対談~温浴業界の生き字引、中村敏之が語る「サウナ今昔物語(第2回)/フィットネスとサウナは真逆の業態」(聞き手:アクトパス代表・望月義尚)

(第2回)サウナブームと言われる今、現役設計プランナーとして最も長くサウナ業界に携わってきたアクアプランニング代表・中村敏之と、25年に渡って活動してきた最古参の温浴専門コンサルタント、アクトパス代表・望月義尚が、日本のサウナの歴史と現在のサウナブーム、そして未来をテーマに対談しました。サウナビジネスに関わっている方やサウナファンにも知っていただきたい興味深い話が続々と登場します。全8回に分けて、アクアプランニングとアクトパスのホームページでリレー方式で公開していきます。

【目次】

第1回「サウナ業態は2極化する?」(アクアプランニングサイト)

第2回「フィットネスとサウナは真逆の業態」

第3回「お風呂でおでんが食べられたニュージャパン」(アクアプランニングサイト)

第4回「脱衣場からいきなりサウナ室?」

第5回 「外気浴のニーズが高まっている」(アクアプランニングサイト)

第6回「若者が知らない究極のサウナ室と、投資のメリハリ」

第7回「ブームを終わらせないために~安全管理の課題」(アクアプランニングサイト)

第8回(最終回)「水風呂のバリエーションと、サウナブームのこれから」

第2回 フィットネスとサウナは真逆の業態

中村) 昔のサウナって、お酒を飲んで帰れなくなった人が泊まる、という需要が多かった気がしますよね。

望月) そうですね。神戸サウナの社長も自らそういう場所だったとおっしゃってました。

中村) それは今のサウナブームで増えているソロサウナのような、サウナ体験をメインに置いている施設では考えられないですよね。

望月) 第一次サウナブームとされる1964年の東京オリンピックの後に普及し始めたのは小規模サウナだったと言われています。その頃のサウナ施設のお客様の利用目的っていうのはどうだったんでしょうか。サウナ施設体験全体を目的としてたのか。もしくはサウナ設備の部分を見ていたのか。

中村) おそらく、「サウナに入ったら次にあれしてこれして」っていうストーリーを多くの人が考えてなかったんじゃないですか。

望月 なるほど。そしてサウナに通い詰める人が増えていくのと同時に「まだ帰りたくないな、帰りたくなくなっちゃった」といった声も増えていった。それに応えるためにお店側がサービスをどんどん膨らましていって定着していった、という流れがあったかもしれませんね。今のサウナブームでサウナ設備に特化した施設が増えていますが、自ずと差別化や高客単価が求められてくると思います。そうすると、これからは昔のようなゴージャスなサウナ業態に変わっていく、という流れが予想できると言ってもいいかもしれないですね。

望月) ちなみに昔から水風呂はありましたか。

中村) もちろんありました。

望月) ということは、「サウナ→水風呂→休憩」といったサウナの入り方というのを、皆さん勝手に身につけているって感じだったんですかね。

中村) サウナの入浴方法は、本場であるフィンランドとかドイツからそのまま入ってきたといことでしょうね。それ以外のプラスアルファの部分は日本独特な文化なのかもしれません。マッサージぐらいはあったかもしれませんが、シアタールームや無料煙草というのは独特な文化だと思いますね。

望月) サウナ王の太田さんは「サウナってのは思いっきりダメダメになりに行くところ」とよく言ってましたね。確かに昔のサウナは、酔っ払って帰れなくなるような駄目人間の居場所でした。一方で、今のサウナブームは「体を綺麗にしてスッキリととのうことで駄目人間から脱却するところ」として受け入れられていますよね。

司会) 昔のサウナには「健康志向」という考え方は無かったのですか?

望月) ないですね。むしろライバルでした。というのも昔、ニュージャパンがフィットネスクラブとサウナの両方を経営していたんです。フィットネス会員の人はサウナ入れるというシステムにして、お互いにお客さんをやりとりしてたんだけど、サウナのお客様がフィットネスに行き始めると結果的にサウナあんまり来なくなってしまったんですよ。要するに、フィットネスに通って健康になることで、それまでのダメダメで不健康なサウナ人間とは違う世界の人になってしまったんですね。これをイチローと清原に例えていたんですよ。フィットネスに行く人たちはイチロー、サウナに行く人は清原。「2人が同じ空間にいるとお互い気分が悪くなるでしょ。だからそれは別々の店なんですよ」というようなことをニュージャパンがかつて言ってましたね。マッサージに関しても、昔のサウナに行く清原的な人は自分の努力でほぐすのが面倒くさいから他人に揉んでもらう。フィットネスに行くイチローみたいに真面目な人は、フィットネスに行くことで凝らない身体になっていく。だからマッサージも受けなくなる。それくらいフィットネスとサウナは真逆の業態なんだっていうことですよね。

中村) 数年前まで横浜伊勢佐木長者町に千歳観光さんが運営していた「スパ ニュージャパン」っていう施設があったんですよ。そこは僕がいた設計事務所の先生が作ったんですけど、そこを改装する時にマシンを置いたフィットネスゾーンを少し入れたんです。先生も、きっとそこでワーッと汗をかいたらお風呂に入りたくなるだろう、という思いで作ったんですが誰も使わなかったんですよね。先程の望月さんのお話のように、「ぐでーっとリラックスしようとしてるのになんでこんなに体を痛めつけなきゃいけないんだ!」っていう想いがお客様にあったんだと思うんですよね。きっとそれって今も変わらないんじゃないですかね。

望月) 「運動後のサウナで疲労回復が早まる」といわれるように真面目な人のサウナマーケットも確かにあるんだけど、やはり駄目になりに来るところという感じですよね。

第3回「お風呂でおでんが食べられたニュージャパン(アクアプランニングHP)」に続く…