先日、ある新規開業プロジェクトで、基本設計から概算工事費見積りの段階に進んだ案件がありました。
出てきた見積り金額を見てびっくり仰天。工事費に諸々の開業費を足して延床面積で割った坪単価が、なんと『500万円』を越えてしまったのです。
工事費は、地域や建築構造、その他の要因に影響を受けますので、このケースは特殊な条件がいくつも重なったせいではありますが、目の前の金額はまぎれもない現実です。開いた口が塞がらないとは、こういう時に言うのでしょう。
総事業費÷延床面積は、工事費の坪単価とは少し違いますが、経営的には重要な指標です。温浴事業の開発に携わるようになって30年が経ちますが、かつてはこの費用を「なんとか坪あたり100万円くらいに抑えましょう」と言っていたのですから、いまや4倍から5倍の投資負担増になってしまったということです。
それに応じて収益性も伸びているなら、それも時代の流れと受け止められますが、残念ながら温浴施設の収益性は30年前とあまり変わっていません。
設備も運営も、技術的には30年間で相当進化しているのは間違いありませんが、それ以上に市況が厳しいということです。
半世紀以上に渡って右肩上がりだった温浴施設数は2007年をピークに減少しはじめ、最近はサウナブームの追い風で再び上昇傾向に転じましたが、2024年/1994年比で言うと78%とトータル施設数ではかなり減少しています。しかし競合施設が減って楽になったかというとそうではなく、小規模な銭湯や老朽化した都市型サウナが姿を消した一方で大型の温浴施設が増えましたので、競合環境的にはより厳しくなったと言えます。
余暇マーケットは多様化し、時間消費という意味ではあらゆる業界と競合しています。そして日本経済全体も長期低迷を続けており、人口減少・高齢化が進む中で浮上のきっかけをつかむことができていません。
そんな市況の中で、初期投資が4倍から5倍。さらに言えば、人件費や水光熱費をはじめとする支出も上昇の一途ですので、これらのコストも収益性を激しく圧迫しています。
このような経営環境で、温浴施設は事業として成立するのでしょうか。
30年間に渡り、あらゆるケースの新規開業やリニューアル案件で数えきれない事業収支シミュレーションを作ってきた身としては、「さすがにもう限界」ということを痛切に感じています。
全体の市況が厳しくとも、その中で高収益を上げるためのマーケティングや運営の技術を駆使して対抗してきました。それは、大いに背伸びして事業計画を作り、その目標実現のためにクライアントと一緒に頑張ってきたということです。しかし、もう背伸びしても届かないと感じるくらい、目標が遠くなってしまったのです。
しかし、ここで悲観して立ち止まる必要はありません。
これまでのやり方が限界に達したということは、これまでの延長線上にある思考を手放し、温浴ビジネスのあり方そのものを根本から見直すタイミングが来たということです。
小手先のコストカットや表面的な値上げで乗り切れる局面ではありません。このハイコスト構造を前提としながらも、それに負けない圧倒的な価値を提供し、事業として確実に利益を生み出すための構造転換が必要です。
断言しても良いと思いますが、これまでの温浴ビジネスの開発・運営セオリーを真面目に踏襲しているだけでは、昨今のハイコスト構造を吸収しきれません。
昭和の高度成長期に拡大したレジャー需要に応えるために誕生したヘルスセンター。その業態パッケージとして完成度を高めた健康ランド。そのディスカウント業態として市場を席巻したスーパー銭湯。そしてロウリュ・アウフグースの普及とともに急拡大したサウナマーケット。
時代が大きく変わる局面では、常に新しい常識やビジネスモデルが誕生してきました。厳しい環境を嘆くのではなく、時代の変化に適合した新しい形へと脱皮できた施設だけが、これからの時代に生き残っていきます。
温浴ビジネスは、再び大きく変わらなければならない時が来ました。
限界を突破し、これからの時代を勝ち抜くための「次の答え」をどこに求めるのか。9月14日のセミナーでは、私たちが導き出した具体的な戦略とこれからの温浴経営の展望を、余すところなくお伝えします。
ハイコスト時代を生き抜き、新しい価値を創り出すための視点をぜひお持ち帰りください。
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ご期待ください。
(望月 義尚)
この記事は、日刊アクトパスNEWSの一本です
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【工具盗難でお湯なし、老舗銭湯が全浴槽を無料開放】
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東京都墨田区の老舗銭湯「松の湯」で、ボイラー交換工事の仕上げに必要な工具が盗まれ、湯を沸かせない事態に。営業を止めるのではなく「水でよければ」と全浴槽を無料開放し、常連客への対応にあたったとのこと。不測のトラブルでも営業を止めずに顧客との関係を優先する姿勢は、危機対応と信頼構築のバランスを考える上で参考になりそうです。






