サウナ室内に設置された非常呼び出しボタンと非常時操作案内プレート

東京・赤坂の個室サウナで発生した火災により、尊い命が失われました。
亡くなられた方々に心よりご冥福をお祈りいたします。

事故発生後、ネット上では責任の所在や業態そのものを否定するような議論が噴出しています。しかし、温浴業界に身を置く我々が今やるべきことは、批判でも弁明でもなく、自店の安全性を一つひとつ確認し、是正することです。

サウナは「本質的に火災リスクを内包した設備」ということは、歴史を振り返れば明らかです。

サウナは、高温・可燃材・電熱(または薪・ガス)という、火災リスクの三要素を常に抱えています。これは業態の宿命であり、善悪の問題ではありません。

にもかかわらず、「法令を満たしているから大丈夫」「消防検査を通っているから問題ない」と、思考停止したまま運営されているサウナ室が一部に存在していることは、30年間温浴業界に携わってきた者としてよく知っています。

サウナの安全設計まで熟知した設計者は、日本でも決して多くありません。また、消防署の検査官がサウナ特有のリスクを細部まで理解しているとは限らないのが現実です。つまり、「誰かが確認してくれているはず」という発想自体が、すでに危ういのです。

まず確認すべきは、防火対策の「基本」。

経営者・管理者は、必ず自分の目で以下を確認してください。

□ ストーブと壁との離隔距離は適正か
□ 天井の耐火対策はされているか
□ ストーブガードの不燃対策はされているか
□ ストーブ周辺の木材に、長期加熱による炭化は起きていないか
□ ストーブ周辺に可燃物が置かれていないか
□ サウナ室のドアは外開きか
□ ドアはラッチ(施錠・引っ掛かり)がない構造になっているか

これらに一つでも不安があるサウナ室は、すでに「危険側」に足を踏み入れています。

次に確認すべきは、非常呼び出しボタンです。

□ そもそもボタンが設置されているか
□ 実際に押して、確実に鳴動するか
□ 鳴った瞬間、スタッフはどう動くのか

「サウナ室直行 → 状況確認 → 状況別の対処 → ベルの停止」この一連の動きが言語化され、共有され、体で覚えられているかが重要です。

非常ボタンは、押された“その後”がすべてです。マニュアルが棚に眠っているだけでは、何の意味もありません。

人は、想定していない事態には適切に対応できません。これは精神論ではなく、現実です。

火災、急病、停電、通信遮断――考えてもいなかったことが起きたとき、現場は必ず混乱します。

だからこそ、防火訓練・避難訓練が必要なのです。年に一度でいい。完璧でなくてもいい。しかし、「やっている施設」と「やっていない施設」では、いざという時の行動が決定的に変わります。

事故が起きてしまった後には、必ず「誰が悪いのか」という話になります。しかし、それで次の悲劇は防げません。

必要なのは、「同じことが、うちでは起きないか?」と自問し、手を打つこと。

サウナは人を癒す場所であると同時に、危険と隣り合わせの設備です。その両面を理解し、覚悟を持って運営することが、経営者の責任なのです。

その昔ある…


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