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人件費率を下げる方法(1)
昨今の物価上昇トレンドで利益確保がどんどん難しくなってきており、「温浴施設の人件費ってどのくらいかかるものなのか?」というご質問をいただくことがよくあります。
ひと言で答えるなら「労働分配率にして25%~30%くらいが標準」ということになるのですが、これは時間がない時の説明方法で、本当はもっと複雑な問題です。
労働分配率=人件費÷売上総利益(粗利益)のことですが、そもそも人件費や粗利益のとらえ方が企業にとって異なります。
ある事業にかかる人件費というのは、従業員に対する賃金そのものだけでなく、福利厚生費や外注費、業務委託費、さらに役員報酬なども含まれる概念です。
さらに粗利益も、一般的に入浴料売上には仕入れがありませんので、そのまま粗利益と考えて良いのですが、入館料にタオルや館内着のセットが含まれていたり、飲食や物販、リラクゼーションなどの付帯部門にはそれぞれ仕入れ原価があり、その計上の基準は企業によってバラバラです。
企業経営において、労働分配率というのはごく普通に使われる概念なのですが、こと温浴施設に関しては、労働分配率を計算する分子も分母も基準が定まっていないため、25%~30%といった指標だけをあてはめようとすると誤解が生じる可能性があるのです。
分かりやすい例をひとつあげると、あるスーパー銭湯が浴槽の配管洗浄を行った場合。担当者2名が夜間作業でやるので、人件費3万円と洗浄用の薬剤コスト(消耗品)30万円がかかったとします。しかしこれを出入りの設備業者さんに頼んでやってもらうと、社員の人件費はかかりませんが、配管洗浄作業一式で100万円以上かかることもあります。
自前で洗浄すれば人件費は3万円。業者さんにお願いした費用100万円を外注費に計上すれば人件費の一種と考えられますが、修繕維持費に計上することもあるでしょう。
こういう説明を始めると話が長くなってしまうので、冒頭のように部分的に切り取った質問には答えづらいのです。
さて、会計基準の話はともかく、利益を確保して企業経営を持続させるためには、人件費を適切なバランスに保つことが重要であることは論を待ちません。
温浴施設の売上から、各種仕入れ原価、水光熱費、不動産コストなど大きい支出項目を引いて行った時に、人件費が占める割合は売上の25%くらいまでであれば適切と言えるでしょう。
ところがこれがなかなか難しいのが現実で、弊社に相談に来られる温浴施設様では、計算してみたら売上高対人件費の比率が25%どころか50%を超えていたというケースも多々あります。
人件費だけで売上の大半を使ってしまえば、当然利益が残らないどころか赤字になります。他のコストも人件費以上に支出のコントロールが難しいので、にっちもさっちもいかず、赤字は累積する一方というケースは少なくないのです。
普段からそういう損益計算書を見慣れているので、高収益な温浴施設の売上高対人件費比率を見ると逆に驚かされることがあります。
過去最高にびっくりしたのは、「売上高対人件費比率10%」という数字。
このメルマガにも成功モデルとしてよく登場する、横浜にある一見普通のスーパー銭湯さんです。
この施設では、フロントや館内巡回にも充分なスタッフ数を配置し、ロウリュサービスをはじめとしてイベントも高頻度に開催しており、むしろ手厚いサービス。無理に人員削減を行っているようには見えません。
これを、「人件費比率10%にすることも可能なのか!」と短絡的にとらえて欲しくはありません。何の準備もなく人件費比率を売上の10%まで下げようとしたら、顧客満足度の低下どころか、運営が回らないしょう。
横浜にある一見普通のスーパー銭湯さんは、人件費を削っているのではなく、「生産性が高い」のです。(つづく)
(望月 義尚)
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