対談~温浴業界の生き字引、中村敏之が語る「サウナ今昔物語(第4回)/脱衣場からいきなりサウナ室?」(聞き手:アクトパス代表・望月義尚)

(第4回)サウナブームと言われる今、現役設計プランナーとして最も長くサウナ業界に携わってきたアクアプランニング代表・中村敏之と、25年に渡って活動してきた最古参の温浴専門コンサルタント、アクトパス代表・望月義尚が、日本のサウナの歴史と現在のサウナブーム、そして未来をテーマに対談しました。サウナビジネスに関わっている方やサウナファンにも知っていただきたい興味深い話が続々と登場します。全8回に分けて、アクアプランニングとアクトパスのホームページでリレー方式で公開していきます。

【目次】

第1回「サウナ業態は2極化する?」(アクアプランニングサイト)

第2回「フィットネスとサウナは真逆の業態」

第3回「お風呂でおでんが食べられたニュージャパン」(アクアプランニングサイト)

第4回「脱衣場からいきなりサウナ室?」

第5回「外気浴のニーズが高まっている」(アクアプランニングサイト)

第6回「若者が知らない究極のサウナ室と、投資のメリハリ」

第7回「ブームを終わらせないために~安全管理の課題」(アクアプランニングサイト)

第8回(最終回)「水風呂のバリエーションと、サウナブームのこれから」

第4回 脱衣場からいきなりサウナ室?

中村)僕がいた設計事務所の先生って凄く夢を持って設計をしてるんですけど、その名残が今でも残ってるのは宇都宮の南大門なんですよね。サウナから出ると大きなプールがあって壁から滝がブワーッと流れてるんですよ。それが水風呂なんですよね。昔からそういうことが好きで、とにかくサウナから出たらザブーンって飛び込める水風呂を必ずいろんなところに入れてました。だからジャパンニューファミリーも小さいながらプールがありましたよね。先程話に出た横浜の長者町のニュージャパンもすごい広いプールがあって、その真ん中に噴水があったんです。脱衣室を出て浴室に行くために階段で下りる必要があるんですが、横を見るとその噴水を眺められるんですよ。そんなサウナって今は無いじゃないですか。そういった施設を作っていましたね。

望月)絨毯床のサウナもあったんですね。

中村)そうそう昔はね。あと、もう無くなりましたが名古屋駅前にあったニューブランドダンディサウナは脱衣室を抜けるといきなりサウナ室でしたからね。

望月)脱衣室から浴室に行くにはサウナを通過しないといけないってことですか?

中村)普通は脱衣室の扉を開けるとドライエリアがあってそれを抜けると浴室ですよね。そこは脱衣室を開けると、いきなりサウナ室なんですよ。そこで汗をかいて反対側の出口から出るんですけど、ドアを開けるとさらに螺旋階段があってその下に浴室があるんです。

望月)身体を洗わずにいきなりサウナに入るってことですか?

中村)お風呂場に螺旋階段があって、その上に実はサウナ室と脱衣室があるんですよ。サウナを出ると、螺旋階段でグルーと下に降りるという流れですね。男性天国らしく謎のヴィーナス像がいっぱいあったりとか、そういう作りだったんですよ。帰るときは別の出口と階段があって、それを登っていくと脱水室に入るんです。よく作りましたよね。
カランの向こう側にお湯が流れてる川があってそこから桶で水を汲んだんですよ。というのも昔は自動で温度調整できる水栓が無くて、お湯と水しか出ないので両方を交互に押して自分の好きな温度のお湯を作らないといけなかったんです。それが面倒くさいということで、この川に適温のお湯が流していたんですよね。今思えば新鮮なお湯だったのかどうか怪しいです。でも、そういうことを突き詰めて作られた施設でしたよね。

司会)もう一度サウナに入りたくなったときはどうするんですか?

中村)もちろんまた登っていくんですよ。おそらく、今みたいに何度も入るっていう使い方はされていなかったと思いますね。

望月)そう考えると外気浴が今のサウナブームの特徴と言えるかもしれませんね。実際に外気浴の椅子を増やしている施設が多いですし、コンサルティングでも「外気を入れましょう」と言うようになりました。昔もあったと思いますが、例えばウェルビーとかはないじゃないですか。もしかして昔は外気浴ってあまり無かったんですかね。

中村)昔のサウナって都市型や駅前型って言われているくらいなんで街の真ん中に作るんですよ。だから、今ほど「何とか外気を取り入れよう」っていう工夫を凝らした設計はあまりされてなかったかもしれない。ただ、確か今池のサウナフジは限られたスペースで外気浴ゾーンを無理矢理少しだけ作ってたような覚えはありますね。ただ、いつも作るときに「水・緑・太陽」という3つのキーワードを大切にしていました。水はもちろん綺麗に、緑はとにかく植え込みを沢山作る、太陽はなるべく入れる。太陽光を入れるのが難しい場合は天井にステンドグラスをはめて、あたかも外光がさしてるような演出をして作るっていうのがセオリーだったんですよ。それは当時私がいた設計事務所の話ですけど。ただ、そこは日本中でサウナブームを作ったと言って間違いのない老舗中の老舗事務所なので、今でも通用するものだと考えています。

望月)もはや、今は無いサウナのこととか誰もわからないじゃないですか。あと昔と今のサウナブームを比較をできる人がいないと思うので、それを知っているのがすごい。

中村)当時、活躍してた人達はむしろ亡くなってる方のほうが多いので、そういう話ができる人って限られてきてますよね。僕ももう64だからやはりどこかで話しておこうかな。ひょっとしたら間違った情報もあると思いますが、伝えていく必要はあるかなとは思います。だからと言って昔のような業態のサウナを今やるってわけじゃないけどね。かつて先人たちが一生懸命に工夫をこらして作ったサウナがあって、その上に今のブームがあるっていう点は大事ですよね。

第5回「外気浴のニーズが高まっている」(アクアプランニングHP)に続く…