ダーウィンの進化論をテーマに多様な生物と生命の樹が描かれたイラスト

日本の温浴ビジネスの歴史を紐解くと、大きな転換点が1950年代にありました。

それまでの日本の温浴といえば、古くからの湯治場としての温泉地か、あるいは地域住民の生活衛生を支える銭湯が中心でした。そこへ、娯楽やレジャーという新たな付加価値を備えた商業的な温浴施設が登場したのが、昭和20年代半ばのことです。

1951(昭和26)年に開業した「東京温泉(東京クーア)」、1952(昭和27)年の「スチームバスセンター(現・ニュージャパンサウナ)」、そして1955(昭和30)年には日本初の総合ヘルスセンターとされる「船橋ヘルスセンター」が開業しました。ここから日本の温浴ビジネスは、単に身体を洗い清める場所から、非日常や寛ぎを求めて人々が集うレジャー産業へと舵を切ったのです。

それから約70年。健康ランドブーム、その後の温泉掘削やスーパー銭湯ブーム、さらには近年のサウナブームに至るまで、温浴施設は一貫して複雑化し、より非日常性を追求する方向へと歩みを進めてきました。

なぜ施設はひたすら大型化し、設備を増やし続けてきたのでしょうか。
表向きには「多様化するお客様の期待に応えるため」と語られますが、その裏にあったもう一つの強烈な動機は「競合に勝つため」でした。

既存の競合店よりも大きな建物を作り、浴槽やサウナの種類を増やし、豪華な設備や充実した飲食・リラクゼーションを揃えれば、競合店からお客様を奪うことができる。実にシンプルで分かりやすい力学です。

消費者から見ても、得られる体験の価値や利用料金がさほど変わらないのであれば、古びた施設よりも、新しくて広くて立派な施設を選ぶのはごく自然な心理です。
これは温浴業界に限ったことではありません。どのような業種であっても、提供される商品やサービスそのものに決定的な違いがないのであれば、お客様は「より近くて便利な店」「より安い店」あるいは「より新しくて立派な店」へと流れていきます。

しかし、温浴ビジネスには他業種と決定的に異なる難しさがあります。それは、商品価値の大部分を建物や設備という「ハード」そのものが担っている装置産業であったという点です。
一度巨額の投資をしてハードを作ってしまえば、そう簡単に形を変えることはできません。その結果、何が起きたかといえば、提供する体験の質そのものは大きく深まらないまま、ハード先行で規模やアイテムの多さを競い合う消耗戦が延々と繰り返されてきたのです。

ここで、私たちは立ち止まって根本的な問いを投げかける必要があります。
そもそも「進化」とは何なのでしょうか。

あらゆる存在の発展は「自然の摂理」と「時流への適応」の上に成り立っています。生物学的に見ても、進化とは決して「隣のライバルを叩き潰すための武器を手に入れること」ではありません。変化し続ける環境の中で生き残るために、自らを柔軟に変容させていく「環境適応」のプロセスそのものが進化です。

ところが、この30年余りの温浴業界を振り返ってみると…


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