浴槽を泳ぐアヒル

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今日は 2022年3月19日です。

決め技を封じられたコンサルタント

 アクトパスを創業して2年目の2008年、あるスーパー銭湯からご相談をいただきました。

その施設は1999年、ブームのさなかに建設された初期型スーパー銭湯で、低料金で多彩な浴槽バリエーションを楽しめることで人気を博していました。

開業当初は競合も少なく大繁盛していたそうですが、人口が比較的潤沢なエリアだったため、1件、また1件と競合施設が増えて行き、その度に客数が削り取られていく状況。

まだ赤字ではなかったのですが、開業10周年を控え、このままではジリ貧という中で業績回復の道を模索されていました。

現地に行って簡易診断を行った結果、客数はそれなりに来ていて、見た目は賑わっているのですが、利益はあまり出ていないということが分かりました。飲食などの付帯部門売上も伸び悩み、お客さまのマナーの悪さに振り回される日々。

後からできた新しい競合施設と比べれば、ハード的なスペックではどうしても見劣りするので、集客力ではなかなか勝てません。館内や運営方法に要改善箇所は多々見つかりましたが、それをひとつひとつ改善していくだけでグングン業績が良くなるというイメージはどうしても湧いてきませんでした。

診断結果を踏まえた私の提案は、『入館料を値上げしましょう』。

当時の入館料は500円だったのですが、水光熱費や人件費などの固定的な支出で利益がほぼ消えてしまう状況で、かつてのようなお客様が溢れる大繁盛店に戻らなければ利益が出ないという構造だったのです。

競合店との力関係を考えれば、客数を追い求めて結果を出すのは難しい。客数が減ってもしっかり利益を出せる構造にする必要がある、そのためには値上げしつつ、サービス強化で満足度と客単価向上を目指すしかないと進言しました。

しかし、社長の判断はNOでした。気軽に日常的に利用していただく存在であることにこだわっており、500円のワンコイン料金は変更できない、とのお考えでした。

値上げして客数が少々減ることになっても売上はほとんど変わらないこと。少ない客数に丁寧に対応した方が満足度が上がり、付帯部門の利用率が自然に上がるし、客層がよくなってトラブルも減る等々、かなりしつこく説得しましたが、社長の考えは変わらず料金は500円のままで行くという意志は変わりませんでした。

仕方なく、運営の細かい改善と販売促進で当面の業績改善を目指すことになりましたが、私としては決め技を封じられてしまったようなものでした。そこから半年間、ある程度の改善は見られましたが飛躍的な業績アップという結果までは出せず、そこで顧問契約は終了。あまり胸を張れる仕事だったとは言えません。

その後もホームページを定期的にチェックしていると、何年か経って料金改定が行われ、少し値上げしたり土日料金が導入されているのを見つけました。ようやくあの頑固社長も折れてくれたか、と安心していました。

 最近になって、日常づかいの低料金にこだわっていたそのスーパー銭湯が、一気に100円の値上げをしていることに気づきました。重油や電気代の高騰が主な理由だと思いますが、近隣で大型競合店が閉店していますので、今なら客数維持が見込めるという判断もあるのでしょう。

このように状況に応じて料金を柔軟に変更できるのが、本来あるべき姿だと思います。

価格設定という根本的な経営戦略を、物価統制令や入湯税であったり、ワンコインなどの固定概念に縛られてしまうのは、決め技を封じられたコンサルタントと同じで、柔軟な経営判断の機会を手放しているということです。それでは時代の変化に取り残されてしまうのは仕方ありません。

今はまだコロナ禍の不安心理が続いており、本来であれば来館してくれるはずの人たち動きは元に戻っていません。客数減が続き、さらに燃料や電気代の高騰、そして物価高で仕入れや経費のコスト増となれば、かつて健全に経営していた施設であっても…

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