ハラダ)


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