日々の有料メールマガジンとして2016年にご購読いただいた記事を再編集して電子書籍として2017年に販売してまいりましたが、「おふろやさんビジネスの今と未来2017」あらため「温浴百科2017」として本サイト内にて無料公開いたします。全国の温浴事業のご発展に少しでもお役に立てれば幸いです。
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それではここより本編となります。
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温浴施設経営の課題と向き合うコンサルタントのレポート
温浴百科
2017
株式会社アクトパス代表取締役
温浴ビジネスコンサルタント
望月 義尚 著
まえがき
この「おふろやさんビジネスの今と未来2017」あらため「温浴百科2017」は、株式会社アクトパスが発行する日刊アクトパスNEWSで2016年1月(創刊)から2016年末に配信されたメール記事から抜粋・加筆修正して、テーマごとにまとめ直したものです。
元々は非公開を前提に執筆しているので、固有名詞が多々出てきますし、やや踏み込み過ぎた表現もあるのですが、執筆時点からある程度時間が経過していることと、できるだけ差支えのないように編集することで、書籍という形で一般公開できることになりました。
温浴業界で日々起こっている出来事や、弊社の仕事の中からその時々に思ったことを書いた記事ですので、今の温浴ビジネスのことがよく分かりますし、温浴ビジネスに携わっている皆様にとっては、そこから様々な共感や気づきを得ることができるのではないかと思います。
温浴マーケットはライフサイクル的にはピークを過ぎて成熟期に突入しています。このまま縮小均衡に向かうのか、それとも再び成長発展できる方向を見出すのかの岐路に立っているとも言えます。私は、風呂屋(温浴ビジネス)はこれからの少子高齢化社会になくてはならない存在であり、日本人の生活に必要不可欠な存在であると思っています。
本書が、温浴ビジネスに携わる、あるいは関心がある皆様にとって、何らかのヒントになり、業界の発展に少しでもお役に立つことができれば幸いです。
私に日々の気づきを与えてくれる家族、友人、お取引先、会社の仲間、業界仲間…皆様に心から感謝申し上げます。
2017年2月 望月 義尚
目次
気になる風向き
温浴マーケット動向
◆温浴習慣は2割
日本人のうち、およそ2割の人が習慣的に温浴施設を利用していると言われています。
近年のレジャー白書によれば、温浴施設の参加人口は毎年コンスタントに3000万人以上となっていますので、国民の約2割(2000万人強)がリピート利用しているという分析はだいたい当たっているものと思われます。
日本がおかれている少子高齢化・人口減少というマーケットトレンドの中で、温浴参加人口を増やさなければ温浴市場規模の減少、それに伴う温浴事業者の苦戦は目に見えています。
現状2割の参加率をもっと高めていくためにはどうすればいいのでしょうか。弊社はこれを最重要課題と位置づけており、これからも度々このテーマにふれることになると思います。
◆温浴マーケットサイズ
日本人ひとりあたり一年間に入浴料をいくら使うのか。年間の市場規模を人口で割った数値をマーケットサイズと呼びます、以前在籍していた船井総研では非常に重視しているマーケティング指標のひとつです。
その後退職しましたので最新マーケットサイズを公表するのは控えておりましたが、久しぶりに自分でマーケットサイズを計算してみました。
統計が発表されている2014年のデータを使用した最新入浴料マーケットサイズは8,894円(計算プロセスに予測が含まれるので、予測者によって若干数値が変わります)。かつては1万円を超えていましたので、この10年間毎年2〜3%ずつ減少していることになります。
「売上高=商圏人口×マーケットサイズ×シェア」ですから10年間同じ商圏で同じ競合環境だったとしても、売上は約2割減少するという計算になります。
10年前と同じ経営戦略、事業計画のままでは現実と乖離してくるのは当然ですから、定期的な見直しが必要だということだと思います。
◆温浴参加率アップのために
以前、温浴施設を日常的に利用する習慣のある人は国民の2割程度ということを書きました。
では逆に残りの8割の人たちは、どうして温浴施設を利用しないのでしょうか?
私自身が温浴の仕事に携わるようになってからというもの、温浴施設を利用する習慣がないと言う人に対して「どうして利用しないのか?」と訊ねてきました。
その答えは大きく分けて2つのパターンがありました。
ひとつは、「自宅に風呂があるのに、どうしてわざわざ時間とお金を使ってまで温浴施設に行く必要がある?」というものです。
こういう人には、温浴施設は身体を洗うためだけの場所ではなく、他に様々な効果や楽しみがあることを伝えていくことで、いつか分かってくれる可能性があると思います。
もうひとつが「他人と一緒の風呂に入りたくない」というものです。
「入りたくない」という気持ちになる理由として想像されるのは、「プライバシー問題」と「清潔感」です。
大きな風呂場を皆で共有するのが公衆浴場ですから、プライバシーの確保は難しい問題です。衝立付きの洗い場や、着衣で利用できる岩盤浴の登場など、いろいろな面で少しずつ改善されてきていますが、根本的に解決するためには公衆浴場のあり方そのものを考え直すことが必要なのかもしれません。
清潔感も難しい問題です。何が清潔で何が不潔と感じるかは主観的なものであり、人によってその基準も様々ですから。
しかしながら、これらの問題が改善されることによって温浴参加率が2割以上にアップする可能性があるのであれば、既成概念に囚われずにもっと追究していくべきテーマなのではないでしょうか。
どのような場面でプライバシーが侵害されていると感じるのか。どのような場面で不潔感を感じるのか。それらをどうしたら改善できるのか。
この答えは施設の構造や客層によって千差万別かも知れません。
例えば、以前ある健康ランドではリクライナー休憩室で提供している毛布を、毎回オゾンで消毒してからビニール袋に入れて提供していました。他人の使用済み毛布を使うのは不快だと感じる人には嬉しいサービスでしょう。
ひとつひとつ改善していくうちに、いずれ2割以上の人が温浴施設を利用するようになっていくのではないかと思っています。
◆黎明期
数年前にタイのバンコクに日本式スーパー銭湯を作るというプロジェクトがあって、ちょっとお手伝いしたことがあったのですが、その後は絶好調だそうです。
http://www.yunomorionsen.com/2015/bangkok/index.php
どのくらい絶好調かと言うと、投資が日本円にして約2億円に対して、売上は年商5億円ペース。投資が年に2.5回転するという、考えられないような状況(日本では投資1回転すら難しいです。)で、もう3店舗目の出店準備中です。
日本でもスーパー銭湯が登場したばかりの頃は、今では考えられないような集客をしていたものです。
黎明期のビジネスというのは、当たるとすごいことになります。
だからといって、自らタイや中国に出店できるかというと、様々なリスクを考えれば簡単なことではありません。
逆に現地では日本の温浴ビジネスのノウハウが求められているわけですから、マッチングの問題なのかも知れませんが。(今後何らかの形でご協力を呼びかけることがあるかも知れません。)
そして、もうひとつの黎明期ビジネスがいずれ登場してくると思っています。それはスーパー銭湯の変化や進化ではなくて、まったく新しいスタイルの温浴業態です。
これからの時代に必要とされる温浴施設とはどんな業態なのか?私もいつも考えています。
次の黎明期をつかむのは誰なのか。もしかするとこのメルマガを読んでる読者のどなたかなのかも知れませんね。
◆ヘビーユーザー化
昨日、千葉県野田市のグランローザ潮の湯へ行ってきました。かつて、リニューアルオープン後に2年間ほど支配人代行を務めた思い入れのある施設です。
諸事情により今月末で閉館する予定ですが、お別れを惜しんでくれるお客様も多いのか、館内は大盛況でした。
特に人気が集中していたのがサウナと源泉かけ流し浴槽、そして外気浴でした。ロウリュサービス時には30人の大型サウナ室にお客様が入りきれず、入れ替え制で連続2回のロウリュをやって対応していました。外気浴はたくさん設置したデッキチェアが奪い合いです。
リニューアルオープンから5年、お客様がみんな見事に狙い通りサウナのヘビーユーザーになっています。
お風呂の種類や炭酸泉、岩盤浴といった話題のアイテムでお客様はやってきますが、最終的にリピーターとして定着させる力を持っているのはやはり温浴施設としての本質的な魅力です。
話題性や目新しさで注目を集めることも大切ですが、温泉やサウナがヘビーユーザーの評価にも耐えうるだけの価値を備えているのか、その点こそ長期的に集客力が続くかどうかの違いだと思います。
ヘビーユーザーの温泉やサウナに対する意見は時にマニアック過ぎると感じることもありますが、日本では古くからある温泉地や銭湯以外の温浴施設が台頭するようになってまだ半世紀ほどしか経っていません。
これからマーケット全体がさらにヘビーユーザー化していくとしたら、お湯の管理やサウナ水風呂の温度などに対しても一部の過激な意見と見過ごさずに、できるだけ応えていくことを考える必要があります。そうしないと、いずれお客様は卒業して他店へ行ってしまうことになりかねないのです。
◆水風呂ヘビーユーザー
最近、「水風呂の温度をもっと下げたいと思っているんですが」というお話しをうかがうことが増えています。私自身からも、「もっと温度を下げたらどうでしょう」と言うことがあります。
温浴施設の水風呂の水温で最も多いのは18℃の設定です。上水や井水を濾過循環してチラーで冷やし水温をキープします。濾過循環タイプでなければ井水かけ流し。水温は自然な井戸水の温度にまかせることになり地域の気候や井戸によって異なりますが、だいたい15〜20℃で年中あまり変化しません。
ご存知かと思いますが、サウナのヘビーユーザーは冷たい水風呂を好みます。18℃なんてぬるくてダメだ。というその目線の先にあるのはきっとフィンランドの凍結した湖なのでしょう。
凍った湖の話は極端ですが、水風呂にいつも入っているとだんだん身体が冷たさに慣れてくるのは間違いありません。
以前冬の北陸地方で水道水かけ流しの水風呂に入ったことがあるのですが、その時の水温は9℃でした。初めて入った時はあまりの冷たさに悲鳴を上げましたが、2日目、3日目と繰り返し利用するうちにだんだん慣れてきて、普通に入れるようになりました。
18℃というのは、サウナ初心者からベビーユーザーまで様々な好みがある中で、最大公約数的に出てきた数字なのかも知れません。
ところが、最近はサウナ愛好者が増え、フィンランドのサウナの情報などもよく目にするようになってきました。そうすると施設の客層にヘビーユーザーが多いと最大公約数が18℃ではなくなって、だんだん下がってくるということなのでしょうか。
いずれにしても、これまでより冷たい水風呂を提供しようという動きがあるわけですが、これがなかなか悩ましいのです。
チラーの調整で簡単に下げられるようであれば問題はないのですが、チラーの能力にも限界がありますし、井戸水かけ流しの場合はそもそも温度調整ができません。
場合によっては本格的な設備改修が必要になってしまうこともあるでしょう。
設備改修以外にも、いくつか冷たい水風呂を提供する知恵があります。夏が近いので、ちょっとおさらいしておきますと、
・熱気がこもりがちなチラーの排気の抜けをよくすると冷却能力がアップすることがある(節電にもなる)
・加熱するチラー本体に水をかける(一時しのぎ)
・氷屋さんから氷柱を買って投入
・冷凍庫でケースに入れた水を凍らせ氷柱を自作
・クール系入浴剤を投入。水温は変わらないが涼感がアップ
・クール系入浴剤を入れた水を凍らせ、クール氷柱を自作
・バイブラなどで水風呂の水に動きがあると羽衣を纏うことができず冷たい(意味分かります?)
といったことです。
何かのご参考になれば幸いです。
◆あれから10年
2006年夏に、週刊ポストに掲載された記事をきっかけとして岩盤浴バッシングが起きました。あれから今年で10年が経ちます。
まだ岩盤浴のような温浴設備が全国に数箇所しかなかった頃に、見よう見まねで群馬県のスーパー銭湯のリニューアルの目玉としてつくりました。
セミナーでそれを紹介してから、あれよあれよという間に評判が広まり、温浴施設内の付帯設備として作られる岩盤浴(ヒーリングサウナとも呼ばれていました)と、単独出店の小規模専門店という2つの出店パターンで急増し、一時は全国に1,500箇所を越える岩盤浴がありました。
しかし、激しいバッシングによって利用者が激減し、次々と閉店に追い込まれてしまったのです。
もし、あのバッシングがなかったら岩盤浴は今頃どうなっていたんだろう、と考えることがあります。
確かに当時はマーケットの勢いに法規制が追いつかず、安全管理に問題のある施設が存在していたのは事実です。
世間ではレジオネラ菌集団感染事故の記憶もまだ新しかった時期に、岩盤の拭き取り検査をして、細菌が検出されたと大騒ぎしていましたが、着衣で石の上に横になるだけのことにそこまでナーバスになる必要があったのでしょうか。
そんなことを騒ぐなら電車のつり革はどうなる?と当時は思ったものです。
裸になって他人と一緒にお湯につかり、そのお湯が目や口に入る可能性もある風呂と違って、熱気浴や遠赤外線浴にはそこまで厳格な無菌状態を求める必要性はないはずです。
私は、「岩盤浴は不衛生」というネタを週刊誌に提供したのは、温浴業界内部の人だったのではないかと推測しています。
あまりにも急激に増える小型温浴施設に驚異を感じ、ネガティブキャンペーンを仕掛けたのでしょう。
いろいろな事件に対する世間の反応の違いを見ていて思いますが、世論は理論的ではなく感情的です。岩盤浴は汚い、怖いというイメージが一気に全国に広がり、経営基盤の弱い小規模専門店はほとんど姿を消しました。
もし、あのまま岩盤浴マーケットが発展していたら、10年後の今は温浴施設の岩盤浴(チムジルバン)とも競合しつつ、切磋琢磨しながらもっと素晴らしいものに進化していたことでしょう。
おそらく現在国民の2割とされる温浴参加人口は今より多くなっていて、40兆円にのぼる国民医療費は今よりずっと少なくて済んでいたかも知れない。
そう思うと、いろいろなバッシング報道を目にする度に複雑な思いがしてきます。
先日「温浴業界は設備投資が重たいし、保守的なので変化するのには時間がかかる」と言う意見を聞いたのですが、私はそうは思っていません。
本当に価値あるものを作り上げれば、温浴施設も業界も、そして世の中すらも大きく変える可能性があると思うのです。
◆温浴市場が縮小している理由
先日ある温浴設備関係の会社の社長と話をしている時に、温浴市場の動向について質問をされました。
「どうしていま温浴市場は縮小しているのでしょう?」と。
たしかに、以前から書いているように、市場拡大基調から転換した2007年以降、温浴市場規模は2割近く縮小しています。昨今の日本経済自体も決して好調とは言えませんが2割もの縮小はしておりませんので、温浴マーケットは急ブレーキと言ってもよいでしょう。
この質問にはたくさんの答え方があります。
ライフサイクル的に成熟期に入ったということもできますし、他の業界と比べた時に金銭消費の対象・時間消費の対象としての魅力で負けているという見方もできます。温浴ビジネスを支援する側の企業の力不足ということもできます。
ではどうしたら良いのかという答えにもたくさんの切り口があります。それぞれの立場で考えていかなければならないということでしょう。
その社長とは「マーケットはヘビーユーザー化していくから、我々はヘビーユーザーの厳しい目にかなうレベルの物を開発していかないと飽きられたり卒業されてしまうね。」という話になりました。
◆ベビーユーザー対応力アップ
私も半世紀を生きましたので、いろいろな歴史の変遷を見てきました。
私がまだ子供の頃、「ワイン」と言えば赤玉ボートワインのCMを思い出すという時代でした。
♪男に~は飲ませるな~♪
赤玉パンチ以外の輸入のワインを飲むのはよほどの通という感じだったのではないでしょうか。
それが今や国産ワインも海外の品評会で受賞するほどレベルアップし、輸入ワインは数えきれないほどの種類が入ってきています。
コンビニにもいろいろなワインがずらりと並び、美味しいワインが手軽に飲める時代になりました。
同じく子供の頃、コーヒーと言えばインスタントコーヒー。お湯を注いで飲んでいました。
喫茶店に行くとKeyコーヒーやUCCコーヒーといった大手メーカーの豆をドリップやサイフォンで淹れていましたが、たいして美味しいものではなく、本当に美味しい珈琲はこだわりの専門店だけで飲むことができたのです。
しかし、その後登場したドトール、スターバックスといったコーヒーチェーン店が飛躍的に日本のコーヒーのスタンダードを底上げしました。
今やコンビニでも挽きたて、淹れたての美味しい珈琲が飲めるようになり、豆の品質、焙煎、抽出を語るコーヒー通がたくさんいます。
では温浴の世界はどうなのでしょうか?
温泉は源泉かけ流しでなければダメだ、水風呂はもっと冷たくないとダメだと言う意見を、もはや一部の異常なマニアの意見と捨て置くわけにはいかなくなってきているのではないでしょうか。
世の中が着々とベビーユーザー化していく中で、これからの温浴設備はどうあるべきか、スタッフの接客レベルはどうあるべきなのか。
最近、そんなテーマで勉強会をする機会が増えてきています。
◆水風呂の話題
猛暑のせいか、しばしば水風呂のことが話題になります。
ある施設ではチラーを増強して13度まで冷やすことに成功したとか、次のリニューアルでは水風呂を深くしたいとか、方法論は様々ですが、マーケットが求める方向性は比較的分かりやすいです。
もっと「冷たく」「深く」「飲めるくらいキレイに」「できれば温度のバリエーションを」。基本的にはこれだけです。
温泉やサウナの世界に比べればまだまだ単純です。
しかし一般的な温浴施設では、企画設計段階で水風呂の存在意義をよく知らなかったために、「ぬるい」「浅い」「水が汚れやすい」「ひとつしかない」という残念なつくりになっていることが多いのも事実です。
特にヘビーユーザー対応策としては水風呂の改善が重要テーマとして浮上します。一見地味なようですが、ヘビーユーザーは無理して来店促進しなくても高頻度に利用してくれるありがたいお客様であり、新規客の注目を集めることよりもヘビーユーザーの確固たる支持を得る方が重要度は高いのです。
◆どうなる温浴市場規模
温浴施設の市場規模は現在およそ1兆円(入浴・入館料のみ)と考えられています。昨今は減少傾向にもあり、今後の行く末を心配する声もあるのですが、私は楽観しています。
みずほコーポレート銀行の調査によると、高齢者向けの医療・医薬、介護、生活産業の市場規模は2025年(9年後)には100兆円を越えると試算されています。
それだけ日本は世界でも類を見ない超高齢化社会へと向かっているということなのですが、この温浴とは桁違いの市場規模を持ち、かつ急成長が見込まれている高齢者マーケットは、はたして予想通り順調に成長していくのでしょうか?
医療保険や介護保険もからむ話になるので、マーケットの動向は自然の成り行き通りに進むとは限りません。
国の財政状況もあわせて考えると、おそらく「医療や介護に頼らない高齢化社会」ということが、取り組まざるを得ない重要テーマとして浮上することになるでしょう。
医療や介護に頼らずに生きるとはどういうことなのか。そこに必ず温浴の出番があると考えています。それは遠い未来の話ではなく、現在進行形であり、もう目の前まで来ているのです。
市場規模が二桁も違うのですから、医療・介護産業から見たらささやかな変化で、ちょっと市場が他の業界に流出しただけでも、温浴業界にとっては激甚のインパクトがあります。
いま温浴施設の売上アップ策というと、「フルスペックの施設で地域一番化」「時間消費型ビジネスとしてのサービス拡充」「固定客化とヘビーユーザー対応」「浴室の品質向上」といったところがトレンドですが、そろそろ戦略的に「アンチエイジング」「予病」「健康寿命」といった中長期テーマを踏まえた施設とサービスの構築に取り組まなければならない時期が来ていると考えています。
◆温浴と気候
今日は沖縄に向かいながらこのメルマガを書いています。
今まで日本全国で温浴事業のお手伝いをしてきましたが、自分自身でも何度か疑問に思ったことがあります。それは「北海道と沖縄では温浴のマーケットサイズは違うのだろうか?」ということです。
このメルマガの第3号で書きましたが、最新の統計による温浴のマーケットサイズは一人当たり8,894円/年と試算されています。これは日本全体の温浴市場規模を全国の人口で割った平均値です。
この平均値を売上予測やシェア分析の指標として使うわけですが、基本的に地域による違いは考慮していません。
ご存知のように、温浴文化は基本的に寒い国を中心に発達してきました。北欧、ロシア、日本、韓国…。いずれも冬は厳しい寒さとなります。
逆に温暖な地域では沐浴やシャワーといった形で入浴を済ませることが多く、温泉を掘ったりサウナをつくったりというようなお風呂文化はあまり育っていません。
実際に、沖縄では湯船にお湯をためて入浴せず、シャワーで済ませることが多いそうですし、よく考えてみれば夏には日本中がそうなっています。
ということは、沖縄は北海道よりも温浴マーケットサイズは小さくなるのでしょうか?
これについては、残念ながら検証できるだけの統計情報が存在していないので、何とも言えません。
本当は気候だけでなく、所得指数であったり持ち家比率であったりといった地域性も影響はしているはずですが、これも検証できていません。
ただし、そのような状況であっても売上予測をしたりシェア分析をする上でマーケットサイズという指標を用いても実用上問題は生じません。それは、実際に売上や客数が判明している施設の情報を加えることで現実に即すよう調整できるということと、予測数値に例えば4000万円〜5000万円というようにゆったりと幅を持たせているためです。
統計情報にこだわってマーケティングの精度をいくら上げようとしても、運営のやり方ひとつですぐに2割や3割は売上が変化してしまう世界ですから、あまり細かい精度を要求しても仕方がないのです。
もうひとつ、以前も書いたように今はタイでも日本式の温浴施設が大人気です。仮に市場全体としては気候や地域経済等の影響があるとしても、個別の施設は熱帯でも雪国でもやり方次第で市場を開拓できるということを表しています。
みんなが湯船につからずにシャワーで済ませる夏は、温浴施設にとって繁忙期のひとつです。そう考えると気候がどうこうというよりも、どのように需要を開拓するかということのほうがずっと大きな影響力を持っているということでしょう。
◆これからの銭湯
銭湯の衰退ということがよく言われます。自家風呂が普及し、かつて必要だった身体を洗うための場所という役割がほぼ終わりつつあるのは確かです。
銭湯の件数がピークを迎えたのは昭和43年、1968年のことですから、当時の建設ラッシュから約半世紀が経とうとしています。
建物が寿命を迎え、建て替えて事業継続するほどの投資採算が見込めないということも、廃業が相次ぐ要因のひとつでしょう。
あとは、売上減少、後継者不在、燃料高騰などによる経費増、設備故障などが複合的な要因となり廃業して行くようです。
ピーク時(1968)に全国で17,642件あった銭湯は2015年には4,293件と4分の1にまで減少しました。銭湯はこのまま消えて行くのでしょうか?
私はそうはならないと思っています。
理由のひとつは、文化的側面からの保存の動きです。銭湯の独特の建築やペンキ絵は文化的な遺産として評価されています。古民家再生が流行っているように、古き良きものを残そうという考え方は常にありますし、そういった場所で働くことに憧れを持つ人も出てくるでしょう。
もうひとつは純粋に温浴ビジネスとしての生き残りです。
高齢化社会となれば移動手段としてクルマから公共交通機関や徒歩への逆行が起こり、生活圏は縮小します。すると元々小商圏立地にある銭湯は再び行きやすい存在になるのです。
さらに高齢化に伴って健康増進の方法として温浴習慣が注目されることになるので、近くにある銭湯はうってつけの存在ということになり得ると考えています。
もちろん今の銭湯と同じ形態ではなく、改装や技術革新を伴う話になるでしょう。ノスタルジーに浸っている場合ではなく、高齢化社会のニーズに応えられる小商圏型温浴施設のあり方について、真剣に答えを出さなければならない時期が来ています。
◆温浴市場の縮小続く
もう20年近く続けていることですが、毎年この時期になると公衆浴場や人口の統計を元に温浴市場規模(マーケットサイズ)の推計をやっています。
2015年の統計値をもとにした温浴マーケットサイズは8,709円/人。昨年より▲1.5%減少し、もはや1980年代の水準となってしまいました。
施設数で見ると、温浴施設数は20,910件で昨年より▲2.9%減少。とくに一般公衆浴場(銭湯)が▲5.0%減少と減少率が大きく、ヘルスセンター(古い分類基準ですが、健康ランドなどの大型温浴施設のこと)は102.7%と増加しています。
件数が増えているのは大型施設のみで、あとは軒並み減少で市場全体としても減少、というのが2014年から2015年にかけての傾向でした。
要するに出店意欲(資金力と出店による勝算)があるのは大型施設を出店している企業だけで、既存施設の廃業ペースは新規出店を上回っているということです。この傾向は現在も続いていると思われます。
競争力のある大型施設が中小施設をなぎ倒していく構図は温浴業界に限ったことではなく、様々な業界で起きていることなのですが、業界の将来にとっても日本の将来にとってもあまり歓迎すべきことだとは思えません。
一部の大企業による同一規格の大型施設への集中は、マーケットの多様性が失われ、生活者が置き去りにされてしまうという懸念があります。
それが時代の流れといってしまえばそれまでなのですが、小回りのきかない大型恐竜ばかりになってしまったら、それは滅びへの道になりかねないと感じています。
私ひとりの力でどうにかなるものではありませんが、少なくとも私はこの傾向には抵抗し続けなければならないと思っています。
社会動向
◆予測不可能な時代
今日は 2016年1月29日です。重要閣僚が収賄で辞任したかと思えば、日銀が金融緩和策としてマイナス金利を導入。本当に何が起きるか分からない予測不可能な時代です。
政治経済の話に限らず、こういう時はリスクヘッジをしっかりしておくことが大切です。温浴ビジネスには多くの潜在的リスクがありますので、気を抜かずにひとつひとつ対策を講じましょう。
もうひとつ重要な考え方は、目先の風向きに左右されない長期トレンドに乗るということです。10年、20年先を見据えた時、確実と思われる大きな流れがあります。それは、以下の6つです。
・人口減少
・少子高齢化
・消費者の成熟化
・環境問題の深刻化
・健康志向の高まり
・ネット社会の進展
この6大トレンドに対して温浴ビジネスはどのような戦略を立てるべきなのか?
今後のセミナーなどの機会には、この点もじっくりお伝えしたいと思っています。
◆株価の下落と円高
原油相場、為替、そして株式市場の混乱が止まらないようです。
消費が低迷するのは困ったことですが、原油安+円高となれば、燃料代や電気代がさらに下がってきますので、水光熱費に悩む温浴施設にとってはありがたい面もあります。
輸入が絡む食材価格も下がってくるかも知れませんね。
ただ、このような相場頼みの経営ではいつまでたっても安定しませんので、基本となる省エネや節水、原価コントロールをきっちりやって、できるだけ固定費の低い収益構造を作っていかなければなりません。
◆キャッシュレス時代
「クレジットカードの利用率はどのくらいでしょうか?」
最近この質問をすることがよくあります。売上のうちクレジットカードが使用された割合のことですが、その回答には数%〜50%くらいまで、非常に大きなバラツキがあります。
現在、おサイフケータイや各種プリペイドカード、そしてクレジットカード等、現金以外の方法で精算する人はどんどん増えています。
コンビニエンスストアなどでの少額の買い物であっても、ポイントがつくこともあり、サインや暗証番号入力不要で気軽にクレジットカードが使われています。
券売機のクレジットカード対応はまだ難しいようですが、レジ精算であれば現金以外の決済方法に対応していくことは非常に重要です。
先日、ある温浴施設で現金精算のお客様とクレジットカード精算のお客様の客単価を比較してみると、カード客の方が2倍近くも客単価が高くなっていました。
お財布に現金をあまり持たなくなっている人が増えているということでもありますし、給料日前などお財布が寂しい時でも使えることから、クレジットカード対応することが客単価アップに貢献するのは間違いありません。
その施設ではすぐにホームページやエントランスや館内で、クレジットカードが使えることを積極的にアピールしていこうということになりました。
また、クレジットカードのシステム自体も以前とは大きく変貌してきています。
例えば「楽天スマートペイ」では、『固定費・維持費無料、手数料3.24%、翌日自動入金、6ブランドのカードに対応』といった条件です。以前の感覚で考えるとこれも驚きです。
(追記)メルマガを見た読者の方から、「アメリカでは屋台でもクレジットカード決済ができる」と情報提供をいただきました。
こんなサービスですね→ https://squareup.com/jp/
カードリーダーとスマホを組み合わせて、屋外でもどこでも決裁できるとは…ITの世界の進歩には本当に驚かされます。
◆金融情勢
先日、大阪の金融機関から弊社に飛び込みの電話があり、融資をしたいので資金需要のある企業をぜひ紹介して欲しいとのことでした。日銀のマイナス金利政策の影響なのか、積極的に貸し出そうという方針のようです。
温浴施設の場合、新規出店となると事が大きくなってしまいますが、それ以外にも増改築のための設備投資や運転資金注入、さらに借り換えや複数の借入のおまとめによるキャッシュフローの改善など、業績や財務状況を改善するチャンスにつながるかも知れません。
資金繰りはゆとりがあるに越したことはありませんので。
◆宿泊マーケットに動きあり
昨年はインバウンドを中心に宿泊マーケットが大いに賑わいました。東京ではなかなか泊まるところがなくて、アパホテルの強気の価格設定が話題になったり。
ところが、地方から東京に出張に来る人に聞くと、最近は東京でも比較的楽に予約が取れるようになったとか。
一時期、一泊20000円した以上だったホテルが今は7000円で泊まれるようになっているそうです。
昨今の円高傾向が外国人マーケットの縮小につながっているのかも知れませんが、同じ設備、同じサービスで価格が短期間に3倍以上も変動する商売はちょっと理解ができません。
価格が需給バランスだけで決まるのなら、震災後に便乗値上げでソーセージを5000円で売るのも正しいということになります。
でもマーケットが何に影響を受けていつどう動くかなんて、誰にも分かりません
同じようにキャパシティがある商売ですが、購買頻度が低い飛行機やホテルの考え方を、頻繁に利用されリピート率が高い温浴ビジネスにあてはめるのは危険なことだと思います。
◆消費税の行方
2016年5月14日(土)の日経新聞トップは「再延期は絶対にない」と首相が断言していた消費税10%が結局延期になるとの記事でした。
まだ政府からの公式発表ではないので、どうなるのか分かりません。選挙前のパフォーマンスなのかも知れません。
タイミングがどうであれ、いずれ増税することは規定路線でしょうから、我々はいつ増税になっても耐えられる財務体質、営業方針を持っていなければなりません。
消費税が8%になった時の影響は、まだ記憶に新しいと思います。価格表示の改定、事務処理といった問題から、仕入れや経費の値上がり、そして消費の冷え込みによる売上ダウン。
油断なく備えましょう。
◆とにかく健康第一!
70歳以上の高額療養費引き上げ案で政府・与党調整へ、というNHKニュース。要するに高齢者が医療を受けたいならもっと金を払えという話です。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161129/k10010787681000.html
そして立て続けに衆院本会議で公的年金改革法案、いわゆる年金カット法案が強行採決されました。こちらはあまりニュースにもなっておらず、国民の関心は海外の大統領がどうしたとか、芸能人の覚せい剤事件とかに向けられているようです。
日本はどこまで弱者切り捨ての格差社会になっていくのでしょうか。
このままでは高齢者は満足に医療を受けられなくなり、世界に誇る長寿国から転落してしまう日が遠くないのかも知れません。
とはいえ、国民が選んだ政府の決定ですから、ひとりで不満を言っていてもこれを覆すことはできません。
最善の対抗策は、「健康でいること」に尽きると思います。健康で医者にもかからず、現役で働けている限りは、医療費を値上げされようが年金をカットされようが深刻な影響は受けにくくなります。
そういう元気な人が多くなれば、病気になった人や働けなくなった人のことを国として支える財源が確保できるのかも知れません(楽観ですが)。
いつまでも健康でいるためにはどうしたら良いのでしょうか。健康管理に必要な知識をしっかり身につけること、食事、運動、休養…それらと並んで温浴習慣があると思います。
残念ながら、いま一般に知られている健康知識や流通している食品の中には、かえって人を健康から遠ざけてしまうようなものが少なくありません。それに比べて温浴は誰でも効果を体感でき、安価でシンプルな、副作用の少ない本物の健康法だと思います。
元々風呂好きの日本人ですが、生活の中にもう一歩進んだ温浴習慣を取り入れることによって、元気を回復したり免疫力を高めて病気を予防することができるのですから、これを利用しない手はありません。
だからこそ、「温浴業界の発展が人類の幸せにつながっている!」と常々申し上げているのです。
温浴ビジネスに携わる人たち一人一人がこの意識を持てば、きっと変えられると思っています。
◆訪日外国人年間2千万人突破
政府観光局(JNTO)が発表する訪日外国人数が、1月から10月までの集計で2千万人を突破し、早くも去年1年間の1千9百万人を越えてしまいました。
おそらく年末にはさらに膨らんで2千4百万人くらいになっていることでしょう。
「爆買いの鎮静化、訪日外国人はどこへ行った?」というような報道も見受けられますが、この6年間で4倍にも成長しているマーケットですから、簡単に消えてなくなったりはしません。
買い物から体験型消費へ、大都会や有名観光地から地方やマイナー観光地へと拡散しているようです。観光客が入手する情報がさらにディープになって、一層目が肥えてきているということでしょう。
今日はニフティ温泉さんのイベントがあり、外国人マーケットへの対応というテーマも取り上げられるようですので、事前に自分の頭を整理しているのですが、やはり温浴業界としてはもっと積極的にこの成長マーケットと付き合っていくべきだと思います。
訪日外国人増加という流れはまだ続くと思われますし、日本人の年齢構成を考えれば今後外国人の就労人口もさらに増えていくことでしょう。現実問題として、無関係ではいられなくなってくるのです。
宿泊施設の受け入れが追い付かない中、以前ご紹介した民泊も合法的に整備が進んでいくものと思われます。
外国人旅行者が関心を持っていることの上位には常に「日本の温泉」がランクインしています。国によって温度差はありますが、外国人旅行者全体からみて第3位の関心事です。
しかし、民泊施設にはその関心を満足させるようなお風呂はおそらくないでしょう。そこで温浴業界がうまく受け入れ態勢を整えて行ければ、温浴マーケットへのインパクトは多大なものになると思われます。
先に「言葉が通じない」「日本の公衆マナーを理解させるのが困難」「タトゥーの人が多い」といったネガティブ要因を並べて考えていると道は拓けてきません。
今後の基本方針として外国人受け入れ体制を強化するのかどうか。それを決めたら、あとはひとつひとつ障害や困難を乗り越えていくだけです。
◆訪日外国人年間2千万人突破(2)
先日事務所の近くを歩いている時に、エステサロンの店頭にパンフレットがあったので、ふと一部手に取ってみたところ、そのパンフレットは日本語ではなく、英語と中国語の2か国語表記になっていました。
銀座という土地柄外国人観光客が多く、そのエステサロンは和をコンセプトにしているので、外国人マーケットを積極的に狙っているのでしょう。
おそらく月商で2〜3百万円くらいの単独エステサロンがそのような取り組みをしているというのに、その何倍もの事業規模がある温浴施設では外国語対応のパンフレットを整備しているところはまだほとんどありません。
温浴施設は設備投資が重たいという事業特性があるとはいえ、運営段階ではもっと柔軟にスピーディな事業展開をしていかなければ、同じ美と健康や癒しを提供する他業種にどんどん市場を奪われてしまうという焦りを感じます。
外国人の受け入れに積極的になれない理由のひとつに言語の問題があります。外国語に堪能なスタッフを揃えたり、社内で英会話講座をしたりするのは簡単なことではありませんが、それ以外にも方法はあります。
まず、よくある質問と回答集を作っておくのです。温浴施設の利用に慣れていない外国人が戸惑うことはだいたい一緒ですので、そのやりとりを文章にしておけば、後はお互いに該当箇所を指差せば意思疎通ができます。
さらに、最近は「多言語通訳サービス」が登場しています。マルチリンガルコンタクトセンターといわれるコールセンターに待機する多言語通訳に対応するスタッフが、スマホやタブレットを介して店舗と外国人客の通訳をしてくれるのです。
料金の高い高度なサービスなのかと思ったら、すでに月額数千円とか1分100円といった利用しやすい料金体系になっていて、これもサービス業などで導入事例が急増しているようです。
伸びているものと付き合うことが、ツキを呼び込みます。費用対効果とかリスクとリターンとか言いながらクヨクヨと議論しているよりも、まずはやってみる。やってみて違うと思ったら方向転換することもできる。そういう柔軟性とスピード感が運営には必要です。
温浴業界の動き
◆入れ墨・タトゥー問題
解禁や緩和の動きがしばしばニュースになりながらも、業界としては明確な方針を打ち出せずにきた入れ墨・タトゥー問題。
外国人旅行者が増加しオリンピック開催が迫る中、ついに観光庁からも各自治体や業界団体(日本ホテル協会、全日本シティホテル連盟、日本旅館協会、日本温泉協会)宛てに「入れ墨をしていることのみをもって、入浴を拒否することは適切ではございません。」という踏み込んだ表現で対応を促す事務連絡が入る状況となっています。
昨今のファッションタトゥーの普及と外国人の増加から、あとはいつ解禁・規制緩和となるのか?が焦点となりつつあります。
館内アンケートで「入れ墨・タトゥーについてどう思うか?」と聞けば、既存の利用者は自分のいきつけの温浴施設にガラの悪い人が増えてほしくないという心理から、嫌だと答える人が多数という結果が出るでしょう。しかし、入れ墨やタトゥーの人がいるから海水浴場やプールに行かないということはそう多くないはずです。
問題は館内アンケートに回答することができない、これまで温浴施設に入館できなかった人たちが多数いるということです。これは温浴マーケット拡大の観点からも重要なテーマだと思います。
これまでの歴史的経緯や、目の前の利用者の意見だけを見ていると解禁や規制緩和などまだまだ無理と感じるかも知れませんが、世間一般では入れ墨=反社会的という図式はとうに崩れているのです。
観光庁は温浴業界の監督官庁ではないので、今回のような通達もまだ届いていないかも知れませんが、今考えなければいけないのは、入れ墨・タトゥーの人を入浴させるのかどうかではなく、解禁・規制緩和の具体的な方法と時期です。
◆入れ墨・タトゥー問題(2)
先日、日経新聞の記者の人から電話取材を受け、温浴施設の入れ墨・タトゥー入浴禁止問題についていろいろ聞かれました。
記事は8月19日に掲載されましたが、無難にまとめられてしまったので、あらためて私が伝えたかったことをここに書いておくことにします。
日本において、入れ墨は昔から罪人対する刑罰として行われてきた経緯があり、逆に明治時代には近代国家体制にそぐわないと入れ墨が法律で禁止され違法行為となっていました。
一方暴力団などでは威嚇や忠誠などの意味合いから入れ墨を入れる習慣が途絶えることはありませんでした。
こうして日本における入れ墨には常に反社会的・アンダーグラウンドな側面が付いて回ってきたのです。
ところが海外でのタトゥーは、宗教や文化、ファッションの一環として扱われてきました。
外国人のタトゥーと入れ墨の区別が入浴施設を悩ませることになりますが、明確な線引きができないことから「原則として全面禁止」のルールを採用する施設が多いまま21世紀を迎えました。
しかし、今や日本でもファッション感覚でタトゥーを入れる若者が増え、また訪日外国人が急増する中、入れ墨・タトゥー禁止は時代にそぐわないという議論が再燃します。
そして2020年のオリンピック招致決定。オリンピック憲章には、『人権、宗教、政治、性別、その他の理由に基づく国や個人に対する差別はいかなる形であれオリンピック・ムーブメントに属する事とは相容れない。』とあります。
そのオリンピック開催国が、肌に絵柄や文字が描かれているという理由だけで公然と入館拒否(差別)を行うことは、難しくなるでしょう。
自己責任論とか郷に入っては郷に従え、という論調は国内では通用しても、人権侵害や差別を国際的に理解してもらうのは難しいと思われます。
しかしながら、現時点で施設の来館者に対して入れ墨・タトゥー禁止の撤廃についてどう思うかアンケートなどで聞けば、既存客はNOという声の方が強いようです。入れ墨・タトゥーを入れていない人にとっては、自分の通う施設に柄の悪い人が増えては困るというのも自然な感情だと思います。
また、これまで断固として入浴をお断りしてきたのに、突然方針転換するのは難しいというのも分かります。
しかし、プールや海水浴場に行けばかなりの割合でタトゥーを入れた人がいます。中には数日間で落ちるシールで一時的にタトゥーを楽しむ人もいます。そういう人が多いからと言ってプールや海水浴を敬遠する人は少ないでしょう。
海外では有名スポーツ選手や芸能人も普通にタトゥーを入れています。もしそんな人達が来館したら、歓迎こそすれ、タトゥー入浴禁止とは言いたくないはずです。
国際化による世界基準の適用、訪日外国人の増加、国内でもファッションタトゥーの一般化。どこを見ても流れは入れ墨禁止ルールの撤廃ないし緩和に向かっていることは疑う余地がないのです。
肌に絵柄や文字が入っているだけで何も迷惑行為をしていない人を拒絶することは、もはやマーケットを狭めこそすれ、良い効果をもたらしているとは思えません。
あとはいつどのようにして切り換えていくのかが議論の焦点となりつつあります。
流れの方向は決まっていても、自然な成り行きにまかせ、施設毎の個別判断に委ねるなら、国内全体が切り替わるまでにはまだ長い時間が必要かも知れません。
しかし、オリンピック開催が2020年に迫り、温浴施設マーケットが伸び悩む中、長い時間をかけることが果たして賢明な選択なのでしょうか。
私は「善は急げ」だと思っています。個別判断に時間がかかるなら、みんなでいっせーのせ!と変わるチャンスを模索しています。
◆オムツ問題
先日顧問先の温浴施設の会議でオムツが話題になりました。
近くの競合店が「オムツをしている方の入浴、脱衣室の利用をお断り」という方針を新たに打ち出したとの情報がきっかけです。
あー、きっとオムツをしているお年寄りの重大事案があって、そういうことになってしまったんだろうな…と想像しました。
現在、オムツをしているお客様の入浴を可とするか不可とするかは個々の温浴施設によって大きく対応が二分している問題です。
どちらが正解とは言えません。どちらの方針を取っても問題はあります。
ただ、これからますます高齢化が進んでいく中で、赤ちゃんよりもお年寄りの問題の方がより深刻になってくるでしょう。
客層の高齢化は避けられず、脱衣室や浴室で起きる事件の頻度がだんだん増えてくるとしたら。
もう、あまり大きな浴槽をつくるのはやめた方が良いのかも知れません。浴槽を細かく分割して被害を最小限に食い止め、早期復旧を目指す。
あるいは家族風呂の必要性がこれまで以上に高まってくることになるでしょう。
社会構造が大きく変わっていくということは、風呂屋の設計にも大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
ちなみに、その顧問先ではオムツ禁止にはしないという方針があらためて確認されました。
逆にお年寄りも赤ちゃん連れのお客様も大歓迎。基本方針を決めれば、そこから先は具体的な対策がどんどん決まっていきます。
◆再びオムツについて
長らく私どもの浴場市場の運営を支えてくれていた女性スタッフの谷水さんが産休に入っていたのですが、昨日めでたく男の子が産まれましたので、そこから連想して今回はオムツ問題について考えてみたいと思います。
オムツ問題とは、温浴施設においてオムツをしているお客さまをどう扱うべきかということで、具体的にはオムツをつけた人(赤ちゃんや高齢・病気等で排泄のコントロールがうまくできない人)の大浴場利用を規制するのか否かということです。
さらに乳幼児の入浴料金設定もからんできます。
公衆浴場の管理運営にあたる者として、浴場や浴槽に排泄物があるという事態はあってはならないと考えることなのですが、実際には時々起こる厄介な問題です。
そのような事態になれば、他のお客様からは当然苦情が出ますし、浴槽の洗浄換水となればコストもかかるし施設によっては営業自体に支障をきたすおそれもあります。
トラブルをできるだけ避けたいということから出てきたのが「赤ちゃんの入浴禁止」であったり「オムツの人は入浴禁止」といったルールです。
私がこれまでお付き合いしてきた温浴施設においてもそのようなルールを設けるところは少なからずありましたし、その判断に対して単純に良し悪しを言うことはできないとも思ってきました。
赤ちゃん入浴禁止ルールにしていることが事前にホームページなどで伝われば良いのですが、わざわざ来店してからそのルールがあって入浴できないことを知ると、多くの親御さんは怒ります。もうこの店には二度と来ない!なんて言われてしまうこともあります。
一方で赤ちゃんOKにすると、オムツのとれていない赤ちゃんを他人と一緒に入浴させるなんて非常識だ!と怒る人もいますし、それが嫌で黙って来なくなる人もいるでしょう。そして大人のオムツ問題も事前に制限できないので、トラブルが起こる確率は高くなるでしょう。
どちらに決めても問題はなくならないのです。
同一条件で比較することができないので、営業方針としては集客上どちらが有利なのかも分かりません。
しかし、時代の変化に伴って、この問題もさらに深く考えなければいけないようになってきました。
まず大原則として理解しておかなければならないのは基本的人権の尊重です。私たちが人間らしい生活をするうえで、生まれながらにしてもっている権利を基本的人権といいます。日本国憲法では、「基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」によって確立されたものであり、「侵すことのできない永久の権利」として保証しています。
その基本的人権の中の考え方のひとつが平等権です。平等権とは、すべての国民は法の下に平等であり、人種、信条、性別、家柄などにおいて、政治的・経済的・社会的関係において差別されないということです。
私たち一人ひとりはこのような権利を有すると同時に、社会の構成員としてお互いの権利を尊重し合う義務を負っています。
つまり、運営の都合上厄介ではあっても、実際にまだ問題を起こしてもいない人を一方的に排除するということは、人権上は問題があるということだと思います。
過去には刺青の入った外国人を入浴拒否した温浴施設が訴えられて負けたという判例もありました。
じゃあレストランのドレスコードはどうなの?という議論もあります。たしかに店側にも営業方針や運営上の都合があり、客を選ぶ自由があるはずです。
この問題はとても難しく、法的にも国民感情的にもまだ議論の明確な決着はついていないということのようです。
個々の施設にはそれぞれのコンセプトや集客戦略、そして運営ルールがあります。しかし、今後ますます進む高齢化社会のことを考えると、これからの大きな流れはオムツの人も入浴OKの方向になっていくのではないかと予測しています。そうしなければマーケットの大きな部分を失うことになってしまうからです。
同時に、トラブル防止対策として
・防水オムツの販売
・ベビー用バスの用意
・粗相のおそれがある人は必ず同伴者と入浴、他のお客様のご迷惑とならないよう配慮させる注意喚起をする
・できれば個室の家族風呂を作ってそちらを利用してもらう
・洗浄換水となった時のダメージが大きい巨大浴槽は作らない
といった対策を講じることも必要となってくるでしょう。
そういえば話は変わりますが、宿泊業界には当然のようにある約款(企業などが不特定多数の利用者との契約を定型的に処理するためにあらかじめ作成した契約条項のこと)ですが、温浴業務で約款を整備している施設はまだ少ないように思います。
これも備えあれば憂いなしですから、きちんと作って表示するべきだと思います。
◆実はまだ業界でない温浴業界
以前の記事で「観光庁は温浴業界の監督官庁ではない」と書きましたが、公衆浴場業は基本的に厚生労働省が所轄しています。
ただしそれは営業面、特に安全衛生面に関してであり、一般公衆浴場(銭湯)以外の温浴施設の多様な事業形態を網羅するものとはなっていません。
そして源泉に関しては環境省です。
縦割りと言われる行政と二重三重に関係していることによって、その他公衆浴場(温浴施設)は行政からの支援を受けにくい状況になってしまっています。
また、温浴施設は業界としての歴史がまだ浅いことと、その多様な事業形態(日帰り温泉、スーパー銭湯、健康ランド、サウナ、公共温浴施設、その他)から業界全体を網羅する業界団体が存在せず、横のつながりが希薄です。
このことは、業界の発展を考える上で大きな課題であると言えます。
温浴業界の統計情報等が不十分であることはもちろん、制度融資や減免などでも置き去りにされている感は拭えません。
また今回の熊本地震のような災害時には行政との連携が大切になりますが、公衆浴場組合や旅館組合に所属していなければ、個別企業の立場で行政と話しをするしかない状況になってしまいます。
いつも「温浴業界」という言葉を使っていますが、実はまだ業界の体をなしていないのです。
「展示会のひとつもなければ業界とは言えない!」と初めての温浴展示会にチャレンジしたのが2001年。
まだまだチャレンジしなければならないことが沢山あります。
◆業界団体への期待
今日は関東地方に台風が接近し、激しい風雨で電車が止まったりしました。
激しく降る雨を見ると思い出すことがあります。以前いた温浴施設の現場は敷地に高低差があり排水が悪いために、台風やゲリラ豪雨などがあると決まって駐車場が冠水してしまい対応に追われるのです。
まず降りそうな気配がある日は深く冠水するゾーンにパイロンをおいて車を停めさせない。急に降ってきて冠水が危ぶまれる時は緊急館内放送で車の移動を呼び掛ける。冠水してしまったら排水路が詰まらないように管理したり、ポンプで強制排水したり。
人手もかかるし、お客様の車に損害が出る可能性もあるので油断ならず、いつも大雨が降ると緊張感が走りました。
そもそもなぜそのような状態になってしまったのか、施設開業時の関係者は責任の押し付け合いで解決に向かう様子はなく、結局負担は運営側が負い続けていました。
このように、大なり小なり何らかの開業当初からのトラブルを抱えたまま運営している施設は少なくありません。
かといって設計会社や建設会社に温浴施設の運営レベルまですべて事前に理解した上で仕事してもらうことを期待するのは無理があります。
この問題解決を図るには、業界団体による対策マニュアルの整備が必要なのではないかと思っています。まだそのようなことができる業界団体は存在していませんが。
◆温浴業界の中古市場
先日、「リサイクル通信」という専門紙から温浴業界の中古市場について取材をうけました。
弊社が古物商の認可を持っているので、温浴業界でどのような中古ビジネスの取り組みをしているのか聞きたいとのことでした。
私が前職のコンサルタント会社から独立した理由のひとつは、コンサルティングという枠にとらわれずにもっとお客様のお役に立つことをやってみたいと思ったからなのですが、具体的にコンサルティング以外でやってみたいと思っていたテーマの中に「中古ビジネス」があったので、いろいろな思いとこれまでの経験を話させてもらいました。
お付き合いしている温浴施設がリニューアルや閉店のために、まだ使える家具や備品が不要となることがあります。産業廃棄物として処分することになれば、処分費用もかかります。
逆に営業中の施設で古くなったり使用目的に合わなくなった家具や備品があっても、新品を購入する費用負担が重いので古いものをだましだまし使い続けている。程度の良い中古品があるならぜひ欲しい、と思っているところがあります。
両者の橋渡しが出来れば、お互いにWin-Winです。
そんな単純な発想からだったのですが、実際に中古品の橋渡しに関わってみると、想像以上にハードルが高いことが分かってきました。
2007年に東京都渋谷区の温泉施設「シエスパ」で温泉ガスが爆発した事件を覚えている方は多いと思いますが、あの時施設を経営していた会社は六本木でもう一軒、大型温浴施設を運営していました。
渋谷区の爆発は死者が出る大きな事件となり、裁判沙汰にもなっていくのですが、それで温浴事業に懲りたのか、運営会社は結局六本木の施設も閉館してしまったのです。
ほどなくして、その会社に接点のある人を通じて、六本木の施設で使っていた家具や備品が大量に残って困っているので見てほしいという連絡が弊社に入りました。
都内の倉庫を見に行くと、まだ新品同様の大型家具や備品が所狭しと置いてあり、賃量だけでも毎月数百万円が飛んでいくという話でした。その時は買取り前提の話だったので弊社では手が出せずお役に立つことはできずに終わりました。
また、ある時は四国の温浴施設が閉店することになり、仮眠室のリクライナーがたくさん余っているという情報が入りました。
その時は弊社のメルマガを使って全国の温浴施設に呼び掛けたところ、北海道の施設から希望がありました。
しかし、話を進めていくと大型家具のリクライナーを梱包して四国から北海道まで輸送すると、新品が買えるのではというくらいとんでもないコストがかかることが判明しました。八方手を尽くして少しでも安い輸送手段を探し、何とか売買を成立させることができましたが、その仲介で弊社が利益を得ようとすると中古家具の値段としては高くなりすぎてしまうため、利益のない仲介になってしまいました。
事務用家具や飲食店用の家具・厨房機器等に比べると、温浴施設の家具や備品は特殊過ぎるのです。ロッカーひとつとっても、4人用だったり8人用だったり、鍵もいろいろで施設によって使っているものが違い過ぎます。
「デカイ」「遠い」「形状や仕様が合わない」「タイミングが合わない」というように困難が何重にもなっているのです。
リサイクル通信の記者さんには事業が軌道に乗らないというボヤキをひと通り聞いてもらいました。
とはいえ、温浴業界の中古ビジネスを諦めたわけではありません。ITやインターネットの進化をはじめ、時代はどんどん変わっていますから、そのうちパズルのピースがはまるように温浴リサイクルが成立する時が来るかもしれないと思っているのです。
◆2016年温浴業界の10大ニュース
いろいろなことがあって、あっという間に年末を迎えた感もある2016年。今日を入れて残すところあと3日です。
ここで1年を振り返って、温浴業界にインパクトの大きかった出来事をマスコミ風にまとめてみましょう。
【訪日観光客過去最大に】
日本を訪れる外国人は年間2000万人を大きく越え、昨年の2割増しの勢い。この波にうまく乗っているのは観光・宿泊マーケット。さて、温浴マーケットはこれからどうするのか?
【TポイントとYahoo!が温浴業界に参入】
共通ポイントの競争に一定の成果を納め、各業界の大手を一通り押さえたTポイントがついに温浴業界にも参入!それに連動してYahoo!も動き出した。これまで大企業とは縁が少なかった温浴業界が、両者とどう付き合っていくのか、目が離せません。
【縮小が続く温浴マーケット】
2007年をピークに縮小傾向が続く温浴市場規模。このままじり貧なのか、新たな進化の方向性を見出だすのか。既成概念にとらわれていては縮小傾向から抜け出すのは難しいでしょう。
【時間消費型リニューアルに注目】
「おふろcafé」や「湯快のゆ」の再生手法で注目を集めた時間消費型リニューアル。投資のかかる浴場設備以外で集客力と客単価を回復させる手法は業界のトレンドとなりつつあります。
【来るか?アウフグースブーム】
日本上陸から約20年、ロウリュサービスが次のステップに向けて進化を続けています。秋山温泉に始まった高度なタオルパフォーマンスは、新しいムーブメントを予感させるに充分なインパクト。
【建築コスト高止まり】
かつて坪あたり100万円を切れるかどうか、と言われていた温浴施設の建築コストが高騰し、いまや150万円/坪とも200万円/坪とも言われる時代に。新規開業が鈍化した大きな原因であり、建築コストがこのままでは温浴マーケットが再び拡大基調に転ずるのは難しそうです。
【拡がる地域格差】
大都市圏などの温浴激戦区で繰り広げられている競争のレベルと、変化の少ない地方の温浴施設では、その内容に10年の差がついていると言われます。このギャップを成長余地と見るのか地方が取り残されると見るのか。地方の温浴施設の奮闘に期待しています。
【災害に負けない温浴施設】
大規模災害が起こると、しばしば温浴施設が話題になります。大人数を収容し、お風呂や食事や休憩が提供できる温浴施設は、防災拠点にも復興のシンボルにもなる存在。このメールニュース会員でもある熊本の湯らっくすゲンキスクエアさんも、震災からたくましく立ち上がっています。
【将来の鍵を握る人材確保】
全国どこへ行っても採用難の話題は共通でした。最低賃金の上昇、ブラック企業問題と雇用環境はいよいよ厳しさを増しています。マンパワー抜きには改善も改革もできません。人を大切にし、人とともに成長することが事業存続と発展に直結しています。
【『温活』が話題】
身体を温め、体温を上昇させることが健康維持には欠かせないという認識が広がりつつあります。マスコミでも盛んにとりあげられており、温浴業界にとっては追い風。この機をうまく活かすことによって未来が大きく拓けるのではないでしょうか。
──以上、温浴10大ニュースでした。
2017年も、皆さまのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。1年間、拙いメールニュースに日々お付き合いいただき、ありがとうございました。
温浴施設の危機管理
◆温浴施設としての災害対策
今朝、台湾で地震が発生し大きな被害が出ているようです。
日本が災害に遭うといつも温かい支援をしてくれる台湾。これ以上犠牲者が増えないことを祈るばかりですが、こういった災害のニュースを聞くと、いつも感じることがあります。
被災地に近い温浴施設であれば、災害に耐えて営業可能な状態であることそのものが地域の防災対策になります。
しばしばニュースになりますが、地域のライフラインが途絶えた時に、井戸水や温泉が使えたり、燃料の備蓄や自家発電装置等がある温浴施設は非常に頼りになる存在なのです。
災害に強い施設にするということも、施設計画を考える上で重要な要素だと思います。
◆業界としての災害対策
東日本大震災の時に、何度も被災地に足を運んでいろいろな支援を行いましたが、当然のことながら個人や一民間企業でできることには限界があります。
しかし、温浴業界として被災地から離れていてもできる独特の支援方法があるのです。
例えば、
・温泉水の運搬、提供
・入浴剤やシャンプー等のアメニティの提供
・ドラム缶風呂など、簡易風呂の設置
・マッサージセラピストの現地訪問
・アロマセラピー
・足湯の設置
・テントサウナの設置
・古タオルの大量提供
…といったことです。
どこかで災害が発生した時に、温浴業界としてこういった支援を迅速に大規模に行える体制を整えたい。常々そう思っていて、弊社としてもそのために少し動きはじめています。
今後何かとご協力をお願いすることもあろうかと思いますが、その時はどうかよろしくお願いいたします。
◆リスクマネジメント
旧知の温浴施設の支配人から、メッセンジャーにメッセージが入っていたので開いてみると「自主検査でレジオネラ菌が出て、自主的に営業休止しました。相談したいので連絡ください」と。
こういう時に支配人が考えなければならないことはたくさんあります。ベテラン支配人なので対応を間違うことはあまりなさそうですが、念のため確認したかったのでしょう。
このような局面でまず大切なのは、状況判断力です。どのくらいの水準で検出されたのか、思い当たる原因は、病人が出ている可能性は…といったことから、緊急度や危機レベルを総合的に判断します。
日頃から温浴関係のニュースをキャッチしたり、業界内で情報交換したりしていることが判断基準として役に立ちます。
緊急度や危機レベルがそれほど高くなければ、次に考えるのは健全な営業状態への早期復帰です。
そのためには配管洗浄や再検査に関する知識が必要です。培養法の再検査結果を待っていたらのんびり2週間経ってしまいますから、別の検査方法について保健所と調整する必要があります。
そして情報統制。検出という結果を知って、知識の乏しいスタッフが不安を感じたり、ネガティブな噂が広まってしまう可能性がありますから、必要な関係者には正しい情報を伝えると共に、わけの分からない噂の拡散は防止しなければなりません。隠蔽と情報統制は違いますので注意が必要です。
そんなお話をしたところ、支配人には安心していただけたようでした。
このような出来事も、日頃から意識や準備していないとパニックに陥ったり判断を間違いかねません。
リスクマネジメントの基本は「想定してみること」から始まります。
◆続リスクマネジメント
今日は(社)ニッポンおふろ元気プロジェクト主催の「支配人育成塾」に、講師として参加させてもらいました。
講座テーマが「支配人のリスクマネジメント」だったので、講座のはじめに温浴業界の歴史的事件について質問をしてみました。
まず「みなさん、シエスパってご存じですか?」と聞いてみたところ、なんと半分以上の参加者がご存知なかったのです。
それにびっくりして、続けて「日向サンパーク」「白骨温泉」「不正配管事件」「岩盤浴バッシング」などの話しをしたところ、これも知らない人が結構な割合でいたのです。
それぞれ法改正につながったり業界の潮目を変えるような大事件だったのに、もはや風化してしまったのか?と思ったのですが、考えてみれば日向サンパークは2002年、シエスパは2007年の出来事ですから、20代30代の人たちにとっては社会人になる前の出来事だったりするので、風化というよりは世代交代なのかも知れません。
自分ではまだまだ若手のつもりだったのに、もはや古株なのか?と若干ショックでもありましたが、同じ過ちを繰り返さないためにも、これは風化させることなく次の世代にも経験を伝えていかないと思いました。
温浴ビジネスの現場は日々事件の繰り返しです。その経験に学び、あらゆるリスクを日頃から想定して発生防止に努め、発生してしまったら被害を最小限に食い止める対処法、そして再発防止策。
個々の企業も業界全体も、その繰り返しが成長なのです。
2016年4月15日、熊本県で震度7の大きな地震がありました。まだ被害の全容は分かりませんし余震も続いています。被害が拡大しない事を祈るばかりです。
このメルマガの読者にも熊本県の温浴施設の方がいらっしゃいますが、壊滅的な被害は受けていないとのことで、ホッとしました。
◆災害に強く
ちょうど昨日温浴施設のリスクマネジメントについて話したばかりだったので尚更思うのは、温浴施設の防災対策拠点としての役割です。
公共のライフラインとは別に水源やエネルギー源を持っているので、停電や断水が起きたときに強いのです。
マンションをはじめ貯水槽を備える建物は多くありますが、少し時間が経たてば雑菌が繁殖してしまい飲料水としては適さなくなります。しかし温浴施設には水を殺菌浄化するシステムがあります。
多くの人の避難を受け入れ可能なスペースも備品も持っています。
このような条件を備えた施設は、あまりないと思います。
ぜひ、「いざというときに、うちは地域の防災拠点としての役割を担う。」と考えて、災害に強い設備システムの構築、日頃からの備えや防災訓練をして、さらに頼りになる存在になっていただきたいと思っています。
◆廃業と永続の違い
2009年のブログに書いたことなのですが、「以前に熊本市で停電があった時、自家発電設備を持っている湯らっくすだけは不夜城のように明かりが灯り、非常に頼もしい存在だった。」というお話を聞いたことがありました。
その時に、『温浴施設は災害時に頼りになる存在』という気づきをいただき、その後機会あるごとに皆様にお伝えするようになったのですが、その熊本の湯らっくすゲンキスクエアさんが今回の相次ぐ大地震でついに大きなダメージを受け、営業再開時期を予告できない休館に追い込まれてしまいました。
でもいつか必ず復活してくれるものと信じています。
挫折して廃業してしまう事業と、時に苦境に陥り倒れることがあっても再び立ちあがり永続する事業の違いは何でしょうか。
立地条件やマーケット、設備、源泉、人材、財務、リスク管理…それぞれ重要なことですが、究極的には『トップの想い』ではないかと考えています。
温浴事業は、資産運用の手段として見ると決して褒められたものではありません。莫大な初期投資がかかり、一度つくると建物の用途変更はできず、維持管理にも多大なコストがかかる。ビジネス的な成功(投資効率)を求めるだけなら正直言ってあまりおススメできないビジネスです。
そんなハンデを負っていても温浴事業をやり続けたいという想い、それは「温浴愛」とでも言うべきものでしょう。
トップに温浴愛があるのかないのかは、すぐに分かります。温浴愛のあるトップは自店でも他店でも、すぐに風呂に入ろうとします。逆に一度も自店の風呂に入ったことがないというトップもいらっしゃいましたが、その会社はすでに温浴事業から撤退されています。
湯らっくすゲンキスクエアの西生社長とはもう何度も一緒に風呂に入っていますから、温浴愛溢れる人であることは間違いありません。
だから必ず復活するはず、と確信しているのです。
◆安全化投資は省けない
昨年より自宅マンションの管理組合理事長をしています。
マンションには修繕積立金というものがあり、月々の管理費の中から積立てられています。
経営と違って頑張っても収入は増えないので修繕積立金は慎重に使わなければならず、状態が良ければ計画修繕工事を先送りすることも少なくありません。
今年度予算にも過去から先送りされてきた修繕工事がいくつも予算計上されていました。
その中に、火災感知器の交換工事がありました。確認するととっくに耐用年数を過ぎており、最近は誤作動のトラブルも増えていました。
理事会は今年度も個別の修理や交換でしのげば良いという雰囲気でしたが、私は「これは絶対先送りすべきじゃない」と意見し、全戸一斉交換に踏み切りました。
そう考えた理由は温浴ビジネスと長く付き合ってきた経験にあります。
経営には経済性や効率、資金繰りなど様々な観点からの総合的な判断が必要です。施設への投資も「増収」「更新」「省力化」「安全」と様々な理由がありますが、安全のための投資だけは省けないのです。
安全性よりも他を優先した判断をすると、万が一それが裏目に出たときのダメージが大きすぎるからです。
経営判断の最終責任はトップが取りますが、マンションの管理組合理事長にはそんな権限はありませんから、当然安全第一の判断しかすべきでないのです。
もちろんどんな経営者だって人命に関わるような事故の責任はとりようがありませんから、やはり安全性の優先順位は最も高いはずです。
そういう目で見ると、世の中には理解できない判断が少なくないと感じる今日この頃です。
◆不正が発覚したとき
三菱自動車が日産から2000億円という巨額の出資を受け、事実上日産グループ傘下に入ることがニュースになりました。
今回の事件は過去のリコール隠しに続く三菱自動車の三度目の大型不正事件で、不正の事実そのもの以上にその隠ぺいや偽装を繰り返してしまう企業体質が問題になったようです。
リコールしなければならないような欠陥や目標とする燃費が達成できないことは、モノを作り続けていく過程としては当然起きうることで、不正体質は挫折や失敗を受け止めることができない弱さともとれます。
温浴業界においても、過去にいろいろな事件がニュースになりました。レジオネラ菌や温泉ガス爆発などは事故という側面もありますが、温泉偽装や不正配管などではやはり企業倫理・体質がダイレクトに問われます。
問題を起こさないに越したことはありません。しかし起きてしまったときは率直に失敗や過ちを認め、誠実に処理し改善に努めることが大切です。
そこで処理を誤ると、それこそ致命的な問題になりかねません。
勝利や成功は素晴らしいことですが、それを至上として結果ばかりを追い求めるのではなく、日頃の挫折や失敗からも学びや成長を得ていくスタンスを持つことが、企業の本当の強さにつながるのだと思います。
◆時代の向かう先
以前鳥インフルエンザの問題が大きくクローズアップされた時、鶏肉が売れなくなり全国の養鶏業全体に不安感が広がる中で、逆に引き合いが増え、急激に売上を伸ばす養鶏業者さんがありました。
「あんたのとこなら大丈夫だろ」ということで引き合いが増えるのは、大量飼育の効率性よりも鶏の健康を本気で考え、なるべく自然に近い環境で鶏を育てている本物志向の養鶏場だったのです。
同じように、源泉かけ流し人気が高まった背景には、レジオネラ菌感染事故や偽装温泉事件による温泉への不信感の高まりがありました。
人は失敗をしたり痛い目にあったり、また喉元過ぎて熱さ忘れたりを繰り返しながら少しずつ何かを学びとり、そして向かう先はより安心で安全で高品質、明確な効果効能があって副作用がないものです。
「本物化」と呼ぶ流れはまさにこの進化のプロセスのことであり、ブームや流行り廃りというような一過性の変化ではありません。
事件や事故やバッシングと、進化や本物化が表裏一体のプロセスであると考えると、本当のリスクマネジメントとは、より本物を追究することなのかも知れません。
◆増えるレジオネラ菌感染者数
レジオネラ菌感染者発生数は年々増加傾向にあります。昨年(2015)は過去最高の1,587人の感染者数となり、今年上半期はそれを2%上回るペースだそうです。
http://www.suirikyo.or.jp/information/legionella-graph.html
これは温浴施設の衛生管理水準が悪化しているということではないと思います。私の知る限り、温浴施設の衛生管理は昔よりもずっとシビアになっています。
感染者数が増えているのは、レジオネラ菌感染症という疾病が広く認知されたことで、肺炎等の患者のレジオネラ菌感染を疑う医療機関が増えたことが主な要因と考えています。
だからといって、増えているのは温浴施設側の問題ではない、ということにはなりません。
これだけレジオネラ菌の問題が知られるようになっても感染例、死亡例が少なくないというのは事実なのです。
全国的な統計ではなく千葉県の情報ですが、保健所が浴槽水を検査した結果報告書があります。
https://www.pref.chiba.lg.jp/eiken/eiseikenkyuu/shuppanbutsu/nenpou/documents/58-s3.pdf
詳しくは資料を読んでいただければと思いますが、約2割の検体からレジオネラ菌が検出されているというのが現実です。
ショッキングなのは塩素濃度管理、換水、逆洗、配管洗浄といった安全衛生対策を行っているところでも同様にレジオネラ菌が検出されていることです。
きちんとやっている筈なのに菌が検出されてしまうと、一体どうすればいいのかと途方にくれてしまいます。
常在菌なので完全に滅菌することは難しいのかも知れませんが、少なくとも衛生管理をしている限りは何万cfuといった爆発的な増殖に至ることはありませんから、今は常識的に衛生管理を行いつつ、技術のさらなる進歩を待つということなのでしょうか。
入浴の効果
◆花粉シーズン
おはようございます。東京ビッグサイトに向かう電車の中で、鼻水が止まらず困っています。
今年の花粉飛散量は例年より少ないそうですが、それでも今の時期から桜が咲く頃まで、スギ花粉症に悩む日本人は多いと思います。
以前、舩井幸雄から「生物は皆、苦痛や危険から逃れようとする時の動きは早い。欲求を喚起するよりもずっと簡単である。だからといってお客様を脅すような商売のやり方は程度が悪い。」と教わったことがあります。
脅しというわけではありませんが、花粉症で鼻水がとまらなかったり目が痒い状態が続くことは大変な苦痛ですから、もし温浴でその症状が緩和される方法があるならそれは知らせてあげたいと思い、館内POPを作ったことがあります。
その方法とはサウナと水風呂です。
温冷差刺激で副腎を鍛えることが、免疫機能の強化につながるそうです。今の時期からでも効果が期待できますので、ぜひお客様に知らせてあげてください。
そのPOPに使用した文言を記しておきますので、参考にしてください。
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アレルギーと冷水浴
いつも空調が整った室内で過ごし、温かい洋服を着て、あまり身体も動かさなくなっている現代の日本人。昔とは違って、とても快適な生活環境です。
しかしその結果、生体の様々な防御反応を司り、生体の恒常性を保つ働きをしている副腎が本来の機能を果たさなくなり、自分の免疫反応を上手くコントロールできなくなってしまうことが、花粉症やアトピー性皮膚炎に悩む人が増えている一因であると言われています。
アレルギー症状の重い人には、医師から「ステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン)」が処方されることをご存知の方も多いと思います。
これは、本来であれば自分の副腎で免疫反応をコントロールするはずが、うまく機能していないために薬で補っているということなのです。
薬に頼らず、副腎に本来の機能を取り戻させるために効果的な方法があります。それは、冷水浴によって身体に激しい温度差の刺激を与えることです。
冬場に冷たい水を浴びることを習慣づけるのは簡単なことではありませんが、お風呂やサウナで身体をしっかり温めた後なら、気持ち良く爽快に冷水浴を楽しむことができます。
この方法で実際につらいアレルギー症状が大幅に軽減した人もたくさんいるようです。
私どもは医師ではないので「必ず治る」とは申し上げられませんし、個人差もあるとは思いますが、副作用のない健康法として一度試してみる価値はあると思います。
・参考文献:小山内 博 著「今すぐできる体質改善の新常識 (新潮新書) 」
◆快眠が求められている
「悟空のきもち」という店名を聞いたことがあるでしょうか。マスコミでもたびたび取り上げられていますが、ドライヘッドスパ専門店、簡単に言うと頭のマッサージ屋さんです。
http://goku-nokimochi.com/
現在京都、大阪、東京で3店舗展開しており、予約1ヶ月待ちと言われるほどの人気です。
直接頭をほぐし、脳を休める。気持ち良すぎる幸福感が、頂点に達して眠りに落ちる睡眠のことを『絶頂睡眠』と呼んでおり、このちょっと妖しいネーミングも人気の理由かも知れませんが、いずれにしても「コリ」や「疲れ」ではなく「眠り」に悩む人がそれだけいるということです。
考えてみれば私も仕事に追われて眠れない日々を過ごしていた頃は、「何も考えずにとにかく思い切り眠りたい!」といつも願っていたことが思い出されます。何かで睡眠時間を削らなければならない事情のある人も、不眠症で眠れない人も、ぐっすり深く眠りたいと切実に願っているということが、「悟空のきもち」の人気からうかがえます。
ところで、温浴施設にはこの『快眠』をサポートする要素がたくさんあることはお気づきでしょうか。
よくある仮眠室のリクライナーといった話ではありません。
温浴施設の中でも一番も強力な睡眠導入剤となるのが、サウナと水風呂です。
またその話かと思うかも知れませんが、これはまぎれもない事実なのです。サウナと水風呂に入ると、熱さと冷たさで強烈なストレスを受け一時的にシャキッと目が覚めたような緊張状態になりますが、その後の休憩タイムには温冷差ストレスの反動で交換神経のスイッチが強制的にOFFになり、超弛緩モードで眠くなるというイメージです。
肩こりの時に無意識にする「伸び」の動作は、いったん身体に思い切り力を入れてそのあとストンと脱力することでコリをほぐそうとしますが、これも緊張の反動を使った弛緩です。
現代の日本人は昼夜あふれる情報にさらされ、ストレスを受け続けています。結果、常に緊張状態となり、うまく肩の力を抜いてリラックスすること(交感神経優位から副交感神経優位への切り替え)ができなくなっているのですが、それを一気に解消する方法がサウナと水風呂なのです。
さらにマッサージ、照明、アロマ、空調、音、寝具、飲食など、睡眠に関わる要素がたくさんあります。これらを上手に組み合わせれば、「悟空のきもち」を超える快眠サポートをすることも不可能ではないと思うのですが、まだこの需要に本気でアプローチしようと考えている温浴施設は少ないようです。
◆水分補給
晴天で暑くなる日が多くなってきました。もうすぐ夏、また熱中症対策が叫ばれる季節です。
昔は日射病とか脱水症と言われた症状も、最近は熱中症と呼ぶようです。熱中症は倒れたり、時には亡くなってしまうような事故も起きるので、テレビ等でさかんに警告するようになりました。
昔は炎天下で長時間水分補給をしなかった場合に起こるという認識でおりましたが、最近は普通に家にいてもなることがあると言われているのは、高齢者が増えているからなのか、温度変化に弱くなったのか…?
ところで、この水分補給に関して、ずっと気になっていることがあります。それはサウナの前後の水分補給についてです。
サウナでは大量に汗をかきます。しっかり発汗すれば1kg以上体重が減るので、1L以上の水分を失っていることになります。ですので、「サウナ利用の前後にはしっかり水分を補給しましょう」というのはほぼ常識といっても良いと思います。
ところが、かつて私にサウナを教えてくれた師匠と言ってもよい人が「本当は水を飲まない方がいいんです。」という話をしてくれたことがあります。
どういうことかと言いますと、サウナの前後で血液の濃度を測定すると、サウナで汗をかいたあとは当然濃度が上がります。血液ドロドロの状態は血栓等のリスクも高まりますので、水分を補給し血液の濃度を下げる必要があるわけです。
もし、そこで水を飲まないとどうなるのでしょうか。
実はあわてて水を飲まなくても、血液の濃度は時間とともに適正に戻るのです。
それは身体の細胞に含まれる水分が血液側に移動して濃度調整する機能が備わっているから。その通常起きない水分の移動をうながすことこそが、サウナの本当の効果であり、それによって滞っている水分代謝機能が回復するとのことなのです。
もちろん、これは前に書いた血栓等のリスクを一時的に高めることにもつながりますので、誰にでもお勧めできる方法ではないと思います。私自身、これまでもこの話をうかつに喋ったり書いたりすることは避けてきました。ここは非公開メルマガなので書いていますが。(笑)
しかし、常識だと思っていることを疑ってみることも大切です。昔は部活動の時など「スポーツしている時にあまり水を飲むとバテる」といって水を我慢させたりすることもありましたが、現代ではこれも間違った危険な行為だと言われ、運動中はスポーツドリンクなどを頻繁に飲むようになっています。
しかし、汗をかいた時に少々水分補給を我慢しても、全員が簡単に倒れるわけではなかったのは事実です。
もしかすると、近年頻繁な水分補給が常識になったことと、熱中症が増えていることは無関係ではないのかも知れません。
◆体温と体調
体温を上げると体調が良くなると言われています。体温が上がると身体がリラックスし血管が拡張、血行が促進されることによって疲労回復につながるという説。
体温が上がると体内でヒートショックプロテインが生成され、免疫力アップや細胞の修復、運動能力向上などの効果があるという説。
体温が上がると代謝が良くなり太りにくくなるという説。
ガン細胞は35度くらいの低体温で増殖し、39.3度を越えると消滅するという説。マラリアにかかって高熱を出したらガンが治ったとか。
逆に冷え性や低体温だと疲れやすい、病気になりやすい、太りやすい等で良くないと言われています。
理屈はともかく、体温が高めだと体調が良く、低めだと体調が悪いというのは体感的にはその通りだと思います。
ただ、上記のようなことがどこまで医学的に解明されているかというとまだまだ分からないことが多いようです。ヒートショックプロテインとは体内のどこで、どのような仕組みでできるのか。なぜ低体温だと病気になりやすいのか。39.3度でがん細胞が消滅するならなぜ人類はガンをまだ克服できないのか…。
数多くの疑問があり、それに明快に答えるような研究はまだ途上にあると言えそうです。
ところで、以前から何度か書いている乳酸菌の培養の話ですが、やっていてひとつ気づいたことがあります。
玄米のとぎ汁と糖と塩をペットボトルに入れて何日か待つと乳酸菌液ができるということでやってみたのですが、一日くらい放置してからペットボトルのふたを開けると、炭酸水のようにシュワーッと泡が出て、甘酸っぱい匂いがします。
これが、常温で待つよりも風呂の湯につけておいた方が、断然早く強く発酵するようです。調べてみると乳酸菌にはいろいろな種類があって、発酵に適した温度もそれぞれ異なるようですが、ヨーグルト等に使われる乳酸菌で言うと37〜45度が適温とか。(カスピ海とかケフィアヨーグルトはもっと低め)
ここであれっ?と気づきました。乳酸菌の培養温度って、人間の体温(高め)と同じくらいではないですか。
ということは、もしかして腸内の善玉菌が元気に活躍するためには、37度以上の温度が必要ってことではないですか?
最近腸内フローラ(腸内細菌叢)の環境(善玉菌vs日和見菌vs悪玉菌のバランス)改善がさかんに言われるようになっています。善玉菌そのものやオリゴ糖、食物繊維を補給することも大切かもしれませんが、培養温度が低いとうまく善玉菌が増えないというのは重要な視点なのではないでしょうか。
温泉やサウナに入る時には、お肌にいいとか、汗をかこうとか、疲れをとりたいとか人によって様々なことを意識しているわけですが、「腸の温度を上げて善玉菌を増やそう!」」と意識してみることで、また新しい入浴法が生まれるのかも知れません。
◆入浴してはいけない場合
以前、風呂に入って体調を悪化させたという経験があります。
空手の稽古で足に下段蹴りをもらって打撲の状態だったのですが、それほど痛くなかったのでいつもの調子で熱い風呂に入ってしまったのです。すると、入浴中に負傷箇所が見る見る腫れてきました。血管が損傷していたところで血行が良くなり、内出血を悪化させてしまったようです。
この時はよくある打撲傷のはずが治るまでにずいぶん長くかかってしまい、内出血の恐れがある時の温浴は禁物であるということを身をもって学習しました。
ところで、基本的に商売とは何かの商品やサービスをオススメして買ってもらうことで成り立っています。
だから、世の中には常にオススメ情報があふれています。「素晴らしい商品ですよ、あなたに最適ですよ、お得ですよ」と。
消費者はちょっとうんざりしているのかも知れません。
逆に「オススメできません、買ってはいけません!」というメッセージはあまり見かけません。あっても隅っこの方に見逃してしまうような小さな文字で書いてあるだけだったり。
これでは店とお客様の間に本当の信頼関係など生まれるはずがありません。健康に良いとか癒されるとか言っているけど、結局お店が儲けたいだけでしょ?と思われても仕方ないのではないでしょうか。
そう思って温浴の禁忌症についてネットで検索してみたところ、残念ながら温浴全般についてはまだしっかりまとまった情報がないようです。
天然温泉の適応症と禁忌症は以前からありますので、それをベースに、いろいろなものを組み合わせて「入浴してはいけない場合一覧」を作ってみました。
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【温浴(浴槽、シャワー、サウナ、岩盤浴)の禁忌症や注意が必要な体調について】
病気療養中や健康状態に不安がある方は、入浴について医師の助言を受けてください。
特に以下に該当する方は、本日のご入浴を見合わせていただきますようお願い申し上げます。
・病気の活動期(特に熱のあるとき)
・活動性の結核
・進行した悪性腫瘍又は高度の貧血など身体衰弱の著しい場合
・少し動くと息苦しくなるような重い心臓又は肺の病気、むくみのあるような重い腎臓の病気
・消化管出血、目に見える出血があるとき
・激しい転倒や打撲をした当日
・慢性の病気の急性増悪期
・急性炎症疾患
・高度の高血圧症
・高度の動脈硬化症
・その他,安静を必要とする疾患
・過労、極度の睡眠不足などの身体状況のとき
・食事の直後、酒酔い状態のとき
・過去5年以内において、病気(病気の治療に伴う症状も含みます。)を原因として、又は原因は明らかでないが、意識を失ったことがある
・過去5年以内において、病気を原因として、身体の全部又は一部が、一時的に思い通りに動かせなくなったことがある
・過去5年以内において、十分な睡眠をとっているにもかかわらず、日中、活動をしている最中に眠り込んでしまった回数が週3回以上となったことがある
・過去1年以内において、次のいずれかに該当したことがある
(1)飲酒を繰り返し、絶えず体にアルコールが入っている状態を3日以上続けたことが3回以上ある
(2)病気治療のため、医師から飲酒をやめるよう助言を受けているにもかかわらず、飲酒をしたことが3回以上ある
・病気を理由として、医師から運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている
※禁忌症とは、1回の入浴でも身体に悪い影響をきたす可能性がある病気・病態のことです。なお、禁忌症にあたる場合でも、専門的知識を有する医師の指導のもとで温浴療養を行うことはこの限りではありません。
────────
このようなメッセージを館内やホームページに表示することは、直接の集客や売上アップには結び付きません。
しかし、お客様と本当の信頼関係を築いていく上では極めて大切なことだと思っています。
◆アンチエイジングと温浴
人によって、見た目の年齢と実際の年齢に大きなギャップがあります。実年齢より老けて見える人もいれば、見た目が若くてびっくりすることも。
経験上、温浴業界には実年齢よりもずっと若くて元気な人が少なくありません。聞くとやはり頻繁に温泉やサウナに入浴している人が多いのです。
先日お会いした91歳のおばあちゃんは、まだ現役で温浴業界での仕事をされていました。最近は高血圧でサウナは控えているとのことでしたが。
温浴がどのようにアンチエイジングに作用するのかということは、まだ詳しくは実証されていません。しかし、温浴には
・体温を上げる
・血行促進
・血管の収縮と拡張
・自律神経の調整
・有害物質の排毒
・ヒートショックプロテインの増加
といった作用があることは分かっています。日々それらを積み重ねることで温浴習慣のない人とだんだん差がついてくるということがあるのでしょう。
いま日本は世界一の高齢化社会になっています。65歳以上の高齢者が25%を越え、100歳以上の長寿の方が6.5万人。医療費は40兆円を越えてさらに膨らもうとしています。
これから消費構造や産業構造も含め、人類がかつて経験したことのない大きな変化を目の当たりにすることになるでしょう。
温浴事業はこれからどのような方向へ舵を切るべきなのか。先がまったく見えない産業も多い中で、こんなに長期トレンドに乗りやすい業界もなかなかないと思っています。
◆露天で日光浴
どのようにすると身体に良いのか?という健康増進や医療に関する考え方については、国や地域、時代によって大きな違いがあります。
ヨーロッパではサウナはもちろん、塩分を含んだ空気の吸引も医療行為となっていて、健康保険が使える国があったり。
子供が風邪をひくと氷水の浴槽にぶちこむ国があったり。
人体と生命は本当に奥が深く、何が真実なのかは半端な知識で考えてもわかることではありません。先入観を持たずに自分で確かめるしかないと思っています。
日光浴についても、日本では美白ブームもあって紫外線から肌のダメージから守るために日光を避ける考え方が強くなっていますが、欧米では日光浴は身体に良いので積極的にするという考え方の方が多いようです。
ドイツの温浴施設に行くと、露天というか外気浴ゾーンにデッキチェアがズラリと並び、皆さん日光浴にいそしんでします。
現代医学的には、紫外線は肌にはダメージを与えるものの、ビタミンDなどを作り出す働きもあるため、ほどほどに浴びるべし、という感じでしょうか。
夏は薄着ですし海やプールもありますので日光不足になる心配はあまりないと思いますが、冬は寒いので厚着となり、アウトドアで太陽の光を浴びる機会は極端に減ってしまいます。
その為かニュースサイトには冬場の日光浴の効果を紹介するページがしばしば登場します。
そこで露天の外気浴。いつもは自律神経をととのえ、リラックスするための時間として外気冷却をオススメしていますが、全身に日光を浴びる機会としてもアピールできると思います。
「日光のビタミンが介護を遠ざける」
http://mainichi.jp/premier/health/articles/20150626/med/00m/010/013000c
「日光浴インフル遠ざける効果」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161225-00000010-mai-soci
写真は、ドイツ温浴施設の外気浴ゾーンです。こんなにデッキチェアが並んだ光景を日本では見ることができません。
◆プロが教える入浴法
風呂に入りながら、自分の身体を使っていろいろと人体実験を行っています。そこで確認、ルール化した様々な入浴に関するノウハウがありますので、これも今後お伝えしていこうと思っています。
今回は「タオルピーリング」です。
風呂に入ってしばらくすると、全身の皮膚がふやけてきます。手のひらや指を見るとわかりますが、角質が水を吸い込んで柔らかくなった状態です。
この状態になったら、普通のフェイスタオルに石鹸を塗り、顔にも石鹸をつけます。そしてあまり力を入れないようにしながら顔にまんべんなく石鹸を塗り広げ、泡立てます。特に額や小鼻の脇など、毛穴が目立つ箇所は入念に洗いましょう。
そしてシャワーで洗い流します。これで終わりです。
手で洗う普通の洗顔と何が違うかというと、タオルの繊維が表面の角質をこすり取るのと、毛穴の中まで入り込んで洗ってくれるということです。
この洗顔法をやりますと、風呂上りに顔がピカピカといつもより光っていることに気づきます。エステサロンに行くと高い料金を払って受けるピーリングですが、お風呂で手軽に似たような効果が得られるのです。
肌を守る角質層がひと皮分薄くなっていますので、保湿はしっかりやった方がいいと思います。また、お肌が弱い人はあまり頻繁にこの洗顔をするのはお勧めできません。
タオルよりも、メガネ拭きなどの繊維が細かい布を使った方が、さらに効果があるという情報もあります。
http://matome.naver.jp/odai/2138924110325426201
こんな情報も、浴場スタッフがお客様に教えてあげられるようになると良いのではないかと考えています。
◆加温と冷却
『風呂上がりには冷水を浴びて冷却することで汗が引き、湯冷めしない』と言われています。
確かにその通りだと思い、いつも実践しておりましたが、そうではない時もあるということを体験したのでお伝えしておきたいと思います。
最近はボクシングジムに通っており、出張のない日は仕事帰りに事務所の近くのジムで1〜2時間練習をしています。
ボクシングは格闘技という性質上、手を抜いてダラダラ練習するということはしにくく、瞬発力と持久力を同時に要求される激しいスポーツです。1ラウンド3分間動いて、30秒休むということを10数ラウンド繰り返します。
練習中は体温が上がった状態がずっと続き、サウナーも驚くようなとんでもない量の汗をかきます。
そして練習後にはシャワーを浴びるのですが、冷却して汗を止めるために、いつも1分間以上は全身に冷水シャワーを浴びていました。それでも身体の芯まで熱くなっているのか、汗はぜんぜん止まりません。いつも練習後30分くらいは汗をかき続ける感じでした。
ある時トレーナーと会話していたら、「水浴びよりもお湯のシャワーを浴びてから上がった方が汗は止まりやすいよ」と言われて、そんな筈はないと思ったのですがモノは試しと実験してみました。
いつもはいったんお湯シャワーを浴びて汗を流してから冷水シャワーで冷やすのですが、それをせずにお湯シャワーだけで済ませてみたのです。
すると、不思議なことに本当に汗がいつもより早くひいたのです。
いったいどういうことなのかと考えてみると、おそらく「湯冷め」現象なのだろうという結論に至りました。
冷水を浴びると血管と汗腺が引き締まり、いったん汗が止まりますが、それによって体内の熱が放散されなくなるため、体温が上がり過ぎている時は結局また汗をかきはじめる。それに比べるとお湯を浴びた後は血流が促進され汗腺も開いているため体温が効果的に放散され、早く汗が止まる。そういうことのようです。
単純に考えると「熱いから冷やす」と思うのが普通なのですが、時と場合によっては温めた方が良いこともあるということを学びました。
同時に、冬場などに温泉やサウナで温めた身体を冷やさないためには、やはり風呂上りに冷水で引き締めることが効果的であるということも確認できました。
身体を温める、冷やすということは単純ではありません。
筋肉疲労、精神疲労、風邪で熱っぽい時、怪我がある時、おなかの調子が悪い時、眠れない時…体調や目的に合わせてどのように温浴を利用するべきなのか、お客様の良きアドバイザーとなるためにも勉強と実体験が大切です。
◆湯シャン
浴室でどのようなアメニティを提供するのかは、温浴施設のグレード戦略やターゲット戦略、そして差別化戦略と結びつく重要事項です。
しかし、実は私自身はシャンプー類を使わなくなって何年も経っています。
以前からシャンプーやリンスに含まれる界面活性剤やシリコンなどの化学物質が皮膚を通じて吸収されると有害である、いわゆる経皮毒の話は耳にしていました。
さらに、「髪はお湯で洗えば汚れは落ちるし、脂っぽさもとれる。これを湯シャンという。」という話を聞き、面白いと思って自ら試してみたのです。
初めのうちは、リンス効果というか、洗い上がりの滑らかさがないので、どうかな?とも思ったのですが、続けているうちに気にならなくなりました。
短髪のせいもあるのでしょうが、櫛通りや整髪上も問題なし。あとは匂いですが、これもこの数年間で頭が臭いと苦情を言われたことはありません。
家計的にも助かっています。
実際にやってみて、シャンプーやリンスは自分には不要であったと実感しています。
髪の長い人や髪質が気になる人もいるでしょうから、誰にとっても不要であるとは言い切れませんが、少なくともすべての人がシャンプーやリンスを毎日のように使用するのが常識になっているのは奇妙なことなのかもしれません。
考えてみれば、100年前にはシャンプー・リンスなど誰も使っていなかったわけですし、100年後も使われなくなっているのかも知れません。
現代の日本人は化粧品メーカーの戦略にすだかり嵌められているわけですが、お風呂のプロとして、これから温浴業界はこのテーマに対してどんな答えを出していくのでしょうか。
◆リン酢
湯シャンに続いて、化粧品メーカーに怒られそうな話を書きます。
先日、温浴業界で活躍中のある人物が弊社の事務所にいらっしゃいました。その人は超短髪で、一部は毛が生えていないほどの髪型をしているのですが、その人が「炭酸シャワーには感激しました!」と言うのです。
そんな髪型で何で?と思ったのですが、話を聞くと炭酸シャワーを設置している上星川満天の湯で使ってみて、帰りがけにふと頭をさわったらあまりにも普段と手触りが違うのに驚いた、ということでした。
それは大袈裟な話ではなく私も同感なのですが、その理由はpHにあります。二酸化炭素が溶け込んだ炭酸シャワー水はpHが5.5くらいの弱酸性になっていて、水に含まれるカルシウム分を溶かす作用があるのです。(炭酸シャワーはpH以外に、炭酸による血行促進などの効果もあります。)
特別にダメージを受けている髪は別として、普通にしていても髪がゴワゴワ、濡らすとキシキシ感じるのはカルシウムが原因になっていることが多く、これが除去されると濡らしても滑らか、乾かすとサラサラつやつやな髪になるのです。
これは、炭酸だけでなく、クエン酸やレモン汁、お酢でリンスをしても同じような作用があります。お酢の匂いが気になる人はリンゴ酢などを使っても良いのですが、いずれも酸性の成分がカルシウムの付着を防ぎます。
1kg600円程度で売られている食品用クエン酸を10倍の水に溶かして原液をつくり、それをボトルに入れて洗面器に溜めた水に2〜3プッシュ、といった使い方ですから、お金はほとんどかかりません。
余計なコーティングなどをしなくても、普通の人はこれで髪が良い状態になるのです。シャンプーと同じことで、すべての人が毎日リンスやコンディショナーを使う必要などなかったのです。
最近は、頭皮や毛根へのダメージなどからノンシリコン系のアメニティが注目されるようになっています。
食品に有機やオーガニックを求める人がいるのと同じで、アメニティもこれまで常識だと思っていたことが徐々に変化してくる兆しだと思います。
様々な情報があふれ、人によって多様な考え方を持つ時代です。
高級なアメニティを設置して差別化を図るという戦略もありますが、アメニティコストを負担し続けているのにそのアメニティがお客様の健康にダメージを与えている可能性があるとしたら…思い切って湯シャンやリン酢といった情報も提供しつつ、お客様に多様な選択肢を提示してみるべき時期なのかも知れません。
◆知らなければ始まらない
今、実に爽快な気分でこのメルマガを書いています。
なぜかというと、温浴のおかげなのです。
昨夜はちょっと調子にのって杯が進んでしまい、二日酔いというほどではないのですが朝起きても眠気が残り、身体もだるいという状態でした。
こんな時は温冷交代浴だ!ということで自宅の風呂を熱めに沸かし、じっくり温まってから冷水シャワー、少し休んでまた湯で温めて冷水シャワー、これを3回繰り返してからベランダで外気浴。
秋になってシャワーの水温も外気温もかなり下がってきましたので、温度差もそれなりにあってさらに気持ち良さを感じる季節です。
温浴施設ほど快適な環境ではありませんが、一応自宅でも温浴を楽しむことはできなくはないのです。
温冷交代浴をすると、血行がものすごく良くなって眠気もだるさも一気に吹き飛びます。普通に1回温まるだけの入浴やシャワーだけでは得られない絶大なリフレッシュ効果があります。
しかし、このことを知らなければ自宅であろうが設備が揃った温浴施設であろうが、効果を得ることはできません。
温冷交代浴という言葉自体もまだあまり知られていませんし、その効果を体感したことがある人はもっと少ないのでしょう。
このメルマガ読者の皆さまですら、実感にまでは至っていない人もいるかも知れません。
しかし一度理解してしまえば、何かにつけて体調を整えたり気分転換するために温冷交代浴を活用するようになります。
自宅でもできないことはないですが、より快適に温冷交代浴が楽しめる温浴施設が恋しくなります。
泉質や借景はそれぞれですが、温冷交代浴ができる環境はほとんどの温浴施設に備わっています。
ここが、温浴マーケットを拡大していく王道であろうと思っています。
イベントやキャンペーン、浴場以外の魅力で集客することもいいのですが、長い目で見たときには、やはり温浴そのもののファンを増やしていくことが大切です。
そのためには温冷交代浴の素晴らしさを知識として、そして実体験としてどうやって分かってもらうのか。ここにもっと知恵を絞る必要がありそうです。
◆冷暖自知
昨日入ったサウナの中でテレビを視ていたら、「冷暖自知」という言葉が出てきました。
この言葉は「水が暖かいか冷たいかは、自分が直に飲んだり手を入れたりすることによってはじめて分かるように、真の悟りも人から聞いて分かるものではなく自分で実践してはじめて会得するものである」という意味の仏教用語だそうです。
百聞は一見にしかず、とも似た感じですが、サウナと水風呂の素晴らしさもなかなか言葉だけでは理解してもらうのは難しいな、と思いました。
昨日は雨の中の屋外イベントで身体が冷えたのでサウナに入るのを楽しみにしていたのですが、ふと思いついて「水通し」をしてみました。
水通しとは、通常サウナで身体をしっかり温めてから入る水風呂に、先に入ってしまうことです。
一部のサウナヘビーユーザーの間では知られていますが、普通は身体が温まっていないのに冷たい水風呂に入ることは考えられません。
昨日は身体が冷えていたので、逆にいつもと違う入り方をしてみようと思い立ちました。少々勇気がいりましたが、昔水泳部時代にやった寒中水泳のことを思えばできないはずはないということで、おそるおそる水風呂に身体を沈めてみると、やはり冷たい。ほんの数秒間しか入っていることはできませんでした。
その後すぐにサウナに入ったのですが、ここで気づいたのがサウナの熱さがとても心地良く感じるということです。普段はそう感じてもすぐに熱くなってきて、あとは我慢大会となるわけですが、昨日は入って5分くらいは熱さが心地良い状態が続き、サウナ室にいる時間は普段よりも長くなりました。
サウナ入浴時間が長いと、結果的に発汗量も多くなりますし、身体の芯まで温まることになり、その後の水風呂と外気浴は超快適です。
続けて2回、3回とサウナ入浴を繰り返したのですが、毎回外気浴の後にまたサウナ室に入る前にいったん水風呂で冷やすようになりました。
水通しとは、サウナの加温をよりディープに楽しむための先人たちの工夫だったようです。こうして、水通しの効果を体感することができたところだったので、「冷暖自知」という言葉には深くうなずいたのでした。
温浴と科学
◆ホルミシス効果
東京の巣鴨に、究極の癒しルーム「ホルミス健康館」というところがあります。ビルに入居している小さな施設ですが、ご相談の電話をいただき、お話をうかがうともう巣鴨で12年間も営業を続けていて、今後温浴施設との接点を模索中とのことでした。
銭湯に代わる小型温浴施設成立のヒントが見つかるかも、と思って現地で体験してきたのですが、名前から想像する通り低線量の放射線によって人体の健康改善を図るホルミシス効果をうたったものでした。
ホルミシス効果といえば玉川温泉や三朝温泉などの難病治療で知られる一方、線量の高低に関わらず放射線はすべて人体に有害であるという説もあり、科学者の間で議論が続いています。
福島の原発事故以来、放射線と言うだけで怖いイメージが強くなってしまいましたので、温浴事業者としては導入に慎重にならざるを得ない状況です。
こういう時、アクトパスとしてはメーカーに対して「温浴施設への導入実験」をおすすめしています。どんな理屈も事実には勝てません。事実として良い結果を出せば、それが新たな判断材料になるのです。
実験にご興味のある方は弊社までご一報ください。
◆水素ブーム
いま、水素水がブームとなりつつあります。
思えば今から15年くらい前、故舩井幸雄が講演で「長寿で知られるパキスタンの村では、酸化還元電位の低い水を常飲していた」といったことを話しており、それに興奮して高価なORPメーター(酸化還元電位の測定器)を購入したこともありました。
当時はまだ時代が早すぎたのかも知れません。
その後温浴施設でも業務用の有料水素水サーバーが徐々に普及しはじめ、今ではよく見かける定番アイテムのひとつとなりました。
この水素ブーム、一過性のものではないだろうと思います。盛り上がるまでに時間がかかっていることからも、すぐに消えるようなものではないでしょう。またその人気の背景には塩素入り水道水への不信感もあると思います。
とすれば、次は水素風呂か?ということになるのですが、実は弊社でも水素を溶かしこんだ浴槽水については注目していて、その技術を持った会社とも話をしています。
しかし、水素が可燃性の気体であること、水素の還元作用は塩素の酸化作用と真逆であり双方の特性を維持することが難しいなどがあって、業務用水素風呂の開発は人工炭酸性よりもずっとハードルが高いと感じています。すでに一部市場では水素風呂装置が出回っているようですが、リスクや効果に対する見極めは慎重にしなければならないと考えております。
◆塩素問題
水素風呂装置の是非はともかくとして、塩素の弊害を気にする人は年々増えていると思います。都市部では水道水をそのまま飲む人はもはや少数派でしょう。
塩素問題への意識の高まりに対して、温浴施設としても以前と同じ認識ではいられない時代になっているのです。
塩素問題とその対策について、以前書いたブログ記事へのリンクを貼っておきます。
・塩素とたたかう(1)
http://blog.aqutpas.com/2015/01/post-c911.html
・塩素とたたかう(2)
http://blog.aqutpas.com/2015/01/post-9ca2.html
◆水素水バッシング
数日前からネットで「水素水はインチキ、偽科学」といった類の記事をよく見かけるようになりました。
昔から、健康に関することはブームとバッシングの繰り返しです。
現代の生活習慣や医療に危機感を持ち、新しい健康法や医療を探し求める人がいて、それに乗じて商売しようとする人たちがいる。一方で本当に皆が安価で健康になられては面白くない人たちもいる。それらのせめぎ合いです。
我々温浴ビジネスも健康に関する情報やサービスを提供する側ですから、情報に安易に振り回されることなく、客観的事実、自身で確かめた実感を大切にするというスタンスが大切だと思います。
もっともらしい理屈や、権威ある先生の意見であってもそれが真実かどうかは分かりません。ディベートを見れば分かりますが、理屈はひとつの方向を決めて組み立てれば、それぞれもっともらしく聞こえるものです。
所詮人間のつくった理屈はその程度。
水で言えば、飲んでみて美味しいのか、本当に体調や肌の状態が良くなるのかといったことを確かめることが重要で、理屈は後付けでしかありません。
そういうスタンスで確信を持った情報やサービスを提供することが、温浴ビジネスに携わるものの責務だと思います。
◆菌と向き合う
温浴ビジネス関係者にとって、「菌」と聞くとどうしてもレジオネラ菌や大腸菌などのネガティブなイメージが先行します。
実際、温浴施設では日々の塩素殺菌や配管洗浄などで苦労させられることも少なくありません。
しかし、今日はこれまでで一番前向きに「菌」と向き合う温浴施設経営者の方とお話しをしました。
このメルマガにもしばしば登場する新潟県松之山温泉のナステビュウ湯の山、高橋社長です。
話の発端はナステビュウ湯の山自家製のヨーグルトやぬかみそ漬けの話題だったのですが、途中から菌に関する深い談義に発展しました。
要約すると、
・人間の身体は腸内細菌や皮膚にも常在菌があってバランスが保たれている。
・乳酸菌や酵母菌などの善玉菌が活性化して悪玉菌を抑制している状態が正常であり、バランスが崩れて悪玉菌がのさばると不健康に。人間は生命体としても人格としても菌と共同体である。
・何でも殺菌消毒して清潔にすることが良いという考え方は、もしかすると間違っているのかも。
・食生活において発酵が保存や調理の技術として発達したように、お風呂にも善玉菌を上手に活用する技術がいずれ登場するのかも知れない。
…というようなことです。
今は公衆浴場法によって塩素濃度管理や配管洗浄が義務付けられており、菌のバランスや善玉菌などという概念が入り込む余地はまったくありませんが、塩素自体に明らかな危険性や弊害があること、そして塩素を使用していても現実にはレジオネラ菌対策として万全ではないという現実を考えると、近い将来とは言いませんがいずれ安全衛生に対する概念が根底から変わる時がくるのかも知れません。
まずは自宅の風呂で実験をしてみようか、と思っています。
◆乳酸菌風呂その後
以前菌の話を書きましたが、先日自宅で玄米のとぎ汁に砂糖と塩を入れて乳酸菌を培養し、その液を風呂に入れるとどうなるのか?を実験しています。
ネットで調べると美肌効果や翌日の風呂掃除が楽になるなどの効果があると言われています。
乳酸菌培養液を入れたら湯を張った翌日のニオイやぬめりに何か良い変化があるかも?と思っているのですが、今のところまだ期待するような結果は得られていません。
しかし、実験を通じて今まで知らなかった様々なことを知りました。米のとぎ汁のちょっとした違い、常温と加温などの条件によって培養液の臭いや発泡の状態が大きく変わるのです。
今後も入れる量やタイミングなどをいろいろ試してみたいと思っています。そのうち大発見があるかも知れませんよ。
◆賛否両論ありますが
今年の春から夏にかけて、激しく水素水バッシングが起きていることを何度か書きました。
水素水商品の広告に登場する女優の藤原紀香さんまで叩かれ、一部マスコミでは詐欺やオカルトビジネス扱いするところもあったのですが、温浴施設では館内で水素水を販売したり有料水素水サーバーを設置しているところも少なくないので、どうなることかと気にしていました。
最近はバッシング記事もあまり見かけなくなっていたのですが、逆に水素水をおススメするような情報もあるのを見つけました。
・水素風呂入浴で、血中抗酸化力が増強 県立広島大・三羽名誉教授ら (5/2)
http://www.this.ne.jp/news/detail.php?nid=689
・【水素】アデランスなど大手企業相次ぎ参入(6/7)
http://www.this.ne.jp/news/detail.php?nid=704
いずれにしても健康産業に携わる我々は目先の情報だけに振り回されることなく、自ら本物を見分ける目を養うことが大切です。
良い効果を体感できること、再現性があること、誰にでも実感できること、単純でわかりやすいこと、副作用がないこと、不当に高価でないこと…そういった条件をクリアできる健康アイテムを選りすぐって提供していくことが大切だと思います。
ちなみに、私自身は水素水に関して基本的に肯定派です。酸化還元電位の低い水を摂ることで抗酸化作用が期待できるはずだと思っています。ただし、どのような状態の水素水をどのように摂取すると期待する効果が得られるのかということに関しては、まだまだ研究の途上にあると思います。
ですので、実際の商品レベルでは本物に近いものからインチキに近いものまで玉石混交の状況だと思います。お客様に提供するなら慎重に確かめて効果に確信が持ててからにするのが良いと思っています。
温浴施設経営のヒント
温浴コンサルタントの気づき
◆あらためて、長所進展法
昨日、私の前の職場である船井総研のOBの集まりがあり、久しぶりに丸の内のオフィスまで行ってきました。
OBと言っても重鎮がズラリで、私は元上司や大先輩たちに囲まれて新入社員に戻ったような気分だったのですが。
その場で舩井幸雄を偲ぶさまざまな話が出ていましたが、中でも『ツキの原理』や『長所進展法』についてはそれぞれの人がその後の人生の中で共感することが多かったようで、何度も話題になっていました。
そして今日ネットのニュースを見ていたら、「働かないアリも集団維持に必要 北大研究者が興味深い研究成果」という記事があり、またまた同じようなことが書かれていたのでご紹介したいと思います。
http://www.huffingtonpost.jp/science-portal/ant-skive_b_9287342.html?ncid=fcbklnkjphpmg00000001
『欠点や短所は触らない方が良い。是正しようとしてもうまくいかない。』
この舩井幸雄の言葉は、ちょっと感覚的には普通と逆のことを言っているように感じていました。
例えば売り場の品揃えの中で売れない商品があればどうにかして売れるようにしようと思うのが普通ですし、どうにもならなければ在庫処分を考えます。同様に組織の中で生産性の低い者がいれば、どうにかして働かせようとしたり、どうしようもなければ辞めさせようと考えるのが一般的でしょう。
ところがこの北大のアリの実験では、仕事に対する反応の仕方にバラツキがあった方が、組織活動が長期的に持続することがはっきり分かったのです。
売上を上げたり生産性をアップするためには、欠点や短所に焦点を当て、そこを改善したり排除するのではなく長所をもっと伸ばすこと。売れる商品をもっと売り、生産性の高い人やチームを積極的にバックアップする。
これは商品や組織運営に限らず、あらゆる事柄にあてはめて考えられる真理のようです。
◆リスクとリターン
今日は某メーカーさんと打ち合わせしていて、「温浴事業会社はリスクを嫌う」という話になりました。
「初期投資は負担ゼロ、売上の何割かが手数料として施設に支払われる」といったノーリスクの提案を受けることに慣れていて、ハイリスクハイリターンな話は受け入れられにくいという意味です。
その時私は「温浴施設は最初に億単位の超ハイリスクな投資をして集客装置をつくっているので、後は安定収益を好む傾向がありますね。」と解説しました。
自分で解説していて「本当にそれでいいのだろうか?」という思いがよぎりました。
先日、とても繁盛している某スーパー銭湯の幹部の人とお話ししている時に、その人が「弊社の追加投資の基準は1年回収」と言っておられました。
投資回収1年というのは、かけた投資が1年後には丸ごと戻ってきて、2年後には倍になっているということです。利回りでいえば100%です。日銀がゼロ金利と言っているこの時代に利回り100%が約束されたビジネスがどこにあるというのでしょうか?
1年回収というのはちょっと極端な話ですが、ビジネスでリターン(収益)を望むなら、リスクはつきものです。そのリスクを知恵と努力で回避することがビジネスであって、ただリスクを避けるばかりではせっかくのビジネスチャンスも逃してしまうのではないでしょうか。
施設自体への億単位の初期投資も、順調に投資回収が進んでいるならそういう考え方もあるでしょうが、そうでもなかったとしたらやはり次のビジネスチャンスをつかんでいくしかありません。
仮に施設全体の投資回収年度が10年目くらいになるとしたら、利回り10%以上(投資回収10年以内)のビジネスであれば全体の収益性の改善に貢献するわけで、充分に意味があると思います。
収益力を高めるためには様々な情報にアンテナを張って、チャンスと見たら果敢にチャレンジしてみる。あとは知恵と努力で収益の最大化とリスクの最小化に努力する。そういう姿勢が温浴業界にもっと必要だと思っています。
◆温浴事業が終わる時
今日、久しぶりに千葉県野田市のグランローザ潮の湯に行きました。
2011年の再生リニューアルから2年ほど、現場運営に深く携わった施設ですが、残念ながら5月31日で閉館となる予定です。
今日のような平日の昼間でもお客さんはしっかり入っていて、館内は清掃が行き届き、ロウリュサービスの時は大型のサウナ室が満員になるほど、まだまだ元気そうに見える施設ですが、実際には建物や設備の老朽化が進んでトラブルが続いており、大きなトラブルをきっかけについに事業継続を断念したということでした。
源泉や建物には長い寿命がありますが、設備の耐用年数はそこまで長くないので、適切にメンテナンスや交換をしないと大きな事故につながりかねません。
そういった事業リスクに対する理解や覚悟がないと温浴事業を長く続けることはできないのです。
今まで、廃業となった施設を数多く見てきましたが、中には新規開業から一年程度で閉館となり、そのまま廃墟になっているケースもありました。
温浴施設を他の用途に変更することは容易ではありません。はじめる以上は不退転の覚悟が必要なのです。
別の会社の話ですが、以前ある金融機関の支店長が「この会社を生かすのか殺すのか」と言っていたのが忘れられないのですが、温浴施設は価値ある存在です。事業者や金融機関が生かそうと思う限りは、必ず事業存続の方法があると思っています。
その強い思いで支える人がいなくなったとき、事業は終わりの時を迎えてしまうのです。
◆震災から考えたこと
東日本大震災は、いろいろなことを考えさせられるキッカケとなりました。
当時、温浴業界も本当に被災して営業ができなくなってしまった施設から、自粛ムードの影響で業績が悪化したところまで、多くが何らかのダメージを受けました。
弊社のコンサルティングや物販事業も急激に仕事が減り、一時は会社が継続できなくなるかと心細くなったものです。
その時考えたことのひとつが「温浴とは不要不急の、世の中から消えても誰も困らない存在なのか?」ということです。
日常が崩壊し、生きるか死ぬかの瀬戸際では、贅沢や享楽が存在する余地はありません。そのような存在でしかないとしたら、非常時には温浴事業は成り立たないし、そこに従事する人も役割を失うのです。
そして私が考え続けた結論は、「温浴とは決して不要不急のビジネスでも贅沢ビジネスでもなく、命に関わるサービスを提供している」ということでした。
日常的には健康を維持し、明日への活力を養う場であり、いざという時は暖と生活衛生を提供するライフラインのひとつなのです。被災地でも、温浴施設が踏ん張ればたくさんの人を助けたり、力づけることができます。
そう思うから、5年経った今も『温浴の使命』『温浴の本質』といった少々暑苦しいような話をよくしています。
読者のみなさんは、このことをどうお考えになりますか?
◆戦略・戦術・戦闘
先日ある温浴事業会社の経営会議に同席させていただいたのですが、なかなか着地点の見えてこない議論が繰り広げられていました。
その理由は単純ではないのですが、問題をひとつひとつ解きほぐしていかないと、解決には向かいません。
思考を整理するためには、既存の枠組みに当てはめて考えてみるとうまく行く場合があります。
その会議に必要な枠組みは「経営上の様々な施策は戦略・戦術・戦闘という3つのレベルに分けて考える」ということでした。
時間軸で言えば数年以上のスパンで経営の方向性を決定するのが戦略、数ヶ月レベルが戦術、日々のレベルが戦闘です。
例えるなら、「公道を速く走るならスカイラインGTRがいい」「平日の夕方は渋滞になるから避けた方が良い」「乱暴なアクセル操作は燃費が悪い」という話は全く議論が噛み合いません。
もっと業績を上げ、事業としての成果を得たいという目的が一緒でも、戦略と戦術と戦闘を区別して考える意識を持っていないと、お互い「自分の意見の方が重要性が高い」「現場が見えていない」と対立してしまうことにもなりかねません。
結論から言えば、戦略・戦術・戦闘はそれぞれ重要であり、いずれかだけを考えていてもうまく行かないのです。また戦略・戦術・戦闘いずれも一貫した理念やコンセプトに基づいていることが大切であり、バラバラでは良い結果が出ません。
これを意識しながら議論すれば、もっとスムースに話が進むことでしょう。
◆ベストの浴場
例えば評判のステーキ屋さん。牛肉の種類、鮮度、切り方、焼き方、ソース…いろいろな選択肢がある中で、きっとこれがベスト!といういただき方があるんだろうと思います。
でも、食べ物の好みが人によって違うのも事実。柔らかい肉が好きな人、しっかり歯ごたえがあった方がいい人。焼き加減もいろいろでしょう。
それと同じことが温浴でも言えます。
浴槽の湯の温度は何度℃がベストなのでしょう?入浴していて気持ちよく、事故の危険が少なく、入浴の効果が最も期待できるのは、41.26度…かどうかは分かりません(笑)。
仮に科学的な研究で答えが出たとしても、人によって好みは様々ですし、体調によっても変わってくるでしょう。
サウナも同じことです。温度や湿度、輻射熱、換気、対流、香り、マットの材質…考えうるベストのサウナというものがあったとしても、利用する人によってその評価は異なってくるでしょう。
だから考えてもしょうがない、ということではありません。温浴を提供するものとして、最高の環境を作り出し、最高の状態で提供し続けるための研究とこだわりは大切だと思います。
ただ、お客さんにも選択肢がないと、たくさんの人を満足させるのは難しいということは考える必要があります。
最高にこだわったベストのものがひとつあって、選択肢としてそのバリエーションがあるのが良いと思っています。ただ漫然といろいろあります、とは違うのです。
こだわりを反映させた最高の浴場をつくると言っても、設備なので気軽に試行錯誤できることではありませんが、何年間という時間の中で、補修や改装を繰り返しながら徐々に理想の浴場に近づけていければ良いですね。
◆自店を客観的に見る
以前、店の存在を見つけるのも難しい三等立地にも関わらずよく繁盛しているおでん屋の話を書きましたが、立地や施設に恵まれて繁盛している店、逆に条件が良いのにお客様が少ない店、条件が悪いのに繁盛している店…それぞれの状態には必ず理由があります。
その理由を客観的に理解していないと、一時的に繁盛することができても結局次の手で間違ってしまったり、いくら頑張ってもなかなか成果が生まれないおそれがあります。
件のおでん屋の場合で言えば、繁盛の主な理由はスタッフの接客力にあるわけですが、もしオーナーがそのことを見誤って自分の店づくりのセンスが良かったとか、今はおでんがウケる時代なんだと勘違いして、そっちに向かえば次は失敗するわけです。
この場合、失敗の原因は調子に乗り過ぎたからではなく、自店の状態を客観視できていなかったからです。
自店の強み弱み、他店と比べてどう違うのか?といったことを客観的に理解するためには、いくつかの方法があります。
ひとつはお客様に聞くことです。ただし、お客様の意見といっても人によって言うことは千差万別です。自店を支えてくれている中心客層を把握し、そのお客様たちがなぜ支持してくれているのかをつかめれば、分かってくると思います。
もうひとつは自分自身で店をたくさん見ることです。コンサル業界には「行脚100」という言葉がありますが、同じような店を100軒、200軒と見ているうちにだんだん直感が働くようになります。そういう目で自店を客観視できるようになれば、良いところと悪いところが瞬時にわかるようになるでしょう。
あとひとつはコンサルタントに見てもらうことです。コンサルタントはその業界の事例を何百、何千軒と見たり、現場や業績の状態を診断したりしています。普通の店だけでなく、ビックリするような繁盛店や、廃業寸前の状態も見て特殊な経験を積んでいますので、手前味噌ですがそこの部分は頼るべき存在だと思います。
いくら「長所進展法」と言っても、肝心の長所をはき違えてしまっては元も子もありませんから。
◆温浴経営の目指すところ
企業経営の目的は、と問われれば「倒産せず発展し続ける事(ゴーイングコンサーン)」であったり、「教育性、社会性、収益性の追求である」、「利潤を追求することである」「顧客創造である」など、いろいろな言い方があります。
温浴ビジネスにおいても同じことであり、日々の経営努力の目指すところは顧客満足や利益であり、その結果として会社の維持や発展、社会貢献があります。
でも、売上を上げたり利益を上げることよりも、もっと優先される事があります。
それは「安全」です。
お客様が無防備に裸になって過ごすお風呂という環境においては、安全こそが何よりも優先であり、その大前提を忘れたところでは温浴施設経営は成り立たないと思っています。
温浴施設の安全というと真っ先に思い浮かぶのはレジオネラ菌感染症の防止ですが、それだけではありません。
浴室での転倒や急激な体調変化で救急車を呼ぶことは日常茶飯事ですし、過去にも様々な大事故がありました。
溺死や脱水死、天井崩落、排水口に吸い込み、天然ガス爆発、露天風呂に雪崩…一般的な店舗ビジネスとは比較にならないリスクにさらされているのです。
入浴中の死亡事故は年間1万4千人、浴槽内での死亡だけで国内の交通事故死と同じ4千人くらいが亡くなっています。
だからこそ、安全性を確保することが重要であり、安心できない温浴施設と感じたらお客様も行きたいと思わないでしょう。
ところが、その安全対策や従業員の安全教育にどれだけの時間や手間をかけているのかというと、それよりも日々の顧客満足や円滑な運営の方にウエイトがおかれていて、安全が軽視されていると言わざるを得ないような施設も少なくないのが現実ではないでしょうか。
例えば医療に従事する人には、お客様を満足させる上手な接客サービスよりも、専門家としての知識や技術がまず求められます。
温浴施設のスタッフにサービスマインドが不要とは言いませんが、安全な入浴環境を維持し、安全な入浴方法を指導できる、救急の場面では適切な処置ができる、そういった専門家集団であることを目指す意味を考えています。
◆人は人によって癒される
その昔、大阪なんばのニュージャパンサウナさんのお手伝いをしているときに教えられたこの言葉を、最近思い出しています。
人はどのように店を選ぶのか。立地なのか、設備なのか、価格なのか。
昨日久しぶり行った会社の近くのラーメン屋は、いわゆる家系で、ラーメンの味はそこそこです。
ところが、厨房もホールスタッフも日本語が不自由な外国人で、定型の会話以外はほとんど成立しないことが分かりました。
ラーメンの味はそこそこでも、当分来ることはないだろうな、という気分になりました。
三等立地で繁盛しているおでん屋のことを何度か書いていますが、お客さんがそこに集まるのは、おでんや酒の味が良いからではありません。立ち飲みですから、椅子の座り心地も関係ありません。
繁盛しているのは、気分のいい、楽しい接客があるからなのです。
最初のきっかけは偶然通りかかったから(立地)かも知れません。あるいは広告やキャンペーン内容に興味を引かれたからかも知れません。
しかし、また行きたくなるかどうかは、どうしても「人」という要素に大きく左右されるようです。
タイトルの「人は人によって癒される」とは、癒しとは空間デザインでも設備でも技術でもなく突き詰めれば人の力なんだよ、ということを表した言葉なのですが、これはどんな業種にもあてはまる真理なんだと思います。
◆体質と体調
以前、妻にすすめられてマクロビオティック料理を学びました。そこからは食と健康に関するたくさんの知恵と気づきを得ることができたのですが、その時に教わったことのひとつに「体質と体調」という考え方があります。
マクロビオティック料理のはりまや佳子先生(オーガニック料理教室 G-veggie主宰)の文章からちょっと引用しますと、
─────
体質とは、家系的遺伝、両親の体質、妊娠期間中の母親の食や生活習慣といった、あなたがこの世に生まれる前に形成された先天的要因と、この世に生を受けてから7歳くらいまでの食習慣、生活習慣、家庭環境など後天的な要因の相互作用によって決まった、総合的な心と身体の性質のことです。
一方、体調とは日々刻々と変わる心と身体の状態のことで、あなたがどんなものを好んで食べ、どんな生活スタイルで暮らしているか、またどんな精神状態かによって、大きく変わってくるものです。
─────
という感じです。
つまり、体質はなかなか変えられないけど、体調は日々変わるし食事や生活でコントロールできるということです。
この話を聞いた時に、自分の仕事に照らし合わせて考えました。企業にも、体質と体調があるはずだと。
例えば、ある地域に開業以来シンプルな業態で順調にやってきた日帰り温泉があったとします。ところが、その周辺に低価格タイプのスーパー銭湯が続々と出店して過当競争に陥ってしまい、業績が急降下してしまった場合。
その対応策として、同じ土俵での競争を避け増改築や館内着の提供によってグレードアップする。ありがちな戦略ですが、そういうことを企業体質の見極めなくやると失敗する可能性があるということです。
起きている問題を表面的にとらえて、対症療法的に成功事例を当てはめるようなやり方だけでは、うまく行かないことがあって当たり前だと思います。
逆に体質に合う事なら、一見地味で細かいことでもしっかりやり続けて大きな成果につながって行くこともあるでしょう。
ノウハウとか成功事例は情報として知っておくことは大切ですが、それをどう用いるかを判断するためには、体質と体調の見極めをすることが必要なのです。
◆日本の温浴は世界一
日本のお風呂文化をユネスコ無形文化遺産登録しようといった活動もあるようですが、私も日本の温浴文化はすでに世界一であろうと思っています。
日本人特有の清潔好きや世界中の温浴文化や技術を取り入れていく柔軟性、そしておもてなしのサービス。世界にはいろいろな温浴施設がありますが、たしかに他のどこの国に行ってもこれほどの満足感は得られないと思います。
その素晴らしさに当の日本人がまだあまり気づいていないのがいけませんね。
◆お風呂でスマホ
最近、入浴中のスマホにハマっています。私のスマホは特に防水仕様ではないので、チャック付きのビニール袋に入れるのですが、タッチパネルはビニール越しでも問題なく操作できるようです。
サウナに行けない日々が続く時は、自宅の風呂で汗をかくまで長湯して、最後に冷水シャワーを浴びることでサウナ&水風呂の代わりにしているのですが、自宅でもそれなりの爽快感が得られます。
でも自宅のユニットバスは温浴施設のサウナよりも退屈なので、ビニール袋入りスマホの登場というわけなのですが、これがなかなか快適で、時間を忘れて汗をかくまで長湯が可能となるのです。
考えてみると、スマホやポータブルミュージックプレイヤーなどの電子機器はどんどん小型化、高性能化していますので、防水さえしっかりできれば浴室でも問題なく使用できます(サウナの熱はヤバそうですが)。
いっそのこと温浴施設でも大浴場への持ち込みをOKとしてみたらどうだろうか?と思ったのですが、カメラ機能を使った盗撮が問題になりそうです。
では、カメラのレンズ部分に目立つカバーシールを貼ってもらい、ビニール袋に入れるという条件だったら?いっそのこと専用シールと防水袋を販売するか?などと妄想を広げていますが、いずれにしても世の中はどんどん進んでいます。
サウナやリクライナーについているテレビを観られることに贅沢感を感じていた時代は、もうそろそろ終わりなのかも知れませんね。
◆デッカイことは…
先月、築地から豊洲に移転する場外市場に計画されている温浴施設、紆余曲折の末に万葉倶楽部さんが出店することになったとのニュースが流れました。
その時は年間集客予測が200万人とか投資額180億円とか書いてあり、いくら都心部とはいえ無茶な、と思っていたのですが、それは誤報だったのか計画縮小になったのか、55万人に変わっていて少し安心しました。
年間200万人と言えばピーク日の客数は1万人を越えることになりますから、フロントからロッカールームまで、どんなつくりになるのかと心配になります。
ひとりの責任者が隅々まで目を配れるのは、どんなに大きくても1000坪までが限界でしょう。大きすぎるものを作ってしまうと後が大変です。
仮に投資額180億円だったら、投資6億円の温浴施設を30軒作るのと同じことですから、支配人クラスの人材を同時に30人揃えるくらいの覚悟が必要なのです。
投資家や作る側の人は大型施設を作ってみたくなるものかもしれませんが、お客さんにとっては施設が大きいから嬉しいということはあまりないと思しますし、運営のことを考えると大きすぎる温浴施設はお薦めできません。
札幌テルメ、オーシャンドーム…巨額投資が失敗すると悲惨です。
今回の施設規模がどのように決められたのかは分かりませんが、豊洲という立地の集客力にそこまで期待するなら、あえて小さめに作って収容しきれないほど集客して見せ、二期、三期と次々に開発する方が話題性も持続するし、リスク回避できると思うのです。
◆信頼=ブランド
以前、ブログにサイボクハムの売店商品の売れ方が普通と違うということを書きました。
http://blog.aqutpas.com/2009/07/post-288a.html
普段買い物するときは、商品を吟味し、他の商品と比較検討したり価格の安いものを探したりしながら購入を決めるものですが、サイボクハムではみんな何の迷いもなく商品を手にとって購入している、これは販売テクニックでは作り出せない信頼感から来るものだ、という話でした。
信頼とは、ブランドと言い換えることもできます。
その企業は、その経営者はお客様に何を提供しようとしているのでしょう。
ブランドとは、カッコ良いことや高級なことではありません。
絶対に揺らがない価値は何なのか。その価値を作り出す企業へ寄せる信頼感が確立した時にブランドになるのです。
価値にこだわり、守り抜く仕事は簡単ではありません。結果的に価格が安くなりにくいというだけのことなのです。
そう考えると、今の温浴業界に、何を提供しようとしているのかが確立していて、その価値に全幅の信頼を寄せることができる施設が一体何社あるでしょうか。
私自身がそう思える施設は全国にまだ数社しかありません。
ブランドを確立する施設がもっと増えてきたとき、温浴業界は一段と成長できるのだろうと思います。
◆ネーミング事情
温浴施設の名称でおそらく一番多いのは「○×の湯」というパターンでしょうか。
億単位の資金を投入して開業した施設ですから、名づけの時には思い入れがあったり、練りに練った名称にしたことと思います。
ネーミングの時は『親しみやすさ、覚えやすさ、発音しやすさ、誰にでも読めるか。個性やコンセプトが表現できていているか…」など、いろいろなことを考えますが、昨今のネーミング事情ということで知っておいて欲しいことがあります。
ひとつはご存知、商標登録です。
その昔、『岩磐浴』という言葉を商標登録し、全国で「岩盤浴」という言葉を使用している施設は商標権の侵害だ!と騒いでいた人がいました。その後の消息は聞こえてきませんが…。
もしこれまで「○×の湯」という思い入れや特徴のある名称を使っていながら商標登録していなかった場合、誰かがその名称を使用したり、逆に先に商標登録されてしまうと面倒なことになります。場合によっては突然名称が使えなくなり、こちらが名称を取り下げなければいけなくなったり、思わぬコストが発生するなど痛い目にあうことがあるかも知れません。
「でも、商標登録ってかなりの手数料がかかるんでしょ?」と私も思っていたのですが、世の中は変わるもので、今は随分お安くできるようです。
特許事務所で弁理士をやっている友人に聞いてみたところ、今は「商標登録16,800円」を謳う格安特許事務所があるとのことで、ネット検索してみたところ、実際にありました。↓
http://www.syohyo-jp.com/LP02/index.html
印紙代等を含めても数万円のことで、昔考えていたような高額の登録料はかからないようです。施設名称だけでなく、館内の設備やサービスに独自の呼称があって、それが事業の重要なウエイトを占めているような場合は同様の心配があります。
試しに、このメルマガを読んでいただいている皆様の施設名称をいくつか商標検索してみました。さすが、商標登録済み!という施設もあれば、意外とそうでない施設も…。
・商標の簡易検索ページ
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage
私がこっそり商標登録しちゃってもいいですか?(笑)
そして、ネーミングについてはもうひとつ考えなければいけないことがあります。長くなりそうなので、続きはまた。
◆ネーミング事情(2)
続きです。
施設や館内設備、サービスなどに名称をつける際に知っておかなければならないこととして、商標登録のことを書きました。
せっかく考え抜いた候補名が、先行して商標登録されていないかの確認と、後から使えなくならないように商標登録しておいた方がいいですよ、ということです。最近は格安で登録手続きを代行してくれるところがありますし、慣れれば自分でやることもできます。
そして、もうひとつの問題は、インターネットです。
昨今ネット集客の重要性が高まっていることは折に触れて書いていますが、もし「○×の湯」と検索した時に、他の地域にある同一名称だったり類似名称の施設が自店より上位表示されてしまうとしたらどうでしょう?
商圏外の地域のことは関係無いと思っていたのが、ネット上の検索では北海道と九州の施設であってもぶつかってしまう可能性があるのです。
実際に、以前ある施設で運営者変更に伴い施設名称の変更をした際に、コンセプトを反映した良いネーミングだと思って大々的に発表した後に、まったく離れた地域に同一名称の施設があってネット検索をするとそちらが表示されてしまうことが判明した、という出来事があったのです。
もう後戻りはできないとそのままリニューアルオープンしてしまいましたが、今もネットでその施設名を検索すると複数地域の施設が入り乱れて表示されます。
先行してその名称で営業していた施設にとっては大変迷惑な話ですし、後からはじめた方も自店の公式HPであってもなかなか検索トップ表示がとれず、苦労することになります。
昨日、ネーミングの時は『親しみやすさ、覚えやすさ、発音しやすさ、誰にでも読めるか。個性やコンセプトが表現できていているか…」と書きましたが、インターネットで検索されることを考えると、入力(漢字変換)が容易であることも大切ですね。
余談ですが、私の友人の竹内社長が営む峩々温泉は創業140年、地名にもなっているので仕方ないのですが、普通の漢字変換では「峩々」という文字はなかなか出てこないので、いつもパソコンで入力する時に苦労します。明治9年当時には想像もしなかったことでしょうが。
ということで、これからネーミングを検討する際は商標登録とインターネットのことも忘れずに、という話でした。
◆湧水に思う
昨日は静岡県三島市にある柿田川湧水群を見てきました。
富士山の雪解け水が地下水となって一日百万トンも湧き出すことによって、柿田川は四万十川(高知県)、長良川(岐阜県)と並んで日本三大清流の一つに数えられるほどきれいな川です。
こんこんと湧き出す水を見ていると、「ここにサウナを作って、この水に飛び込みたい!」と強く感じました。たぶんサウナと水風呂が好きな人なら皆同じことを考えるでしょう。
弊社が温浴施設の立地条件を調査する時は、「ロケーション、アクセス、マーケット、競合」という4つの要素を入念に調べて売上予測を行い、温浴事業用地としての適否を確認しています。
しかし、今は上記に加えて給排水条件を特によく調べなければならないと考えています。温泉水や井戸水を利用できるのか、その水量や水質はどうなのか、そして排水がしやすい環境なのか。これらの要素が温浴事業に与える影響が非常に大きくなってきているのです。
そうなった理由は消費者の成長(ヘビーユーザー化)にあります。
かつては温泉の湧出量や温度がどのくらいであっても、下水道利用で排水にコストがかかるとしても、あまり新湯を投入せずに塩素殺菌しながら濾過循環していれば良かったので、給排水条件ではあまり差がつかなかったのです。
しかし、今は源泉かけ流しに人気が集まり、飲める水風呂が評判を呼ぶ時代です。水源の能力を最大限に活かしてなるべく良い状態の水を提供しようとすれば排水量も増えることになります。
逆に言えば、商圏人口が少なかったり競合施設が多いといった不利な条件下でも、給排水条件によっては事業が成立し、あるいは事業性を改善できる可能性があるということです。
さらに、自店の泉質や水質を効果的にアピールするということも、これからのマーケティング戦略として重要性が高いと考えています。
◆百年企業
人類の温浴に関する歴史を紐解けば2000年も昔の話になってしまうのですが、事業としての温浴施設となるとまだ浅い歴史しかありません。
日本三大古泉にあげられる道後温泉でも施設としては道後温泉本館が122年。温浴業界の老舗と呼ばれるニュージャパンサウナやハワイアンズ、箱根天山といったところでも半世紀程度です。
長い年月の間には、建物や設備の老朽化だけでなく、人の生活習慣も立地環境も一変します。
そのような環境変化にさらされながらも時流に適応し続け、理念やノウハウを人から人へと受け継いでいくことは想像を絶する至難の道であろうと思います。
しかし、温浴事業とは本来5年や10年で終わるような商売ではありません。建築物としては30年、50年、あるいはもっと以上使えるように作られている筈ですし、源泉や井戸は枯渇しない限りずっと湧き続けるものです。
温浴施設と比較的近い業態である温泉旅館には、長寿企業がたくさんあります。
日本は百年を越える長寿企業が世界で最も多いそうです。
世界最古の企業は、578年創業の建設会社・金剛組ですが、続いて705年創業の温泉旅館・慶雲館、717年創業の同じく温泉旅館・千年の湯古まんと、ベスト3のうち2社が温泉旅館なのです。
このメルマガに時折登場する宮城県の峩々温泉は1876年の創業。実はバーデンバーデンにあるフリードリッヒ浴場の創業1877年より1年先輩です。
同じように大地の恵みを風呂として提供する仕事なのに、温泉旅館と温浴施設の寿命の違いはどこから来るのでしょうか?
利益率?家族経営?顧客とのつながり?いろいろな要因がありそうですが、少なくとも「この商売をずっと続ける」という前提に立っているのと、「いずれ撤退することになるだろう」という前提に立つのでは、経営判断の基準は全く違うでしょう。
個人的には、ずっと続けたいと考える温浴企業がもっと増えてほしいと願っているのですが。
【参考データ(創業年)】
・峩々温泉(宮城 1876)
・フリードリッヒ浴場(バーデンバーデン 1877)
・道後温泉本館(愛媛 1894)
・ニュージャパンサウナ(なんば 1952)
・スパリゾートハワイアンズ(いわき 1966)
・天山湯治郷(箱根 1967)
◆運営力=ノウハウと人材の時代へ
最近弊社に、某手電機メーカーの保養所売却の案件が持ち込まれました。ある温泉地でバブル期に建てられた約500坪の建物です。
本件はおそらく本業が苦しいために資産のリストラをしているのでしょうが、他にも様々な事情の売却案件が出てきています。
市場規模に対して初期投資(施設面積)が過剰であったり、施設のつくりに問題があって大規模な追加投資が必要であったりすると、よほどの資金力に余裕のある企業でないと事業存続が困難になります。しかし温浴施設は建物も設備も5年や10年で寿命を迎えるようなものではありませんし、かといって他業種への転換も簡単ではありません。
そうなると事業をいったんリセットして再生するしかないのです。
スーパー銭湯や日帰り温泉、健康ランドだけではありません。保養所やゴルフ場、リゾート施設、公共施設など大浴場を抱えた施設の売却・再生案件は今後も数多く出てくるでしょう。
いま、こういった売却案件を積極的に購入しているのは投資ファンド系か中国系が多いのですが、最終的にはどこか再生力・運営力のある企業に運営を委託したいという話になります。
運営受託ビジネスは、温浴事業会社にとっては自社が蓄積してきたノウハウや人材、そして顧客情報や信用力を事業拡大につなげるチャンスです。
長年温浴施設を運営し、既存店が健全経営であるなら、今後必ず受託のチャンスが出てくると思います。
そのためにも前述の「ノウハウ・人材・顧客情報・信用」を大切な資産として育てていくことが大切です。
先日、今年度の最低賃金の引き上げについて、全国の平均時給で24円引き上げ822円とするニュースが流れていました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160727/k10010610041000.html
このニュースを温浴業界でも気にしている人がいたようですが、最低賃金が上昇することで焦るよりも、最低賃金の水準でしか雇用できていない企業が少なくないという温浴ビジネスの現状を焦るべきだと思っています。
未来に向かうために最も大切な資産である人材が、最低賃金で充分に確保できるはずがないのですから。
◆事業の存続と世代交代
いわゆる一般公衆浴場(銭湯)ではない、温浴施設がビジネスとして成立、発展するようになって約60年が経ちました。
黎明期に創立された温浴事業会社はすでに創業者から次世代、次々世代へとバトンタッチが行われています。
この20年くらいの間にスタートした温浴施設はまだ創業社長のところも多いでしょう。
どんな業種でも言えることですが、経営者には「後継者がいない」という問題が起こることがあります。まだお客さんがついているのに、施設の寿命までは時間があるのに、後継者がいないことによって廃業を決断しなければならないということが起きてしまうのです。
今後の温浴業界でも、創業から20〜30年が経過したところで次世代へのバトンタッチができずに廃業や売却、という話が出てくるようになると予想しています。
2007年より公衆浴場数が一般とその他合わせても減少傾向に転じたのは、単にビジネスライフサイクルというよりも、後継者問題が顕在化してきているのではないでしょうか。
後継者不在(跡を継ぎたくない)となってしまうのは、儲かっていないからなのでしょうか?それも当然あると思います。全盛期の勢いを失っていたり、まだ借入金が多く残っていたりするならば、跡を継ぐのは賢明な選択ではないかも知れません。
しかし、「栄枯盛衰は世の習い」とはよく言ったもので、ひとつのビジネスに追い風が吹いたかと思えば無風になったり逆風になったりするのは普通にあることです。
跡を継ぐ者が出てこない本当の理由は、業績の一時的な浮き沈みだけではなく、その事業を通じて何を為すのかという理念に共鳴させることができていないからなのではないでしょうか。
ほとんどすべての家庭に浴室があり、自宅や職場の近くには複数の温浴施設が営業していていつでも行ける時代。
本当に大切なことは、事業の存在意義です。それを明確にすることなしに目先の業績を云々していても、その場しのぎの案しか出てこないでしょう。
◆戦略力と戦闘力
その昔、大手量販店の店舗開発業務を長年に渡り担当してきた経験を持つ上司から「戦略の失敗を戦術や戦闘で取り返すことはできない。」ということを教わりました。
特に店舗の出店戦略を検討する場面では繰り返し聞かされた言葉です。
その後自分自身でも見聞を広め、様々な経験を積みましたが、確かにその通りで、戦略的に無理なものを現場の運営力でカバーしようと足掻いても、良い結果に至るのは至難の技と言えそうです。
そして最近思うことは、「戦闘力のなさを戦略力で補うのもまた難しい」ということです。
例えば囲碁の置き石。実力差のある者同士が対戦するときには、だいたい級や段がひとつ違う毎にハンデの置き石をひとつ置いてからスタートします。初段と四段の対戦なら置き石4つです。
はじめから要所に置かれた石があることによって、序盤は実力下位の方が圧倒的に優位な状況なのですが、局面が進むにつれて徐々に劣勢となり、いつの間にか形勢逆転してしまいます。
戦術や戦闘でミスを繰り返せば、戦略的優位もいずれ失ってしまうのです。
温浴事業で言えば、いくら良い立地条件に立派な施設を作っても、現場運営がダメだと結局良い結果を残すことはできないということなのです。
つまるところ、戦略から戦術そして戦闘までを一貫してしっかり組み立てることが大切で、部分的に有利な条件に恵まれていてもどこかに大きな穴が開いていたら結局うまくいかないということでしょう。
◆温浴施設の設計
今日はアクア・プランニングの中村社長と新規開発案件の設計について打ち合わせでした。
市場環境から想定される売上は、入館料収入だけで年間約5千万円(総売上は1億円弱)。
競合環境を考慮して大人正規入館料650円とする。割引率からその8掛けとして平均入館単価は520円。年間売上を平均入館単価で割れば年間10万人弱。
1:2:3の法則を当てはめると客数はおよそ平日200人、土日400人、ピークで600人。
ビークの600人を何回転で収容するのか。着替えなしで滞留時間長めなら5回転くらいにしておきたい。そうすると600÷5でロッカー数は120人。
最大収容120人なら1人あたり占有面積1.3~1.8坪を掛けると156坪~234坪が適正な延床面積になる。
…本来はこうやって温浴施設のプランニングが進んでいきます。
このような基本的な手順すら分かっていない設計会社も多いのがひとつの問題です。
そしてもうひとつの問題が建築コストです。昨今の建築コスト高騰で、適正規模に設定しても投資回収が長期化するのが避けられなくなっているのです。
どんなに正しくプランニングしても、なかなか事業性良好とはならないのが今の温浴ビジネスなのです。
従来の常識を越えなければ、温浴業界はこれ以上の発展は見込めません。変わらざるを得ないところに来ているのです。
◆経済合理性と健康
私がまだ社会人になって間もない頃、つまり今から25年も昔の話ですが、何かの勉強会でホテル業界のコンサルタントの講演を聞く機会がありました。
その話の中で、「千代田区のような不動産の高いところで、帝国ホテルがジャガイモの皮むきからやっていたら生産性が合わない」というような事を言っていました。
加工食品を上手に活用すべしという論旨だったのですが、当時「うまいことを言うなぁ」とその一言がやけに印象に残っていて、今日自宅でジャガイモの皮をむきながらふとその話を思い出していました。
今や食品スーパーやコンビニでは加工食品や冷凍食品が豊富に売られ、一般家庭でも加工食品が頻繁に食卓に登場するようになり、素材から調理する家庭は昔よりも随分減っていると思います。もちろん業務用食材もさらに進化して、美味しく見た目も美しい料理が温めるだけで簡単に提供できるようなメニューもたくさんあります。
一方で、そのような世の中の傾向を危惧する人も増えてきています。加工食品の添加物や殺菌処理によって食材が持つ本来の栄養や生命力が失われたり、化学的な添加物が人体に与える悪影響、生産地や生産方法の分からないあやしい食材が使われているのではないか・・・といった様々な問題が指摘されています。
素材をイチから調理する。手で握られたおにぎり。ちゃんと発酵熟成した味噌を使った味噌汁。
そういったものがありがたいという考え方は25年前にはほとんどなかったものですが、便利さや経済合理性に行き過ぎた反動で、今は間違いなくこの流れが生まれ、大きくなりつつあります。
昔から「健康第一」「身体が資本」と言いますが、健康増進の機会を提供する温浴業界は、飲食業界や宿泊業界に先駆けてこのことに取り組まなければならないと思っています。
◆居心地の良い場所
アメリカに「バーンズ&ノーブル(Barnes & Noble)という書店チェーンがあります。米国の書店業界最大手です。
この店には随所にテーブル・椅子が配置されていて、ゆっくり座り読みしながら本を選ぶことができます。
立ち読みではなくて座り読みですから、そのまま一冊読みきってしまう人もいるでしょう。書店ですから、座り読みされているだけでは一向に売上は上がりません。
しかし、バーンズ&ノーブルが米国最大の書店チェーンなのです。
我が家の近くには「湘南T-SITE」というショッピングセンターがあります。核店舗はTSUTAYA書店ですが、そこに飲食店や小売店が複合出店しています。
かなり変わった店作りで、料理本コーナーの近くにキッチン用品売場やこだわりの食材売場。児童書の隣に玩具売場というように、ライフスタイル情報とそれに対応する商品を融合させて売っています。
ここも店内外の随所にベンチやソファーが置かれ、自由に休憩したり座り読みできるようになっています。
店内にはスターバックスコーヒーも出店していますが、書店1階の書籍を持ち込んで読むこともでき、またソファーなどが置かれ普通のスターバックスよりもゆったりくつろぐことができます。
かつて、小売店の店づくりといえば売場有効率(延床面積に占める売場の比率)や陳列の量・数・幅が最優先され、とにかく無駄なくギッシリ商品を並べることで売上を最大化することができました。
これは簡単に言うと需要>供給、ライフサイクルで言うと成長期の商法です。皆がモノを欲しがるから、たくさん置けばそれだけ売れるということです。
ところがモノがひと通り行き渡り、皆がとりあえず持っている、あるいは体験済みという状態になれば、他の方法で需要を喚起しなければ売上が上がりにくくなるのです。
快適な居場所を用意して滞留時間を伸ばすことは、集客と需要喚起の手段として確かに意味があると思います。
ただし、それだけで良い結果が出るとは限りません。下手をすると単に経営効率を下げるだけになってしまう可能性もあるでしょう。滞留時間を売上に結び付けるもう一工夫があってこそ、有効な手段となるはずです。
温浴施設で言うと、まずはロッカーがいっぱいになって満員状態でも館内にちゃんと居場所がある状態をつくることが必要です。風呂から上がったら早く帰ってくれと言わんばかりのつくりは前述の成長期の商法で、今はもう通用しないのですから。
その上で、滞留するお客様に何を提供するのか。その知恵比べがはじまりつつあります。
◆変わる仕事
先日ある地域の商圏人口や競合店分布状況を調べてレポートにまとめながら、ふと思ったことがあります。
私が船井総研の新入社員だった頃、商圏人口の算出は膨大な作業量が必要な仕事でした。
調査する商圏に含まれる地域のすべての市役所、町村役場に出向いて町丁別人口統計を入手し、実際に全方向へ車で走り回って5分ごとに到達点を調べて地図に印を入れ、事務所に帰って地図上に商圏図を作図し、その範囲内に含まれる町丁別人口を統計表から拾ってカウントする…ひとつの地域の商圏人口が算出されるまでに、徹夜も含めて4~5日以上はかかる大仕事だったのです。
そんな作業もコンサルタントとして活躍するための修行と思って、我ながら職人レベルと思うほどに上達しましたが、今はもうそんな仕事は存在していません。すべてIT化され、現地調査せずとも事務所に居ながらにして数時間程度で商圏人口を把握することができるようになりました。
競合店分布図も、丸いプロットシールにステンシルを使って手書きで小さな数字を書き込み、それをそっとカッターの刃に載せて丹念に地図に貼っていく作業でしたが、これもGoogle Mapを使えば簡単にできるようになってしまいました。
当時は他に手段がなかったので仕方ないのですが、あの血と汗と涙の結晶たるノウハウがもはや無用になったのかと思うとちょっと虚しい気分にもなります。
仕事だと思って一生懸命やっていたことが、機械やコンピューターにとって代わられる。技術や文明の発達は素晴らしいことなのですが、もし私がいまだに商圏人口算出や競合店プロットしかやっていなかったとしたら、職を失っているということなのです。
さて、そう考えると、温浴施設の運営という仕事はどうなのでしょうか。これもいずれ機械化や自動化されていく可能性があります。
フロントのロボット化は、ホテルではすでに登場しています。レジも無人化が実現しています。清掃だって家庭ではルンバが大活躍していますから、どこまで自動化されていくのかわかりません。レストランも加工食品の調理なら料理人の技術はほとんど不要ですし食器洗浄機は当たり前になっています。ホール業務もオーダーテイクはタッチパネルを採用する店が増えてきました。
パターンが決まった作業の繰り返しなら、いずれ機械化されますし、少々の知的労働も人工頭脳がやってしまうようになるのでしょう。
ひとりの人間をひとつのポジションに配置すると、仮に時給900円×14時間×365日で計算して年間450万円くらいの人件費がかかります。5年なら2250万円。ということは、ひとり分の仕事を無人化するのに2000万円くらいの投資で済むなら、経営的には充分採算がとれるという計算になります。もしそのようなロボットが登場したら経営者は導入判断をする可能性が高く、あっという間に普及してしまうのかも知れません。
温浴施設の運営にもそんな時代がやって来るのが遠い未来のことではないとしたら。
機械やコンピューターには決してとって代わられることのない仕事とは何なのでしょうか?
ありきたりな言い方ですが、私は「心」と「創造性」と「成長」だと思っています。心と心のふれあい、お客様の心を揺さぶるような仕事、そして新しいものを創造する力、仕事をしながら成長していくこと。これらは機械やコンピューターにはできないのです。
今の自分の仕事に心はあるか?創造性はあるか?成長はあるのか?と問いかけてみると、これからの仕事のあるべき姿が見えてくるのかも知れません。
◆浴室全部外気浴
朝夕めっきり涼しい季節になりました。気温が下がってくると、「温泉でも行きたいね~」という会話がよく聞こえてきます。
そんな話をしている時に誰もが思い浮かべるのは、きっと露天風呂のイメージでしょう。
頭寒足熱や温冷交代浴といった理屈を持ち出すまでもなく、裸で外気にあたるのは実に気持ちの良いものです。気温が下がって熱い湯やサウナとの温度差がはっきりしてくると尚更です。
私も自宅で風呂上がりによく半裸でベランダに出て他人と目が合い恥ずかしい思いをすることがありますが、露天風呂での外気浴こそ自宅ではなかなか楽しめない温浴施設ならではの醍醐味と言えるでしょう。
露天風呂といえば日帰り温泉の草分け的存在である箱根の天山湯治郷。ここを模倣した温浴施設は全国にたくさんありますが、ほとんどの施設は野趣溢れる和風デザインの格好良さに気をとられ、その最大の特長を見落としています。
天山の最大の特長とは、「浴室全部外気浴」です。脱衣室から内風呂まで、すべてがオープンエアの空間となっているのです。
ここに気づいて模倣している温浴施設はまだ見たことがありません。
私もリニューアルのご支援の際に内風呂の壁を取り払って露天風呂化するといった提案をすることがありますが、脱衣室まで全て外気浴にしてしまうのはなかなか勇気がいります。
実際は、風さえしっかりコントロールすれば冬でも問題ないということを、天山を設計した海老沢宏先生から教えてもらいました。
海老沢先生とは何度か仕事でご一緒させてもらい、その度に貴重な勉強をさせてもらっていますが、日本を代表する温浴建築家の一人です。
天山以外でも浴室全部外気浴の設計思想は一貫していて、最近では鴨川グランドホテルの浴室改装で内風呂の壁を取り払っています。
http://www.kgh.ne.jp/04/event/uminokairou/
日本の温浴文化を進化させてきた海老沢先生のノウハウをもっと広く知ってもらえればと考えて、来年のホテルレストランショー展示会場内のセミナーで講演していただこうと画策中です。
◆レンタルサロンスペースという可能性
ショッピングセンターなどの、イベントカレンダーをご覧になったことはありますか?
ヒーローがやってくる、マジックショーや地元の歌手のライブ、地域の物産展、手作りワークショップ(ハロウィン飾り、スノードーム作り等)等々
それ自体で施設の売上になるわけではありませんが、集客に一役買っているのと同時に、ショッピングセンターとしてのマンネリ化を防ぎ、「そこに行く楽しさ」を付加し続ける重要な取り組みです。
温浴施設においても、様々なイベントが開催されていますが、そこにもっと活用できる可能性を感じるのが美と健康を提供するサービスです。
マッサージ、整体、エステ、タイ古式、リフレクソロジー、アロマ、ヨガ、理美容室、ネイル…世の中には数えきれないほどの様々な業種のサロンがあり、巨大なマーケットになっています。
温浴施設にあるリラクゼーションサービスなどは、マーケットのほんのわずかな部分に過ぎません。
消費者だけでなく、そこに従事するセラピストやインストラクターなども相当な人数です。そして元働いていた人や資格はとったもののまだ開業していない人など潜在的な技術者の人数は想像もつかないぼど多くいるでしょう。
せっかく身につけた技術で仕事をしたいと思うものの、自宅サロンで開業できるような住宅事情や立地条件でもない、商業地に出店するほどの資金も事業知識もない、そうして埋もれたままの才能や技術がたくさんあるはずです。
今は、個人でもブログやSNSを使って集客活動ができる時代になっています。例えばこんな感じです。↓
https://m.facebook.com/events/1774755732782269/
集客手段があるなら、あとは場所です。個人ネイリストが美容室の一角を借りてネイルサロンをやったりすることもあるそうですが、温浴施設でも稼働率の落ちてしまったカラオケ室や宴会場をもて余していることがよくありますので、レンタルサロンとして場所提供したら面白いと思います。
温浴施設には美と健康に関心を持ったお客様が集まっていて、浴場や休憩設備があるという、他の場所には真似できない特性があります。
定番のボディケアと足ツボとアカスリ以外にも、美と健康に関する新しいサービスが成り立つ可能性は充分にあるのです。
常設の専門店を構えるほどの需要が見込めなくても、日替りや時間限定でいろいろなサービスがあれば、新たな集客のネタにもなりますし、その個人サロンが連れてくるお客様を温浴施設側の顧客に取り込む可能性も生まれます。
温浴施設と個人サロン、そして消費者の「三方良し」です。
イベント内容や遊休スペースの活用方法にはいろいろな選択肢があります。目先の集客力や収益性も大事ですが、コンセプトや施設の雰囲気にそぐわないものを入れてチグハグになってしまうおそれもあります。
その点、顧客や利用動機を共有できる個人サロンに場所と機会を提供するという方法なら、しっくり来る感じがします。
◆会員ビジネスの可能性
昨日のセミナー会場で、最近大型の繁盛温浴施設を多く作っている設計会社である株式会社都市計画の江川社長にお会いしました。
江川社長はccc(カルチャーコンビニエンスクラブ株式会社)や極楽湯の設立に携わってこられるなど、大先輩です。
その場で江川社長から教えていただいたお話は衝撃的でした。「いま非常に上手く行っている温浴施設のビジネスモデルは、初期投資15~18億円、平均客数1日3,000人、客単価1,800円、投資回収2~3年」とのことでした。
弊社はどちらかと言うと何らかの事情で苦戦されている温浴施設とのお付き合いの方が多いので、にわかには信じられないようなスゴい数字です。
しかし、その施設の内容を聞いていると、単なる大型フルスペック一番店開発とは違う戦略があって、興味深いのです。
1日3,000人の入館のうち、1冊7,000円の回数券利用客が35%いて、それならばプールやマシンなどのフィットネスゾーンをつくって月会員にすればと考えて実践してみたところ、月会費8,000円の会員が4,000人も集まったそうです。
月に8,000円でも、仮に毎日温浴施設を利用すれば1日あたり267円程度です。そう考えるとものすごくお得感があります。
温浴強化型フィットネスクラブはそこを上手に訴求して温浴マーケットを取り込んでいますが、フィットネス付加型温浴施設も同じことを始めたようです。
温浴施設の会員制度には入会金と会費に様々なパターンがあるのですが、今のところ会員制ビジネスのやり方についてはフィットネス業界の方が長けています。
うかうかしているとフィットネス業界に温浴マーケットをどんどん持っていかれてしまう恐れがあると感じていたのですが、逆に温浴業界がフィットネスマーケットを取り込む可能性もあるということです。
業態やコンセプトにも関わってくる話ですが、会員制度のあり方についてはまだまだ研究の余地があります。
◆著作権フリー
以前、このメルマガで商標登録のことを書いた際に「その昔、『岩磐浴』という言葉を商標登録し、全国で「岩盤浴」という言葉を使用している施設は商標権の侵害だ!と騒いでいた人がいました。」ということに触れました。
ネーミングは個を表す大切な記号なので、その権利を守ることは大切ですが、岩盤浴というビジネスモデルを特定個人が独占したり、人が商売しようとするのを邪魔することはできません。
考えてみると、ビジネスの世界は模倣の繰り返し、パクリ合戦と言っても過言ではありません。
温浴ビジネスモデルも、先人たちが築いた様々なノウハウの積み上げであり、素人がゼロから温浴ビジネスを構築することは不可能です。私たちは先人たちの試行錯誤の結果を使わせてもらっているに過ぎません。
私も知らないうちに自分の書いた文章等が他のところで使われていたりしてビックリすることがありますが、最初に考えついたのは俺だ!と主張したところであまり意味がないことです。
今世間に広まっている様々なビジネスも、最初に考えた人がいて、それが模倣されながらどこかでまた革新や創造を生み、また模倣され…を繰り返して進化しつつ今に至るのです。
そこに著作権などありません。
むしろ、模倣されているうちが華とも言えます。天山やニュージャパンサウナのやっていることは、皆が手本にしようとしてもなかなか超えることができません。簡単にパクれるものなど大したものではないと考えた方が良いのかも知れません。
ですので、私は自分でルール化したオリジナルの温浴コンサルティングノウハウなどもどんどん公開するようにしています。
パクってもらえるうちが華ですし、そうすることで温浴業界の進化のスピードが少しでも早まればいいと思うのです。
◆大先輩の言葉
昨夜は船井総研の大先輩、河口裕治(元専務)さんのお通夜に行ってきました。
河口さんは私が船井総研の入社試験を受けた時に面接を担当してくれた方で、いろいろと妙な質問をされたのを覚えています。
仕事でご一緒させてもらったことはなかったのですが、会議や研修あるいは人を通じて、直接的に間接的に多くの影響を受けていたことを実感しています。
河口さんから教わったことの中でも強く印象に残っている言葉があります。
「マーケットがプールだとすれば、中小企業のみなさんの商売は、小さなオチョコでプールから水を一所懸命くみ上げているようなものだ。」
プールの水が多少増えたり減ったりしたところで、オチョコを一杯にできるかどうかには関係ないし、たくさん汲み上げたかったら、こぼさないように注意したり、くみ上げるピッチを早めることの方が重要だ…ということです。
確かにその通りです。もちろんマーケットが何割も増えたり減ったりすることが関係ないとは言いませんが、そこに一喜一憂している暇があったら、もっと自分達でやれることがあるはずです。業績不振を外部環境のせいにしているだけでは何の解決にもなりません。
しっかりと地に足のついた、コテコテの実践派コンサルタントらしい言葉だな、と思います。
社会に出たばかりで頭でっかちになりがちな若手社員に向けた言葉だったのかも知れません。
言葉ひとつが、人の考え方や生き方にまで大きな影響を及ぼすことがあります。
「言葉に気をつけながら、人に良い影響を与えるような言葉を残していきたいものだ」と、お通夜の後に船井総研の先輩や同僚たちと河口さんが大好きだったお酒を酌み交わしながら思ったわけです。
◆館内着という発明
温浴施設の館内着提供がいつから始まったのか、定かではありません。
おそらく旅館にある浴衣の延長で、日帰り客にも浴衣を提供するところは昔からあったのでしょう。
そしてヘルスセンターのムームー。いま考えると着るのも恥ずかしいようなデザインでしたが、みんなお揃いでアレを着て舞台に上がって踊ったり、カラオケをしたり。そんな風景が見られる温浴施設も少なくなりましたが。
最近は素材もデザインも随分進化してきましたが、館内着を提供するというのはスゴい発明だったと思います。
館内着を提供するだけで、客単価がおよそ1.5倍になります。もちろん館内で過ごす居場所や飲食、マッサージ等の消費の受け皿があってのことですが、同じように付帯部門を用意していても、館内着に着替えなければ利用率は思うように上がらないのです。
リネンサプライを利用するとして、一着あたりの原価は数十円ですから、客単価1.5倍なら充分にお釣りが出るでしょう。
ところが、不思議なことに本来は館内着を提供していない施設が有料オプションとして館内着を置いても、利用者はほんのわずかしか居ません。
お客様はリラックスウェアに着替えてゆったりくつろぐということに、お金を出すほどの価値を見出だしていないのです。
にもかかわらず、入館料に含む形で館内着を渡せば客単価がいきなり1.5倍ですからわけが分かりません。
長時間滞留する覚悟が決まるということなのか、館内着コスプレという非日常性に興奮して金銭感覚が麻痺するのか。
いずれにしても、これだけ温浴施設が普及したいま、どの施設も大量集客というわけには行きません。入館料も割引合戦で利益が出にくくなっていますから、これからますます付帯部門の収入(客単価)が大切になってくるでしょう。
その時に館内着の威力が必要となるのです。
館内着がなかったら、温浴業界のライフサイクルはもっと早く衰退期に突入し、市場規模が縮小していたのかも知れません。そう考えると、館内着という発明はつくづく偉大であったということなのです。
◆温浴施設の立地
最近、タワーマンションの不動産評価が話題になっています。タワーマンション高層階の価格がそのステータス性によってむやみに跳ね上がっており、固定資産税評価額との乖離が激しくなりすぎている(節税効果が大き過ぎる)と言うことのようです。
花火がよく見えること以外に高層階に住むということがどれほどのステータスなのか、よく分からない世界ですが、世の中そうなっているようです。
ところで、温浴施設にも不動産評価と立地の良し悪しにギャップがあるのをご存知でしょうか。
一般に商業地の良し悪しは商圏人口、周辺の集客要素、視認性、導入性、交通機関や道路事情などによって評価されています。どんな商売をやっても集客しやすく、うまく行きやすいのが良い商業地ということです。
温浴施設にとっても上記のような要素が集客に影響することは間違いありませんが、それだけではありません。温浴施設の場合は独特な立地評価基準があるのです。
ひとつは、一般的な商業施設よりも目的来店性が高いということです。温浴施設の前を通りかかって衝動的に風呂に入りたくなる人もいるかも知れませんが、多くの場合は家を出るときにはどこの温浴施設に行くのか決めているものです。
つまり、温浴施設の場合は商業施設のように人通りが多くて目立つところになくても、集客は可能だということです。
さらに、眺望や自然環境、そして給排水条件や競合環境などが業績を大きく左右します。
他には何の商売もできなさそうな土地で、繁盛している温浴施設を見ると立地選定の妙味を感じます。
逆に他の業種がいろいろ成立できそうな商業地で温浴施設をやったところ、給排水条件が悪くて高い上下水道代に苦しんでいるケースなどは、不動産活用という視点からはもったいないということになります。
日々運営の現場だけを見ていると忘れがちですが、長期的な戦略を考える上では、不動産ビジネスとしての視点もあわせ持たなければならない時があります。
◆起死回生の秘策
これまでお付き合いをしてきた様々な温浴施設で、他にモデル事例のないような独自性の高い設備投資やサービスを提案し、実行していただけたことがありました。
最近の例で言うとおがわ温泉花和楽の湯にある全量総入れ換え式浴槽、マルシンスパの水風呂と湯の逆転、なごみの湯の胎内浴などがそれにあたりますが、考えてみると他の施設でやっていないことをするのは大きなリスクです。
うまくイメージ通りに実現できるのかどうか、やってみなければ分からないところがありますし、それをやった結果お客様からどのように評価されるのかも分かりません。
失敗するリスクが大いにあるのです。
それでも果敢に実行していただけたのは、いくつかの条件が揃っていたからだと思います。それは、
1.お客様を喜ばせることをしたいというトップの強い意思
2.最悪コケても何とかなるという企業の勢い
3.トップの前向きなプラス発想が組織全体に浸透している
4.それまでのお付き合いを通じて弊社がその施設の長所短所を熟知している
…といったことで、これらが揃った時にはじめて提案できる土壌ができ、前例のないチャレンジに取り組んでみようという機運が生まれるのです。
逆に後ろ向きで批判的な雰囲気の企業に対して唐突に前例のないチャレンジを提案しても、まずリスクを指摘されて一蹴されてしまうだけでしょう。
空手の試合でも、まず突きやローキックなどの小技を積み重ねて相手を疲れさせたり気をそらせておいて、その段階で自分に余力があって初めて大技が決められます。試合開始直後に大技を出しても当たりませんし、試合中盤で自分が先にヘロヘロになっていたらこれも大技どころではないのです。
たまに「起死回生の秘策を教えて欲しい」と求められることがあるのですが、やっぱりそれはムリなんです。
例えば試合で飛び後ろ回し蹴りなんて簡単には出せませんし、むやみに繰り出しても決まらないし、むしろ隙ができてよけいに攻めこまれてしまうでしょう。
急がば回れと言いますが、やはり基本稽古からひとつひとつやっていくのが強くなるための最短の道なのです。
◆今を生きる
今朝(2016年11月22日)は早朝から福島県沖を震源とするM7.4の地震があり、続いて津波警報、福島第2原発で冷却停止のニュースが流れ、肝を冷やしました。
東日本大震災から5年半、福島第1原発事故はまだ終息していませんし、いまだ仮設住宅に暮らす人たちもたくさんいますが、日本全体としては震災の記憶は薄れつつあるのかな、と感じています。
震災をきっかけに、いろいろなことに気づかされました。事業存続のこと、温浴施設の使命、防災のこと、需要と価格…。このメルマガやブログにもいろいろと書いてきましたが、今回は「今を生きる」ということについて書いてみたいと思います。
過去のこと、済んだことをいつまでもくよくよ考えていても何の解決にもならないということは折に触れて申し上げていますが、未来もまた思うようにはならないものです。
会社の発展、事業の存続のために目標を持ち、計画を立て、準備をしていく。それは必要なことなのですが、いくら未来志向で考えていても、未来が思い通りになるとは限りません。
いつ天変地異が起こるか分からないから刹那的に今を楽しんだ方が良い、という話ではありません。
温浴施設には、今この瞬間にも入館してくるお客様、館内にいるお客様、そして退館しようとしているお客様がいます。そのお客様に対して何かできることがないでしょうか。
ひとりのお客様がお帰りになる時、「また来たい」と思ってくれているかどうか。「また来るね」と言ってくれるかどうか。サービス業の成否はそこがすべてです。
多くのお客様がリピーターになってくれれば、自然とお客様は増え、事業はしっかりと継続していくでしょう。逆に「もう来ない」と思うお客様が多いとすれば、いくら設備投資や広告宣伝にお金をかけて集客努力をしてもいずれジリ貧になるしかないのです。
そう考えると、明日があるさと問題を先送りしたり、明日のために何ができるのかと考えることよりも、まず今来てくれているお客様を全力でおもてなしすることこそが重要であり、それをせずに未来のことを考えていても本末転倒であることに気づかされます。
目の前のお客様を大切にする=今を全力で生きることが、結果としていつ何が起きても悔いのない人生につながっているのかな、とも感じます。
幸い今日は大事には至らなかったようですが、あらためて生き方を考えさせられた地震のニュースでした。
◆装置産業の終焉
ファミレスのロイヤルホストが24時間営業を廃止するそうです。いまサービス業を中心に営業時間短縮や定休日の復活、正月三が日営業の取り止めなどの動きが相次いでいます。
理由は人手不足だそうです。従業員に長時間労働や休日返上を求めることができなくなったことや、人手を確保するために人件費が上がり、効率の悪い時間帯まで営業していたら採算が合わないことが背景にあります。
温浴施設は、これまで施設を最大限に稼働させることが収益の最大化につながるという装置産業そのものの考え方でやってきました。
早朝風呂や深夜営業をすることが業界のトレンドのようになっていました。
温浴施設は、営業の立ち上げの時に特に負荷がかかります。浴室や館内をきちんと清掃し、浴槽の湯を沸かすのは大きなコストです。オープンしてしまえばそれを維持管理するだけなので、営業時間は長い方が効率いい部分があるのです。
しかし、そうも言っていられないほど人手不足が深刻になってきています。
温浴業界で採用がうまくいかない、人員が確保できないという声を頻繁に聞くようになったのはここ数年のことです。高齢化社会とはいえ、日本から働き手が一気にいなくなったということではないと思いますので、他の産業に就労が移動し、温浴施設などのサービス業で働こうという人が少なくなっているということです。
要するに魅力の乏しい職場には働き手が来ないということです。有能な人材が働きたくなるような魅力のある企業になっていかなければなりません。
そのためには、まず温浴経営者が「装置」ではなく「人」に焦点をあてるという、意識の転換をする必要があると考えています。
◆今日は何の日?
今日は11月26日、イイフロの日です。全国各地の温浴施設ではイイフロの日にちなんだイベントを開催しているところもたくさんあることでしょう。
今日はぜひ自店でゆっくり風呂に入って、露天風呂で長湯を楽しんで、サウナと水風呂と外気浴も堪能して、それからアカスリとマッサージもして、食事をとってから休憩室でうとうとしてください。温浴施設体験の素晴らしさを確認してください。
なんでこんなことを書くのかというと、意外にも自店の良さも問題点もよくわかっていない支配人や経営者が多いからなのです。
これまで、自店の風呂に入ったことがない社長とか、温泉は好きだけどサウナが苦手な支配人とか、何度も遭遇しています。そんなことがあるのって温浴業界だけなのではないでしょうか。
上場しているような大企業でも、自社で販売している商品や提供しているサービスをユーザー目線で経験したことがない経営者なんてまずいないと思います。
ところが、温浴業界ではそういうことが起きることがあるのです。遊休地活用などの不動産ビジネスとして温浴施設を開業し、オーナーの本業は別にあるような場合です。
所有と経営、運営が明確に分離されていれば問題はないのですが、そういった事業スキームや運営のプロといった概念が確立しきっていないため、成り行きでオーナーがそのまま経営者となり、風呂に入ったことがない人が経営判断しているようなケースがあるのです。
さすがにそれで適切な判断をし続けられるほど商売は甘くありません。
自店の施設とサービスにはとれだけの価値があるのか、もっとお客様に喜んでいただくにはどうしたら良いのか。それを知るにはまず自店を徹底的に利用してみることです。
実際に体験してみてしてみて何か問題を感じたら、どこをどう修正するべきか、対策は次々と浮かんでくるはずです。
そして「こんな素晴らしい施設を知らないなんて、習慣的に利用しないなんてもったいない!」と、心からそう思えるようになったなら、経営判断に迷うことは多くはないはずです。
そしてこれは従業員も同じです。自店のことを利用して、それが好きになれれば、自信を持って上手に売ることができるでしょう。
イイフロの日は、お客様にお勧めするのも良いのですが、自分たちがじっくり風呂に入ってみる日でもあると思います。
◆そこにマーケットがないなら
昨日から東北のある地域で、商圏内の全温浴施設の調査をしています。
特定の温浴施設を見るのと違って、大規模店から小規模店まで、繁盛している店もそうでない店も、民間施設も公共施設も、その地域のすべての温浴業態を見ると、いろいろなことを感じさせられます。
このあたりは人口密度が低く、各施設の商圏人口はおそらく1~3万人程度で、大型温浴施設が成り立つようなマーケットがありませんし、複数の施設が黒字でやっていくのも難しいことでしょう。
しかし、車で60分圏内に12軒もの温浴施設があり、ほとんどが古い銭湯業態か、公共温浴施設です。
フロントは大抵券売機か番台方式で、極力人件費を抑えた運営をしています。
結果論を言えば、こんなにたくさんの温浴施設を作るべきではなかったということなのですが、出店はそれぞれの事情や思惑があったのでしょうから、言っても仕方ないことです。
それよりも、この状況下で各施設に諦めに近い停滞ムードが漂っているのが気になりました。
ランニングコストを抑え、客数が少なくてもやっていけるようにしなければならない事情は分かりますが、そうやってマーケットの小ささを受け入れているだけでは、いずれ共倒れが避けられません。
同質競争で小さいマーケットを分け合うことよりも、マーケットが拡がるような方向を探らなくてはいけません。つまり①広域商圏への拡大か、②観光マーケットの創出、そして③業種付加です。それを実現するためのアイデアや経営資源はまだまだあるように思えます。
ランニングコストの抑制も、券売機で人件費を抑制するだけでは限界がありますし、マンパワーを失えば苦境から脱出する力もなくなってしまいます。
地域格差、大都市圏への一極集中という問題がしばしば議論になりますが、少なくとも温浴に関しては、地方でもやれることがまだあります。
添付の写真は泊まったホテルの大浴場から見える風景。こんなロケーションは都市部では望むべくもありません。
本当は都市部の人工的な温浴施設よりも、自然に恵まれた地方だからこそ、よほど人を生き返らせるような根本的な力があると思います。
◆風呂椅子のこれから
この夏、実家の母親が転倒して腰を痛め、一時期は歩行困難な状態にありました。
風呂に入るのも難儀するため、介護用の風呂椅子を入手したのですが、それを私も試しに使ってみたところ、実に具合が良かったのです。
椅子に座ったままシャワーを浴びたり身体を洗ったりしてみたのですが、どっしりと安定していてクッションの座り心地もよく、何より座面が高いので楽に座れます。
背もたれ、ひじ掛けがついていて、折り畳みもできて、座面高さが調整(32~42cm)できて、実に機能的です。
メーカー名を見たらパナソニック。さすがですね。
これまで一部の温浴施設などでも介護用の風呂椅子を目にしておりましたが、実際に使ってみると、普通の風呂用腰掛けとは全く別物であることにちょっとビックリします。
これからの高齢化社会を考えると、こういった介護用の製品の導入を考える温浴施設は増えてくるでしょう。
これまでは、高級志向の施設でたまに高さ40cmの腰掛けを見かけるくらいで、一般的な腰掛けは座面の高さが20~30cmのものが多くなっていました。
椅子の高さや形状によって、カランやシャワー、鏡の取り付け位置や面台の高さといったことが連動してきますので、洗い場の設計も見直さなくてはならなくなってくるでしょう。
いずれ温浴施設の洗い場全部を介護用の風呂椅子にしても良いのかも知れません。要介護の人でなくても快適なのですから。問題があるとすればデザイン的にまだちょっと馴染まない感じはありますが…。
浴場市場の取り扱い製品も、これからさらに幅を広げていく必要がありそうです。
◆情報の信頼性
最近、DeNAが運営するWELQの騒動からはじまって、ネット上の健康情報に対する信頼性が話題になっています。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mamoruichikawa/20161212-00065370/
アクセスを増やして儲けることを目的に、煽情的な表現やアクセスアップのテクニックを駆使して、真偽が定かでない情報を平気で拡散しているサイトがあるのは事実です。
では真実はどこにあるのかといえば、それは簡単に判別できることではありません。権威ある機関や人物から発信された情報であっても、ウソやインチキがないとは限らないのです。
温浴施設でも、健康に関する情報を発信することが多いと思いますので、この問題に関しては特に慎重であって欲しいと思います。
誰が書いたかも分からないようなネット情報を丸パクりなどはもってのほかですが、温浴施設は情報発信の機会が多いし、そこに関与するスタッフの人数も多いので管理は大変です。
大切なのは、元のネタがネット、大学の研究論文、昔から伝わる民間療法、クチコミ…何であろうと、自分達で確かめてみるということだと思います。
健康に関することなら自分の身体で人体実験。飲食なら食べてみる。売店ならその商品を使ってみる。そうやって効果や安全性を確かめ、実体験を伝えるということを原則にする限り、インチキ情報の伝搬に一役買ってしまうような事態にはならないはずですし、実感を伴う迫力ある言葉なら伝わり方も違うはずです。
私がこのメルマガに書くことも、できるだけ自分の目や身体で確かめてから書くように心がけています。
◆ギブ&ギブ
昨日スポットコンサルティングでお邪魔した温浴施設では、入館料にカラスの行水45分間コースの設定がありました。
カラスの行水とは、クイック入浴とも呼ばれますが、主に入浴のみで短時間の利用を目的とする人のために、1時間前後から最大90分程度の時間限定で、正規料金よりも安く施設利用できる仕組みです。
45分間という時間設定はこれまで見た中でも最短のような気がしますが、それでも利用者数が結構あるとのことでした。
時間がないけど、ちょっと汗を流してサッパリしたい、ちょっとだけでも温泉で温まりたい、といったニーズは確実にありますので、長時間滞在で館内全体の利用を想定した正規入館料をいただかずに、低料金で短時間利用できるというのはお客様にとっても施設側にとっても合理的な仕組みだと思います。
ところで、滞留時間と消費金額には一般的に正比例の関係があります。
施設側の視点で分類すれば、
(1)利用時間が短く、消費金額が小さいお客様
(2)利用時間が長く、消費金額が大きいお客様
という、それぞれ異なる特性を持った消費者がいるということです。
しかし、
(3)利用時間は長いのに、消費単価が小さいお客様
の存在を恐れすぎていたというのが、これまでの温浴業界かも知れません。
確かにそういうお客様もいないわけではありません。しかし、長く滞在していれば食事や飲み物、マッサージ、ゲーム、土産などにもお金を使うのが自然な消費行動で、そういうお客様の方が大多数です。
にもかかわらず、館内すべてのサービスを有料にして、滞在するならもっとお金を落としてください、と言わんばかりの運営スタイルが主流でした。いわばテイク&ギブ。先にお金を払う人にのみサービスを提供するよ、という考え方です。
それが徐々にギブ&テイク、これだけのサービスをするから、後でお金は払ってね、というスタイルに移行してきました。いわゆるキャッシュレス後精算方式です。この仕組みの登場によって、温浴施設の平均消費単価はかなり伸びることになりました。
そして、昨今注目されているのがギブ&ギブです。館内に無料で楽しめる場所やサービスをふんだんに用意して、楽しく快適な長時間滞在を促すスタイルで、
・多彩な無料休憩スペース
・フリードリンク
・マンガ喫茶並みの無料マンガコーナー
・無料インターネットコーナー
・無料マッサージ機
などが用意され、『カフェ型温浴施設』とも言われています。もちろん入館料はそれなりに設定されていますが、食事やマッサージなどの付帯部門収入がしっかりあるのです。
これは以前紹介したアメリカ最大の書店チェーンBarnes&Nobleの『座り読みし放題』に近いかも知れません。
先に無料でグッドサービスを提供することが集客力とお客様との信頼関係を作り出し、売上は後からついてくるという考え方です。
進んだ販促手法という捉え方をしている人もいますが、ギブ&テイクとギブ&ギブは思想が根本的に違うと思います。
ギブ&ギブという言葉は今から25年くらい前に舩井幸雄が書いた本の中に出てくるのですが、その先見の明にはあらためて感服しています。
◆諦めぬ者にのみ道は拓ける
先日ある顧問先でお正月のイベントについて打ち合わせをしました。
人が集まりやすい繁忙期にこそ強めの宣伝やイベントをぶつけて、さらに集客に拍車をかけ、同時に充分な顧客満足度も提供する。それがリピーターを増やして行くためのステップです、というのが弊社の基本的な考え方です。
ただでさえ忙しくなる繁忙期にいっそう激しく攻めましょうというのは、運営負担を考えれば過酷な方針かもしれませんが、逆に閑散期にジタバタしてもなかなか成果に繋がらないことを考えると、これは仕方のないことなのです。
お客様が多くて忙しいのは大変なことですが、嬉しいことでもあります。
施設にお客様が少なくてガラーンとしていたり、業績が悪く、赤字に苦しむことを考えれば忙しいのは嬉しい悲鳴です。
ただ、年末年始期間はスタッフの出勤確保が難しい時期でもあります。温浴施設運営の主戦力である主婦は、年末の大掃除やらお正月の準備やらで大わらわですから、そこでお客さんがたくさん来るからみんな出勤してくれ、と言ってもなかなか難しいものがあります。
その顧問先でも、私が餅つき大会、振る舞い酒、お年玉ロッカーなど定番のお正月イベントを紹介したところ、社長から「もっと人手がかからない系の案はありませんか?」という注文が入りました。
それはそれで充分に理解できる話ですので、じゃあその線で…ということでいくつか案を出しました。
「人手が足りなくて無理!」と言って終わらせずに、次善の策を考えるというのは大切なことです。
先日高視聴率で最終回を迎えたNHK大河ドラマ真田丸では、繰り返し「諦めぬ者に道は拓ける」という言葉が出てきましたが、世の中は簡単に思い通りにはならないものです。ダメでも次の手、また次の手…と勝利を信じて努力し続けることで、いつか道が拓けるのだと思います。
◆記録する
今年も今日を入れてあと4日。 今日あたりで仕事納めになる会社も多く、温浴施設は忙しくなってきます。
この時期、よくある電話が「今日は営業してますか?」というお問い合わせです。
年末年始は休業や営業時間変更になる店も多いので、せっかく行ってみたものの営業していないという目に遭わないように確認してくるのです。
さすがに繁忙期ですので、お休みする温浴施設は少なく、普段と変わらずだったり、むしろ営業時間延長ということもあります。
同じようなお問い合わせを何度も受けていると、受け答えする方も慣れてきて要点を的確に言えるようになってくるものですが、それは誉められたことではありません。
なぜ同じようなお問い合わせが続くのかを考える必要があります。
それはお客様が必要とする情報をうまく伝えられていないということです。
年末年始の営業でいえば、
・12月上旬から館内掲示板で表示
・チラシ等の広告物に記載
・ホームページのお知らせ欄に記載
・SNSやメルマガで告知
と言ったことがまだ充分でないから、お問い合わせが多いのではないでしょうか。
お問い合わせにひとつひとつ対応している時、電話に出ている人の生産性は上がりません。フロントのスタッフが電話に出る場合は、フロントにもう一人居ないと受付精算が滞ってしまいかねません。
さらに言えば、お問い合わせをしてくれるお客様はまだいいのですが、問い合わせるのも面倒だし、分からないから行くのを止める人だっている可能性があります。
この事ひとつによる生産性や集客のロスはわずかかも知れませんが、同様のお問い合わせはいくらでもあります。
「0歳の赤ちゃんでも入浴できますか?」
「入館料にタオルや着替えは含まれてますか?」
「ちょっとタトゥーが入っているのですが入浴できますか?」
「妊娠中なのですが入浴できますか?」
「○○インターチェンジからどうやって行けばいいですか?」
などなど。
同じようなお問い合わせが繰り返されるのは、その事に対するインフォメーションがまだ足りていないということです。
クレームに限らず、その場限りの対応で済ませるのではなく、お問い合わせ内容もノートに記録し、繰り返し起きていることはインフォメーションの方法を見直してみる。
一見些細なことのようですが、そういった細かい事の積み上げによって、生産性や集客は確実に変わってくるのです。
温浴マーケティングの視点
◆虹は何色?
現代では虹は7色と言われていますが、これには文化的な側面があります。時代や地域によって虹の色は2色から8色くらいまで、さまざまな捉え方をされていたようです。
本当はグラデーションですから無限に細かく分解することができますが、虹が絵具や色鉛筆のように24色とか36色あるいはそれ以上であると捉える人はまずいません。
バリエーションを数える時はだいたい指で数えられる範囲内にしておくということかも知れません。
どうしてこんなことを書いているのかと言うと、昨日ある都市型サウナで打ち合わせしている時にサウナと水風呂の温度設定の話になりまして。
そこのサウナにはヘビーユーザーが多いので、当初85度の中温に設定したはずikiサウナが、だんだんエスカレートしていつの間にか100度の高温サウナになっていて、さらにセルフロウリュ(お客様が自分でストーブに水かけ)までやるようになっていたのです。
私自身は熱いサウナは嫌いではありませんし、ヘビーユーザーの要求に応えるという意味でも激熱サウナも悪くはないのですが、サウナ初心者にはかなりハードルの高い店になってしまっていることは否めません。
施設のキャパシティさえ許すなら、温度、湿度、香り、デザインなどで様々なサウナのバリエーションを持てることができれば良いと思います。
しかし、限られた施設面積の中でたったひとつのサウナ設備をどう構成するかということになると、これは狙うべき客層ターゲットを考えながらひとつのコンセプトに沿って決めていくしかありません。
サウナのヘビーユーザーを重点的に集客しようと思うなら、100度設定+セルフロウリュ+冷たい水風呂という設定は一貫性のある施策であると思います。
「小規模専門店」はとんがっていくしかないのです。
ちなみに、日本ではあまり知られていませんが、ドイツのミュンヘン空港の近くに、ヨーロッパ最大級の温泉施設というふれこみのテルメ・エアディング(Therme Erding)があります。ここのサウナ室のバリエーションはなんと27種類!とても全部入ってじっくり汗をかいていることはできませんが、「大規模総合店」は行きつくとこういうことになるのか、とビックリです。
しかし、指の数を超えた選択肢は、圧倒されると同時にちょっとうんざりします。
・テルメ・エアディング(Therme Erding)ホームページ
http://www.therme-erding.de/en/
◆新規客と常連客
弊社事務所の近くに行きつけの飲み屋が何軒かありますが、その中の対照的な二軒の話を書きたいと思います。
二軒の規模は同じようなものですが、ショットバーA店は歌舞伎座近くのそこそこ好立地にあります。おでん屋B店は住宅とビルが混在するエリアの細い路地に面していて店があることを見つけるのも難しいような三等立地です。
一般論として有店舗ビジネスは立地8割と言われますが、いつもお客さんで賑わっているのはおでん屋B店で、ショットバーA店はお客さんゼロの時がしばしばあります。
両店の立地条件を逆転するほどの違いとは何なのでしょうか。
店として提供しているものはお酒とおつまみ。価格設定も似たようなものです。
最も違っているのは、お客さんへの接し方です。
A店は大人しめの若い女の子が切り盛りしていますが、オーナー人脈の常連客が多く、その常連が幅をきかせすぎ(それを良しとしている)で、馴染みの薄いお客さんに肩身の狭い思いをさせてしまうのです。
だから、新規客がなかなか定着しません。
B店は30代の明るい女性二人でやっています。やはりオーナーがお客さんを連れてやって来ますが、オーナー人脈、常連客、新規客いずれも分け隔てなく接しています。むしろ店にやってきて我が物顔で振る舞おうとするオーナーとは距離を置こうとしているように感じられます。新規客にも積極的に話しかけ、すぐにうちとけるのが上手です。
B店はまだオープンして3ヵ月ですが、リピーターが増え続けていますので、そのうちいつも満席でなかなか入れない店になってしまうかも知れません。
いつも言うことですが、店によって新規客とリピーターのバランスはいろいろであっても、どんな店にも必ず新規客はやってきます。その新規客を着実にリピーターにしていった結果が客数増であり、客数減とはせっかく来てくれたお客様を手放してしまった結果なのです。
一般に「上位2割のヘビーユーザーが8割の売上をつくる」と言われるくらい、常連さんの売上貢献は重要です。
一方で、常連さんは多少放置しても簡単には店を離れません。ところが来店歴の浅いお客さんはちょっとした理由ですぐに離れて行ってしまうのです。
どちらも大切にしなければならないのですが、それぞれどのように大切にするかの使い分けをよく分かっていないと客数増にはつながりません。
さて、温浴施設では?残念ながら、新規客とリピーターの区別すらない店がまだ多いのです。この問題もけっこう重要だと思いませんか。
◆体験で売る
「使用時体験」とか「試食」という言葉があります。これは小売店が商品を陳列しているだけではなかなか商品の良さを分かってもらえないので、実際に使ったり食べてみてもらうことで、納得してお買い上げいただこうという取り組みです。
商品の品質確認の場であると同時に、その体験自体がお客様を楽しませるコト=集客や滞留時間のアップにもつながっています。
モノが余り、大概のことは体験済みの時代ですから、購買意欲を喚起するのは簡単ではないということなのです。
T-SITEという、カルチュア・コンビニエンス・クラブが企画運営する商業施設があります。簡単に言うと、書店の売場(情報)と飲食や物販を融合させた店舗で、絵本コーナーの横に玩具売場があったり、料理本の近くにイートイン機能を持つ食料品店があったりするお洒落な店です。
書籍も売れにくい時代ですから、情報からモノまで、ライフスタイルを丸ごと提案して楽しんでもらおうという店づくりだと思います。
このように必死に知恵を絞る小売店に比べると、温浴施設の中というのは滞留時間が長い上にすべてが体験の連続ですから、館内体験に関連して購買行動につなげるという発想には、大きな可能性を感じています。
「入浴体験」とアメニティや健康美容関連、「休憩体験」と家具や寝具、「飲食体験」と食材などはすぐにつながってくるでしょう。
もちろん、いつも言っているように「飲食の素人が本格的に飲食店をやろうとすると苦労する」ということがありますから、物販も決して安易に考えることはできませんが、何らかの形で物販企業とコラボレーションができる筈だと思っています。
◆価格とは
しまむらが今期業績V字回復した理由は「値上げ」にあった、という記事。
http://toyokeizai.net/articles/-/112480
一方で牛丼チェーンでは豚丼復活で低価格路線に活路を見出そうとしているという記事。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20160406-00000046-jnn-bus_all
日本経済が低迷から抜け出せない中、企業は様々な戦術を駆使して業績を上げようと必死に試行錯誤しています。
マスコミはよく上記のように「価格」に焦点をあてた記事を書いていますが、私は「価格」とはもっと根本的なポリシーや戦略として位置付けられるものであり、安易に上げ下げするような性質のものではないと思っています。
自分達が提供する価値にはどれほどの値がつけられるのか。それを最終的に評価するのはお客様ですが、値段を上げ下げしても、元々の価値が変わっていないとしたら、業績が大きく変わるとは思えません。
しまむらが業績回復したのは値上げしたからではなく、もっと高品質な商品を提供しようという意志がお客様に伝わり、それが受け入れられたということだと思います。
そのような意志なく、小手先の戦術として価格を上げ下げしているだけでは、かえって不信感を与えるだけではないでしょうか。
内容が変わっていないのに、同じ牛丼が350円になったり290円になったり。安くなれば一時的にお客様は喜びますが、値段の上げ下げを繰り返すのみでは、最後は「本当はいくらなんだよ?」と価値に対する不信感が残ってしまうのではないかと思います。
価格というものを軽く考える最近の風潮が気になります。
まして、小売店が取扱商品の一部のグレードを変えたり飲食店がメニューの一部を変更するのと、温浴施設が入館料を変更するのは、影響度が全く違います。
温浴業界にも、「休日料金」とか「特定日料金」「シーズン料金」といった形で、需要に応じて入館料を変動させる考え方がありますが、正直に言うとそのような料金設定が良い結果につながっている事例を私はあまり見たことがありません。
一般的に休日の集客は平日の2倍近い水準になることが多いのですが、休日に料金を高く設定すると本来は休日に温浴施設に行こうとしているお客様の心理にブレーキがかかり、集客が2倍にならなくなります。
客数の平準化が狙いだとすれば確かに料金差をつけた効果が出ているわけですが、売上の最大化にはつながっておらず、むしろ逆行している可能性があるのです。
自店にとっての最適な価格設定とは。これは温浴施設にとって、非常に重たく大きなテーマです。
◆男女のキモチ
先日の震災をきっかけに、「東日本大震災の時に、支援物資として送られた生理用品が、『不謹慎』だという理由で、被災者に渡されなかった。」という話がちょっと炎上気味に伝搬していました。
事の真偽は定かではありませんが、ありがちな話ではあると思いました。
そのくらい男女はお互いのことを理解できていないようです。
そして男性主導の世の中ですから、物事は大概男性目線で仕切られています。
温浴施設も例外ではありません。
最近は女性支配人も少し増えてきた気がしますが、それでもおそらく支配人の8割以上は男性でしょう。
運営組織だけではありません。
施主も設計も施工も男性ばかりですから、温浴施設の作り方に女性の視点はなかなか反映されません。
象徴的なのが浴室の入れ替え方式です。和風と洋風などデザインを変えて日替りや週替わりで交代することでお客様を飽きさせないという理屈ですが、そんなことは施設を作る側の自己満足に過ぎません。
お客様は気に入ったお風呂に行くだけのことですから、和洋のバリエーションなどはどうでもいいのです。
例えば体格差。
一般的に浴槽の水深は60センチで設計されていることが多いのですが、これはどんな体格の人を想定しているのでしょうか。
洗い場の椅子や面台、鏡、シャワー金具の高さは?
サウナベンチの高さや奥行きは?
個人差もあるので難しい問題ですが、男女の平均身長は10センチも違うのです。同じ寸法で作ってそれぞれに最適になるとは思えません。
体格差以上に、洗い場や化粧コーナーの使い方も男女で全然違うはずです。
地味な話かも知れませんが、こういった配慮で顧客満足度を追求することは、建築コストにはあまり影響しません。
炭酸泉とか自動ロウリュといった最新設備を並べれば、それは全部建築コスト増です。
設備が進化するのはありがたいことですが、それにあまりにも頼りすぎると資金がいくらあっても足りません。
男女それぞれのキモチに寄り添ったハードとソフトのあり方とは。そこを追求することは、そんなにお金のかかることではありませんが、奥の深い世界だと思います。
◆子連れ客のキモチ
女性客対応とか子供客対応というと、すぐ女性向けメニューとかお子様向けサービス導入を連想してしまうことが多いのですが、本当は値段をつけないような地味な配慮こそ、お客様に安心や満足を提供することにつながると思っています。
中でも小さい子供と一緒に出掛けてきた子連れ客は、いろいろな不便や面倒を抱えて困っています。乳幼児は入浴不可とする温浴施設も少なくないので、乳幼児の入浴OKでしかも子連れ客に親切な配慮があれば、熱烈に支持してもらえるかも知れません。
ホテルやレストランの子連れ客対応を見ていると、温浴施設がサービス業として他業界にまだまだ遅れをとっていることを思い知らされます。
このままではいけないと、弊社のコンサルティングメニューには「女性客対応力アップ研修」があります。教材に使う館内チェックリストのサンプルは200近いチェック項目のうち40項目ほどが「子連れ客対応」となっています。(子連れが女性ばかりとは限りませんが)
例をあげますと、赤ちゃん向けサービスの事前告知。ホームページで授乳室、電子レンジ、お湯のサービス、離乳食メニュー、ベビーベッド等の有無が事前に分かれば、お母さんは安心して子供を連れて行ける場所だと判断できます。
子供がじっとしていない子連れにとって、入館時にフロントで何か言われても、聞き逃してしまうことが多いものです。口頭だけではなかなか伝わらないので、重要なこと、または細かな注意事項等は1枚の紙にまとめておき、手渡すと喜ばれます。
以前、まだ小さかった娘をつれて日帰り温泉の草分けである箱根の天山湯治郷に行った時、板の間の木が一部ささくれていたようで、その棘が娘の足の裏に刺さってしまいました。すぐに抜き、たいした傷でもなかったのですが、再発防止の意味もあるので一応スタッフに伝えたところ、すぐに救急箱を持ってきて怪我の処置をした上に、近隣の病院連絡先一覧が記載された紙を渡してくれたのです。
さすがは天山、とうなってしまいました。こんな配慮の積み重ねが女性ファンを増やすのでしょう。
エステでスリミングキャンペーンをやったり、レストランでお子様ランチを出したりデザートメニューを強化してみたり。そうやって女性客や子供客をもっと取り込みたいと考えているなら、直接売上にならないような気配りやサービスもぜひ考えてみてください。
有料のサービスは内容がしっかりしていて当たり前。値段のついていない気配りにこそ、お客様は感動するのです。
◆集客の法則
今日(2016年5月6日)は連休狭間の平日。
とはいえ、電車の中も道行く人もいつもとは少し違う顔ぶれ。やはり今日も休みをとって大型連休を楽しんでいる人は多いようです。
今年のGWは三連休+三連休+二連休となってピークになりやすい連休中日が2日しかないので、温浴施設の集客には今ひとつかな?とも思いましたが、人によっては連休中日が8日間もあるわけですから、この期間通じて集客ペースはかなり底上げされてくるのかも知れません。
連休中日がピークになりやすい理由は、普通の土日を見ていると分かります。
週休二日制が主流になったとは言え、土曜日の午前中の集客はそれほど多くありません。前日まで働いていて、土曜の午前はゆっくり寝ていたい人も多く、動き出しが遅いということなのでしょう。
同じように、日曜日の夜は引けるのが早くなります。明日からまた仕事だ、ということであまり遅い時間まで遊んでいると月曜日からの活動に差し支えると考えるためでしょう。
このようなことから、普通の週末は休日とはいえ朝から夜まで何も考えずに温浴施設でのんびりすることはできず、市街地や郊外立地の場合は平日の2倍程度の集客となります。土曜日よりも日曜日の方が若干多くなることが多いようです。都心立地や観光立地はそれぞれ特殊な条件があるため、一概には言えません。
同様に市街地や郊外立地では、前後を休みに挟まれた連休中日だけが朝から夜まで完全に休日の集客パターンとなるため、平日の3倍近い客数となるのです。
この平日:休日:ピーク日の集客パターンを『1:2:3の法則』と呼んでおり、このパターンに当てはまる温浴施設は非常に多いです。
ところが、休日料金などを設定すると、このパターンが崩れます。1.0:1.5:2.0といったパターンになって、休日の集客にブレーキがかかってしまい、休日料金で客単価アップして稼いだつもりが、客数減によって実は売上チャンスを逃していることがあるのです。
休日の売上チャンスを逃すというということよりも、お客様の自然な消費行動心理に逆らうような価格設定をすることは、長い目で見て決してプラスにならないと思います。
多くの人にとって時間があり、普段と違うことをしてみようと考えるのが休日。温浴施設にとっては新規集客や足の遠のいたお客様を呼び戻すチャンスになります。そのタイミングで料金を高くしていることは、結局新たなリピート客を定着させる機会を一部放棄してしまうことになるのです。
客数変動が大きくなるとシフト編成をはじめとして運営負担が重たいので、集客を平準化したくなる気持ちは痛いほど分かりますが、お客様あってのサービス業。お客様の消費行動に合わせて商売させていただくのが原則だと思います。
◆浴槽の温度差
かつて、多彩なジェットバスを組み合わせてお風呂の種類を増やし、「○種類のお風呂」がスーパー銭湯の定番のキャッチコピーだった時代がありました。
しかしそれは長くは続かず、ハイパワージェットの登場あたりでジェットノズルの新製品開発競争は一段落し、以降は源泉かけ流しや炭酸泉へと消費者の興味が移っていきました。
ところで、浴槽の温度差バリエーションを謳った施設はあまり多くありません。
温度差のある浴槽を何種類か用意して宣伝したとしても、「それはぜひ入ってみたい!」と思わせるインパクトはないでしょう。
風呂の温度は一見地味な要素ですが、実際には入浴の満足度にかなり重要な影響力を持っています。
一般的に子供は熱い風呂が苦手で、年寄りになると熱い風呂を好む傾向がありますが、好みには個人差がありますし、体調によっても適温は違うようです。
あまり熱くすると入れない人もいますし、気温との温度差が大きい時期は血圧の急変によって体調不良を訴える人が増えたりと難しいところもありますが、熱い風呂に少々我慢するくらいまで入って身体の芯まで温めるのはサウナと同様に爽快感があり、私はどちらかというと熱つ湯派です。
またこれからの季節は、体温と差がない不感温度浴槽で長湯するのも人気があります。
いずれにしても、浴槽に温度差をつけて好みや体調、目的に応じていろいろな入浴法が選択できるということは、浴槽がひとつしかない家庭では実現しにくいことなので、複数の浴槽があるならぜひ挑戦していただきたいところです。
濾過循環系統が分かれているのなら、温度設定ひとつでいかようにも調整できると思いますが。大浴槽ひとつだったり、複数浴槽が連通管でつながっている場合は、浴槽内に仕切りを入れて低い位置の湯しか通らないような穴をあけることでも温度差を実現できます。
この方法をはじめて目にしたのは箱根の天山でしたが、昨年ナステビュウ湯の山の高橋社長にこのお話しをしたところ、早速自店の大浴槽に自作の木製仕切りを入れて、ひとつの浴槽で熱つ湯とぬる湯を作り出しました。
(高橋社長のブログ)
http://yunoyama.jp/blog/mikio/nasuteview/10301/
泉質も素晴らしいナステビュウ湯の山ですが、なんでもやってみようという積極性とスピードこそが最大の強みですね。
◆気になる電子タバコ
最近、飲み屋などで電子タバコを吸う人を見かけることが増えていきました。iQOSとかPloomTechという商品名で販売されています。通常のタバコのような煙や臭いがなく、それでいてタバコ愛好家にとってはそれなりに吸いごたえがあるとか。
喫煙者にとっては肩身の狭い世の中になっていましたので、もしかすると一気に普及するのかも知れません。
しかしこれまでの禁煙・分煙の流れからすると、非喫煙者の中には電子タバコであっても許せない!と言う人が出てくるでしょうし、店内での電子タバコの扱いをどうするのか、店としての判断は難しいところです。
世間一般としての電子タバコに対する評価や禁煙・分煙の扱いがはっきりしてくるまで、もう少し時間がかかると思いますので、それまでの間の対応方法については話し合っておく必要がありそうです。
・電子タバコの選び方
http://www.icevape.biz/
・話題の臭くない煙が出ないタバコ『IQOS(アイコス)』を試してみた!
◆エンターテイメントと温浴
先日お取引先の人と飲みに行った際に、マジックバーに行ったという話を聞きました。
タネがまったく分からないほどレベルの高いマジックに驚いたという話だったのですが、ふと「温浴施設でマジックショーをやっているところは?」と思い、スマホで検索。
以前から、プロのマジシャンを呼んでマジックショーの開催をしている例は知っていたのですが、やはりあるんですね、マジック銭湯。店主が世界的なマジシャンという東京中野区の昭和浴場さん。
http://www.1010.or.jp/mag-tokyosento-showayokujyo/
昔、商業施設の仕事をしていた頃にエンターテイメント型ショッピングセンターの研究をしたことがあります。当時エンターテイメント型SCの代表格といえばラスベガスにあるザ・フォーラム・ショップス。世界最高水準の賃料でもテナントが出店待ち状態でした。
http://www.lvtaizen.com/sight/html/forum_shops.htm
視察に行って見てきた感想はとにかく素晴らしかったの一言なのですが、あえてまとめるなら、「空間づくりから商品・サービスのすべてがエンターテイメントに徹している」ということでしょうか。
『エンターテイメント』にはぴったりくる日本語訳がなく、「楽しませてくれるもの」というような曖昧な解釈になってしまうのですが、フォーラムショップスはまさしく、観て楽しい、触って楽しい、食べて楽しい、買って楽しい、参加して楽しい、居るだけでも楽しい、というエンターテイメントに徹した店づくりです。
生活に必要な買い物をすることと、楽しむことは一緒になりにくく、それらを安易に混在させても中途半端になってしまう可能性が高いので、エンターテイメントをコンセプトに掲げるならそれに完全に徹しなくてはならない、ということを当時学びました。
温浴施設が得意とする『美・健康・癒し・くつろぎ』とエンターテイメントは、そのまま混在させるだけだとコンセプトが衝突してしまい、それぞれの価値が生きてこない可能性が高そうです。やるなら本気でエンターテイメントに徹することが必要でしょう。
◆塩の話
以前ドイツに視察に行った時は数々の驚きがありました。
サウナ文化と技術の深さはもちろんのこと、アウフグース、男女混浴サウナなど、驚きの連続だったのですが、もうひとつ強烈に驚かされたテーマがあります。それが「塩」です。
岩塩鉱山を活用したエンターテイメント施設Salz ZeitReiseでは珍しい塩や岩塩鉱山の話、塩関連商品の物販など日本では見たこともない世界が広がっていました。
そしてインハレーション。塩の微粒子を含んだ空気を吸い込むことが呼吸器系の健康改善に役立ち、医療行為にもなっていること。
塩に囲まれた空間でくつろぐことで健康改善を図るHaller Salzgrotten。
さらに、温浴施設内でもアウフグースと塩の組み合わせ。
塩にはこんなにも深い世界が広がっていたのかということを知りました。
日本は四方を海に囲まれ、塩と馴染みが深いはずだったのに、近年は塩の大切さを少し忘れてしまっているようです。
減塩商品が健康的だともてはやされ、ミネラルを失った塩化ナトリウムが販売されています。
最近は塩サウナを導入する温浴施設も増えてきましたが、もっと多くの温浴施設で塩の素晴らしい効能を広めてして欲しいと思っています。
温浴施設にできる一番手軽な方法が「塩もみ」です。塩もみとは、塩サウナと同様に身体に塩をこすりつける行為のことですが、常温の浴室内でやっただけでもびっくりするほど肌の状態が変わります。
使用するのは25kgの大袋で1000円程度の並塩ですから、ランニングコストも心配するほどかかりません。
これを壺などに入れて、お客様が自由に手に取れるように設置するだけです。あとは塩もみのやり方と、塩を落としてからサウナや浴槽に入ってね、ということを書いたPOP。
山盛りの塩を手に取って体に塗りたくるということは、自宅にある食用の塩ではなかなか思い切ってできません。温浴施設ならではの醍醐味のひとつとなるでしょう。
コストもたいしたことなくて、すぐに始められて、お客様が喜んでくれる。なんで塩もみがもっと普及しないのか、不思議なくらいです。
【ブログの過去記事】
「塩にまつわる話(ドイツ視察4日目)」
http://blog.aqutpas.com/2010/11/post-4187.html
「塩のエンターテイメント(ドイツ視察4日目の続き)」
http://blog.aqutpas.com/2010/11/post-6b59.html
「しつこく塩の話(ドイツ視察4日目の続き)」
http://blog.aqutpas.com/2010/12/post-8dc4.html
◆会員制度のこれから
温浴施設の固定客化手法といえば、回数券やスタンプカードといった昔ながらのアナログ的手法と、会員カードを発行しポイントなどの特典を付与する会員制度に大別されます。
会員制度はポイント制等によってきめ細かな会員特典をつけたり、顧客データを分析して営業方針に活かしたり、さらにDMやメール等による会員とのコミュニケーションができるなど、大きな可能性を持っています。
しかし、これまでの温浴業界では会員制度のメリットをあまり上手に活用できていなかったと思います。
その理由は、
・カードに記入してもらった会員情報をデータ化する負担が重い
・データ分析の技術が不足
・会員情報をどのように販促に役立てるかというノウハウが不足
・会員数が多くなるため、DM販促費が大きくなる
といったことで、多くの現場で会員情報が活かされることなく、会員カードは繰り返し使える割引券でしかないという状態に陥っているのを見てきました。
ひとことで言えば温浴施設は抱えている顧客数に対して事業規模や利益額が小さいため、顧客管理という仕事に手間と費用が回らないという事情だったと思います。
ところが最近のIT技術の進歩によって、今までのように大きな手間やコストに悩むことなく、会員制度に取り組めるようになってきました。
第一のハードルである会員情報のデータ化は、
・店頭でお客様自身がタブレットを使い入力(手書き入力可能)
・入会時にその場でカードとポイントを発行し会員情報はお客様自身が後でネットから登録(登録しないとポイントが行使できない)
といった方法で解決されており、スタッフが日々データ入力したり、まとめてデータ入力を外注したりといったことはもうなくせるのです。
分析技術や販促ノウハウは出来の良いクラウドシステムがサポートしてくれるようになりつつありますし、最後のDMコストもメールやSNSを使ったコミュニケーションでかなりの部分をカバーできるようになってきたので、通信手段がハガキや封書しかなかった時代とは様変わりしています。
飲食、美容室、エステ…温浴に近い業界では一足早く経営のIT化の波が来ています。温浴業界もこれからです。
◆雨の日サービス
沖縄から関東甲信までが梅雨入りとのこと。雨の日に客足が伸びる温浴施設は多いようです。
雨だと遠出したくない、洗濯などの家事もはかどらない、アウトドアレジャーが楽しめない…などの理由でしょうか。
雨で自然に客足が伸びるとしたら、売れるときにもっと売るという原則から言うと攻めるチャンスです。
以前お手伝いした施設では「雨の日には飴をプレゼント」という駄洒落企画をやっていました。
大きなインパクトではないですが、雨が降ったときに「そうだ、あのお風呂屋さんでも行こうか」と思い出してくれるきっかけにはなるかも知れません。
一般的に6月は売上的に冴えない季節。ささやかなことでもいいので、雨にからめた販促を何かやってみてはいかがでしょうか。
◆男女子供比率
国勢調査の性別年齢別人口を元に、3歳以下の乳幼児を除外して構成比を確かめてみました。
結果は男性44%、女性48%、子供(4歳から小学生)8%。
私がこれまで多くの温浴施設の男女子供比率を見てきた感覚とほぼ同じ数値です。年齢や性別で特に意図した集客をしなければ、大体このようなバランスになっています。
それだけ、温浴施設は老若男女に広く愛されているとも言えますし、温浴施設にはターゲティングという考え方がないとも言えます。
しかし、これから先は変わってくるかもしれません。
差別化のためには、他の業種と同じように特定の客層や利用動機への対応力を高めた業態が増えてくると予測しています。
万人受けを目指すと、万人から中途半端に見える。先進事例を見ているとそういう時代になりつつあるのを感じます。
◆新型たばこの扱い
先日「気になる電子タバコ」という記事を書きましたが、この問題がニュースでも取り上げられるようになってきました。
大手コンビニや駅売店が販路になっているので、猛烈な勢いで普及しています。今は品切れ状態で行き渡らないようですが、いずれ製造が追い付けば新型たばこを使う人を目にする機会が増えてくるでしょう。
想像通り、これまで条例で路上喫煙などを禁止してきた自治体の新型たばこに関する対応が割れているようです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160610-00000026-mai-soci
私自身もiQOSを試してみましたが、見た目ケムリ(水蒸気)は出ますし、若干はタバコ臭というか焦げ臭がします。喫煙者からすれば、火をつけるタバコとは全く違うものですが、吸わない人から見ればタバコに違いありません。
仮に館内やレストランなどでiQOSなどを吸えば、周りで苦情を言う人が出てくる可能性は高いと思います。
普通に考えれば「新型たばこも喫煙コーナーや喫煙室でご利用ください」ということになるのですが、ここで新たな問題が出てきました。
電子タバコを使っている人にとっては、普通のタバコのケムリや臭いは吸わない人と同様にかなり不快に感じるのです。
非喫煙者にとって、喫煙室に染みついた臭いやモクモクの煙は到底耐えられないものですが、新型たばこ利用者にとってもそれに近い不快感になると思われます。
これまで、自分も煙と臭いを出してるんだから我慢してね、とばかりに環境の悪い喫煙室が多くありましたが、もし普通のタバコと新型たばこを同居させるとしたら、喫煙室の環境改善を図らないと、お客様の不満が膨らみそうな予感がしています。
まだ日本の喫煙人口は決して少なくありません。喫煙室の換気はもちろん、消臭効果のある壁材、オゾン、光触媒、アロマ、灰皿にコーヒー豆…いろいろな対策を組み合わせればかなりのレベルまで環境改善は可能ですので、ご検討ください。
◆キッズコーナーに
ファミリー客の利用を意識した温浴施設にはキッズコーナーが作られていることが多いです。
このキッズコーナー、床やクッションマットを敷き詰め、子供が楽しめるように玩具などを置いたり、DVDプレイヤーでアニメなどを流したりといろいろ工夫されています。
私がこれまでいろいろ試した中でとても良かったのがロディの乗り物玩具です。小さなお子さんに喜ばれ、耐久性があり、安全です。積み木などの固いモノは元気のよい子が投げたりして危険なので、柔らかいロディだと安心して遊んでもらえるので、おススメです。
・ロディ(カラーバリエーションあり)
◆夏近し!
今日は 2016年6月13日です。先日は梅雨の晴れ間の真夏日となりました。今年も暑い夏がやってきます。
この時期だからこそ、温浴施設として積極的に発信して欲しい情報があります。それは「熱中症対策」「冷房病対策」「紫外線対策」「快眠対策」の4つです。
・熱中症対策
晴れた日にはニュースで熱中症の危険性が繰り返し伝えられるようになり、外出を控えさせるような呼びかけすらするようになりました。余計なお世話と言いたいところですが、体温調節機能がうまく働かなくなった人が増え、熱中症で倒れてしまう人が増えているのも事実です。
人間の身体は体温が上がりすぎてしまった時、自律神経の働きで末梢神経を広げ、皮膚に多くの血液を流れ込ませることで熱を対外へ放出します。また、発汗も体温を下げる仕組みの一つです。汗が蒸発するときに、身体の表面から熱が奪われます。
このような体温調節機能が、高温の環境下に長時間いることでうまく働かなくなってしまうことがあります。すると体内に熱がこもったり、急激に汗をかくことで体内の水分・塩分が奪われたりします。これが全身に影響を及ぼし、痙攣、めまい、湿疹、頭痛、吐き気など多くの症状をあらわすのが熱中症です。
日頃から温浴施設で身体を温めたりサウナで汗をかくことを習慣にすることで、体温調節機能がしっかり働くように鍛えていれば、熱中症にはかかりにくくなります。
・冷房病対策
熱中症が怖いからと、いつもクーラーをきかせていると、今度は冷房病のおそれが出てきます。気候によって血流や発汗を調整している自律神経が失調となり、鼻水やのどの痛み、頭痛といった風邪に似た症状から、全身の冷えやだるさ疲れやすさ、食欲不振や下痢などの消化器障害、イライラ感、肩こり、腰痛、肌荒れ、生理不順など様々な体調不良につながってしまうのです。
冷房病対策は冷えた身体を芯から温めることと、乱れた自律神経を整えること。そのためには温浴や温冷交互浴が効果的なのです。
・紫外線対策
日に焼けた小麦色の肌は健康的に見えますが、紫外線には多くの弊害があることが指摘されています。紫外線対策として日焼け止めなどのUVケアをすることはよく知られていますが、実はちょっと熱めの風呂に入って体内にヒートショックプロテインが増えている状態だと、紫外線を浴びても皮膚にダメージを受けにくいということが明らかにされています。
http://news.mynavi.jp/news/2012/08/08/011/
・快眠対策
寝苦しい夜が続くと、疲れがとれず体調もすぐれません。かといってクーラーつけっ放しでは電気代が上がるし冷房病も心配。そんな時に副作用のない最高の睡眠薬となるのがサウナ&水風呂です。
熱いサウナで加温された状態から水風呂で一気に冷却することで交感神経が急激に刺激され、血管から毛穴まで引き締まった緊張状態となります。しかしその後ゆっくりと休憩タイムをとることで緊張の反動から深いリラックス状態となります。このリラックス(弛緩)している時間が自律神経を整え、ストレス解消や不眠症の改善、疲労回復などに有効なのです。
四季折々の変化に合わせて、温浴施設が果たすべき役割(利用法)は変わります。ぜひこのことを積極的に発信していただきたいと思っています。
◆温浴ビジネスとポイントカード
仕事柄たくさんの温浴施設で会員になっています。しかし私の財布にもキャッシュカードやクレジットカード、交通系マネーカード、免許証など様々なカードがあり、とても全てのカードを持ち歩くことはできません。
ポイントカードが好きな人は専用のカードケースにぎっしり入れて持ち歩くそうですが、それはそれで大変なことだと思います。
いろいろな企業や店舗が争って顧客の囲い込みを狙った結果、一人が何十枚もの会員カードを所有することになり、優先順位の低いカードは財布の中に残ることができなくなってきているのです。
そのような時代に、温浴施設の会員カードはどう扱われていくのでしょうか。
以前から、温浴施設が会員制度を上手に活用するためには
1.会員情報のデータ化
2.データの分析技術
3.データの活用ノウハウ
4.DM販促コスト
という4つの大きなハードルがあり、これをイチから自前でクリアしていくとなると大変ですが、既に世の中にある仕組みを活用すればスピーディーに進めることができるのではということを書いています。
この「既に世の中にある仕組み」とは、実はTポイントカードのことです。
Tポイントは一番支持されている共通ポイントシステムで、国民の約半数がアクティブユーザーです。TSUTAYAにはじまったこの仕組みは、今やファミリーマート、ドトールコーヒー、ENEOS、すかいらーくグループ、トヨタなど全国展開の大手企業が次々と加盟し、今や第二の通貨になりつつあると言われています。
しかし実際はまだ導入期であり、本格的に普及し活用されるようになるのはこれからです。
最近、実際に温浴施設でTポイントを導入して積極的な活用に取り組んだ結果、いろいろなことが分かってきました。
結論から言えば、Tポイントは温浴施設の客数・客単価アップに顕著な効果が認められ、充分な費用対効果があります。
しかし、他の業界ではまだTポイントをどう活用すれば大きな効果を上げられるのかを模索しているところも多く、先行メリットを享受するためにはどうやら今が絶好の参入チャンスのようです。
現在、温浴施設向けにTポイントシステム導入の説明資料を準備中です。ご興味ある方はこのメルマガに返信する形でご一報いただければ、資料ができ次第優先的にお送りします。
◆野草風呂
浴槽に様々な入浴剤やハーブ等を入れることで白湯にはないバリエーションを作り出し、色や香りを楽しむことができます。
色や香り、設備への影響などで安心して使用できるのは業務用の入浴剤ですが、本物の植物を使うこともおススメです。
にっくき雑草と言う人もいますが、古来から薬草として使われているヨモギやスギナなどの植物が意外と身近に生育していますし、調べるとそれぞれ面白いウンチクがあります。
何よりも人工的な入浴剤ではなく植物を使用していることは、本物感、季節感が伝わり大変喜ばれます。
生の茎や葉を浮かべると見た目は良いですが、散らかったり濾過器に影響が出たりしますので、縛って束にしたり洗濯袋に入れるのがいいでしょう。また、乾燥させたり煮出したりすることで効果的にエキスが抽出できることもあるので、いろいろな方法を試してみていただければと思います。
・ヨモギ湯
http://yakusourabo.info/yomogiyu/
・スギナ湯
http://blogs.yahoo.co.jp/costarica0012/26160599.html
・どくだみ湯
http://kenkoubiyou.blogspot.jp/2014/10/blog-post_13.html
◆割引率の話
先日ご紹介したTポイントカードの話の続きですが、Tポイントの付与は基本として200円に対して1ポイントです。つまり0.5%を付与していることになります。そしてポイント2倍とか5倍を効果的に打ち出しています。
これまで見てきた温浴施設のポイントカードを思い浮かべて、一般的に1〜5%くらい付与しているケースが多いようです。ポイント制でない場合は50円〜数百円の割引も常態化しています。
ポイント5%というのはTポイントで言うところのポイント10倍のことですし、入館料1,000円から100円割引くのはポイント20倍と同等です。
そう考えると、これまで温浴業界の販促手法がいかに乱暴であったかを思い知らされます。
本当はもっと少ない販促コストで大きな成果を上げることができるはずなのです。Tポイント導入が、そのようなことの見直しのきっかけになるかも知れないと思っています。
◆温泉の価値
先日、勉強会の参加者にこんな質問をしてみました。
「もし自店のお湯が天然温泉でなかったとしたら、同じ設備・同じサービス内容で、入館料はどうすれば受け入れられると思いますか?」
その答えは入館料を約2〜3割値下げすれば…という意見でした。
続けて、「その値下げをすれば、今と同じくらいのお客様が来てくれそうですか?」と聞くと、それは難しいかも…という反応でした。
世の中には天然温泉でない温浴施設もたくさん存在しているのですが、温浴施設の現場では「天然温泉」の看板の威力をしっかり実感しているようです。
ところで、その威力充分な「天然温泉」の価値とは何なのでしょうか。
地下○mから湧き出す大地の恵み、太古の湯、天然のミネラル…いろいろな神秘的表現がありますが、天然温泉の価値を誰にでも分かるように明確に説明するのはとても難しいことです。
過去にも書いていますが、水温が25℃以上か、指定成分が一定水準以上含まれていれば天然温泉である、という現在の温泉法の定義はよく考えるとおかしなものです。
ボイラーで25℃以上に昇温した井戸水や水道水と何が違うのか、成分を入浴剤として投入するのと何が違うのか、合理的な説明は何もありません。
何事にも基準がないと猫も杓子も天然温泉を名乗ってしまうおそれがあるということなのかも知れませんが、温泉法の定義によって「天然温泉」のお墨付きを得るということが、結果的に物事の本質を見誤る原因になってしまっているような気がするのです。
温泉に価値がない、と言っているのではありません。むしろ温泉の素晴らしさを実感しているからこそ、いまの「天然温泉」の扱いに違和感を覚えるのです。
言い方が悪いかも知れませんが、天然温泉の看板にあぐらをかいている今の状態はオカルトビジネスと五十歩百歩ではないでしょうか。
オカルトビジネスと書いていて思い出しましたが、いま「水素水」が強烈なバッシングにあっています。健康改善効果の確認できず、といった記事が続々と報道されていて、まさにオカルトビジネス扱いです。
私は飲用や浴用水の酸化還元電位の違いが人体に影響を及ぼす可能性は大いにあると考えています。熱帯魚鑑賞の世界では酸化還元電位の調整が有効であることはよく知られています。水槽の水が不適切な状態だと魚が死んでしまうのです。人体もそれと同じように水の状態に影響を受けると考えた方が自然です。ここまではオカルトでも何でもありません。
水素によって酸化還元電位が下がることは分かっていますので、もし人体に影響を与えるとしたらどのような方法が良いのかを総動員で研究すれば良いのに、あまりにも感情的に水素水ブームがおとずれ、今また感情的にインチキだオカルトだとバッシングをしているのはどうなのかなと思います。
そして水素水と同様に、温泉の価値に関する科学的なアプローチも法的整備もまだまだ未熟であるという前提に立たなければ、いつか天然温泉が強烈なバッシングにあう可能性も否定できません。
神秘的な表現や公的なお墨付きに頼るのではなく、提供する温泉自体の本質的な価値をもっと高めることと、現場で得た知見で理論武装すること。それがこれからの温浴事業者に必要な姿勢であると考えています。
◆温浴とグランピング
「グランピング」という言葉をご存知でしょうか?
グラピングとはグラマラス(glamorous)とキャンピング(camping)を掛け合わせた造語です。
今日の日経新聞でも紹介されていましたが、「キャンプに興味はあるけれど、火おこしやテント設営が大変、トイレが気になる、虫が嫌」と敬遠する人は少なくありません。
そんな人向けに面倒な悩みを解消した手軽で豪華なアウトドアレジャー「グランピング」が欧米で流行し、日本でも広がりはじめています。
温浴施設でもこの「グランピング」をコンセプトに掲げる事例がいくつか出てきました。
外気浴や日光浴を楽しみながら屋外での食事やリラックスタイムを過ごすのは、とても魅力的だと思います。温浴施設がやるならそこに温浴という要素を加えたらもっと素晴らしいものになると思います。
足湯、ビニールプールを使ったゲリラ露天風呂や水風呂、テントサウナなどがあれば、他の業界が追いつくことのできないレベルにできるのではないでしょうか。
フィンランドではグランピングの際には当然のようにサウナが設置され(サウナテントやサウナカーなど)、バーベキューやおしゃべりと共にサウナを楽しむのだそうです。
日本でもそんな温浴の楽しみ方が普及したら嬉しいですね。
◆埋蔵金発掘のチャンス
先日からご紹介しているTポイントの話の続きです。
コンビニ、コーヒーチェーン、ガソリンスタンド…と大手チェーンを中心にTポイントを導入する店が増え、精算時にカードを提示する機会が増えた結果、全国で日々たくさんのTポイントが付与されています。
ところが、「いま○○ポイント溜まっていますが、使いますか?」と溜まっているポイントの使用を促すトークを聞くことはほとんどありません。これらのチェーン店はセルフサービスだったり、レジが忙しかったり、アルバイトスタッフの教育が不十分であったり、いろいろな理由からできていないようです。
Tポイントカードに溜まったポイントを自店で行使させると、そのポイント分の金額がそのままTポイントシステムから還元されます。(これ重要です)
ところが、上手に使わせることができていない店が多いことによって、現在莫大な金額のポイントが使われずに滞留しているのです。(ここも重要です)
大手チェーンがコツコツとお客様に付与してきたTポイント。これが埋蔵金です。
本当はポイントというのはお金と一緒なのですが、消費者にとってポイントの行使はお財布から現金を支出するよりもずっと心理的ハードルが低いものです。例えば温浴施設で、「いま○○ポイント溜まっていますが、当館の優待券と交換しますか?」と一言添えれば、比較的容易にポイントの行使に応じることでしょう。
行使させたポイントは売上と同じですから、こうして温浴施設側はTポイントカードをきっかけに客単価を大きく伸ばすチャンスが生まれるのです。
これを知っている店はまだ少ないようです。温浴業界に限ればほんのわずかです。
この埋蔵金状態がいつまで続くのか、分かりません。早い者勝ちになるのかも知れません。
これも弊社が「Tポイントを始めるなら今がチャンス、皆が導入した後に導入を検討してもうまみは少ない」と言う理由のひとつです。
◆ポケモンGO配信はじまる
最近世界各国で人気沸騰中のスマホゲーム「ポケモンGO」が2016年7月22日より日本でも配信されています。
あまりの人気で関連株価が急騰したり、事故などの社会問題になったり、とにかく注目されています。
これだけ話題になっているのですから、どんなものか確かめておく必要があると思い、早速自分のスマホにもインストールしてみました。ちょっとやってみただけですが、確かに面白そうです。
もしかしてこれが集客ツールにもなるのでは?と思ってちょっと検索してみたら、実際にそういう使い方があるようですね。
http://jp.reuters.com/article/angle-pokemon-go-marketing-idJPKCN0ZU0KY?sp=true
まだスタートしたばかりなので全容は未解明ですが、こういった新しいことは食わず嫌いにならずに、とりあえずどんなものか自分自身で確かめてみるといいと思います。
好きになれなければ仕方ありませんが、もし興味が湧いて来たら深堀りしていくと、その先に新しい世界が広がっているかも知れません。
これはゲームに限った話ではなく、趣味や人脈が思わぬところで仕事とつながることは珍しくないのですから。
◆夏休み突入、本日の集客は?
今年の7月は選挙や天候に翻弄され、例年よりも集客に苦戦する温浴施設が多かったのではないかと感じています。
そして今日は夏休みに入って最初の週末。これまでの分を取り戻すべくペースアップに期待したいところですが、ちょっと心配な出来事があります。
それは昨日書いた「ポケモンGO」の爆発的ヒットの影響です。
昨日、今日と街にはスマホを手にして歩く大人や親子連れがものすごく多くなっています。みんなやっているのはポケモンGO。ちょっと異様な光景です。国内リリースが昨日になったのはやはり夏休み突入のタイミングを見計らって満を持しての投入なのでしょう。
かつて、これまで多くの人を巻き込んで一気に盛り上がったゲームはなかったと思います。人気ゲームというより、一大社会現象というべきかも知れません。
私自身も昨日の続きで、娘と一緒に街に繰り出しゲームを楽しみました。一番驚いたのはマクドナルドの様子です。
最近の不祥事やバッシングもあって集客の冴えなかったマクドナルドですが、今日は満席になっていました。
マクドナルドは全店舗がポケモンGOのイベントを楽しめるスポットになっています。ゲームユーザーはその場所に行くことでゲームを楽しむので、自然と集客につながるという仕組みです。マクドナルドはこれを企業対企業の契約で実現しています。
これだけ人の動きに影響を及ぼしているということは、普段だったら人が集まるはずのところに行っていない可能性もあります。それで、今日以降の温浴施設の集客はどうなのか?と気をもんでいるのです。
今回マクドナルドがポケモンとの提携したことは大成功だと思います。しかし、単独店でもそのノウハウは応用できそうです。
自店あるいは自店のごく近所が「ポケストップ」と呼ばれるイベントスポットになっていたらしめたものです。誰かが「ルアーモジュール」というツールを使って1回30分限定のイベントをセットすると、そこにゲームをしている人たちが集まってくるという仕組みがあります。
これを自店のSNS等を使って「明日の○時〜○時、どこそこのポケストップで○時間連続でルアーモジュールを使います!これでレアなポケモンをたくさんゲット!」といった事前告知をするのです。
もしこのようなことを今日やっていたら、マクドナルドのように普段とは違う集客ができる可能性が高いです。
このポケモンブームがいつまで続くのか、もっと効果的な利用方法はないのか、それはまだ分かりません。ただ、ほとんど投資なしで人の流れを変える可能性を持った出来事が起きていることは間違いないと言えそうです。
◆夏の温浴施設
いよいよ夏休みに入り、夏本番です。今年は台風が少なく猛暑になるという噂もありますが、どんな8月になるのか油断はできません。
さて、あまりに暑い日は外へ出るのも嫌になるものですが、私自身はそんな時こそ熱いサウナで思い切り汗をかいて、冷たい水風呂に入りたいという欲求が募ります。そんな風に思う温浴ファンは少なくないのではないでしょうか。
暑い時にクーラーに頼るのは、省エネ的にも健康管理的にもおススメできません。温浴施設ならクーラーを強く効かせることよりも、暑さをしのぐ生活の知恵と暑さに負けない身体づくりを率先して推奨・実践すべきと思います。
夏の暑さをしのぐ生活の知恵は昔からたくさんありました。
・浴衣、甚兵衛、下駄、雪駄などの和装
・打ち水
・水鉢やつくばい、金魚鉢などの涼感演出
・藍色、浅葱色、藤色など涼感のある日本の伝統色
・扇子、団扇、扇風機
・風鈴や鈴虫の音色
・水菓子、氷菓
・冷やしキュウリ、西瓜など夏の野菜や果物
・すだれやヨシズによる日除け
・朝顔などの緑のカーテン
…夏を積極的に楽しむことも、いろいろな知恵で暑さをしのぐことも、日本人がだんだん忘れてしまっているように感じます。
暑い日にこそ、温浴施設の存在を思い出してもらうためにも、クーラーに頼らない夏の過ごし方を提案しましょう!
その方がビールやかき氷もたくさん売れますし。
◆投資のいらない資産
昨日から東北地方の海に近いところで、新しくつくる温浴施設のプロジェクト会議に参加しています。
まだ建設する敷地が確定しておらず、近接する3ヶ所の敷地を比較している段階です。
立地環境を検討する時に調査すべきことは「ロケーション・アクセス・マーケット・競合」という4つの要素ですが、今回はまずロケーションを比較検討しています。
ロケーションとは、局地的な立地条件のことで、「敷地形状・規模・状態・借景・給排水・周辺要素・法的規制」などを総合的に判断します。
しかし、このうちの「借景」をどう評価し、どう活かすのかは設計士の腕次第です。
近隣の温浴施設の多くが海の近くにあり、海の眺望を活かしたつくりになっています。
単に最上階に浴室を作り海に向かって大きな窓があるだけのホテルもある一方で、釜石市の宝来館は水鏡を使って浴室から芸術的な眺めを楽しめるように設計されていました。
施設や設備はお金をかければそれにほぼ比例して立派になりますが、眺望をいかに取り込んでお客様に見せるかは知恵とセンスの勝負です。
これがいかに重要かは、例えばいつもモデルとして引き合いに出す箱根の天山湯治郷が、敷地ごと都市部の市街地に移転したことを想像すれば分かりやすいでしょう。
どんなに良くできた温浴施設でも、借景が変わるだけでその魅力が大きく変わってしまいます。眺望は投資のいらない資産なのです。
だからこそ、立地条件に合わせて柔軟にプランニングする設計士のセンスや知恵が問われるのです。
ただし、眺望や芸術性にこだわりすぎるとコストや使い勝手に問題が出ることもありますし、あくまでもバランスが大切ですが。
◆6倍ルール
金融機関の人と話していると、たまに意外な提言を受けることがあります。
先日ある銀行の人に言われたのは「休憩スペースはお金を生まない。そういうところは思いきってカットして、もっと効率的な事業にしてください。」ということでした。
ハイそうですか、とおとなしく従うわけにはいかないので、そうはいかないんですという話をしたのですが、その時に「6倍ルール」の説明をしました。
6倍ルールというのは、施設に来るための移動時間の6倍くらい滞在しないとお客様は納得しないという意味です。移動時間:滞在時間=1:6ということですが、例えば来店に15分かかるお客さんは90分滞在、30分移動なら180分滞在となります。
逆にひとっ風呂(小一時間)の滞在のために片道何時間もかけて来る人はなかなかいないということでもあります。
直接お金を払っているのは入浴や食事に対してなので、休憩やマンガコーナーなど、無料のスペースは意味が少ないようにも感じますが、時間消費という観点で見ると、移動の時間見合うだけの価値ある時間を求めているのです。
滞在時間を削るような手を打つと、商圏範囲が縮小し客単価が落ちてしまいますから、必ずしも効率的な事業にはならないのです。
銀行の人は分かったような分からないような顔をしていましたが。(笑)
◆Tポイントのセミナー
渋谷で行われた株式会社ティーネクスト主催の温浴セミナーにて第一講座の講師を担当しました。
今回のセミナーは、富山県射水市の「天然温泉海王」におけるTポイントカード導入と吉本興業タイアップ企画の成功事例発表がメインテーマでした。
天然温泉海王は2007年オープンの日帰り温泉ですが、オーナー=現場責任者だけあって運営力が傑出しています。その奇想天外、大胆不敵な取り組みの数々だけでもヒックリしますが、近隣に強力な競合店が出現する中、対抗策としてTポイント活用と吉本興業タイアップを選択します。
まだ導入から数ヶ月なので、今後の動向にも要注目ですが、現時点でも充分なメリットが出ていることは確かです。
ここまでこのメールニュースに書いてきたことも含めてちょっと復習しますと、
(1)これまでの温浴施設の魅力の打ち出し方で開拓できるマーケットは一定水準開拓し終わった。これからは既存客の囲い込みと新しい魅力の打ち出しによる新規集客を意識する必要がある。
(2)Tポイントはコンビニやガソリンスタンドをはじめ多くの業界でトップシェアを獲得することになる。既に国民の約半数がアクティブユーザー、今後は第二の通貨のようになっていくだろう。
(3)100円で0.5ポイントを基本とし、ポイント○倍を効果的に使っているTポイントと比べて、これまでの温浴施設の○円引き、○割引き販促は値引き幅が大き過ぎた。
(4)オペレーション上、ポイントを付与するばかりでポイントを使わせることが難しい業種が多い。付与されたTポイントは莫大な埋蔵金になっている。接客時間の長い業種にチャンスあり。自店でTポイントを使わせれば、ポイント分の現金が還元される。
(5)これまで、大手が高いシェアを持つ業界に先行的にTポイントが導入されてきた。これから様々な業種にも広がっていくことになるので、温浴業界にとっては今が絶好の導入タイミング。
(6)温浴業界で一般的な固定客販促は回数券と会員制度。しかし、回数券は固定客化力が十分とは言えない。会員制度を自前で充分に活用するのは難易度が高く、会員情報を集めても結局活用できていない施設がほとんど。Tポイントシステムはすでに完成度が高く、Tポイント利用情報の分析が毎月フィードバックされる。
…というようなことです。
◆まだ間に合うオリンピック対策
8月5日に開幕し、21日まで続くオリンピック。こういったビッグイベントの時はTVに集客を奪われがちですから、いろいろ対抗策を講じる必要があります。
金メダル数にからめたイベントやクイズなどは気分的にも誰でも参加しやすいので、今からでもぜひご一考ください。
ところで、今回複数の水泳選手の肩や背中に丸い紫色の模様がついているのがちょっと話題になっています。「あの丸い痕は?」と。
たまに相撲取りやプロレスラーの身体にもあの痕がついているのを見かけることがありますが、あの模様はカッピング(吸い玉、プハンとも言う)の痕です。
昔から日本、中国、韓国などで民間療法や健康法として普及しているもので、私も自宅に道具をワンセット持っております。
マッサージやエステと違って皮膚にしばらく痕が残るので、リラクゼーション目的には向かず、これまで温浴施設ではあまり普及して来なかったものですが、効果は抜群です。これまで体調不良の時にはずいぶん助けられました。
健康法には、身体に必要な何かを足す・加えるという考え方(足し算)と、身体に不要なものを出す・入れない(引き算)という考え方があります。吸い玉は引き算健康法のひとつですが、実は温浴も代表的な引き算健康法ですので、本当は相性が良いはずと考えています。
今回世界のオリンピック選手が吸い玉の痕をつけているのを見て、世の中の考え方が少し変わってくるんじゃないかな?と期待しています。
今までは消費者の理解が足りなかったり法律の問題があったりして、温浴施設での健康法や民間療法はリラクゼーションとかリフレッシュといった曖昧な世界に位置付けられてきました。
しかし少子高齢化社会を迎え、これからはもっと健康維持や病気の予防、軽症なら自分で治す、といった世界に踏み込んでいかざるを得ないだろうと感じています。
それが温浴ビジネスにとって逆風になるのか、追い風になるのか。それはこれからの舵取り次第です。
◆世界がカッピングに注目!
昨日書いたカッピング(吸い玉、プハン)のことがさらに話題になっています。
http://www.gizmodo.jp/2016/08/phelps-cupping.html
面白いのは「カッピングの効能を裏付ける科学的根拠はない」というアメリカがん協会のコメント。有史以前から続いている民間療法に必死にケチをつけようとする現代科学とは一体何なのか、と考えさせられます。
健康法に限らず、水の改善、省エネ…温浴施設には現代科学とは相容れないような情報もいろいろと集まってきますが、大切なのは理屈よりも客観的事実、自身で確かめた実感です。事実確認や実体験をせずに否定したり批判するのも間違いだと思います。
本当に良いと確信できるものをお客様にお伝えしたりおススメするのは、ノルマとか売上目標とかいう以前に心から楽しいことではないでしょうか。
◆心配な夏ですが
選挙からオリンピックと集客に水を差すような出来事が続き、お盆休み終盤の今夜から明日にかけて東日本に台風。今年の夏は数字的に昨年を上回れない施設が多くなるのではないかと心配しています。
しかし、災害や経済、競合動向をはじめとする外部環境は自分たちではコントロールできません。良い結果も良くない結果も一喜一憂するのは実はあまり意味のないことで、ただ事実として受け止める以外にはないのです。
自分たちで知恵を絞り、汗をかいた結果がどう出るのか、その結果に一喜一憂するのは意味があることです。
たとえ期待通りの結果でなかったとしても、どこが問題だったのか、何が足りなかったのかと自分たちの行動や計画を見直して、さらに力をつけていくことでしょう。
運営力の乏しいところほど、外部環境のせいにしてばかりで自らは何も変わろうとしない傾向があります。
この夏は昨年あるいは予算を下回ってしまうかも知れませんが、その結果を見た時に外部環境のせいにして終わりにするのではなく、「常に変化する外部環境を上回るだけの手を打てていなかった」と受け止めるようにすれば、ピンチがチャンスに変わるかも知れません。
◆男女別データ
温浴施設の男女客数比率は施設によって異なりますが、平均すればおよそ半々になっています。
では客単価はどうでしょうか。
男性専用サウナでは客単価が2000円~5000円と高くなりますが、一般的な日帰り温浴施設では、男性客より女性客の客単価が高くなる傾向が見られます。
岩盤浴、ボディケア、アカスリ、エステや物販の利用率では明らかに女性の方が高くなります。
つまり、客数では半々だったとしても市場規模は女性マーケットの方が大きいのです。
今後は女性客の開拓に力を入れる温浴施設が増えてくると思われますので、男女の市場規模はますます女性の方が大きくなるでしょう。
このようなことを書けるのは、男女別の売上や付帯部門の利用率をデータとして見てきたからなのですが、通常は券売機では男女の入館を区別していません。
これからは全客層に漫然と対応するのではなく、重点ターゲットを定めてその顧客心理を分析し、効果的なアプローチを探る時代になると考えています。
時代というよりも、そのようなマーケティングをするのが普通で、全客層対応を続ける温浴業界が普通でなかったのです。
そうなってくると、券売機の販売データくらいしか分析の材料がないのは、ちょっと心許ない気がします。
自転車なら計器なし。原付バイクならスピードメーターに燃料計と距離計。では自動車は、航空機は…と考えてみると、リスクと計測器の種類は比例していることが分かります。
よりスピードを出したり、難しいことをするためには、自らの状態を正確に把握できるデータが欠かせないのです。
◆値引き率のルール
昨日、Tポイントカード導入に関する打ち合わせをしていて、ふと昔あった出来事を思い出していました。
ある温浴施設の経営者が、来館者数に正規の入館料をかけて理論上の入館料収入を算出し、現実の売上との差額を見て「割引販促のせいで売上が2割も消失している」と憤慨していました。
私から「いや、割引販促をしていなかったら実際にこの客数は来ていないんですよ。」という説明をしたのですが、どうしても納得してもらえず、その後一切の割引販促を禁ずる社長命令が出てしまったことがありました。
これまで多くの温浴施設とお付き合いし、実際の数値を見てきた経験から、『回数券・会員制度・子供料金・割引券・クーポン販促等を実施した結果として、正規の入館料単価に対して実際の入館料単価が8割程度になるのは普通。しかし集客に苦しんで極端な値引きに走ると5割以下にまで値崩れすることもあり、そこから元に戻すのは非常に困難。」というルール化をしていました。
正規入館料が1,000円だったら平均の入館料単価が800円程度になるのは健全な範囲=値引き率2割ルール、ということです。
しかし、今後はこのルールの考え方を改めることになるかも知れません。その理由はTポイントカードが普及することによる影響です。
Tポイントの付与率は基本が売上100円に対して0.5ポイントです。
入館料1,000円の施設が100円引きして集客を図るというのはよくある話です。100円引きは販促コストとしてはポイント20倍と同じ意味ですが、Tポイント20倍というのは聞いたことがありません。2倍〜10倍でも充分なインパクトを与えることができています。
もし温浴施設でTポイントカードを導入するなら、割引販促の重複を避ける意味でも、他の割引販促を減らすことになるでしょう。結果として値引き率2割という考え方は変わってくる可能性があるのです。
例えば年間売上2億円の温浴施設で入館料売上が半分の1億円だったとすると、健全な営業状態であったとしても値引き率2割から逆算して2500万円は値引きによる消失分です。もし客数を落とすことなくこの値引きを減らせるとすると、かなり大きな増収の可能性があるということなのです。
上記の事例のように販促活動そのものをいきなりストップしてしまえば、客単価が上がっても客数が減少してしまうおそれがあります。
Tポイントカードは大手企業がこぞって参入し、今や消費者にもよく浸透しています。温浴施設がTポイントを使えば、集客・販促効果を上げながら値引き率を減らせる可能性があると期待しているのです。
◆多言語対応
国内最大の温泉口コミサイト、@ニフティ温泉のコンテンツに英語版、中国語版が登場というニュースが出ています。
http://www.nifty.co.jp/cs/newsrelease/detail/160819004568/1.htm
それだけいま外国人の需要が高まってきていているということを象徴的に示しています。
ですが、肝心の温浴施設側の受け入れ体制はまだまだ旧態依然で消極的です。
先日も書いたタトゥー規制の件もそうですが、館内表示の多言語対応、スタッフの教育もまだ手付かずのところが多いです。
温浴施設の国際化とは4年後のオリンピック対応のことだけを指しているのではなく、時代の大きな流れのひとつと考えています。
今の日本の人口構成や産業構造を考えれば、旅行者やビジネスマン、移民も含めて訪日・在日外国人は今後も増加の一途になるでしょう。
そして彼らが高い関心を寄せているのが日本のお風呂文化なのです。
当然ネット検索を駆使して、ニフティ温泉も見ることでしょう。
ニフティのクーポン券『ぬくぬく~ぽん』を提示する外国人がどんどん来館する日は、遠い未来のことではないのです。
ネガティブな表現になっていたり、雑然と貼りまくられた館内ポップを全面的に見直し、多言語対応まで進めていく良い機会だと思います。
気になる方はお手伝いしますので、ご連絡ください。
◆スマホ環境
飛行機に乗っている時に座席にあった無料Wi-Fiの案内を見て、隔世の感だなぁと思いました。
以前は搭乗前に携帯の電源オフを求められたのに、今や離陸5分後から着陸5分前まで通信機器の操作OKです。そして通信衛星を使った無料Wi-Fiまで。
時代が変化していくスピードに驚きます。
温浴施設での平均的なスマホ環境整備は、残念ながら他業界と比べてまだ少々遅れぎみのようです。
温浴施設が今やっておいた方が良いスマホ環境の整備とは、
・充電フリー化
・充電用コンセント増設
・充電用機器のレンタル、販売
・館内フリーWi-Fi化
・脱衣室浴室でのスマホ使用禁止の徹底
といったことです。
スマホのバッテリーが充電空っぽの状態からフル充電するまでにかかる電気代は、機種にもよりますが0.2円程度とか。電気泥棒扱いするようなコンセント使用禁止ポップもまだ見かけますが、アメニティ類を無駄に使う方がよほどコスト面でのダメージは大きいのです。
コンセントの取り合いなどでトラブルにならないように増設して、モバイル充電フリーにしてしまう方がよほど健全でしょう。
充電機器のレンタル・販売はコンビニ等の売場を参考にしていただければと思いますが、突き詰めればコンセントからUSBケーブルに変換するアダプタと、AndroidとMac用のケーブルがあれば出先で困ったときのほとんどの用は足りるはずです。
Wi-Fiフリー化もそんなに難しくないです。家庭用と同じことですから、社内にちょっと詳しい人がいたら素人でも設置できるでしょう。
温浴施設に特有の問題は、脱衣室・浴室での盗撮、それに関するトラブルです。他人が裸になる場所でカメラ機能のある機器を操作することが重大なマナー違反であることに気づかない人もいますので、目立つように表示することと、スタッフへの教育徹底が必要です。
スマホ環境を整備したからといって、それで急に集客できるわけではありませんが、未整備のままだと確実に失客の原因になってくる時代と思われます。
早めの対策をオススメいたします。
◆組人数
お客様が何人組でいらっしゃるのか。これを組人数と言います。お1人様から2人組、3人組…と組み合わせはいろいろです。
例えばひとりで地方出張すると、入りやすい飲食店は限られます。カウンターのラーメン屋や焼き鳥屋なら入りやすいのですが、お洒落なレストランは気後れします。
客層も気になります。カップルがいい雰囲気だったり、グループ客が賑やかに騒いでいるような店にはおじさんひとりでは入りにくいのです。
特に味方がいない1人客にとってはこの点は重要です。間違って入ってしまうと本当に居心地の悪い食事時間になってしまうので、入店前に確め、違っているようなら入らずに他の店を探すでしょう。
これは店舗選択理由として、時に味や価格以上の意味を持つので、飲食店は店づくりやサービスを考える上であらかじめ組人数のイメージを持つのが普通です。
ところが、温浴施設では1日の客数はすごく気にするのに組人数にはまだ無頓着なことが多いようです。
あらゆる客層を対象にして商売するということと、客層に対して無頓着というのは意味が違います。
おひとり様からカップル、グループ、ファミリーまでを対象にして商売するのなら、それぞれのお客様が居心地良く過ごせる空間やサービスを提供しなければならないのです。
レストランの客席構成を考えることはその第一歩ですが、他のゾーンでもこの問題を考えると今までとは違った発想が生まれてくると思います。
◆席づけという仕事
先週「組人数」という特に飲食において重要なマーケティングの指針についてご紹介しました。
同じ店でもお客様の人数によって受け止め方が異なるという話なのですが、もうひとつ、飲食店のホールで重要な指針をご紹介したいと思います。
それは「席付け」です。
組人数と少し共通する考え方でもありますが、例えば、おじさんひとりが若者グループの隣に座らされたら、お互いにいい気分はしません。
若いカップルと年配のグループが一緒になるのもいい雰囲気にはなりづらそうです。
このように、同じ空間にどのお客様同士を同時に滞在、あるいは隣り合わせにさせるのかはその店舗の利用満足度に大きく影響を及ぼすのです。
また、4人掛けテーブルにおひとり様といった席付けをしていたら、5テーブル20席あったとしてもたった5人で満席になってしまいます。これを「満席率」といいますが、満席率が25%では客席面積分の賃料負担はとてもまかなえないでしょう。
席付けによる満足度の確保と満席率の向上は時として両立しないこともあります。その時に詰め込みで目先の売上を優先するのか、お客様の満足とリピートを大切にするのか…店としての経営姿勢が問われるところでもあります。
このように、どの席にどのお客様を座らせるかという判断とご案内は、飲食店の業績をも大きく左右する重要な仕事なのです。
ところが、温浴施設ではこのような議論になることはあまり多くありません。何故ならそもそも券売機方式でホール担当者がいない店が多いですし、券売機でないとしても、飲食部門の運営にそこまで本腰が入っていないため、席付けなんてまだ考えたことがない店も多いのです。
それでも結果(利益)が出ているならそれで良しとするのか、ビジネスチャンスを最大限に活かしたいと考えるのか。企業によって考え方はいろいろです。
温浴施設はもっと利益率を上げていかないと、ビジネスとして苦しいのは事実です。そのためにもっと価値を高められるところは高め、コストを抑えるべきところは抑えていかなければなりません。飲食のホール業務はこれまで削減優先であまり手がつけられてこなかった分野だけに、可能性を感じるのは私だけでしょうか。
◆魚の集客力
これまで色々なイベントを企画したり、観たりしてきましたが、いつもすごい集客力だと思うのがマグロ解体ショーです。大きなマグロの仕入れと、解体を担当する職人さんの出張費用も入れるとかなりのコストになりますが、お客様のウケは抜群です。
解体ショーを事前告知することで集客し、当日は刺身や寿司、マグロ丼などを有料販売すれば元はある程度取れると思います。
当日黒字にするためにはやはり自分達で解体して職人さんの出張費をカットするしかないと思いますが、あの日本刀のような包丁を使いこなすのはたいへんそうです。
マグロの卸売りや出張解体ショーをしてくれる会社はたくさんありますが、参考までに有名な和歌山の黒潮市場の料金表を貼っておきます。
http://www.kuroshioichiba.co.jp/map.html
今年は秋刀魚の値段がなかなか下がりませんでしたが、最近ようやく大衆魚らしい価格に落ち着いてきました。
秋刀魚の塩焼きも各地でイベントが開催され、たくさんの人出で賑わっているところがニュースになっています。有名なのは目黒のさんま祭りですが、消費されるサンマは6000匹、集まる人はなんと3万人以上とか。
http://www.asahi-net.or.jp/~xq7k-fsm/sanma.htm
三陸地域の応援も兼ねて、サンマ祭りの企画も面白いと思います。
◆秋です
今年は雨の多い9月となりました。シルバーウィークも終わり、ここからの季節はこれといったイベントもなく年末年始まで冴えない時期になってしまうという話をよく聞きます。
この季節はハロウィンや紅葉のディスプレイ、鮭、サンマ、キノコ、栗の秋定番メニューくらいの取り組みしかなく、これまでうまく需要を喚起できていなかっただけではないか?とも考えられます。
暑さ寒さがハッキリしている季節の方が集客は好調とも言われていますが、全国の温浴施設の中には秋でもしっかり集客好調を維持できている例もあります。
この季節に訴求したいテーマをあらためて列挙してみますと、
・夏の紫外線でダメージを受けたお肌は、ターンオーバーと保湿でスキンケア(アカスリ、浴室、アメニティ、物販)
・冬が来る前に冷え性を改善(浴室、岩盤浴、飲食、ボディケア)
・寝苦しさで乱れた睡眠リズム、自律神経リセットとアロマで快眠を(サウナ&水風呂、ヘッドスパ、物販)
・秋の夜長を楽しむ入館料夜間割引(フロント)
・ハロウィンの仮装入館で特典(フロント)
・カボチャの重量当てクイズ
・焚き火と焼き芋(中庭、外構、駐車場)
・夏は冷たいものや刺激の強い食べ物の摂りすぎで内臓がお疲れ気味。身体に優しい滋養メニュー(飲食)
・秋の行楽と温浴(周辺ハイキングコースの紹介、コラボ)
…といった感じで決してネタ不足ではないと思います。
ビックイベントではありませんが着実に集客を上乗せしながら、忘年会そして年末年始に備えるべきシーズンです。
◆フォトジェニック
SNS時代に自店の話題をネットで効果的に口コミ拡散してもらうためには、フォトジェニックであることが大切です。
フォトジェニックとは【写真に適する・写真向き】といった意味ですが、カッコ良い写真やプロのように上手な写真とは限りません。
スマホで写真に撮られツイッターやFacebook、LINE、Instagramなどに投稿される時には、「可愛い」「素敵」「びっくり」「面白い」といったキーワードがついて回ることが多いのです。
つまり、そういう要素が館内にあれば口コミが促進されるのです。
浴室周りは基本的に撮影禁止ですし、建築や庭園もよほど素晴らしくないと、写真を撮りたいとまでは思ってくれないかも知れません。しかし、部分的にフォトジェニックな題材を用意するのは意外と難しくありません。
例えば、デザートに可愛い顔が描かれていたり、キャンドルナイトのロウソクが美しく幻想的に並べられていたり、巨大なカボチャが展示されていたり。そのような題材は確実にたくさんの人が撮影し、投稿してくれるでしょう。
ディズニーランドの園内には、随所に記念撮影に適した写真撮影スポットが用意されています。これは拡散狙いというより、顧客サービスの一環だと思われますが、良い写真が撮れるのは嬉しいものです。
常にフォトジェニックを心掛け、何かにつけて撮影しやすく話題にしやすいような題材・場所を提供することがサービスのひとつであり口コミ促進のコツなのです。
それと、かつては館内全面撮影禁止にしている施設も多かったのですが、今は誰もがカメラを持ち歩いている時代です。
浴室・脱衣室だけ撮影禁止とし、あとはOKとすることもお忘れなく。
◆ヘビーユーザーマーケットの可能性
芸能界の話とかには疎い方なのですが、以前アイドルオタクを自認する人から興味深い話を聞きました。
アイドル市場を支えているのはごく一部のオタクたちで、中には好きなアイドルを応援するために同じCDを大量購入したり遠方まで応援に行ったり、常識では考えにくいような消費行動をとり、使う金額も非常に大きいそうです。
アイドル市場はそういった傾向が顕著なのかも知れませんが、一部のヘビーユーザーが市場の大きな構成比を占めているという構造は、他のマーケットでも見られます。
実際に温浴施設でも、ひとりのお客様が年間何百万円も使ってくれているということがあります。
ごく一部の常連客に依存した商売は危険であるという側面もありますが、ヘビーユーザーの消費金額がびっくりするほど大きいのは確かです。
成熟期に到達した温浴ビジネスは、漫然とすべての客層にアプローチしようとするのではなく、新規開拓とヘビーユーザー対応という2つの戦略を明確に使い分けていく必要があると考えています。
新規開拓は今までと違ういろいろな切り口で攻めてみる。ヘビーユーザー対応は絶対に離れていかないように、その深いニーズにとことん応えていく。
ターゲッティングにも性別や年齢、組人数、利用動機など様々な分け方があることはいつも書いていますが、
・まだ温浴施設を利用した経験がない人
・初回来店客
・何度か利用しているリピーター
・完全に生活習慣に組み込まれたヘビーユーザー
というように利用段階に応じてそれぞれのニーズに応えることができれば、高い顧客満足度が実現できます。
すぐ顔馴染みになれる小規模店舗と違って客数もスタッフ数も多い温浴施設では、お客様と店が関係をつくっていくのは簡単なことではありません。さらに券売機を使っていたり、固定客販促が回数券だけだったりすると、利用段階別の対応は非常に難しい面があります。
しかし難しいことだからこそ、その取り組みが大きな差別化につながるのではないでしょうか。
◆ヘビーユーザー対応その1
前回ヘビーユーザーマーケットの可能性について書きましたが、では具体的にヘビーユーザーをつかんで離さないためにはどうしたら良いのでしょうか。
その鍵は、ヘビーユーザー特有の心理に対応することにあります。
特有の心理のひとつは「高品質化」です。提供する環境やサービスの品質はヘビーユーザーに限らずすべてのお客様に対して大切なことですが、特に消費経験を積んだヘビーユーザーは目が肥えていますので、ごまかしがききません。
施設内、特に浴場において、見た目の立派さや豪華さよりも、本質的な快適性や効果を真剣に追求するのがヘビーユーザーなのです。
以前サウナしきじのシャワーの水圧や浴室内のベンチについて書きましたが、そういった地味な違いが問われます。
もちろん温泉やサウナや井戸水がベストの状態で提供されているかどうかは厳しく見られています。
例えば、温泉マニアの人たちが好んで使う「足元湧出」という用語をご存知でしょうか。
浴槽への補給水は、普通は吐水口からジャバジャバと補給されていますが、そうすると振動で炭酸などの有効なガス成分が抜けてしまったり、空気に触れて酸化が進んでしまうので良くないとする考え方です。理想は吐水口ではなく、できるだけ源泉からストレートに、浴槽の底からそっと補給されているのがベストと言われています。
万事がその調子で、非常にこだわりが強いのがヘビーユーザーなのです。
昔はそんなことを言う人は極めて少数派だったのですが、時代とともに着実にヘビーユーザーが増えています。
少なくとも、ヘビーユーザーがどんなことを望み、何を基準に施設を評価しているのかを知ることは必要だと思います。
知った上でどこまで付き合うのかを判断することはできますが、知らなければ全くついていくことができませんから。
◆ヘビーユーザー対応その2
前回ヘビーユーザー特有の心理として「高品質化」を挙げましたが、ふたつめに「過激化」があります。
温浴施設ユーザーは繰り返し利用しているうちにだんだん慣れてきてしまい、より強い刺激を求めたり、要求がエスカレートしていきます。
特に熱い風呂やサウナ、冷たい水風呂などが温浴ヘビーユーザーに人気です。
食べ物で言えば激辛。風呂の温度で言うと45度。サウナなら110度、水風呂は13度以下といった具合で、普通のお客様や温浴初心者には到底理解できないレベルになってきます。
もしこういった過激な要求に応えた温度設定にすれば、一部のヘビーユーザー以外は利用できなくなってしまうので、単純にヘビーユーザー対応すれば良いというものではありません。
基本はボリュームゾーン狙いですが、もし設備が複数あるなら、ノーマル設定と過激設定という温度バリエーションを提供することができます。
あるいは大都市で商圏人口が大きいなら、ヘビーユーザー御用達の施設になるという選択肢もあるかも知れません。
高品質化はすべてのユーザーに有効ですが、過激化は諸刃の剣です。自店の特性をよく見極めて戦略を練る必要があります。
◆ヘビーユーザー対応その3
これまでヘビーユーザー特有の心理「高品質化」そして「過激化」について書きましたが、3つ目は「個別対応化」です。
簡単に言うと「これだけ通ってるんだから少しは俺のわがままを聞いてよ」ということ。自然な欲求だと思いますが、店としては普段はムラなく一定品質のサービスを提供することやお客様に公平に対応することを心掛けていると思いますので、特定の常連客を特別扱いすることには問題もあります。
モデルになると思っているのは航空会社のマイレージカードです。過去にどれだけ利用したかによってランク付けされ、ランクに応じた特別なサービスが受けられます。
大切なのは、常連客のわがままを際限なく聞いているわけでも、その時々で異なる対応をしているわけでもなく、一定のルールを設けてあらかじめ特別サービスを用意していることです。
そうすることでサービスの安定や公平性を損なわないようにしているのです。
温浴施設で個別対応性を作り出すとしたら、以下のようなものが考えられます。
・マイ○○(マイロッカーなど、そのお客様専用のものを用意するサービス)
・ボトルキープ
・優先予約の権利
・飲食やボディケアにおいて特別メニューの提供
・特別ラウンジなど限定空間の利用
このようなサービスを導入する場合はマイレージと同じく、お客様の利用履歴や利用金額を把握する必要がありますので、何らかの会員制度の存在が前提となるでしょう。
こういった仕組みは、温浴業界ではまだあまり積極的に着手している例がありません。ライフサイクル的には成熟期のサービスだと思いますので、これからいろいろな方法が試されるようになってくるでしょう。
◆浴育のすすめ
子供料金から大人料金になる年齢基準を何歳にしているかは施設によって違いますので、一概には言えないのですが、よくある小学生以下を子供料金とする基準で言うと、0歳〜12歳が子供客ということになります。
現在の日本の年齢別人口構成比で言うと、0歳〜12歳の人口比率は約11%です。
一方、立地条件やコンセプトの異なるいろいろな温浴施設の子供客比率を見ていると、1〜10%以上までかなりバラツキが多いようです。
さて、子供客をどう扱うべきかについて、各社の戦略は様々ですが、たまに聞くのが「子供が増えると騒いだり走り回ったりして面倒。大人がゆっくり寛げる環境でなくなるので、あまり積極的には集客したくない。」という中途半端な意見です。
本当にそう考えるなら、子供客とその同伴の保護者を合わせると人口の2割以上をターゲットから除外することになりますが、年齢制限を設けて大人の寛ぎ環境をコンセプトとして打ち出した方が施設の価値がハッキリするでしょう。
逆に子供客を受け入れるなら、子供の喜ぶことや同伴の保護者に向けたサービスを積極的に強化することで、集客を促進することができます。実際には上記のように中途半端なスタンスの温浴施設が少なくないので、差別化要因としては強い魅力となる可能性があります。
そしてさらに踏み込んでいくと、タイトルの「浴育」に行き着きます。「浴育」とは、入浴を通じて生涯の心身の健康をより良く育むために、入浴の効果や入浴方法、お風呂の楽しみ方などを学ぶことですが、善は急げで、子供のうちから入浴に関する正しい知識やマナーを身に着けさせることで、将来の優良顧客を育成しマーケットを拡大することにもつながります。
イベントとして親子お風呂教室を開催したり、冊子を配ったり。スタッフにも子連れ客に何を教えるべきかを知ってもらう必要があるでしょう。マナーを知らない親子が多いと嘆いているよりも、積極的に向き合っていく方が、よほど建設的だと思います。
そう思って「浴育」を検索していたら、東京ガスさんがとても良くできたコンテンツを提供していました。ぜひ参考にしてください。
・東京ガス「浴育のすすめ」
http://www.toshiken.com/bath/series/about.html
◆明るいニュース
今日は大阪でセミナー。自分の出番が終わったところでこっそりこのメルマガを書いています。
前回東京渋谷で開催したTポイントを中心とする新たな集客手段についてお伝えする主旨のセミナー第2弾ですが、今回はさらにビッグニュースがあります。
それはYahoo!(以下Y!と省略)の温浴マーケット参入です。
Y!とTポイントが提携していることは既にご存知かと思いますが、1日で2億PV、月間600億以上のPVを誇るY!のトップページから、ワンクリックで「Tポイントが使える温浴施設群」に誘導するバナーが表示されるようになる予定です。
まともに買えば月額何百万円もする階層のページですから、大きな影響力が期待できそうです。
なぜY!がわざわざそのような取り組みを?と疑問に思うかも知れません。実際のところこれまではY!と温浴施設にはあまり接点がなかったのですから。
それはもちろん将来的な広告の取扱いやTポイントビジネスという面もありますが、Y!としては第一にユーザーメリットからTポイント温浴施設情報の掲載を考えているとのことでした。
以前からこのメルマガに書いていますが、国民の2割が温浴施設を習慣的に利用するようになった今、これまでと同じやり方では新たな客層を急激に開拓するのは難しい時代です。
今までになかった切り口や手法が必要ということで、その意味ではTポイントやY!といったビッグプレイヤーがサポートしてくることは明るいニュースだと思っています。
ネット社会の進展は疑いようのない大きなトレンドです。このメルマガ読者の皆様には、ぜひ早い段階でTポイントを導入して先駆者メリットを享受していただきたいと願っています。
◆今月の客数
今日は月末です。ある月やある日に、何人のお客様が来てくれるのか。それを左右する影響要因はたくさんあります。季節、天候、曜日、自店の販促イベント、地域のイベント、国民的イベント、競合店の動向…。
中でも最も大きなインパクトを持つものは何でしょうか。それは間違いなく「曜日」です。
いつも「1:2:3の法則」と言っていますが、温浴施設では平日の平均的な客数に対して、土日は約2倍、連休中日やGW、お盆休み、正月休みなどには3倍のお客様が来るというのが一般的です。
館内で強めのイベントをやっても、普段の倍のお客様を集客するのはなかなか出来ないことですし、オリンピックやお花見に客数を取られたと言っても半減はしません。
確実に2倍も3倍も客数を変動させる要因は曜日だけなのです。
ところで毎年、毎月カレンダーが変わりますが、この「曜日」という大きな要因がしっかり考慮されている分析(日報や月報)を見たことはほとんどありません。
例えば、今年の9月は台風が連続して上陸しましたが、シルバーウィークも休日が分散してしまい、あまり大型連休という感じではありませんでした。
土日祝日を平日の2日分、三連休以上の中日を平日の3日分として平日の日数に換算すると、今年の9月は平日41日分に相当します。対して去年(2015年)の9月は平日換算で44日ありました。
つまり、1日当たりではまったく同じ集客ペースであっても、曜日の組み合わせだけで2016年9月の客数は(41日÷44日=)昨対93%になってしまうのです(▲7%はちょっと深刻な数字に見えますね)。年間でもその年のカレンダーによってずいぶん変わります。
このようなことを知らずに月末の数字を見て、昨対で下がっているのを現場の努力不足と考えたり、上がったときにぬか喜びするのは賢明ではありません。
これを解決するには「平日」「通常休日」「繁忙日」等に分類して(分類の方法は自店の集客特性に合わせる)、平均客数を見ることです。例えば9月の平日の平均客数を比較すれば、前月比でも前年比でも1日当たり客数が上がっているのか下がっているのがよくわかります。それが上がっていれば喜んでいいし、下がっていれば油断なく対策を講じるべきです。
曜日による客数変動の大きい商売は、ここに気をつける必要があります。
◆冬の備え
早くも11月になりました。富士山が冠雪し、北の方では積雪の情報も聞こえてきます。
この時期の健康テーマはひとことで言うと「冬の備え」。
気温が急激に下がり空気が乾燥してくるこの季節は、身体が変化についていけず体調を崩しやすいため、気をつける必要があります。私も先週は風邪をひいて鼻水を垂らしていましたが(笑)。
さて、温浴施設を利用した体調ケアにはいろいろありますが、この季節に訴求したいポイントを書き出してみました。
・『ヒートショックプロテインで免疫力アップ』
身体の深部まで温めることで体内にヒートショックプロテインがつくられ、免疫力がアップします。
・『定期的に発汗することでお肌の乾燥を防ぐ』
しっかり発汗することで皮脂腺の働きが活発化し、お肌を乾燥から守ります。
・『血行促進で冷え性改善』
末端の冷えは血行不良が原因。温冷差刺激で血行を促進すれば足先までポカポカに。
・『秋冬におススメの食材』
寒くなってくるこの季節には時間をかけてじっくり調理した根菜や穀物類、味噌などがおススメ。
温浴業界でもSNSを使って上手に情報発信する施設が増えてきました。季節ごとの健康情報を伝えることで、日本人の寿命を延ばしつつ、医療費がかからない世の中を実現していきましょう!
◆クリスマス商戦はじまる
街を歩いていると、早くもクリスマスのディスプレイやイルミネーションがスタートしているのを見かけるようになりました。
まだ11月ではありますが気分はもう冬ですし、実際ハロウィンが終わったこの時期は、12月の忘年会、クリスマス、年末年始までこれといったイベントもない空白の期間になりがちですので、早めにクリスマス気分を盛り上げるのはいいことだと思います。
どちらかというと和風イメージの施設が多い温浴業界では、クリスマスシーズンに閑古鳥が鳴く施設も少なくないのですが、うまく仕掛ければ普段より客数アップが可能であることは私自身も経験しております。
ぜひ早めにクリスマス気分を盛り上げて、良い形で年末年始に雪崩れ込めるようなペースを作っていきましょう!
◆宴会シーズン迫る
これから忘年会、新年会と続く宴会シーズンが迫ってきています。宴会は温浴ビジネスにとっても見逃せないマーケットですが、近年は宴会需要が縮小してしまったため宴会で大きな売上を期待するのは難しくなったと考えられています。
実際その通りなのですが、私自身も含め、忘年会を全くやらなくなったわけではありません。昔のような大人数の宴会が少なくなっただけで、むしろ少人数のプチ宴会への参加回数は増えている感じすらします。
要はやり方次第だということです。3名様〜のプチ宴会を歓迎することや、多様化する宴会形態にきめ細かく対応することで、需要はまだまだ掘り起こせると思います。
また、その販促活動として見逃せないのがFAX DMです。地域の事業所向けに入浴付き宴会のご案内をFAXする方法ですが、これだとあまりコストがかからず(1件あたり@20円としても1,000件で2万円)、ターゲットに直接アプローチすることができます。
チラシと同じで、反応率が上がるかどうかは内容次第です。
「忘年会間近!幹事様に必ずお渡しください!」
「忘年会の枠がご予約でかなり埋まりはじめています。最後のご案内です。予約の予定がある場合はお急ぎください!」
といった一文を入れるかどうかだけでも、反応率は大きく変わってきます。
いろいろな広告媒体の費用対効果が下がってきていると言われる中、FAX DMは元々主力媒体と言えるほどのパワーはないものの、その集客力は堅調です。ネットで検索すると様々なFAX DM屋さんがヒットしますので、ぜひご活用ください。
◆拡大するアロマ市場
日本アロマ環境協会(AEAJ)は、アロマ市場の構造と市場規模に関する調査を行い、2015年のアロマ市場規模は推計で3,337億円(事業者小売売上高ベース)と発表しました。前回調査(2011年)比で126% 伸長ということで、アロマ市場は順調に拡大を続けているようです。
温浴施設におけるアロマと言えば、リラクゼーションサービスでのアロマトリートメント(セラピー)と、ロウリュサービスでのアロマ水が思い浮かびますが、意外にマーケットの主役はアロマ化粧品で、市場規模の39%を占めています。
温浴施設の入浴料の市場規模が9,000億円弱ですから、感覚的にはもっと小さいかと思っておりました。しかしアロマ市場そしてアロマ化粧品あなどりがたし、です。
「ツイているもの、伸びているものと付き合うとツキが良くなる」という原理で考えるなら、これまでアロマトリートメントとアロマロウリュが中心だった温浴施設におけるアロマ活用を、もっと売店販売や空間演出などに拡げていくことが良い結果を生むことになると言えそうです。
ところで、弊社の浴場市場では、ロウリュ用の天然アロマオイルと、ロウリュ専用芳香液を取り扱っています。
本音を言うと、断然天然アロマオイル推しです。
ロウリュサービスの時に、天然アロマオイルをたらした水で水蒸気を発生させると、「いい香り~」という称賛の声(主に女性)が上がります。逆に人工アロマは目に染みたりしてお客さんが顔をしかめることがあります。
感覚的なものですが、この違いは重要だと思っています。
しかし、どうしてもアロマ芳香液の方が良いという温浴施設もあって、今のところ両方の取り扱いを続けています。
芳香液の方が良いという理由はどうやら経済性のようです。アロマオイルと芳香液の価格は近いのですが、芳香液のボトルの容量が多いためお得に感じるようです。
実際は1回のロウリュに使う量がアロマオイルなら数滴で充分なのに対して、芳香液だとバシャッと入れますので、結局経済性も同等なのですが。
もしこれまで人工芳香液ばかり使ってきて、天然アロマオイルは使ったことがないようでしたら、一度試してみることをおすすめします。
・お風呂関連資材調達のポイント解説【ロウリュ関連用品について】
http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/692075/176318/69488930
◆温活
今朝のNHK朝イチで「サウナde温活」と題して、たっぷり一時間近くサウナ特集が放映されました。
朝ドラ直後の時間帯ですから、たくさんの人が視てサウナへの関心が高まったのではないかと、これからの動きに期待しています。
ちょっと気になったのはややマニアック過ぎる世界を面白おかしく紹介するという傾向が感じられたことです。
世の中はだんだんヘビーユーザー化していくということはいつも書いていますが、一般的な感覚とかけ離れすぎた話だとドン引きになってしまいますので、マーケットを牽引するためには世間一般の一歩先をリードするという感覚が大切だと思っています。
ところで、NHKが今回使った『温活』という言葉、最近雑誌などでもよく見かけるようになりました。
就活、婚活などと同様に積極的に身体を温める行為にいそしむことを『温活』といいますが、この言葉には「冷え性改善策」「血行促進」「発汗促進」「基礎代謝アップ」「ヒートショックプロテイン増加」「免疫力アップ」などポジティブなニュアンスが多く含まれていて、好感が持てる言葉として使われています。
かつて私が温浴コンサルティングをスタートした頃、「温浴」という言葉はまだほとんど使われていませんでした。
特定業種に特化したコンサルティング活動をするにあたって、何の商売を対象にしているのかということは非常に重要なのですが、当時は公衆浴場、銭湯、温泉、サウナ、スーパー銭湯、健康ランド、クアハウスといった言葉はあっても、それらの総称としては「お風呂屋さん」という言葉しか見当たらず、しっくりこなかったのです。
いろいろ考えて温浴施設コンサルティングという言い方をするようにしたのですが、何のことだかすぐには分かってもらえず、説明に苦労した記憶があります。最近は20年前よりは「温浴」で通じるようになったように思います。
途中で「スパ」という言葉が注目された時期もありましたが、これも定着するには至っていません。漫画と映画化で脚光を浴びた「テルマエ」も面白いなと思っていますが、これからどうなっていくのかまだ分かりません。
言霊と言いますが、難しくて分かりにくい言葉にはあまりパワーがありません。単純で言いやすく、ポジティブな意味を持つ言葉があると物事は広まりやすいのです。
そんな中で消費者側が温浴施設利用を含めて身体を温めることを『温活』と言うようになってきたのは非常に分かりやすく、良いことだと思っています。
読者の皆様も、積極的に『温活』という言葉を広め、定着するようにご協力いただけると幸いです。
◆冬の温活フェア
先日のNHK朝イチで「サウナde温活」と題して、サウナ特集が放映されたことを紹介しましたが、これを機に『温活』というキーワードが一気に広まってくれるといいなと思っています。
そこで、『冬の温活フェア』というアイデアを是非おススメしたいと思います。
温浴施設には温活にからんだ多くのアイテムがあります。それらをフル活用して身体を温めることの大切さを全面的に訴求するのです。
・お風呂で効果的に身体を温める入浴法を啓蒙
・熱つ湯や生姜湯、岩塩湯などでいつも以上の温熱効果を提供
・サウナで効果的に身体を温める入浴法を啓蒙
・ロウリュサービスの強化(パフォーマンスなしの水掛けだけ頻度アップも可)
・岩盤浴で効果的に身体を温める入浴法を啓蒙
・飲食で生姜たっぷりメニューやあったか鍋メニュー等を強化
・飲食で生姜ドリンクやホットドリンク等を強化
・売店で温活グッズの品揃え強化
・ボディケアで足湯やホットハーブパッドなどを使った温活メニューを提案
・冬のアロマセラピー(呼吸器疾患にユーカリ、リラックスによる血行促進にスイートオレンジ、体温アップにジンジャー、など。アロマは館内、サウナ、ボディケア等で使用できる)
・館内全体で「基礎体温アップ」「血行促進」「免疫力アップ」「冷え性改善」「ヒートショックプロテイン」などの温活情報POP(統一デザイン)を掲示
・館内にサーモグラフィのモニターを設置し、温活効果を視覚的に確認させる
…といった感じです。温活フェアのイベント期間は12月〜3月20日(春分の日)くらいまで行けると思います。
全国でこれをやれば、温活という言葉がしっかり定着してくるのではないかと期待しているのですが、いかがでしょうか。
◆初雪
今日は雪。東京で11月に初雪が降るのは54年振りのことだそうです。この冬は寒くなるのでしょうか?
豪雪地帯では、冬季の集客が雪に大きく左右されます。天候によってシーズン通した客数が2〜3割も変動してしまうこともありますので、まさに御天道様次第。日々の客数に一喜一憂しているのがちっぽけなことに思えてきます。
あまり雪の降らない地域が突然の大雪に見舞われると、大きな影響を受けます。除雪の道具不足で雪かきに苦労したり、怪我人が出たり。車が使えなくなってお客様が帰れなくなるなんてこともありました。
ダメージを最小限に食い止めるためにはやはり日頃の備え。まだ冬は始まったばかりですから、冬支度をもう一度見直して、弱点は補強しておきましょう。
◆クラフトビールと温浴
この数年、クラフトビールがブームと言われています。かつて日本ではどのメーカーのビールを飲んでもほぼ似たような味だったのですが、個性的なクラフトビールや輸入ビールの味を好きになる人が増えてきているようです。
かく言う私もエールビールが気に入っていて、自宅ではもっぱらよなよなエールを飲んでいます。
日本酒やワインが辿った歴史を考えれば、ビールの嗜好が多様化するのも一過性のトレンドではなく、ベビーユーザー化の確固たる流れであると考えられます。
つまり、大手の定番ビールしか飲めない店は、ビール好きからするとつまらない店ということになってくるのです。
この話を先日温泉道場の山崎社長にしたところ、すでに自店ではヤッホー・ブルーイングのサーバーを設置してよなよなエールを提供しているとのこと。さすがにやることが早いなと感心しました。
ところで、今の温浴業界はアルコール販売の強化に消極的な傾向があります。
かつての温浴施設ではビールが飛ぶように売れたものですが、飲酒運転の規制強化後はさっぱり出なくなってしまいました。良い時代を知っているだけに少々販売促進しても昔のようには売れないと諦めムードのようです。
しかし、飲酒運転規制の厳罰化から10年が経過し、消費者も「飲んだら乗らない、乗るなら飲まない」を守りながら、相乗りなどで運転手を確保しつつ飲酒を楽しむように工夫しています。
地方で仕事をするとお客様と飲む機会も多いのですが、いつも見事に移動手段確保の段取りができています。決して日本人がアルコールを飲まなくなったわけではないと感じます。
そうすると、やはり美味しいお酒、楽しいお酒を提供できるお店にお客様は集まる。温浴施設は身体を温め、喉が乾くという絶好のチャンスを作り出せる有利なポジションにいるのですから、街中の飲食店に負けている場合ではないのです。
◆ライザップの温活
先般から「温活」というキーワードが要注目であることをお伝えしていますが、ライザップでも「温活」をテーマにしてきたようです。
ライザップのLineアカウントから送られてきた投稿には、『実はキケンな低体温?!”体温アップ”の秘訣はこちら>』という刺激的なコピーがありました。クリックすると、低体温のデメリットと体温アップの方法が書かれており、ライザップのプログラムの申込みを促すようなページになっています。
http://www.rizap.jp/lp/line-161207/
「温活」は温浴業界だけでなく、美と健康に関わる様々な業界が注目しているようです。
ところで、「体温をアップするといろいろな効果があります」という表現と、「実はキケンな低体温」という表現は、言っていることはほとんど同じなのですが、受け取るインパクトにはかなりの違いがあります。
誰でも「良いことありますよ!」と言われるよりも「キケンですよ!」と言われた方がドキッとします。広告宣伝に力を入れるライザップならではの表現の工夫だな、と感心します。
消費者の感情を揺り動かす効果に着目した広告宣伝手法を、エモーショナルマーケティングと言います。
多くの人間は理屈よりも感情で動くものなので、上手に感情に訴えかける工夫によって宣伝効果を高めることができるのです。
私も含め、その手口を知ってしまうと、エモーショナルな表現を駆使した宣伝を見かけた時にかえって「煽ってばかりで実はたいしたことないのでは?」と疑うようになってきますので、あまり乱用するのはおススメできませんが、ここぞという時にどのような表現が一番効果的に伝えらるのか?ということについてはやはり気にするべきだと思います。
どんなに素晴らしいサービスや技術があっても、伝わらなければ何もはじまらないのですから。
◆スポーツと温浴
最近、仕事では温浴施設を利用することはあるのですが、個人的に行く機会が減っています。
時間がなくて、ということもありますが、もっと明快な理由があります。
温泉やサウナの魅力を知ってからは、しばらく行かないでいると身体がムズムズしてきたものですが、そのムズムズの正体は疲労回復だけでなく体温アップと発汗の欲求であろうと思います。
しかし、日頃から運動して汗をかいていると、その欲求はかなりの部分が満たされてしまうのです。
特にボクシングをやるようになってからは、サウナ以上の激しい体温上昇と発汗があるために、温浴施設を利用したいという気持ちが薄らいでいるのを自覚しています。
そう考えると、スポーツ・フィットネス業界と温浴施設業界にはトレードオフの関係があるということです。
スポーツ参加人口が増えると、温浴参加人口が減る。人が健康になるのは良いことですから、どのようなアプローチであってもいいとは思いますが、できれば競合ではなくてそれぞれ発展できる形が望ましいと思います。
考え方として、「元気な人はスポーツを楽しめるが、その気力や体力がなかったり病気やケガがあると激しいスポーツは困難」ということがあります。つまりターゲットを棲み分け、激しい運動ができない人は温浴で健康に、ということですね。
また、「運動の後に温浴を利用することは、いっそうの爽快感と疲労回復効果をもたらす」ということがあります。これもすでに幾多の事例がありますが、フィットネスと温浴の併設施設としたり、ジョギングや自転車その他諸々のスポーツをやっている人たちに運動後の温浴利用をおすすめするといったことです。
このように考えるとスポーツと温浴は必ずしもトレードオフではなくて、相互に補完し合いながら発展できる関係でもあるということが分かります。
いつも行くボクシングジムにも、シャワーだけでなく本格的な温浴設備が導入されたら最高なんですが。
◆クリスマスにバラ風呂
今年の12月23日〜25日は3連休。つまり24日は温浴施設の集客がピークとなりやすい日なのですが、ご存じクリスマスイブです。
経験上、クリスマスと温浴の相性はイマイチでして、いろいろとイベントを組んでみても期待するほどの集客にはならないことが多かったのです。
しかし、以前携わった施設では、休日のクリスマスにイベントを仕掛けたところ、予想以上の成果を上げることができました。そこの施設はどちらかというと洋風なデザインだったので、イメージ的にクリスマスと結び付きやすかったのかな?と推察しました。
ということは、必ずしも温浴とクリスマスの相性が悪いわけではなくて、クリスマスを素敵に楽しく過ごすイメージとしっかり結び付けて訴求できればそれなりに反応は得られるということなのかも知れません。
イルミネーションやクリスマスツリーのディスプレイには取り組んでいるところが多いかと思いますが、もうひと押しすれば温浴施設で素敵なクリスマスを!というイメージが高まるかと思い、浴場市場のバラ風呂をお勧めさせていただきます。
今週中にご注文いただければ12/22までに納品が可能です。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000001352/ct256/page1/brandname/
◆焼き芋と温浴
近所の商店街にサーフショップがあるのですが、その軒先でおいしそうな焼き芋が売られている!と妻子が騒いでいるので見学してきました。
オフシーズンだから副業にいそしんでいるのでしょうか、小さいもので1個あたり200円~、大きさによって値段が違うそうです。
安納芋と書かれたその焼き芋は、食べてみれば確かに美味しいものでした。
江戸時代の浮世草子作家、井原西鶴の作品の一節に、『とかく女の好むもの 芝居 浄瑠璃 芋蛸南瓜』とありますが、いつの時代も焼き芋に惹かれるのは男性よりも女性のようです。
焼き芋と言えば昔は石焼き芋屋さんが売り歩いていたものですが、最近は見かけなくなりました。たまにスーパーで売っていたりすることもありますが、ホクホクの焼き芋を手に入れる機会は減っていると思います。
箱根の天山湯治郷では、毎年冬になると落ち葉焚きをしています。
中庭でお客さんが落ち葉をくべられるように籠に集めた落ち葉とトングを用意して、ブロックで囲ったスペースで焚き火をするというだけの単純なことなのですが、最近は火の用心に加えて環境のこともあって焚き火もおちおちできないので、それだけで風情を感じたり懐かしい気持ちになったりします。
あの焚き火と焼き芋を組み合わせたら、良いサービスになるんだろうなと思います。
焼き芋を一個200円~と言って平均300円で販売して、粗利が一個約200円あれば、1人分の人件費くらいは稼ぎ出せる可能性はあります。
駐車場の管理と落ち葉集め、そして焼き芋の販売に1人配置してもいいのではないでしょうか。
サーフショップやスーパーよりも、温浴施設の方が焚き火と焼き芋はずっと似合うと思うのです。
◆冬の風物詩
今日は冬至。全国各地の温浴施設では柚子湯が行われています。
柚子湯は見た目鮮やかで香りも良く、歴史的ないわれから科学的な効果効能の分析までウンチクもいろいろありますので、風呂屋としてはうってつけのアイテムです。
唯一の難点は後始末。お客様が潰したり剥いたりすると、崩れた実や種が散らばり、ろ過循環系統にも回ってしまうのでそのままにはしておけません。
それでもお客様が喜ぶのでやはり柚子湯はやめられませんね。
お湯そのものに影響がなく後始末が楽なアイテムとしては、玩具系があります。代表はアヒル風呂ですが、他にもいろいろ。
夜の露天風呂に最適な光るおもちゃも最近は安くなり、1個30円を切るようなものもあります。
子供だましと思ってしまいがちですが、意外と大人も喜びますので暦湯や入浴剤だけでなく、玩具系もぜひお試しください。
玩具系でオススメの仕入れ先はトチギヤの通販です。
http://event-k.com/smp/index.html
浴槽に浮かべる玩具だけでなく、プレゼントで配るようなアイテムも安価で楽しいものがたくさんあります。
玩具プレゼントは、うまく訴求すると入館料割引よりも反応がとれることがありますので、販促のバリエーションとしてもぜひ使いこなしてください。
これからクリスマス、年末年始とイベントが続きます。お風呂屋さんにとっては忙しいシーズンですが、だからといって受け身で消極的になってはせっかくの集客チャンスを逃してしまいます。少ない負担で効果の期待できる手法を駆使して、繁忙期を乗りきっていただければと思います。
…ということで、前回イベント風呂やプレゼント用の玩具仕入れ先として「トチギヤ」さんをご紹介しましたが、それを読んだ新潟のナステビュウ湯の山の高橋社長から、速攻で補足情報メールをいただきました。
『当館も昔はそうでしたが、現在は湯の山のニュースのクーポン商品など(1個の予算がおよそ30円)全て大国屋さんから購入しています。
こちらの方が種類が多く若干安いようです。一応参考までに大国屋WEBサイトは、http://d-kokuya.shop-pro.jp/』とのことです。ナステビュウ湯の山さんでは、いろいろな販促手法を毎回きっちり効果測定していて、『30円の玩具プレゼントの効果は50円の割引に勝る』という結論に至っています。
トチギヤさんや大国屋さんのサイトを見ていると、個人的にもちょっと買ってみたくなるような魅力的な商品がたくさんあります。こちらもぜひお試しください。
◆追い風かも?
先日のNHKもそうですが、その後も特ダネ、マツコの知らない世界など、有力番組で次々と温浴施設が取り上げられています。
冬だからお風呂で温まる話題を、ということもあるでしょうが温浴業界にちょっと追い風が吹いてるのかな?という気もしてきました。
これからさらに盛り上がってくれるとありがたいですね!
業績アップを考える
◆入館料値上げとその後
弊社のコンサルティングメニューのひとつに、「通信経営会議」があります。
いわゆるwebコンサルティングです。IT技術の進化とともに、スカイプでのコミュニケーションの品質が格段に向上しました。
毎回現地で直接面と向かって会議をするとなると、コンサルタントの移動時間や交通費も馬鹿になりませんが、現場の状況把握や人間関係がある程度できていれば、毎月現地訪問しなくともコンサルティングは充分に成立するようになったのです。
その通信経営会議をご利用いただいている新潟県の日帰り温泉さんでは、2014年4月の消費税5%→8%の増税時に、入館料をどうするべきか?についてスカイプを使ってかなり入念に打ち合わせを行い、結論として税率アップ以上に約2割の値上げを断行しました。
当時私どもとしては入館料値上げを推奨し、セミナーやネットで盛んに発信しておりましたが、当時税率以上の大幅値上げをしたところはあまり多くなかったように思います。
その日帰り温泉施設では、増税後に料金据え置きにしても客数が順調に伸びるという見込みはなく、逆にもし客数横這いや客数減少であったなら増税による減収ダメージが厳しすぎるという判断です。
周辺はほとんどが低価格な公共温泉施設で、そのような値上げを行うところなど一軒もありませんでした。
結果、増税後の全体的な消費の冷え込みの影響なのか、それとも値上げによる割高感の影響なのかは分かりませんが、値上げ後半年は客数が昨対で15%〜20%ダウンという厳しい月が続きました。
入館料を2割ほどアップしているとはいえ、厳しい客数減と減収です。しかし、そこを徹底的なオペレーションの見直し、経費の削減、省エネ対策でコストダウンを図り、2015年にはなんと減収増益で決算を迎えることになりました。
そして徐々に客数が回復してくると、今度は以前と違って大きな利益が出る素晴らしい状態になったのです。
その日帰り温泉施設は創業から20年以上経過していますが、いまだに成長を続けている理由は、社長の決断力とスピーディな実行力にあると、いつも感心させられています。
私どもの通信経営会議は、ちょうど良い距離感の相談相手になっているようです。
新潟の素晴らしい日帰り温泉とは、松之山温泉ナステビュウ湯の山の高橋社長です。社長ブログも面白いので、ぜひ読んでみてください。
・ほっこりと湯の山ブログ
http://yunoyama.jp/blog/mikio/
・アクトパスの通信経営会議
https://goo.gl/o9rJ2d
◆異常値づくり法と現場の事情
明日から大型連休。
2016年は5月2日と6日に休みをとって10連休にできる人もいるようです。
通常は3連休の中日が最も忙しくなるので、今年で言うと4/30と5/4がピークになるわけですが、他の日も危険かもしれませんね。
ところで、昔からコンサルタントの立場で「異常値づくり法」について繰り返し申し上げてきました。
黙っていても集客が増えるタイミングにこそ、販促を仕掛けてさらに集客しましょう!
誰もが行きやすい行きたい時にはちょっと背中を押されるだけで消費行動につながりますが、元々都合が悪かったりその気がない時にいくら仕掛けても反応はとれません。
この機会に普段自店に来たことがなかった人や、ちょっと足が遠のいている人も一気に呼び寄せれば、そこから以後の集客が一段階ペースアップしますよ!
さらに、そういう修羅場をくぐり抜けることで現場の運営力もアップします。正月、GW、お盆、年末がそのチャンスです!
といった感じです。この考え方は理屈としては正しいと今も思っています。
ただし、連休等のタイミングはスタッフの出勤を確保するのが普段以上に難しいですし、通常の何倍もの集客になると様々なトラブルも増え、良いことばかりではありません。
繁忙期の集客に拍車をかけていいかどうかは、現場の運営力次第ということころですね。
でも、それほど運営負担にならず、ピーク以降の集客にプラスになる方法があります。
それは例えば5月いっぱい有効のスタンプラリーや、2回3回と使えるステップ割引券などを渡すことです。連休中は普段来ている常連さんとは違う人たちも来ていますので、この人たちを次回の来店につなげ、リピーターにできるかどうかは以降の客数に大きな影響を与えます。
今年は運営体制が心配なので異常値づくり法は見合わせた、という方も、この再来店促進だけはちょっとやってみてはいかがでしょうか。
◆集客法の基本
先日ある温浴施設で、社長が私のことを販促担当者に紹介する時に、「こちら、温浴コンサルタントの望月さん。ネット集客を重要視されている方だから。」と言われ、えーそれは違うんだけど…と思いました。
私はネット集客だけを重視しているわけではありません。昔から言っている温浴施設の集客法の基本は「媒体ミックス、ターゲットミックス、動機ミックス」です。
ネット集客は様々な集客手段のひとつでしかありません。ただ、昨今急激にインターネットの可能性が拡大していることと、温浴業界ではまだ上手に活用できている施設が少ないので、ネット集客について語る場面が多くなっているだけなのです。
『媒体ミックス、ターゲットミックス、動機ミックス』というのは、温浴施設の集客の特性として、
「客層が老若男女幅広いこと、人によって何に喜ぶかは様々であること、朝から晩まで一年を通じて集客し続けなければならないこと」
があるので、いろいろな媒体を使って、いろいろな客層にアプローチして、いろいろな利用動機を喚起しないといけない、ということを指しています。
よく聞かれるのが、最近当っている販促手法であるとか、費用対効果の高い宣伝方法は何かといったことです。できるだけ手間や費用をかけずに効果的に集客したい気持ちは誰でも一緒だと思いますが、これだけやればOK!といった楽な話は残念ながらありません。
昔からある折り込みチラシや看板といった媒体も、ネットも、マスコミも口コミも、最大限に活用し続けていくしかないのです。
いろいろ使いながら、その集客特性や費用対効果を確かめ、より自店の状態や目的に合った上手な使い分けができるようになっていくことが販促ノウハウであり、これは非常に頭と労力を使う仕事です。
その意味では、以前広告宣伝費用と考えていた予算の一部を、広報販促担当者の人件費に充当すべき時代になったと言えるでしょう。
◆業績と数値管理
温浴施設の経営診断をする際には、損益計算書や日報月報、シフト表などの帳票類をひと通りお預かりして拝見します。
この時に出てくる帳票類の内容を見ると、運営現場のいろいろなことが手に取るように分かるのですが、細かい分析をする以前に、その施設が何の数字を追いかけているのかを見るだけで運営レベルが想像できます。
例えば、マッサージ関係。委託先に任せきりのスタンスであれば、マッサージ部門の月商だけ分かっていれば充分です。
でも少しでも多くのお客様にマッサージを利用してもらいたいと考えるなら、全体の入館者数に対するマッサージ部門の利用率が気になるはずです。
その利用率を上げようとして入館とマッサージのセットコースやフロントでの声かけ、館内放送等、日々いろいろな施策に取り組んでいるなら、日報の中にマッサージ部門の利用客数や利用率という数字が出てくるでしょう。
もっと踏み込むならコース別の利用客数や利用率、前月比、セラピスト別の売上、指名率など様々な指標をチェックするようになるはずです。
このように何の数字を管理しているかは、何をどのようにコントロールしようとしているかによって変わるのです。
数値管理のレベルと業績は必ずしも直結するということではありません。
しかし、業績を何とかして上げたいと考えた時に、漠然と客数を増やしたい、客単価を上げたい、と言っていてもそれは願望の域を出ません。
客数や客単価をさらに細かく分解して、自分達が現実にコントロール出来ること、コントロールできる数字を発見したとき、業績アップへの道筋が見えてくるのです。
◆起死回生の一発
私もいい歳ですが、いまだに趣味で空手やボクシングを続けています。今日はその話を書きます。
格闘技には大技というものがあります。
例えば空手で言うと飛び後ろ回し蹴りとか。マンガの必殺技ではありませんが、これが相手の急所にヒットしようものなら確実に一発で倒せるという技です。
だからと言っていきなりその大技を覚えようとしても、そんな簡単には習得できません。筋力や柔軟性、身体の使い方など相当な練習が必要です。
ましてや、試合でいきなりそんな大技を出しても当たるはずありません。いろいろな攻防をして相手の意識が他へ向いている時、そして相手も動き回って疲れてきたところで、相手を上回る体力気力があってはじめて使えるのです。
それでも万一はずしたら自分の体勢が崩れて大きな隙ができますから、大技を使うのはリスクがあります。
派手で威力のある大技というのはそういうものです。
それと同じことが経営にも言えます。
すぐに業績がV字回復するような提案が欲しい気持ちは分かりますが、企業体質を改善強化し、お客様の信頼を取り戻すことが先決なのです。
日頃の顧客満足度の追求や安全衛生管理、従業員の教育やモチベーションアップ、そういった地道な積み上げができているからこそ、新サービスの導入やリニューアルがうまく行くのであって、基本ができていないのに派手な花火を打ち上げても一時的に注目を集めてまたすぐしぼんでしまうことになるでしょう。
空手の稽古は、準備運動&柔軟→基本稽古→移動・型稽古→約束組手→自由組手→試合というように体系化されたプロセスがあり、それを繰り返しながら昇級・昇段していきます。弱い人でも着実に強くなっていく仕組みが確立しているのです。
温浴施設経営も同じことで、手順を踏んで取り組めば必ずレベルアップし、業績は向上します。
◆無人のドリンクカウンター
よく、温浴施設の館内で無人のドリンクカウンターを見ることがあります。
食事でレストランを利用するほどではないけどちょっと喉が乾いた、という時に自販機よりも付加価値の高いサービスを提供しようという意図で作られたものだと思いますが、これが想像よりも採算性を確保するのが難しく、繁忙時のみの営業としたり、結局はクローズしてしまったり。
よくある話です。
そうなるのを防ぐために厨房やフロントなど他の部門とくっつけるように作って、スタッフが兼務できるようにするなどの工夫をしているところもあります。極楽湯や竜泉寺の湯はそうなっていますが、賢い設計だと思います。
ところで、館内各部門の採算性はどのように判断すべきなのでしょうか。
テナントや委託であれば、元々それぞれが独立採算であり、キッチリ利益を確保しなければ継続できないのは当然のことでしょう。
しかし、直営部門はどうなのでしょうか。
フロントや施設の維持管理をしている部門は独立採算ではなく、入館料収入の中のコストとみなされます。
つまり、快適で魅力ある館内環境やサービスを提供することとひきかえに入館料という料金をいただいているのです。
「快適で魅力ある館内環境やサービス」とは追加料金の発生しないものだけを指すのでしょうか。
仮に入館料2,000円で館内着を提供し、浴場、休憩、飲食、マッサージなどがすべて揃った健康ランド的な温浴施設があったとします。
もし何かの都合で飲食もマッサージもすべてクローズしており、入浴と休憩しかできない状態だとしたら、お客様は2,000円の入館料に納得するとは思えません。
つまり、入館料とは館内のすべてが健全に機能しており、有料サービスも含めてすべてをお客様が自由に選択し利用できることへの対価なのです。
例えば天然温泉の看板を掲げている施設がポンプ故障などで源泉を汲み上げられなくなれば、故障が治るまでの間、入館料の変更を考えるでしょう。何かの部門が休止しているというのは、それと同じことです。
仮にドリンクカウンターの売上が思ったほど上がらなくて、人件費で赤字になっているような状態だったとしても、その部分だけを見て不採算だから休止と判断するのは早計かも知れません。
ドリンク販売だけで採算が取れていないとしたら、逆に言うとドリンク販売業務以外に空いている時間がけっこうあるということであり、その余力をさらに別の価値を生み出すことに使う可能性も考えられます。
ドリンク販売そのものの付加価値アップもいろいろな手があるでしょうし、例えば、物販催事、スーパーボールすくいのような簡易イベントとの兼任、館内インフォメーション、何かで困っているお客様への対応、館内出張マッサージの受付…そうやって施設の魅力が高まる方向になるのであれば、必ずしも不採算とは言えないと思います。
せっかく費用をかけて設置したドリンクカウンターを無人の休止状態にしているのは芸がありませんし、お客様から見ても入館料の対価とまで突き詰めて考える人は少ないかも知れませんが、残念な印象を与えてしまうのは間違いありません。
部門ごとの独立採算という考え方は、それぞれの担当者が一国一城の主として責任感とモチベーションを高めるためには有効ですが、経営者は「入館料とは館内のすべてが健全に機能しており、有料サービスも含めてすべてをお客様が自由に選択し利用できることへの対価」という考え方も併せ持つ必要があるのです。
全体の業績が苦しかったとしても、それは不採算部門が足を引っ張っているからではなく、施設全体の魅力が乏しいせいかも知れないのです。そこで休止部門などつくっていたらさらに魅力が低下し、悪循環に陥ってしまうおそれがあります。
「入館料をいくらに設定するのか」ということは、「お客様にこれだけの価値を提供しよう」という意思とイコールであり、そこを安易にグラつかせないことがお客様からの信頼につながるのだと思います。
◆温浴参加率と集客手法
消費者の心理を
(1)何らかのきっかけで温浴施設を知って利用し(新規客)
(2)気に入って繰り返し利用するようになり(リピート客)
(3)いずれ飽きたり 他にもっと良いものを見つけて離れていく(失客)
というプロセスに分解して考えると、ひとくちに客数を増やすと言ってもいろいろなアプローチがあることが分かります。
これまで温浴業界が積極的に取り組んできたのは主に(1)と(2)を少し。ざっくり言うと天然温泉の看板や目新しい設備を目玉に新規客を集めて、回数券や会員制度でリピートを促進するというやり方です。
しかし、前から書いているように現在は国民の2割が温浴施設を利用する習慣を持っていると言われています。パレートの法則(2:8の法則)で考えると、参加率2割はひとつの達成ラインで、今までと同じ手法で国民の温浴参加率をさらに上げていくのは難しいことなのかも知れません。
そうすると、2割の売れ筋商品を重点管理するのと同じように、温浴施設としては新規集客に費用や手間をかけるよりも、(2)固定客化手法をさらに深め、いかに(3)失客を防止するかに取り組むほうが重要ということになります。
一方で新規に掘り起こしを狙う時は、今までとはまったく違うマーケットにアプローチする戦略を持った方が結果は出やすいということも言えるでしょう。違うマーケットとは、これまでの「癒し」「リフレッシュ」「リラクゼーション」「健康」「美容」といったキーワードだけでは語れないような別の需要のことです。
これまでの温浴施設経営とは異なるセンスや経営資源が必要ですから、空振り覚悟の難易度の高い挑戦にならざるを得ません。
このように、ひとくちに集客と言っても時代によって狙いや手法が大きく変わっていきます。集客ノウハウは特に移り変わりが激しいようです。
◆正月特別料金
昨日、Facebookにある温浴施設同士の情報交換グループが、正月特別料金の設定をすべきか否かという話題で盛り上がっていました。
コンサルタントがそういった場所で意見すると煙たがられるかも知れないと思って、コメントするのは遠慮しておきましたので、私の意見はここに書いておきます。
入館料と客数には基本的にシーソーのような関係があり、入館料をアップすれば客数が減ってしまう恐れがありますので、必ずしも売上アップになるとは限りません。
ただし、正規料金そのものの改定ではなく、期間限定の値上げなら一時的な売上アップは見込めるでしょうから、せっかくの繁忙期の売上を少しでもかさ上げしたいというなら、特別料金はひとつのテクニックではあります。
しかし利用者の立場として、せっかくお正月に家族で温泉に来てみたらいつもよりも高い料金…お正月だから仕方ない、と納得するのかも知れませんが、けっして快くは感じない可能性があります。
普段と違う特別な価値があるのならまだ納得できるかも知れませんが、いつもと同じ施設で同じサービスだとしたら、繁忙日だけ値上げされることには違和感を感じるのではないでしょうか。
以前から申し上げていることですが、宿泊施設や観光地、航空機といった非日常性が高くて利用頻度の低い消費に関しては価格弾力性があり、シーズンに応じた価格変動があってもそれほど違和感を与えません。むしろ価格を変動させて稼働率をコントロールしようとするのが一般的になっています。しかし、日常的にリピート利用するような消費では一物一価、価値が一定であれば価格も一定であるのが普通です。
温浴施設はどちらのタイプでしょうか?
立地条件や客層にもよりますが、多くの場合は日常的にリピート利用される対象なのではないでしょうか。だとしたら、正月特別料金や土日祝日料金という手法が本当にプラスに働いているのか、考える必要がありそうです。
仮にお正月三が日に1日あたり1,000人の入館があったとします。3日で3,000人。入館料を100円アップしていたら30万円の収入増です。
せっかくお正月という特別な時に、わざわざ自店を利用しに来てくれた3,000人ものお客様に対して価格設定の不信感を与える可能性があり、その引きかえに30万円。
私にはあまり得な交換とは思えませんが、それでも特別料金をやるのであれば、その30万円は誰だって休みたいお正月に無理して出勤してくれたスタッフに丸ごと臨時ボーナスとして配っても良いのではないでしょうか。
これからますます人材確保が難しい時代です。スタッフのモチベーションアップというプラスに働くのなら、正月特別料金を設定する意味があるのかも知れません。
サウナの話
◆冬こそ外気浴
冷え込みが厳しくなってきました。こんな季節にこそ、大いにアピールして欲しいことがあります。
それは「外気浴」です。
露天風呂で長湯をしてものぼせない。サウナ後に身体からもうもうと湯気を立ち上らせるのが堪らない。裸で月を眺めるのが好き…人によって理由は様々ですが、温浴ファンに外気浴ファンは少なくありません。
全裸で外気浴することは、家庭ではなかなか実現できない温浴の醍醐味のひとつなのです。
しかも、リラックスして休憩できるスペースだけ用意すれば建築も設備も不要なのですから、温浴事業者にとってもこんなにありがたいことはない筈なのですが、この大切さがいまひとつ理解されていないことをいつも残念に思っています。
さまざまな入浴法がありますが、サウナと水風呂と外気浴を組み合わせた入浴法は、身体に及ぼす効果や強い習慣性がある点で最強なのです。
これを積極的にアピールすることが、家庭の風呂では飽き足らない温浴ファンを増やすことにもつながるのです。
温めた身体を外気で冷やす爽快感、温冷交代浴が身体に及ぼす効果などを接客トークや館内情報、ネット情報としてどんどんお客様に伝えましょう。
また、投資もそれほどかからないはずですので、快適な外気浴スペースを積極的に整備して欲しいと思います。
・参考に以前書いたブログ記事をリンクしておきます。
【朗報】サウナ初心者・水風呂が苦手な人必見!〜誰もがサウナを楽しむための7つのコツ〜
http://spa-net.cocolog-nifty.com/aqutpas_blog/2015/03/post-e495.html
◆サウナのこれから
せっかくサウナの日(3月7日)ですので、サウナのこれからについてちょっと私見をまとめてみたいと思います。
これからの日本の温浴は、必ずサウナのウエイトが高まってくる。私はそう考えています。
理由はたくさんあります。真面目に語り出すととても長くなりそうなので簡単に列記してみましょう。
・元々日本の「風呂」とは湯よりも蒸し風呂のことを意味しており、日本人の気質や風土とサウナ(熱気浴や蒸気浴)は馴染みが良い。
・近年は「天然温泉」が温浴ブームをけん引してきたが、泉質や湯量、排水環境に恵まれた源泉でない限り井水や水道水の沸かし湯と大差ないか、むしろ沸かし湯に劣るケースすらある。温浴施設に一般的な濾過循環塩素注入の温泉は「単純塩素泉」と揶揄され、その価値が疑問視されている。
・レジオネラ菌問題や塩素問題で技術的な壁に行きあたっている「湯」に比べて、サウナ技術は発展の余地が大きい。日本とヨーロッパのサウナを比べてもまだ大きな差がある。
・同じ面積につくる温浴設備として比較すると、湯とサウナではイニシャルコストもランニングコストも圧倒的にサウナが優位。省コスト、省エネは時代の要請であり、大量の水とエネルギーを消費する浴槽を今以上に増やしたり大きくすることは難しい。
・同じスペースに何人収容できるかを比較しても、浴槽よりサウナの方が効率が良い。また貯湯槽、ボイラー、ポンプ、薬注機、濾過器等が必要な浴槽とべて、サウナ設備は圧倒的にコンパクト。サウナスペースを大きくとることで建築コストが高い浴室周りを小さく設計することができる。
・泉質や環境によってその魅力や効果が千差万別となってしまう温泉に比べて、サウナの効果は安定的であり、医学的なエビデンスも得られやすい。
・これまで都市型サウナの出店が先行したことから「サウナは酔っぱらったオヤジが行くところ」といったイメージが定着していたが、スーパー銭湯や岩盤浴の普及でサウナ体験が一般化してきており、若い世代や女性にもサウナファンが増えている。さらにロウリュイベントが話題になったり、北欧ブームからサウナ文化が注目されるなど、かつてのイメージは払拭されつつある。
といったことです。
簡潔に書いたつもりでも長くなってしまいましたが、これだけの材料があればサウナが台頭しないはずはないと思うのです。
マーケットニーズは確実に高まっているのですから、あとはサウナを提供する側の温浴業界、そしてサウナメーカーや設計会社がもっと新しい時代にあったサウナを開発しようという姿勢になって欲しいところです。
◆サウナとテレビ
よく聞かれることシリーズで、「サウナにテレビは必要か?」というテーマがありますので、これもまとめておきたいと思います。
サウナ室にテレビを設置するのが主流になっているのは、日本だけです。至れり尽くせりの日本流モノづくりの一環ということもあるのでしょうか。
しかし、温浴施設が提供しているくつろぎや癒しにふさわしい環境づくりという面では、ドラマやスポーツ中継、バラエティ番組などの映像はふさわしくないと考える人がいます。
一方で、サウナにはテレビがついているのが当たり前と考える人は一定数いて、運営現場ではテレビがついていないとお客様から文句を言われることもあるでしょう。
テレビを設置すれば、こんどはチャンネル争いがあります。大相撲中継がいいのか、話題のドラマがいいのか。テレビ画面はひとつしかないので、運営現場としては悩まされる問題のひとつです。
ちょっと視点を変えて、飲食店を思い浮かべてみてください。テレビを設置している飲食店のほとんどは大衆食堂か、スポーツ中継や古い映画などの特定コンテンツを雰囲気づくりに利用するバーでしょう。
美味しい料理やおもてなしを店のメイン価値として提供しようとする飲食店はテレビを設置しません。せっかく美味しく食べてもらおうと思って精魂込めて作った料理が、テレビに気を取られたままうわの空で食べられてしまったら寂しいでしょう。
とはいえ、飲食店をどのように利用したいかは人それぞれです。特別なご馳走やおもてなしを提供することばかりが飲食店の役割ではありませんから、テレビを見ながらの飲食もそれはそれで有りでしょう。
サウナも同じことで、効果的に身体を温め、発汗を促進する設備環境。換気や香り、照明にもこだわり、いつも清潔に清掃し、マットも頻繁に交換し、さらにロウリュサービスも、ということになってくれば、テレビは邪魔になってきます。それよりも、提供する側としてはじっくりと最高のサウナ環境を楽しんでもらいたい。目を瞑って静かに心身の疲れを癒して欲しいと考えるようになるのではないでしょうか。
一方そこまでのサウナ環境でなく、熱さと苦しさを我慢して気を紛らわせる必要がある状態ならばテレビはあった方がいいということになるでしょう。
その中間的な選択肢としては、テレビは設置するけど流すのは環境映像等が中心でバラエティ番組などは流さないというやり方や、普段はテレビ画面が隠されていてどうしても皆が見たい番組がある時だけテレビが登場する、というような事例もあります。
私が現在国内で最高のサウナだと思っているのは、大阪なんばにあるニュージャパンスパプラザのストーンサウナです。温度バランス、デザイン、ロウリュパフォーマンスどれをとっても最高水準ですが、なぜかこのサウナ室にはテレビがついています。利用者の立場で言わせてもらえば不要なのですが、サウナにトップレベルのこだわりを持つニュージャパンでもテレビの問題で悩むほど、微妙な問題とも言えるでしょう。
提供する側も利用する側も、良いサウナとは何かということについてもう少し経験を積むと、飲食店のように答えがハッキリしてくるのだろうと思っています。
◆サウナタイマーの謎
日本には耐熱サウナタイマーを製造する会社が3社ありまして、浴場市場ではいずれの製品も取り扱っています。
そのうちの1社の社長様とゆっくりお話しする機会を得て、前から気になっていたことを聞いてみました。
「どうしてサウナタイマーは12分計なんですか?」と。
答えは…パーツを通常の時計から流用して作っていること、盤面デザイン的に12分割に馴染みがあること、1回のサウナ入浴時間がおよそ12分前後であることなど複数の理由からそうなっているとのことでした。
浴場備品は、ひとつひとつは地味でも特殊な環境で使われるモノですので、見えないところに色々と工夫やストーリーがあって面白いです。
◆サウナブーム前夜
Coyoteという雑誌をご存知でしょうか。2004年の創刊、「人、旅をする」をテーマに年に3回ほど発行されている丁寧なつくりの雑誌です。
昨日(11月15日)に発行された第60号はサウナ特集。
http://www.switch-store.net/SHOP/CO0060.html
サウナといっても日本のサウナ施設にはほとんど触れず、ヨーロッパのサウナ文化を中心に紹介しています。
表紙には「SAUNA for Beginners」と書いてありますが、このレベルの内容がビギナー向けだとしたら、今の日本のサウナ関係者はもう論外という扱いなのでしょうか。
このような情報に触れると、日本のサウナとのあまりにもレベルが違うことに愕然としたり、まだ進化や工夫の余地がたくさん残されていることを喜んだり、いろいろとショックを受けます。
分かりやすく言うと、日本とヨーロッパのサウナには、家庭にある狭いユニットバスと大自然の中の野趣あふれる露天風呂くらいの違いがあるのです。
残念ながら、保守的な日本のサウナメーカーや設計会社は、従来の日本型サウナを飛躍的に進化させるような提案を進んでしてくることはまだないでしょう。海外サウナのことは情報としては知っていても、日本の消費者がそれを求めてはいないし、同様に施主もまだ求めることはないだろうと考えているからです。
温浴施設の設備投資は大きくなるので、あまり革新的になれないのは当然かもしれません。
そうこうしている間に時代は進み、温浴ブームを経てサウナ体験済みの消費者が急増。ヘビーユーザーはもっと快適なサウナを求めてお互いに情報交換したり、サウナに関する情報誌が次々と発行されたりしています。
そういえば昨夜は行きつけのちょい呑みおでん屋で、著名なサウナブロガー濡れ頭巾ちゃん、日本有数のサウナ企業ウェルビーの米田社長、サウナ好きのテレビプロデューサーと遭遇し、サウナ談義に花を咲かせました。
「そろそろサウナブームが来る!」と予測したのは2年前ですが、これからさらにムーブメントが大きくなってくることをヒシヒシと感じます。
弊社も様々な角度からサウナブームを後押ししていくつもりですが、メーカーや設計会社には施主側から一歩進んだ提案を要求していくことも必要だと思います。
◆サウナで世界一
昨夜、ぼんやりとサウナのことを考えていたら、自分が随分とたくさんのサウナの種類を認識していることに気づき、メモにざっと書き出してみました。
自分が知る限り、世界で最多のサウナ室がある温浴施設はドイツのミュンヘンにあるTherme Erding、その数27種類(調査当時)です。
それを見たときは、日本にあるサウナのバリエーションがあまりにも乏しく感じて、その大きな差に愕然としたものです。
しかし、私が深夜に書き出したサウナの種類は30種を越え、絞り出せばまだ出てきそうでした。
ということは、いま30種類を越えるサウナ室を持つ温浴施設を作ったら、世界一を名乗れるんじゃない?ギネスブックじゃない?と思ったのです。
しかし、その考えはすぐに自分で否定しました。世界一たくさんのサウナがあるというのは確かに話題にはなるでしょう。マスコミの取材が押し寄せるかも知れません。
しかし、サウナというのは単に温めた部屋を提供すれば良いというものではないのです。温度だけでなく、湿度や輻射熱、対流や換気などの複雑な要素によって快適性が大きく左右されます。
新築してから何度も調整して、ようやく良いサウナになってくるのです。ですので、一気に30種類ものサウナを作ってしまったらその全ての品質を完璧に管理できるはずはなく、昔のスーパー銭湯がお風呂のバリエーションを誇ったのと同じようにたいした意味はなく、単なる目先の話題づくりにしかならないでしょう。
とは言え、こうしてメルマガに書いている人もいるくらいですから、ひとつひとつ品質にこだわりながらサウナの種類を増やして、いずれ世界一の称号を獲得する温浴施設が日本に登場するかも知れませんね。
ロウリュの話
◆ロウリュの開催頻度
メルマガ読者の方からご質問をいただき、すぐに回答はしたのですが、結構よく聞かれることなのでここにしっかりまとめておきたいと思います。
サウナ入浴の時間は、そのサウナ室の環境や入る人の体調にもよりますが、普通の中温~高温サウナに健康な人が入るという前提で言えば、10分前後の加温時間が一般的だと思います。
そして汗を流して水風呂冷却まで1~2分。その後休憩(外気浴)を10分以上していると、すぐに20分~25分の時間は経ってしまいます。
休憩が一段落したタイミングでまたロウリュイベントが始まるなら、またサウナ室に行って一汗かくことになるでしょう。
そうやって数セットの加温→冷却→休憩を繰り返しているうちに、深いリラクゼーションと自律神経のリセット、いわゆる「ととのった」状態に至るのです。
ですので、理想的にはロウリュ開催頻度は30分に1回ということになります。
ところが、現在そのような高頻度でロウリュをやっているのは、大阪のニュージャパンサウナと神戸の神戸サウナ&スパくらいでしょうか。
今のところロウリュを開催する施設の大多数が1日に数回程度の開催頻度です。
開催頻度をなかなか上げることができない理由は、主にスタッフの負担と、サウナ設備の負担が挙げられます。
ロウリュイベントを本格的にやると、トークから水掛け、扇ぎで数分から十数分間はサウナ室で過酷な仕事をすることになります。
お客さんと違って、終わったらすぐに水風呂や休憩というわけにも行きません。
それを1日に何回やるの?と考えると、いくらお客さんが喜ぶことでも安易に開催頻度を上げられないのです。
しかし、これには解決法があります。
ロウリュというのはフィンランド語ですが、フィンランド式のロウリュには派手なパフォーマンスやタオルの扇ぎはありません。
フィンランドのサウナは営業施設よりも家庭用が多く、ロウリュは基本的にセルフで水掛けだけを行い、発生した蒸気が自然にサウナ室に充満してくるのを静かに楽しむのです。
浴場巡回のついでに、一言あいさつしてからサウナストーブに水を掛けてすぐに出てくるだけなら、スタッフの負担は軽いものとなります。30分や60分に一度くらいならできないこともないでしょう。
さらに、もう少し時代が進んで、ロウリュがどういうものか分かっているお客さんが増えてきたら、セルフロウリュに切り替えることも可能でしょう。現時点でも日本に数件のセルフロウリュOKの施設があります。
ドイツでは、サウナストーブへの水掛けはアウフグースと呼ばれ、興味深いトークや見ていても楽しいタオルパフォーマンスなど、一大イベントへと発展しています。日本で現在主流となっているのはドイツスタイルです(本場のパフォーマンスレベルにはまだ及びませんが)。
サウナファンを増やし集客につなげるためには、イベントとして盛り上げた方が効果的だとは思いますが、毎回ドイツ式でやるのでは大変ですから、フィンランド式とドイツ式を組み合わせて運営負担とのバランスを調整すれば良いと思います。
もうひとつ、サウナ設備への負担という問題がありますが、これはサウナストーブの機械部分に水がかかってしまうかどうかで変わってきます。
短時間に連続してロウリュをやると、サウナストーンが十分に熱くなっていないために水がすぐに蒸発せず下まで落ちていく可能性が高くなります。そして機械部分に水がかかると故障のおそれがあるのです。
これを防ぐためには、ストーブに積むサウナストーンの量を増やしたり、内部に水が入らないような仕切りを入れる改造をするなどの方法があります。
また、サウナ室の加温用ストーブと水かけ用のストーブを別々に分けダブルストーブとする方法もあります。
いずれにしても技術的には解決できることですので、ストーブの問題でロウリュの開催頻度アップを諦める必要はありません。
◆ロウリュ導入の効果を実感
水をかけられないサウナストーブの施設でもロウリュができるようにと、2013年に弊社が開発した運搬式スチーム発生器「熱岩石」。導入実績はすでに全国のロウリュ実施店舗のうち2割近くのシェアに達しています。
ところが、一部の施設では熱岩石を導入してからしばらくするとikiストーブやISNESSなど、METOS社の本格的なロウリュ用サウナストーブを導入して、熱岩石を使わなくなってしまうのです。
熱岩石によってロウリュを実施することの重要性を実感し、さらに本格的で作業負担が少ないサウナストーブに改装を決断するということなのでしょうけど、なんだかさんざん利用された挙句に捨てられるみたいで、ちょっと悔しい気がしています。
・熱岩石のご案内ページ http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000000078/
◆ロウリュ用アロマの話
アクトパスでは、ロウリュ用ポータブル蒸気発生器「熱岩石」のレンタルサービスを行っています(レンタル料1日目4,000円、以降3,000円(税抜))。
主に熱岩石を購入する前のお試しでご利用いただくことが多いのですが、貸し出しは熱岩石本体とマニュアルのみで、カセットコンロ、水かけ用の桶やひしゃく、アロマオイルなどは付属していません。
お試しなので、桶と柄杓はワインボトルなどで代用し、アロマオイルや芳香液も自前で調達されていることが多いのですが、時折返却から戻った熱岩石のサウナストーンに香りのする樹脂のような何かがベッタリと付着していることがあります。
おそらく人工のアロマオイルだと思うのですが、これが水、お湯、洗剤などでいくら洗っても落ちないのです。
洗いながら、「いくら洗っても落ちないコレを水蒸気と一緒に吸引しても大丈夫なのか?」と心配になります。
臭いも残っているので、まだ使えるサウナストーンなのですが仕方なく廃棄しています。
私自身も、入浴客としてロウリュを受けている時に、アロマが目に染みて閉口した経験があります。ロウリュサービスをする側としてはいつも天然のアロマオイルを使っていましたので、そんなことは一度もなかったのですが。
浴場市場では、ロウリュ用のアロマとして、天然のアロマオイルか、ロウリュ専用芳香液(ドイツ製のサウナコロン)を販売しております。
一長一短ですが、経済性は同等、香りに対するお客様の評価はやはり天然のアロマオイルに軍配があがるようです。またアロマセラピーで使われているものですから、効果効能をうたうこともできます。
いずれにしても、人がアロマの微粒子を吸引する前提で作られた製品であり、これまでロウリュに使用されてきた実績もありますので安全性には問題ありませんが、それ以外の芳香製品には上記のような現象もあっておすすめできません。
アロマオイルにはいろいろあって、天然のエッセンシャルオイルの中には目薬のような小さなボトル(5ml)でも何万円もするような稀少品もあります
本物の植物を使い、手間のかかる方法でわずかな製油を抽出しているので、そんなに安くはできないのです。
一方で、現実には100円ショップでもアロマオイルは売られています。これはよほど希釈しているのか、それとも人工香料を使っているのでしょう。
本物のアロマと人工の香料。価格はまったく違いますが素人には嗅ぎ分けられないかも知れません。
どちらを使うべきかは自明のことだと思います。
※アクトパス.infoロウリュ関連備品について
http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/692075/176318/69488930
◆進化するロウリュ
サウナ室内で水蒸気を発生させること自体は日本古来の蒸し風呂をはじめ幾多の歴史がありますが、本格的な商業サービスとしてロウリュ(ドイツ式のアウフグース)を日本で初めて導入したのは1995年、大阪ニュージャパンサウナと言われています。
私自身もニュージャパン方式のロウリュを手本としながら、全国各地でロウリュを普及させるお手伝いをしてきました。
「口上」→「水かけ」→「タオルによる扇ぎ」と進めるニュージャパン方式のロウリュは、言ってみれば正攻法のロウリュであり、的確なロウリュの説明と最適な水蒸気量や扇ぎの風量を追求した完成度の高いものです。
ロウリュを開催する店舗が増えるにつれて、徐々にサービス内容のバリエーションが増えてきましたが、なかなか本家を超えるロウリュサービスをする施設は出てきませんでした。
しかし、実はドイツではロウリュサービスのレベルも日本とは段違いに進んでいます。以前ミュンヘン空港の近くにあるTherme Erdingのサウナ室のバリエーションがなんと27種類、ということを書きましたが、ドイツのサウナで行われているアウフグースは、日本のそれよりもずっとバリエーションが豊富で、エンターテイメント性が高いのです。
考えてみれば日本でロウリュが始まってから20年も経過しているわけで、いずれニュージャパン方式を超えるやり方を確立する施設が登場するだろうとも思っていましたが、ついに出てきたようです。
それが2016年熱波甲子園女性の部で優勝した秋山温泉さんです。動画がYoutubeにアップロードされていたので確認したところ、これまで知られていたニュージャパン方式よりも進化したタオルの扇ぎ方を見せています。
「おぉ、この扇ぎ方はドイツの進化型タオルパフォーマンス!ついに出てきたか!」という感じです。
・秋山温泉熱波2016(Youtube)
しかも熱波甲子園優勝ですから、これからこのようなレベルのパフォーマンスをする施設が後を追うように出てくることになるでしょう。これまでロウリュサービスを長く続けてきたところも、うかうかしてはいられません。
今後の参考までに、アウフグースのヨーロッパ選手権のハイライト動画をご覧ください。
・AUFGUSS EM 2015 Highlights(Youtube・海外ページのため閲覧注意)
◆基本は繰り返し稽古する
コンサルタントとして長いこと同じ業界で仕事をしていると、いつまでも同じようなことを言ったり書いたりしているのは、自分が成長していないからでは?という気がしてくるようになります。
そして、もっとディープなノウハウを、もっと最新最先端の情報を提供しなければ、という方向にばかり思考が向ってしまいがちなのですが、一方で基本を大切にして、初級の人と一緒に反復練習するということもやはり忘れてはならないのだと思います。先日のイベントでの出来事から、そんなことを思いました。
添付の写真はフィンランドのロウリュとドイツのアウフグースを並べたものなのですが、先日のイベントに参加している温浴業界の人たちにこれを見せて、どちらがフィンランドでどちらがドイツか分かりますか?というクイズを出したのです。
フィンランドとドイツのサウナの違いをざっと書き出すと、
【フィンランド】
・ロウリュはフィンランド語でサウナストーンから立ち上る水蒸気を浴びること
・フィンランドでは家庭用サウナが大多数を占める
・ロウリュは自分でサウナストーンに水をかける
・タオル等で扇ぐことはせず、じっとして蒸気の動きを感じる。
・白樺の枝葉を束ねたヴィヒタで自分の身体を叩く。
・サウナは神聖なもので、ロウリュには精霊が宿ると考えられている
【ドイツ】
・アウフグースはドイツ語で「注水」というような意味で使われている
・ドイツには日本と同じように商業用温浴施設としてのサウナが普及している
・アウフグースは専門スタッフが水かけを行う
・タオルパフォーマンスや香り、光等による演出がある
・アウフグースは美と健康づくりを兼ねたエンターテイメントとしてとらえられている
…というようなことで、ぜんぜん違うものなのですが、約20年間も前からロウリュの普及に取り組み、セミナーやブログなどで事あるごとにお伝えしてきたつもりの私としては、一目瞭然、誰にでも分かる初歩的な問題だと思っていました。
ところが、正解できたのは約半数で、残りの人は両者の区別が分からなかったのです。
温浴業界の人が本場のサウナのことをよく知らないというのはちょっとショッキングでしたが、空手の基本稽古と同じで、先へ先へと新しい技を求めるだけでなく、白帯も黒帯も関係なく大切なことはいつまでも繰り返しお伝えしなければならないのだと思いを改めました。
飲食について
◆料理人の採用
これまで幾度となく「良い料理人が確保できないで困っている」というお悩みを聞いてきました。
一般論として、残念ながら温浴施設の飲食には実力ある料理人が簡単に来てくれるような職業イメージはまだ持たれていません。
その時の状況によっていろいろな答えにたどり着くのですが、大きく分けると3つの方向性があるようです。
ひとつは「料理人の力に頼るのを諦め、パートのスタッフでも運営できる飲食部門とする。」ということです。温浴施設ではこのパターンで軽食メニューを提供しているところが多いです。またメニュープランニングの部分だけ専門家の力を借りることで、ある程度のクオリティまで持っていくことは可能です。
もうひとつは、飲食部門を丸ごと委託や賃貸、ライセンス契約する、つまり直営を諦めて外部の力を取り入れるという方法です。以前は飲食を直営するところが多かったのですが、最近は飲食部門を請け負う会社も増え、このパターンもよく見るようになってきました。
最後のひとつが、良い料理人と巡り合うまで採用を頑張るという方法です。ただし、運よく力のある料理人と出会えたとしてもその人が辞めてしまったらまたゼロに戻ってしまうのでは進歩がありません。
飲食部門の主導権を料理人に全部任せてしまうのではなく、あくまでも会社としてどのような飲食を提供したいのか、そのためにどのような料理人が必要なのかをはっきりさせることが大切だと思います。
募集広告を打つ時も、例えば『温泉水を活用した健康メニューの開発ができる人を募集!』というように打ち出すことで、会社の意思を明確に示します。そして厨房業務の標準化を図り、他のスタッフも仕事を共有していくことで料理長依存度を下げることも重要です。
浴場業だけでも楽じゃないのに、飲食業でもプロになろうとするのは本当に大変なことですよね。
◆湯治と飲食
「現代の湯治」「プチ湯治」といったぐあいに、湯治という言葉をコンセプトに取り入れた温浴施設は少なくありません。
『湯治』という言葉をWikipediaで調べると、「湯治(とうじ)とは、温泉地に長期間(少なくとも一週間以上)滞留して特定の疾病の温泉療養を行う行為である。」とあります。
湯治とは疾病の療養であり、レジャー的な温泉旅行や立ち寄り湯とは目的が明らかに異なっています。ですから湯治をコンセプトに掲げるのなら、たとえ短時間の滞在であっても、もっと健康づくりや病気の治療に踏み込む必要があると思うのです。
そこで気になるのが飲食です。温浴には身体を温めることによる明快な効果がありますので、どのような設備や泉質であっても一定の健康改善効果は期待できるでしょう。しかし健康に気遣った飲食の提供となると、そこに自信を持っている温浴施設は非常に少ないと感じます。
湯治宿における飲食は基本的に自炊です。それは長期逗留の経済的負担を軽減する意味と、個々の体調によって食べるべきものや量が異なるため、旅館側が提供する一律の食事メニューでは対応しきれないという理由があると思います。
温浴施設の飲食は、街中の飲食店と比較して難しい事情を抱えています。
・老若男女利用動機も様々な幅広い客層に対して売上を確保しようと、総花的メニュー(和洋中なんでも食堂)になりがち
・厨房も客席も飲食店の特性に合わせた設計になっていない(施主も設計会社も飲食素人)
・良い料理人がなかなか確保できないため、加工食品に頼りがち(原価率アップでありきたりな味)
このような事情がありながら、なんとかしてきちんとした飲食店をやろうと試行錯誤しているのです。
元々飲食が得意な会社ならその方向で頑張るのも良いと思いますが、そうでないなら無理に総合飲食店としてレベルアップすることよりも、健康的な食事の提供に徹したらどうか、と考えることがあります。
ひとくちに健康的な食事と言ってもいろいろな考え方がありますが、例えば、
・添加物の多い加工食品はできるだけ使わず、素材から調理する
・塩分や調味料、香辛料は人によって調整できるよう薄味にしておく
・身体にやさしいことが知られたメニューに絞る
といったことです。
具体的に言うと、最近は商業施設や駅ビル等でも見かけるようになりましたが、
「おにぎり屋」「お茶漬け屋」「スープ屋」といった形であまりメニューを広げずに健康への気遣いを心がければ、料理のプロでなくてもかなりのレベルまで行けると思うのです。
私自身は、せっかく温泉やサウナで身体に良いことをしたのだから、食事も身体に良いものがあれば嬉しいと思います。例えば玄米のおにぎり、出汁をとって良質な味噌でつくられた味噌汁、自家製の漬物でもあれば大満足です。
売上こそ幅広いメニュー構成の店に追い付かないかも知れませんが、作業は単純化されて効率がアップし、食材仕入れも品目がまとまるので、割安となる可能性があります。在庫管理も単純化されますし、総合飲食店と比較して利益確保の難易度はかなり下がるでしょう。
何よりも温浴とは無関係に飲食店として頑張るよりも、『湯治』というコンセプトのもとに一体化してしまった方が、施設全体の方向性が明快になり、お客様にもはっきりと伝わるようになるのではないでしょうか。
※写真は新橋駅地下街にあるおにぎり屋とお茶漬け屋です。
◆ブッフェという可能性
温浴施設の飲食部門をどうするか考えた時、ブッフェ業態にするという選択肢があります。
全国的にブッフェ導入の事例がありますが、代表的な成功事例としては福岡県の「筑紫野温泉天拝の郷」があまりにも有名です。もはや施設の主役はブッフェレストランで、大浴場が付帯設備に見えてしまうほどです。
http://tenpainosato.com/
いつも書いているように、温浴施設の中の飲食にはいろいろと難しい事情があります。思うように飲食部門の業績が伸ばせない時に、思い切ってブッフェにしてしまうことで飛躍的に業績アップできる可能性は確かにあるのです。
なぜ温浴施設とブッフェの相性が良いのかというと、
・ブッフェは特定の客層に絞らなくとも支持されるため、温浴施設の幅広い客層と一致しやすい
・ブッフェは一律料金で客単価を伸ばしやすい(天拝の郷は現在平日大人ランチ1,700円、ディナー2,000円)
といったところが大きいと思います。
とはいえ、猫も杓子もブッフェにすればうまく行くのかといえば、そんなことはありません。それなりに特殊性のある飲食業態ですので、大皿に盛って食べ放題にすればいいだけと思っていたら後で大変な苦労をすることになります。
ブッフェ業態の特性を少し書き出してみますと、
・男性客よりも女性客に支持されやすい
・一人客よりも、カップル、グループ、ファミリー客が利用しやすい
・ディナーよりもランチの集客に強い
・アルコールの売上は伸ばしにくい
・オーダーテイクや配膳が省略できるが、それだけでは必ずしも低人件費にならない
・食材の仕入れに何か強みがあれば有利だが、特にないと食材原価率で苦労する
・食材の調理ロス、廃棄ロスを徹底的に抑えるノウハウが重要
・同じメニューを出し続けていたらすぐに飽きられる
・たくさん食べられない人にとっては利用しづらい
…というように、普通の飲食部門の運営とは様々な面で異なっています。
これらを踏まえてしっかり準備するならば、ブッフェ業態導入は有望な戦略なのです。
◆ビール伸展法
飲酒運転規制強化の前と比べるとだいぶ落ちてしまいましたが、それでも温浴施設ではビールがよく飲まれます。
実際、身体が温まっている時に飲むビールは格別です。あまりおおっぴらに言えることではないのですが、閉店後の温浴施設で、サウナ室に缶ビールを持ち込んで飲んだことがあります。500mlをあっという間に飲み干してしまうのですが、あの爽快感は忘れられません。
飲酒運転の問題だけでなく公衆浴場法でも禁じられていますし、酔ってサウナ室に入ることは危険行為ですので、フィンランドの「サウナでビール」を真似することはできないのですが、とはいえ相性抜群の温浴とビールをもっと活かさない手はありません。
お得なビールセットなどを訴求して、風呂上がりのビールという動機をさらに後押しすることで、飲食の利用率を高めるというのは常套手段です。
そういうところこそが知恵の見せ所だと思うのですが、一般的には枝豆とセットで割引料金にするくらいで、あまり工夫が見られないなぁ…と思っていたところ、良い事例がありましたのでご紹介します。
愛知県西尾市にある小京都の湯。開業前からの古いお付き合いをしていただいているお客様ですが、先日久しぶりに炭酸シャワーの設置のご依頼をいただき、お邪魔しました。
ふと脱衣室に貼られたPOPを見ると、なんとビールセットの日替わりカレンダーが。
小京都の湯Facebook記事をリンクしますが、中生と日替わりのおつまみがセットで一般900円、会員855円ですから決して安くはありませんが、これなら飽きることもなく魅力的です。
他には、何かにつけて生ビールもOKの太っ腹なドリンク券をリピート販促に使う万葉の湯。マッサージの後にはセットドリンクがついていて、生ビールもOKなニュージャパンサウナ。
いずれも、温浴とビールの相乗効果をよく分かっていて上手く活用しています。
風呂上がりのビールの魅力を使った販促は、街中の飲食店には真似できない温浴施設ならでは強み。この活用に知恵を絞るのが長所進展法というものです。
◆温浴と健康食
先日のサウナ博で温泉道場の山崎社長と会う機会があり、気になっていたことを聞いてみました。
気になっていたこととは、リニューアルした「おふろcafe白寿の湯」の飲食部門のその後の動向です。
元々白寿の湯は源泉の泉質が素晴らしい施設だったのですが、今回のリニューアルでは健康食をテーマに寝かせ玄米の「結わえる」とコラボレーションするなどして飲食部門を大幅に変更しているのです。
前々から、温浴施設の飲食には健康食が合うはずだと考えていました。美と健康が温浴施設を利用する大きな動機なのですから、飲食だって美と健康を打ち出したメニューになっていていいはずです。
かつて福岡の那珂川清滝で御膳のご飯を白米と雑穀米から選べるようにしたところ、雑穀米の方が注文は多いということを知り、さらにその意を強くしていました
ところが、いろいろな温浴施設で健康食の導入を提案したりブログに玄米のことを書いたりしてもなかなか業界全体のムーブメントにはなって来ないため、ずっとやきもきしていたのです。
温浴業界の根強い考え方として、
「温浴施設のお客様は飲食を目的に来店しているわけではないので、食事はこだわりよりも値頃感が大事」
「温浴施設のお客様は客層が幅広いので、メニューを絞り込むのは難しい。幅広く多様なメニューを提供しなければならない」
といったことがあり、これを打破するのは簡単ではないのです。
しかし白寿の湯では、寝かせ玄米をはじめとする健康的な食材を追求しつつ、メニュー数は絞り込んでいますが、売上は大幅にアップしたとのことでした。
ようやく温浴と健康食が相乗効果を発揮する時代が来るのかも知れません。
・おふろcafe白寿の湯
・「結わえる」公式サイト
http://www.nekase-genmai.com/nekase-genmai/
ボディケアについて
◆ボディケア部門の今後
リラクゼーション、マッサージ、トリートメント、手もみ…いろいろな呼び方がありますが、ここでは温浴施設内の部門として一般的な呼称であるボディケアという言葉を使うことにします。
温浴施設にあるボディケア部門の数字が元気ないという声を聞くようになって何年も経ちます。
温浴マーケットがピークを打って市場縮小に転じたのが2007年ですが、同じ期間で見るとボディケア市場自体は拡大傾向にあります。
しかし、市場の拡大以上に店舗数の増加ペースが早く、競争が激化しているため、1店舗あたりの売上は落ちているのです。特に60分2980円といったいわゆる激安店の急増によって、個性に乏しい店や固定客をつかみきれていなかった店が激しい影響を受けているようです。
激安店については施術者の労働環境や技術レベルなどの面で批判があるのも事実ですが、もはやゲリラとは言っていられません。マーケットの中に確固たるポジションを築いたと考えるべきでしょう。
一歩引いて考えてみると、激安店の登場は消費者ニーズを考えれば自然な流れだったのかも知れません。どの店も10分1000円前後の価格設定だったということの方が異様で、他のどのような業界でも高級から激安までいろいろなグレードやコンセプトがあるのが普通です。
そういう意味では、飲食業界が高級レストランから立ち食い蕎麦まで多様化しているのと同じように、ボディケア業界もさらに多様化し、個性的な店舗が登場してくるのではないかと感じています。
このテーマも、今後何度も書いていくことになりそうです。温浴ビジネスってつくづく難しい商売だと思います。
◆ボディケア部門の今後(2)
温浴施設にあるリラクゼーションサービスにはボディケア、エステ、あかすり等がありますが、特にボディケア部門の数字が元気ないという声を聞くようになって何年も経ちます。
主な原因として、60分2,980円などの激安店の出店が増えたことが挙げられています。
温浴施設のボディケア部門は、どちらかというと個性特徴のある魅力を発揮して独自の集客をすることよりも、「温浴施設入館者の○%が利用する」といった形で無難な営業形態が求められてきたということもあるでしょう。
しかし、温浴施設自体の集客が難しくなっているこの時代に、いつまでも昔の方針のままではいられません。
私どもでも、機会あるごとに「激安店と同じ土俵で競争するのではなく温浴施設のボディケアならではのやり方がもっとあるはず」考えて、いろいろな方策を試しています。
少しアイデアをご紹介しますと、
【館内出張】ボディケアルームだけでなく、リクライナールームや畳の休憩処にも出張して施術したって良いのではないでしょうか。ショートコースだけでも呼び水になるし、ベッド台数というキャパシティの制約もなくなります。
【ウエットゾーン強化】商品性として激安マッサージに近いボディケアよりも、温浴施設ならではのアカスリメニューをもっと強化する。実際ボディケアとバッティングするようなコース設定をアカスリコーナーでやることも充分可能です。これまではボディケアに遠慮して積極的にやらなかっただけではないでしょうか。
【三助サービス】アカスリ強化のひとつとして、洗い場での背中流し、肩もみなどの三助サービスを導入。利用しやすい低単価メニューが本格アカスリへの呼び水ともなります。
【鳥貴族方式】お得感を見せる方法は60分2,980円ばかりではありません。全品280円均一で話題となった居酒屋鳥貴族と同じように、ボディケアやアカスリを20分や60分といった長いコース設定だけではなく、3〜5分程度の部分ケアに分解すれば、300円〜500円の価格設定も可能ということになります。それをいくつも組み合わせると気が付いたら数千円…というやり方が成立するのは鳥貴族が実証しています。
【アフターお風呂】お風呂の後のケアとして効果(普段との違い)が分かりやすいのは「ストレッチ」と「保湿」です。この分野、商品化がまだまだ遅れているのではないでしょうか?
【ビフォアお風呂】アフターがあるならビフォアだって、と考えてみると、クレンジングや角質ふやかし、水分補給などはお風呂前の大切なケアです。ここにもチャンスが潜んでいそうです。
…といった感じです。アイデアを書くのは簡単ですが、問題はこれを実行してオペレーション上の課題をクリアし、お客様の支持が得られるレベルまで磨き上げられるかどうか。
いずれにしても、激安マッサージ店が登場してもう何年も経っています。そろそろやられっ放しからは脱却したいですね。
◆セラピストの生産性
トリートメント、マッサージ、手もみ、リラクゼーション…呼称はいろいろですが、いわゆるボディケアサービスの売上が伸び悩んでいることは、温浴ビジネスにとって深刻な問題です。
例えば館内着を提供して年間客数150,000人、平均客単価2,000円の日帰り温泉があったとします。年商3億円です。
着替えを提供する温浴施設のボディケア利用率は標準値で8%前後。客単価を3,000円とするとボディケア年商は3600万円。
うち施設側手数料を30%とすると、1080万円がほぼ純利益として入ってきます。
全体の年商3億円に対しては3.6%ですが、営業利益に対する割合はもっと高くなります。
温浴ビジネスは固定比率が高く、繁盛店以外はあまり利益率が良くありません。仮に営業利益率が10%(3000万円)なら、営業利益のうち4割近くがマッサージ手数料ということになります。
このボディケアサービスを提供する部門が業界全体に不振に陥っているとしたら、温浴業界が元気なくなるのも当然かもしれません。
逆に考えるとボディケア部門を何とかできればかなりの利益アップとなり、結果として業界全体の活力につながってくるでしょう。
ところでボディケアの施術士(セラピスト)の1人あたり売上はどのくらいになっているでしょうか。
私の感覚では「とりあえず月商30万円、普通50万円、優秀70万円、カリスマ100万円」です。統計調査は見たことがないのですが、そのくらい施設や個人によって幅があるのが実態です。
影響を受けている激安店への対抗策といったことも重要ですが、これだけ個々の生産性に違いが生じているとしたら、まずそこに着目する方が手っ取り早い気がします。
生産性の違いはどこから生じているのでしょうか?
温浴事業会社から見ればボディケアは業務委託していることが多いので、売上が伸び悩むと委託先に技術不足や営業努力不足といった不満をぶつけるだけになっているケースが少なくないようです。
しかし、場所貸ししているよその会社という認識ではなく、自社の営業利益のかなりのウエイトを占める重要部門と考えれば、もっと自分事としてとらえることが大切だと思います。
ボディケアコーナーの場所、環境、受付方法、館内販促、他部門との連携、全スタッフによるおススメトーク…全館一丸となってボディケアの売上アップに取り組もうと思えば、まだできることがたくさんありそうです。
◆ボディケア部門の今後(3)
60分2,980円の激安店の影響を受けているからといって、対抗してボディケア料金を同じ水準に値下げするのは良策とは言えません。
値下げで多少客数(利用率)が増えたとしても、客単価ダウンを補うためには2倍以上への客数アップが必要となります。それに対応するスタッフ数の確保、仕事の質の低下なども懸念されます。
マーケットの広がりがある路面店ならともかく、ベースとなる客数が限られている温浴施設内ではそんなに簡単に利用客数が増えるとは考えられません。
これまでもいくつかヒントになりそうな考え方を書いてまいりましたが、今回は事例をひとつご紹介したいと思います。
その温浴施設は元々直営マッサージをしていて、大きなマッサージ室にたくさんのベッドを並べていましたが、委託に切り替えつつ徐々にメニューを多様化していきました。
通常のボディケアだけでなく、タイ古式、ハワイアンロミロミ…といった形で、しかも同じ店舗内でメニュー数を増やすのではなく、それぞれを館内独立店舗として増やしていったのです。
その結果、昨日書いたセラピストの生産性で言うと、優秀70万円からカリスマ100万円といった高い生産性を示す店舗があります。
昨今増えている激安店は薄利多売方式ですから、数多くのベッドを並べ、人数確保を優先してそろえた急造スタッフとなり、メニューもシンプルなものになります。
それに対して、温浴施設内でいくつもの専門的なトリートメント店が選べるということは、お客様にとっては大きな魅力です。
いつも言うことですが、人によって好みや利用動機はそれぞれです。店側がこれぞ究極だと思っていても、万人がそれを望むとは限りません。だから様々なトリートメントメニューの選択肢があるということが大きなアドバンテージになるのです。
ボディケアルームにたくさんのベッドがずらり並ぶのは壮観ですが、お客様から見るとそれは特にメリットとはなりません。むしろ空間の広さや人の多さが落ち着かなかったり、標準化された技術レベルやサービスレベルがつまらないと感じることもあるのではないでしょうか。
それよりも個性のある小さい店がいくつもあり、それぞれの店舗には店長がいて高いモチベーションで仕事をしている方が良い結果につながるようです。
「とりあえずレベル」と「カリスマレベル」の生産性には3倍以上の差があります。もしボディケアコーナーに複数のベッドを並べているなら、ぜひ館内分離独立を検討してみてください。
◆モノは言いよう
60分2,980円激安マッサージ店の台頭により、市場に地殻変動が起きているボディケア業界。このままデフレになるばかりだったら業界もセラピストも疲弊する一方です。
しかし、個人消費が伸びない中で高付加価値化という方向性だけでは簡単に市場を切り拓くことができないのも現実でしょう。
以前、「居酒屋の鳥貴族方式でコースを部位ごとに分解し、例えばふくらはぎ5分500円といった価格表示をしてはどうか」というアイデアを書いたことがあります。これなら表現方法を変えているだけで、ディスカウントはしていません。
同じような狙いで、30分1,980円という言い方もあります。
30分コースであればそれなりにまとまった施術となってお客様は満足感も得られますし、30分1,980円とは60分3,960円と同じことですから、激安店ほどの値引きはしていないにも関わらず、コースで1,980円という新しい価格を示せるのでそれなりにインパクトが出るようです。
しかし、60分3,960円ではまったく面白くありません。
価格への反応は、単に高い安いということだけではなく、予算帯という意識が関係します。
簡単に言うと500円玉1枚とか、千円札でお釣り、といったお金を使う単位と連動しており、1,2,3,5,10,20,30,50,100,200・・・というように予算帯がジャンプアップしていきます。ですので、1,980円(2,000円でお釣り)や2,980円(3,000円でお釣り)という価格設定には意味があるのです。
激安マッサージ店のインパクトが大きかったのは、それまで「ロングコースなら5千円札か1万円札でお釣り」の世界だったボディケア業界に「ロングコースなのに3,000円でお釣り」という新しい予算帯を示したという点にあったと解釈するとよく分かります。
◆指名制度の功罪
リラクゼーションサービスにセラピストの指名制度があるかないか。それは店によってマチマチです。
具体的な統計調査はまだ見たことがないのですが、路面店と温浴施設内店舗で指名制度の有無を見比べると、温浴施設の方が指名制度無しの割合が多いように感じています。
その理由は、温浴施設の場合は入館客のうち一定割合がリラクゼーションサービスを利用することが分かっているので、セラピスト同士で競争するよりも平等に分け合った方が平和的だからでしょう。
ところが最近はこの事情も変わりつつあるようです。
先日ある温浴施設から「リラクゼーションの委託先から指名制度の導入について相談されてるのだけど、指名有りと無しはどちらが良いのか?」と質問を受けました。
最近は激安店の台頭によって温浴施設のリラクゼーションサービス利用率が低下し、のんびりしていては食っていけなくなっているということなのかも知れません。
指名制度によってセラピストとしては収入アップのチャンスとなりますし、お客様の評価がダイレクトに分かりますのでモチベーションアップにもつながります。セラピスト同士が切磋琢磨することで店全体のレベルも上がる可能性があるでしょう。
一方で、セラピスト間の収入格差、指名変え、逆指名、後輩に抜かれる、ストーカー問題…セラピストのストレスも大きくなります。
質問をいただいた施設ではリラクゼーションの委託先が大手だったので、「メリット・デメリットありますが、大手の場合は雇用制度がしっかりしているので、メリットの方が大きいと思いますよ。」とお答えしました。
リラクゼーションに限ったことではなく、温浴ビジネスが装置産業から脱却しこれからの激動の時代を生き抜くためには、「人」の力をどれだけ引き出せるかが鍵を握っています。
誰にでもできる仕事や、機械やコンピューターでもできるような仕事をさせている場合ではないのです。そう考えると、これまで一長一短と思っていたことも答えがひとつの方向に収束してくる時代になったことを感じます。
物販について
◆委託販売コーナー
弊社がご案内する委託販売コーナーとしてはこれまで「世界の塩コーナー」がありましたが、今回は新しい委託販売商材をご紹介します。
それはBOOK、CD、DVDのアウトレットです。
簡単に言うと製造しすぎて在庫過多となっている製品を通常とは異なるルートで安価に販売するのが目的で、記憶に新しいタイトルも多数(アメイジング・スパイダーマンなど)あります。
日本出版販売株式会社とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の子会社が企画・商品提供しており、什器貸し出し、店側のイニシャルコストはありません。店側の役割は店頭陳列と在庫報告です。
50cm×50cmくらいのサイズの什器を1〜2台設置します。温浴施設はお客様がゆったりと滞在していて、タイトルを手に取って見てくれるため、意外と相性が良いそうです。
気になる数字ですが、北陸地方のスーパー銭湯の一角に設置したケースでは月に約5万円の売上があるそうです。
店側の手数料は25%。5万円だったら1.25万円ということになります。
いつも言っているコンセプトや戦略との一貫性を持たせるのは難しいかも知れませんが、0.25〜0.5?のスペースで1万円以上の収益があるなら、坪あたり収益を考えるとありがたい商材になるかも知れません。
※実際の収入は客数や設置環境によって変わります。詳しくはご連絡いただければ資料をお送りします(このメルマガに返信する形でOKです)。
店舗ビジネスを不動産業的に考えると、「坪あたり投資の100分の1が月額賃料の目安」という考え方があります。
坪あたり投資が100万円だとしたら、月額賃料が1万円なら10年間の賃料合計が120万円となり、金利や追加投資を考慮してもだいたい投資回収ができる目安が100分の1ということです。
仮に温浴施設の建設に坪あたり100万円かかっていたとしたら、自社物件で土地代を考慮しないとしても、収益として坪あたり1万円/月 以上は確保したいということになります。
例えば上記委託販売のケースで言うと、0.5?で1.25万円/月の手数料収入だったら坪あたりに換算すると8.25万円になりますから、在庫管理の手間を考慮しても収益性という意味ではなかなかの優等生だと言えるでしょう。
他に支障のない余剰スペースがあるなら、一考に値するのではないかと思います。
◆食品八割
さて今回のタイトルの「食品八割」とは、観光物産などの土産物の売上構成比に占める食品や飲料の割合がおよそ80%である、ということを表した言葉です。
一口に食品と言っても菓子から漬物、煎餅、精肉鮮魚、野菜、練り物、豆腐、乳製品…などいろいろありますが、これらは物販の中でも化粧品や雑貨、工芸品などと比べるとマーケットサイズが大きいのです。
一方、温浴施設の売店を見ると、 賞味期限などのリスクを嫌うからなのか、非食品の割合が多くなっていて、食品の取り扱いには消極的な傾向があります。
その気持ちは分からないでもないですが、いつも書いている「せっかくのビジネスチャンス」という意味ではもったいない気がしてなりません。
集客一人につき、少なくとも@30円。ちょっと頑張れば100円。もっと頑張れば300円、1000円(すべて事例あり)と物販客単価を伸ばすことができるのですから、その収益は決して小さくないです。
仮に月に一万人の客数で@300円なら月商300万円。それだけでひとつの会社が存在してもおかしくない売上規模です。
付帯部門と考えるとなかなか力が入りませんが、ひとつの会社ができると思えば、誰かを社長にして本腰を入れることもできるかも知れません。
そのビジネスチャンスをものにするためには、食品の売場を強化することが必須ということを、ぜひ知っておいて欲しいと思います。
◆物販の可能性
今日、ドラッグストアで「グルコサミン+コンドロイチン+ヒアルロン酸」というサプリメントを購入しました。1瓶1か月分で2,000円弱の費用。購入の理由は運動で痛めた膝と股関節のケアです。
レジでお金を払いながら、昔少しお付き合いのあった関西の古い温浴施設のことを思い出しました。
残念ながらいまはもう閉館してしまったのですが、古くて小さい施設ながら豪華な設備のスーパー銭湯が次々と出店してくる中でよく健闘していました。
その施設の主な武器は、漢方薬湯と物販でした。
運営している会社の本業が健康食品販売だったので、売店には本業を生かした健康食品やサプリメント、自然食品、化粧品などが所狭しと陳列されていました。
売店の月商を月間の入館者数で割った物販客単価はおよそ@1,000円。これは私が知る限り、スパリゾートハワイアンズと並んで温浴施設の物販客単価では最高水準でした。
物販で@1,000円というと、客数1万人で計算しても月商1千万円、年商だと1.2億円になりますから、それだけで会社を作ってもよいくらい立派なビジネスです。
温浴施設の売店を充実させる方向性には、健康食品系、観光土産系、生鮮食品系などいろいろなアプローチがありますが、素人売店を脱却して本格的な小売店レベルにまで進化させると、物販客単価1,000円も到達不可能ではないのです。
温浴施設の部門構成としては1に入浴部門、2に飲食部門、3にトリートメント部門ときて、物販は「その他」といった括りで扱われることも少なくないのですが、投資リスクや運営難易度に対する収益の可能性という意味で考えると、もっと物販部門に注力する施設が増えてきてもいいのではないか思っています。
コストダウン
◆配管洗浄について
公衆浴場の濾過循環設備は、その運用方法によって年1回〜4回の水質検査、年1回以上の配管洗浄(生物膜除去)が必要とされています。
義務だからということではなく、安全安心な浴場環境を提供するために当然やらなければならないことなのですが、この配管洗浄費用が決して軽くありません。
浴槽の規模や種類、汚れの性質、使用する薬剤、そしてどの業者に委託するかあるいは自主洗浄かによって大きく金額が変わってきます。
施設によっては様々な方法を試してもレジオネラ菌の検出がなかなか止まらずに四苦八苦しているところもあれば、何も問題が起きていないため、特に疑問も持たずに淡々と年1回の義務を果たしているというところもあります。
私どもは全国のいろいろな施設におうかがいしておりますので、その費用が数十万円〜数百万円までバラつき大きいことにビックリすることもしばしばです。
自主洗浄は一般的に夜通しの作業になることや、特殊な薬剤を使用することなどから決して簡単に考えることはできませんが、もし洗浄業者の変更や外注から自主洗浄への変更によって大きなコストダウンが図れるとすれば、検討してみる価値はあると思います。
以前、設備に強いことで有名なかすかべ湯元温泉の清水支配人が「業者に頼むのは技術を盗むため」と語っていたのがとても印象に残っています。
温浴設備は多種多様なため難解な印象がありますが、ひとつひとつはそれほど専門的な知識や技術がない人でもできることが少なくないのです。
配管洗浄に限らず、専門業者に外注する時はできるだけ立ち会ってその仕事の段取りやコツを観察し、いずれ自主作業にできれば大きなコストダウンになるばかりでなく、緊急事態にも即時対応できるようになり、作業品質も自主的に管理ができるようになるなど良いことがたくさんあります。
ぜひ気にとめておいていただければと思います。
・自主洗浄なら浴場市場の配管洗浄シリーズ
http://www.yokujoichiba.jp/shopbrand/ct64/
◆コスト削減する時は
よくコスト削減は顧客満足度の低下に繋がり、結局は売上を落とすことになるので慎重に、と言われます(私も言います)が、コスト削減をしてはいけないという意味ではありません。
削減して良いコストとそうでないコストの区別、そして削減のやり方が大切と思います。
・顧客満足度や集客に関わるコスト(例えば水の使用量や広告宣伝費、人件費など)は、できることなら削減対象とはしたくないところですが、もし手を付けるのであればその影響を慎重に見極める必要があります。
・顧客満足度や集客とまったく無関係な部分は、常識や慣習にとらわれずに大胆に削減していく。
・削減一辺倒にならないよう、売上アップや顧客満足度アップのための施策も同時進行する。
・取引先は運命共同体、一方的な取引先いじめは避ける。
といったことに注意が必要です。
経営の苦しさは、店の雰囲気や従業員の士気、取引先との信頼関係など思わぬところににじみ出てしまいがちです。細心の注意を払いつつ、筋肉質な経営体質に変えていきたいものです。
◆ろ過ポンプの話
一般的な温浴施設には、ろ過循環設備があります。
ろ過機、熱交換器、薬注機、ポンプなどの働きによってお湯の清潔度と温度を保っています。そして、この年中働き続ける循環用のポンプは結構な電力を消費しています。
このポンプ、浴槽容量によってはかなり能力の大きなものがつけられており、バルブで少し絞って運転していることが多いのです。
バルブを絞る理由はポンプの能力が必要なお湯のターン数(循環量)を上回っているからなのですが、絞ることによってポンプの運転が抑制され、電力消費も抑制されます。
例えばバルブを70%に絞ると消費電力もだいたい70%ということです。
ところで、温浴施設は客数が変動します。
閑散日と繁忙日では3倍以上違うことも珍しくありません。
入浴客数が増えれば当然お湯がどんどん汚れますから、そういう時はポンプに頑張ってもらって、ろ過のスピードを上げたいところです。
このようにポンプの過大な能力を絞ったり、客数によって求められるろ過能力が変わることに対して、バルブではなくインバーターでポンプの運転を制御することもできます。
インバーターだと、日々時間帯で運転能力を変更することも容易です。
さらにバルブで絞ったときの三乗倍も電力が抑制されます。例えばバルブでいつも70%運転だったとすると、インバーターの場合は70%×70%×70%=34%まで消費電力が落ちるのです。
閑散時の運転抑制を考えれば、もっと落ちることになります。
大きなポンプをいくつも動かしているような施設では、これは大変大きな電気代の違いになってきます。
この話、温浴業界では以前からよく知られていることと思っていたのですが、実際に導入しているとは限らないようで、最近は「ろ過ポンプのインバーター制御はやっていますか?」と聞くようにしています。
ご興味ある方はご連絡ください。診断無料、削減効果保証の専門家をご紹介できます。
◆下水道料金の話
すでにご存じの方、対策済みの方もいらっしゃるのですが、まだご存じない方もいらっしゃるかも知れませんので、温浴事業者の基礎知識として書いておきます。
温浴施設は膨大な量の水を排出しますが、その排水は下水道を利用するか、浄化槽処理、そして河川放流など排水し放題かのいずれかになっています。
下水道を使用する場合、その料金負担は小さくありません。
例えば入浴者1人あたり300リットルの水を使うとすると、月間1万人なら3000立米。東京都内なら一般汚水1立米あたり345円ですから、月間約100万円の下水道料金という計算になります。
下水道料金は、通常使用した水の全てが下水道に排水されるというみなし使用量で算定されています。その排水量は上水道、井戸、温泉それぞれの入り口側に流量計を設置してカウントすることが多いです。
ちなみに、ほとんどの自治体では下水道使用料の立米あたり単価は上水道より高く設定されております。各自治体では、上水道事業は独立採算で運営できているところが多いですが、下水道事業は料金収入だけではまかなえず、残りは一般会計から補填されます。つまり赤字事業ですので、自治体はできるだけ料金を多く徴収したい立場ですし、下水道料金は今後も上昇が予想されます。
一方、平成5年の計量法改正により、下水道の出口管理方式が認められることになりました。出口管理とは、上記のように入り口側ではなく、排水の出口側に流量計を取り付け、実際に排水する量を計る方式です。
温浴施設では、飲用、浴槽からの蒸発、タオルの含水、乾燥機やドライヤーの使用、屋外の散水などにより水が散逸していますので、入り口管理と出口管理では10%~25%ほどの違いが出ると言われています。
ですので、施設側が流量計設置の費用を負担して出口管理に切り替えても、下水道料金が10%~25%削減できるなら追加投資が充分にまかなえる可能性があるということになります。
ただし、ここでひとつ問題があって、この出口管理の流量計が実際よりも少なく表示されるという不正メーター事件が起きたことで、出口管理方式に慎重になる自治体も出てきています。あとは個別の自治体との交渉です。
もうひとつ、下水道料金を大幅に引き下げる可能性を持った方法があります。それが系外排出です。
温浴施設の排水は、浴槽水(オーバーフロー、逆洗水、浴槽換水)、洗い場(シャワー)排水、トイレ排水、厨房排水などがありますが、トイレと厨房は下水道に排水するとしても、それ以外の排水は汚水というほど汚れてはいません。特に浴槽水は泉質等にもよりますが、真水に近いケースもあるでしょう。
そこで、前述の出口管理と同時に、これらの排水を分離して、例えば雨水と同様に下水道以外に放流させてもらうことができれば、その分の下水道料金はかからなくなります。
系外排出も自治体との個別交渉になりますが、東京都のように雨水も含めてすべてを下水道処理している地域(合流式)でなければ交渉が成立する可能性はゼロではないのです。
ただし、浴場排水と一般汚水が設備構造上早い段階で混ざってしまっているような場合はうまくいきません。
排水からの熱回収でも同様の問題がありますが、本来であれば開業時に自治体との交渉も行いつつ適切な設備構造にしておくべきところが、施主にも設備設計にも知識がないと下水道料金を削減できるチャンスを失ってしまうことになりかねないのです。
◆排熱回収とヒートポンプ
いま、顧問先の温浴施設で排熱回収による省エネのプランを検討しています。
どこから熱を取り出し、そのエネルギーをどこに還元するのかについてはいろいろなパターンがあります。
今回は浄化槽に流れ込む温排水の熱を回収し、ヒートポンプでシャワーカランへの給湯と源泉の昇温に使うプランでしたが、ボイラーの用途のおよそ7割が給湯と源泉昇温でしたので、ボイラーの燃料消費量は極端に減少します。
燃料を使わない代わりにヒートポンプを動かすために電気代がかかりますが、燃料消費に比べるとそのコストは半分以下で済む計算です。
今後のエネルギーコストの動向にもよりますが、円高や原発再稼働の方向であれば、おそらく高止まりしていた電気料金は今より下がってくるのではないか?と予想しています。
世の中がどう動いても、振り回されにくい経営体質にしていきたいものです。
温浴ビジネスのマネジメント
◆温浴ビジネスの雇用問題
厚生労働省が発表する総合労働相談件数が、ここ数年はやや減少する傾向を見せているものの、7年連続100万件超えだそうです。
日本の雇用者は約5700万人ですから、100万人越えという数字はおよそ雇用50人につき1件は揉め事になっているということです。
こういうニュースを見ると、以前ある現場で大揉めとなりユニオンまで登場して争ったことを思い出します。その時はオーナーが資産家であることに目を付けた確信犯的な揉め事でした。
私もその時の立場上、何度も地方裁判所まで行って争うことになり、最後は和解となりました。
勝っても負けても何も生まない争いというのは悲しいものです。
いらぬ争いになるのを避けるためには、きちんと就業規則を整備し、双方誤解なく雇用契約が成立していること、残業代や有給休暇、解雇などは決めたルールをきちんと守ること、そして従業員満足度を大切にすることです。それでも争いをゼロにすることは難しいのです。
労働紛争の9割は従業員100名未満の企業、いわゆる中小企業で起きています。そして法律は労働者保護の考え方が強いので、いったん労働紛争が起きるとかなり高い確率で会社が負けてしまいます。
温浴施設はほとんどの場合が中小企業で、労働環境には争いの種となりかねないリスクがたくさん潜んでいます。
いったんリスクが顕在化すれば、事前に手を打っておく場合とは比較にならないような多大なコスト負担になりかねません。
適切なリスクマネジメントをするためにも、温浴ビジネスはもっと儲かる収益構造に変えなければならないと思っています。
◆火災警報に思う
昨日の深夜にインターホンが鳴りました。何事かと飛び起きたら、火災警報器の誤作動があって、管理人も居ない時間なので困った住民が管理組合の理事長(私)のところに連絡してきたのでした。
対応しながら、以前温浴施設の現場で支配人代行をしている時もいろいろなトラブル続きだったことを思い出していました。
温浴施設の組織は一般的にフロント業務、巡回清掃業務、厨房とホール業務といったオペレーションの種別で部門が分かれていますが、その以外の仕事のボリュームとバリエーション、難易度が実はとんでもないことになっていると思います。
大きい組織なら、営業、企画販促担当、設備営繕、事務職などにも人を配置できますが、小さい組織だと全部責任者(社長か支配人)が担当することになりかねません。
火災警報器が鳴った時も、あらかじめ担当が決まっていなければ責任者の仕事でしょう。
よくある10時〜24時の営業時間だと、前後の時間を入れると16時間以上は施設が稼働しているわけですが、その間責任者不在にはできませんので、本来は責任者の仕事をこなせる人が最低3人は必要ということになります。
しかし、現実には組織がそうなっていない温浴施設もたくさんあります。
私が現場に立っていた時も、自分自身の力も組織の体制も、次々と発生する仕事に対して不十分であることをひしひしと感じていました。
それを、モチベーションや個々の能力を高めていけば果たして乗り切れるのか?と考えると、それだけでは到底無理なくらい大変な仕事だというのが私の実感なのです。
大変な仕事であれば、それに対応できるだけの能力を持った人材と頭数を揃えなければならないし、そういう組織体制でないのなら、もっと仕事を簡略化・省力化・共有化しなければならない。
この問題の解決がないまま早朝風呂だ、ロウリュだ、と言ってもはじまらないと思うのです。
◆後悔と犯人捜し
業績が低迷し活力を失っている組織と関わっている時によく感じることがあります。それは後悔と犯人捜しです。
不幸な事態(例えば業績低迷による赤字や資金繰り難)を前にして、その原因を考える。それは重要なことです。問題の根本を把握し、それを取り除くことができれば事態が改善に向かう可能性は高いと言えます。
しかし、原因究明とはあくまでも前向きな問題解決のためにすることです。「あれがいけなかった」「あいつが悪い」と言っているだけでは事態を改善し、不幸な事態から抜け出すことはできません。
責任追及、謝罪、処罰といったことをしても、原因が特定できたというだけでまだ問題は解決していないのです。
原因究明よりももっと大切なことは、「いま直面している問題を解決するために何をするのか」そして次に「同じような問題に陥らないためにこれからどうするか」です。
トップや幹部が問題解決や再発防止よりも後悔や犯人捜しに気をとられていると、組織全体が後ろ向きになります。
責任逃れや責任の押し付け合い、事なかれ主義、問題先送りなど、良くない空気が蔓延します。
組織全体が後ろ向きになったり疑心暗鬼になっているようでは、いかなる業績アップノウハウを駆使しようとも、業績は上向きません。
むしろ「人間誰しも間違いを犯すもの」「うまく行くかどうかはやってみなければ分からない」「失敗は成功のもと」といった大らかさを持って前向きに進むことが、マンパワーを最大限に引き出すコツだと言えるでしょう。
◆お客様の声を活かせるか
苦戦していたマクナルドがわずかながらも営業黒字に転じたというニュース。
どん底から脱出するまで様々な取り組みがあったことと思いますが、このニュースではお客様が意見や感想を寄せることができるスマホアプリ「KODO」を15年4月に導入し、顧客の声を集めて店舗環境の改善に努めたことを黒字化の要因として挙げていました。
温浴施設でも館内アンケートを実施しているところは多くあります。施設の環境やサービスにまだ自信が持てないなら、アンケートをやった方がいいでしょう。
お客様の声に耳を傾け、その意見を改善活動につなげる。よく見かける取り組みですが、ただ漫然とアンケート用紙と回収箱を設置し、回収されたアンケート用紙を眺めているだけではあまり意味がありません。
大事なのは、「問題と対応方針の共有」と「顧客へのフィードバック」です。
アンケートで寄せられた意見を日々社内で共有化する仕組みは、例えば前日いただいた意見を翌日の朝礼で共有したり、社内SNSで共有するなどの方法があります。その時には、単にこんな意見がありましたということではなく、会社としてその意見をどうとらえ、どう対応するのかという方針付きで伝えることが大切です。
もしくは、緊急対応が必要なものを除いて一定期間ストックし、アンケート対応を題材にした会議をして皆で考える方法もあるでしょう。
問題への対応方法は何通りも答えがあります。会社としてどのような理念や社内事情に基づき、どのような判断をしていくのかを共有することで、社内意識を一体化させる効果が得られるのです。
もうひとつ大切なことが顧客へのフィードバックです。意見を寄せた人は、自分の意見がどう扱われるのかをとても気にしています。もし黙殺されてしまったらわざわざ意見を書いた労力を無駄に感じますし、自分が無視されたことに対して怒りを覚えるかも知れません。
フィードバックする方法としては、アンケートを記名式にして個別に返答する方法や、館内にいただいた意見とそれに対する施設のコメントを貼り出す方法などがあります。
記名式にするとあまり無茶な意見は書かれなくなるという効果がありますが、返事を必ず返さないと前述のようなマイナス面があります。逃げとして、アンケートにご回答いただくと抽選でご招待券プレゼントといった形式をとることで記名の理由をつくる方法はありますが、できることなら素早く返事をすることがベストです。
館内貼り出し方式は、他のお客様への啓蒙にもなります。
どちらの方式にしても、施設から誠実な回答をもらったお客様は自分の意見が受け止められたことを嬉しく感じますし、それが館内改善に反映されるならきっと施設のファンになり、口コミの核にもなってくれるかも知れません。
館内アンケートひとつのことですが、それにどう取り組むかで、半年後1年後には大きな違いが生まれていることでしょう。
◆予算の立て方
最近、顧問先で年間収支計画を作成するのにかなりの時間をかけました。
その施設は現在業績が芳しくないのですが、その業績をこれから改善していくプロセスを、数値計画つまり予算に表現してもらいたかったのです。
よくある話ですが、収入は客数×客単価、あるいは昨年対比何%アップ。支出は売上の何%といった計画の立て方では何のイメージも湧いてきません。
例えば「客数」とひとくちに言っても、それは一般客と回数券客と会員とクーポン客の合計であったり、平日客数と土曜客数と日曜客数とピーク日客数の合計であったり、新規客とリピーターであったり、と様々な分解方法があるはずです。
何%アップといっても、それはひとつひとつの積み上げの結果であって伸び率そのものには何の根拠もありません。
数字を分解して分解して、さらに分解して、自分達がコントロールできるところを見つけ、それをこれからどう変えていくのかという計画が本当の予算なのだと思います。
そうやって収入と支出のひとつひとつの成り立ちを理解し、何をすればどう変わるのかがイメージできるようになってきたら、しめたものです。
後はそのイメージを確実にスピーディーに実行に移して行けば、数字を変えられる筈なのです。
このプロセスを抜きに、気合いや根性で予算を作っても、それが達成できるかどうかは当たるも八卦の世界でしかありません。
「想いは実現する」と言いますが、願望ではなく、イメージ化して確信できたことが実現するのです。
事業計画や予算を作るときはぜひこの事を思い出してみてください。
◆日報の意味
温浴施設の運営現場には、日報というものが必ずあると思います。
そのフォーマットや情報量は企業によってそれぞれです。
単に日々の客数と売上の数字が並んでいるだけでは何も分かりませんが、どのような数字が並んでいるかを見ると、何を管理しようとしているのかが分かります。
例えば日次予算と実績の差異や達成率の項目があれば、目標達成に向かって日々知恵を絞っているに違いありません。
POSの売上と現金の差額、その内訳まで記載されているとすれば、その施設は売上と現金が合わなくて悩んだことがあり、その誤差の原因まできちんと追求するようになったんだろうなと想像がつきます。
部門別の利用率や客単価、昨年対比などの数字が並んでいるなら、入館料だけでなく、各部門の内容にもしっかり踏み込んだ運営をしているのでしょう。
このように、日々運営をする上で気になる数字が日報に表現されているのです。
もちろん、POSシステムから自動的にプリントアウトされる帳票だけで済ませている企業もあります。おそらく、あまり悩むことなく順調に業績が推移しているということなのかも知れません。
逆に言うと、日報のフォーマットを変えて、日々管理する数字を変えると、運営意識が変わる可能性があります。
いろいろな新記録があることにも気づくでしょう。記録更新という新たなモチベーションも生まれる可能性があります。
事業計画や年度予算は、予実差異や昨年対比という結果を眺めているだけでは何の役にも立ちません。業績を構成している要素を自分達がコントロールできるレベルまでブレイクダウンし、日報上で予算と実績の乖離があった時には、すぐさま自分達の行動を変えていくという取り組みをして初めて意味が出てくるのだと思います。
過去からの連続性も大切ではありますが、一度日報のフォーマットについて「これでいいのか?」と議論してみてはいかがでしょうか。
◆意識すること
「レコーディングダイエット」をご存じでしょうか。簡単に言うと食べたものや食事の時間、そして体重を日々記録していくというダイエット方法です。
食事制限や運動をするわけでもないのに、記録するだけで痩せていくということなのですが、実際に効果のあるダイエット方法として知られています。
記録することで自然に自分の食生活と体重の関係を意識するようになり、無理に頑張らなくても食べ過ぎや間食をしなくなったり身体を動かすようになるということなのでしょう。
経営にもこれと同じことが言えます。
日々数字を記録し、それを意識するようになるだけで、無理に頑張らなくても自然に行動が変わってくるのです。
例えば水やエネルギーの使用量を日々メーターチェックして記録していれば、何によって使用量が左右されるのかだんだん分かってくるようになります。影響要因が分かればコントロールする方法も見えてきます。
入館客数や客単価、飲食メニューの出数、会員の入会件数などすべて同じことが言えるでしょう。
スタッフの教育やマネジメント、褒めたり叱咤激励したりと考えると大変なことですが、ただ数字を記録して壁に貼っておくだけで現場が変わってくるとしたら、実にありがたいことだと思います。
◆雇用促進の助成金
最近、雇用関係の助成制度について詳しくなりました。現在実施されている助成金の中で、非正規雇用労働者のキャリアアップにからむ助成金がかなり充実しています。
・キャリアアップ助成金について(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
助成金などの公的支援に頼るのは商売として本道からはずれるのではないか考える人もいますが、助成金ばかりに依存するわけではありませんし、税金を納めた結果としてせっかくの制度があるのですから、ありがたく有効に利用したらいいと思います。
例えば業種を問わず有期雇用から無期雇用、そして正規雇用へといった転換については一人当たり10万円〜60万円の助成金が該当します。またそれに絡めて人材育成や処遇改善などについて、様々な助成金が該当してくる可能性があり、場合によっては雇用一人あたり数百万円の助成金を受けられることもあるのです。
温浴ビジネスを含む接客サービス業は現在も採用難が続いています。募集採用テクニックだけの問題ではなく、人材の確保と育成が大きな課題となっています。
企業としての長期的な発展を考えるなら、現状の低賃金で有期という雇用形態から脱却していくということを真剣に考える必要がありますが、だからといって今以上の人件費負担増となると簡単なことではない…という時に助成金が該当すればずいぶん助かるはずです。
助成金申請手続きは、自分でやるとなると複雑な手続きがとても大変です。それに長けた社労士事務所がありますので探してプロに頼った方がいいと思います。
(関東地方でしたら助成金手続きを得意とする社労士事務所をご紹介できます。)
助成金の活用で温浴業界の悩みを少しでも軽くすることができるなら、とてもありがたい話だと思っています。
温浴ビジネスとIT
◆クラウドPOS
小売りや飲食、美容サロンなどでも、クラウド型のPOSシステムの利用が広がっています。昔は自社でPOSシステムを保有していましたが、今では店舗には通信端末だけでPOSの機能が使えるようになっているのです。
券売機精算だと、どうしても扱いメニュー数に限界があったり、高客単価を狙うことが難しくなります。
そこでPOSの導入を考えるわけですが、小規模な温浴施設では高額な温浴POSシステムの導入はバランス的に難しいことから、過去何度か飲食用のクラウドPOSをカスタマイズして使いました。
汎用性の高いスマホやタブレットを利用しますので、高価なハンディターミナルも不要です。
温浴施設専用のシステムではないので、若干不便な点もありますが、費用対効果的には満足できる結果が出ていると思います。
精算システムの見直しをご検討の際は、弊社の米澤専務が得意分野なのでどうぞお気軽にご相談ください。
◆完全無料のPOS
今日は 2016年2月19日です。
HCJ2016最終日。ずっと立っていたので、さすがに足腰がしんどくなってきました。
今年も展示ブースを見て歩き、試食もたくさん楽しませてもらいましたが、展示ブースの中でも一番びっくりした話を書きたいと思います。
主に飲食店を対象に開発されたクラウド型のPOSシステムですが、何と初期費用も月額使用料もすべて無料。
どこでビジネスになっているのかと聞いたら、クレジットカード決済だけは自社の決済システムを使ってもらうようになっていて、今はその収益だけだそうです。
クレジットの手数料率も3.2%台と高くありません。
店側の負担と言えば、端末用に市販のタブレットやスマホを用意することだけ。
大手企業のやっていることなので次の狙いはあるのかもしれませんが、店によってはクレジットカードの利用率が低いところも多いので、今のところ超太っ腹な仕組みと言えるでしょう。
弊社としても「温浴施設等に歩み寄ったカスタマイズができないか?」という交渉を進めてみることにしましたが、どうなることやら。
昨日、一昨日のセミナーで「キャッシュレス化、クラウド化の強い流れがある。券売機かPOSかのジレンマはいずれなくなる」という予測の話をしましたが、本当にその時代はもう目の前に来ているようです。
◆ネット集客とは
集客におけるネットの重要性は高まる一方です。
一言でネット集客と言っても、実際に考えなければならないことはチラシや看板、ポスティングなどの従来の手段と比べるとかなり複雑に思えますから気後れするかもしれませんが、ひとつひとつは専門家でなくとも個人でも充分に取り組めるレベルなので、逆に「広告宣伝は身近なものになった」とも言えるでしょう。
ところで、Googleでは5月から検索結果を上位表示するかどうかの評価基準に、「モバイルフレンドリー」つまりスマホ等の携帯端末で表示されても大丈夫な配慮のできているページかどうかを加えるそうです。
何年も前に作ったページのままだと当然スマホ対応なんてしていませんので評価が下がり、検索結果の表示が不利になってしまうということですので、対策を急ぐ必要があります。
いま弊社が提唱しているネット集客法のポイントは以下の6つです。
(1)ホームページはスマホ対応が必須になった。
(2)SEO(検索エンジン対策)は重要。でもそれは入口で、表示されたページ内容が集客に結びつかなければ意味がない。
(3)ホームページ更新は自社内でやれることが望ましい。毎回外注だとコストもスピードも不利に。
(4)SNSはFacebook、Twitter、Instagramのうち2つ以上に取り組み、個々への情報発信はメルマガかLINEいずれかを使って頻繁に情報発信。クリック数の積み重ねが最強のSEO対策。
(5)クーポンサイトはうまく使えばネット集客力を飛躍的に高める。ただし何事も依存し過ぎないように。
(6)広告宣伝費を抑えて、その分ネット集客担当の人件費を確保。
ネット集客とは、これからも継続的に取り組み、日々進化させていくものですから、設備投資と違ってあまり失敗を恐れることはありません。
いろいろ試行錯誤しながらも、一歩一歩前に進んで行けば良いのです。
◆ワークスケジュールとIT
風呂屋の仕事は突き詰めれば番台(受付・金銭授受)と施設の維持管理です。
しかし、それだけやっていればOKということはなく、現実には複雑なオペレーションをこなしています。品質を上げ、難易度の高い仕事に挑戦しようとすればそれはそれで限りなく奥の深い仕事です。
仕事が高度で複雑になるほど、客数の変動が悩ましい問題になってきます。
忙しい時ほど習熟度の高いスタッフを大勢揃えないと回せなくなりますが、現実にはそう都合よくシフトを組めるものではありません。
また運営の安全率を考えて多目に人員配置すればすぐに人件費か膨らんで採算がとれなくなります。
だからこそ、上手なワークスケジュール(日々時間帯別の業務量に合わせた適切な人員配置と作業計画)を作れることは高度な職人芸と言われるのです。
この職人芸の世界も、IT化によって変わりつつあります。
スタッフの希望する勤務時間、収入、仕事の習熟度、時間帯別業務量、売上予算や人件費予算といった要素を前提に、実際にシフトを組んでしまうところまでシステム化されているのです。
これによって職場のストレスが減り、管理者の仕事が軽減され、人件費が最適化できるとしたら、それは素晴らしく価値があることだと思います。
世の中は刻一刻と変化していますが、やはりlTの世界は進化のスピードが段違いです。温浴業界がもっと進化していくためにも、lT化への取り組みは欠かせないようです。
◆アマゾンダッシュボタンのニュースに思う
前回、主力商品のことを書きました。小売店にとって、日用品は買い上げ比率が高く来店動機に直結する大事な主力商品です。
食パンや牛乳、洗剤やトイレットペーパーなどの生活必需品を補充しなければならないので買い物に出て、ついでにいろいろな物を買う。一般家庭ではそんな買い物スタイルが中心になっています。
ですからスーパーマーケットでは菓子パンは欠品できても、食パンは閉店まで切らしてはならない主力商品となります。
ドラッグストアはアリエールやアタックなどを切らしてはならないし、コンビニはミネラルウォーターを切らしてはならない。
そんな主力商品を狙い撃ちするようにアマゾンが打ち出した、家庭に取り付けたボタンひとつで日用品をネット注文させるという手法は、小売業にとって大きな脅威となることでしょう。
IT技術やAIの進歩によって、これからの産業構造や就業構造が大きく変わっていくのは間違いなさそうです。
ところで、温浴業界はネットの世界とは縁遠いので、あまり影響を受けないのではないかと考えられています。実際に自分の身体で行かなければ温浴は体験できないから、と。
この半世紀の間に、温浴業界はふたつの大きな波にさらされてきました。ひとつは自家風呂の普及という波に伴って身体を洗う場という役割が家庭に移動し、次にレジャーや時間消費の多様化という波に伴って手軽なリラクゼーション&レジャーという役割が散逸しつつあります。
残るは身体を温める、温浴による健康増進という役割ですが、これも機能としてとらえれば、もっと手軽で効果的に温浴ができるような技術が開発されてしまうかも知れません。例えば家庭の浴室機能がもっと進化してしまったら…。
そうなると、結局残る要素は人ということなのでしょう。人が人と交流し、楽しませ、温め、癒し、治す。それだけはバーチャルにできないし、ITやAIに置き換えることもできない。最後はそこが残るように思います。
経営者の話
◆今日はおがわ花和楽の湯にて
朝から打ち合わせがありました。会話の中で、ある業種に対する電話を使った調査手法について私が説明していると、新田社長がおもむろにスマホを取り出し、その場でいきなり調査を始めたのです。
3箇所ほどへの電話から得られた情報により、会議の内容は一気に具体性が高まりました。
その姿を見て、前にもこういう人物に会ったことがあるのを思い出しました。
それは、私の心の師匠である故舩井幸雄です。私が会長室に押しかけて何か相談すると、いつもその場で心当たりに電話して問題をさっさと解決してしまうのです。
そういう行動パターンを舩井幸雄は「即時処理法」と呼んでいました。
問題を溜めずに即時処理してしまうことで余計な悩みを抱えずに済みますし、複数の問題を同時処理しないことによって問題解決力やスピードが飛躍的に高まるのです。
若くして温泉事業を立ち上げ、急成長させてきた新田社長の決断力や行動力はやはりすごいと思います。
と言いつつも、即時処理法を身につけるのは簡単なことではなく、私の場合は心掛けているつもりでもいつの間にか解決できない悩みが溜まって、ため息をついていることの方が多いようです。
◆経営者の夢
今日は東京ビッグサイトで展示会2日目、私どもは展示会場の隣の会議棟でセミナーです。昨日は会場でたくさんの方にお会いしました。
展示会は、そこにいる人が何となく前向きに、未来志向になれるのが良いところです。
昨日お会いした人の中で一番デッカイ夢を語ってくれたのは、株式会社トリリオンの木地本社長でした。私も微力ながら協力を約束しました。
人は夢のない仕事に人生を賭けようとは思いません。
会社の夢と自分の自己実現が一致した時、人は最大限の力を発揮できるのだと思います。
トップは、夢を語ってください!
◆事業の生死を分ける違い
熊本地震で被災してしまった湯らっくすゲンキスクエアさんが復活しつつあります。設備の応急措置をして、まだ時間限定・浴場限定ではありますが、営業を再開しています。
愚痴や弱音を言わず、転んでもただでは起きない西生社長の不屈の精神には、ただただ敬服です。
災害大国日本に住む以上、いつ地震や火山噴火、台風などで被災地になるか分かりません。被害が軽微であれば支援側に回ることもできますが、自店が大きな被害を受けてしまうこともあるでしょう。
そうした非常時に、覚悟を決めて事業の存続を図ることができるかどうか。企業と経営者の真価が問われます。
東日本大震災の直後はライフラインが途絶えて営業できなくなり、自粛や風評も重なって大ピンチを迎えた宮城県の峩々温泉。
ただ湧いては流れる自噴温泉を眺めていても何もなりません。そんな時、六代目竹内宏之社長は温泉旅館経営という事業ドメインをも飛び越え、チャリティーBOXという通販事業をいきなり立ち上げます。
http://gagaonsen.exblog.jp/15766292/
地域を守り、旅館を守り、従業員も守る。そのためにできることならなんでもやるという覚悟と不屈の精神を見せてもらいました。
生きるか死ぬか、存続か廃業かという場面では、効率やテクニックは何の意味も持ちません。諦めない、逃げない、ただもがいてでも前に進むしかない。
何が何でも生き延びるという心の強さ、思いがあるかどうか。最後はその違いだけなのだと思います。
◆口癖
こうしたら売上が増えるかも。お客様が喜ぶかも。経費を節約できるかも…経営的に良かれと思って、何かひとつの手を打つ。やってみた結果、期待以下の成果しか得られないこともあるし、思いがけず期待以上のことが起きることもある。
経営も人生も、そんなことの繰り返しです。机の上で計算しきれるような単純なものではありません。
弊社の古くからのお取引先に、次々と大胆な施策を打ち出して素晴らしい成果を上げている温泉施設があります。社長さんはちょっと変わっている人ですが、口癖は「やってみなければ分からないから、まずはやってみよう!」です。
人が良かれと思って、知恵を働かせながらやることなのですから、実行してもひどい結果をもたらすようなことは実際にはほとんどありません。
百点満点ではないかも知れませんが、プラスの結果が出るのが普通です。そんなことをしているうちにいつか追い風が吹いて凡フライかと思ったらホームランになったり、相手がエラーしてくれることもあるでしょう。
狙った通りに充分な成果を出すことをホームランとしたら、ホームランばかりでなく時には内野ゴロかも知れません。一塁ランナーが進塁しただけで、打者はアウトになるかも知れません。
しかし、バットを振るから何かが起こるのです。
経営不振でマイナスのスパイラルに陥っている企業を、負けが込んでいる野球チームだとします。
何故試合に負けたのか、どうして打率や防御率が悪いのか、残塁が多いのか、といったことばかりを問題にしていると、選手はどんどん萎縮したりシラケるばかりです。
空振りしたら叱られる。内野ゴロでダブルプレーになってもまた叱られる。分析者は「真ん中付近、ベルトの高さ辺りの直球だとホームランになる確率が高いようです」などと他人事のように言う。そんなことが続いているとついに選手はバットを振れなくなります。見逃し三振した理由を「ギリギリのコースでボールだと思ったんだけど審判が…」などと言い訳しながら。
何もしなければ、何も起こりません。現状維持がベストな戦略と言えるほど良い状態ならそれもあるかもしれませんが、負けが込んでいる野球チームも、経営不振の企業も、現状維持しているわけには行かないはずです。
もしそんな状態になっていると思ったら、上記のちょっと変な社長の口癖を思い出してみてください。「やってみなければ分からないから、まずはやってみよう!」です。
温浴コンサルティングの話
◆コンサル手法
今日は古いお付き合いのお客様が、久しぶりのご相談ということで事務所にいらっしゃいました。
スーパー銭湯ブームの頃に開業してから20年近くが経過していますが、つい最近商圏内に強烈な競合店が新規出店し、激しく影響を受けているそうです。
状況をうかがっているうちに、意外な質問を受けました。
「望月さんは今どのような手法やコンセプトで温浴施設を指導しているのですか?」と。
昔のオープン以降はあまり深くお付き合いすることがなかったので、そう思われるのも仕方ないのかも知れませんが、私自身は何か一定の手法を相手に関わらず用いるということはほとんどありません。
もちろん、その時々で当てはまりそうな成功事例情報はお知らせします。しかし、ひとつのやり方がどの施設でもベストの問題解決策になるということはあまりないのではないでしょうか。
施設によって立地条件、競合相手、経営資源、企業体質もそれぞれ異なるのですから、解決策は千差万別になると思うのです。
例えば、「お湯の浴槽よりも、水風呂の方を大きくする」(東京都渋谷区 マルシンスパ)なんていうのは成功手法でもなんでもなく、限られた面積の中で強みを発揮するために他に方法がなかっただけなのです。
当然アドバイスの対象もハードからソフト、マーケティングからマネジメントまであらゆる分野に及びます。そうしなければ問題解決に向かうことができないくらい、今の温浴事業経営は簡単でなくなっていると思うのです。
というわけで、あの最新型フルスペックの施設にどう対抗するのか、また悩みがひとつ増えました。
◆ロウリュ研修
もうこれまで何回やってきたか分かりませんが、昨日は熊本にてロウリュ研修をやりました。
お客様の前での実演もしたのですが、現役で毎日タオルを振っていた頃と比べると、持久力もキレも落ちているのを感じました。
やり方を頭で分かっているだけではダメで、高いパフォーマンスレベルを維持するには日々の修練が必要なのです。
ロウリュは、同じように水を掛けて蒸気を発生させているつもりでも、その日の気温や客数、そしてトークの内容や時間のかけ方、タオルで起こす風の質などのバランスによって、お客様の感じる満足度は大きく変わってきます。
設備による自動ロウリュや、うちわの導入によるロウリュスタッフの負担軽減という選択肢もありますが、本当は人による水掛け、タオルによる蒸気撹拌や送風にこだわってほしいと思っています。
微妙な調整を行いながらその時々で最高のパフォーマンスを追求することができますし、レベルアップしていけば他には簡単に真似できない独自性のあるイベントへと育っていくのです。
そういう仕事こそが、プロフェッショナルとしての腕の見せどころなのではないでしょうか。
◆日本一とか、世界初とか
今日はご相談の来客が2件。売却案件のデューデリジェンスの話と、観光地での新規開発の話でした。
ご相談をいただいて現地の状況を聞きながら打ち合わせしていると、いろいろとアイデアが湧き上がってきます。
時には、このアイデアが実現すれば日本一ですよ!とか世界初ですよ!といった案が浮上することがあります。具体的なイメージが次から次へと出てくる時は、本当にワクワクします。
相手の人からは、もしかしたら「この人は突拍子もないことを言う。ちょっと頭がいっちゃてるのかも?」と思われているのかも知れません。
しかし、私はいつも本気です。
もし日本一とか世界初と言えるような武器(魅力)を持つことができれば、マーケティング戦略上どんなにありがたいことでしょうか。
逆に困るのは、日本中あちこちにある金太郎飴のような施設です。館内にいると、あれ?ここはどこの施設だったっけ?と分からなくなるような没個性な施設では、どう売ったら良いのか皆目見当がつかなくなることがあります。
いま、わたしたちが「温浴」と呼んでいる世界は、ほんの入り口に過ぎないと思っています。大深度掘削をしたつもりでも、地球の大きさから見れば蚊に刺されたほどにもなっていないのと同じです。
文化的にも技術的にも、まだまだ深く広く探求すべきことがあり、少し先へ進めば日本一とか世界初のインパクトを持った温浴施設にすることができるかも知れないのです。
温浴業界があまりにも情報不足だった時代に、成功事例情報を広めたのは他ならぬ私自身だったかも知れませんが、いつまでも横を見ているだけでは進歩がありません。もうそろそろ先に進まなければいけない時代が来ていると思っています。
◆スイッチ
「勉強好き、素直、プラス発想」「過去オール善」…これらは舩井幸雄が遺した有名な言葉です。
なぜ舩井幸雄はわざわざこの言葉を使うようになったのかなと、その理由に思いを巡らせることがあります。
停滞していたり悪循環に陥っている組織には共通して疑心暗鬼、批判、否定、足の引っ張りあい、犯人探し、責任追及といったイヤな空気が蔓延し、そこに関わる人全てが暗く不安定な精神状態にあります。
そのような状態の組織では、どんなに優れた経営戦略や実績のあるノウハウ、緻密な計画があっても、良い結果を出すことはできません。
何故なら、仕事を実行できないからです。いくら目標や計画をたてても、そこに向かって仕事をしっかりやり抜くことなしに結果は出すことは誰にもできません。
組織にネガティブな空気が蔓延している中では、そのメンバーは萎縮、シラケ、責任逃れといった気持ちになっており、到底前を向いてまともに仕事する気持ちにはなれないのです。
「即時業績向上法」というコンサルティング手法があります。短期的に業績を伸ばすノウハウを集約したものですが、たとえ一時的・部分的にでも業績が上がるのが目に見えれば、それを足掛かりに皆の気持ちを前向きにしてはずみをつけられるという狙いで開発されたものです。
ところが、本当に深刻な状態になると即時業績向上法すら実行できず、小さな成功体験も作り出せないことがあります。
これまで、そういった状態の組織とお付き合いしたことが何度かあります。立場的に外部の人間である私でも相当に苦しい思いをしますので、そんな組織の内部にいたら、その企業に人生を左右されている人たちの苦しみはどれほどのものであろうかと思います。
その組織に向かって、「目標に向かって頑張りましょう!」などといった通り一遍の話をしたところで、反発されるか無視されるのが関の山でまったく通じないでしょう。
ポジティブな組織とネガティブな組織は、昼と夜、照明が明るく点いているか真っ暗かというくらいの違いがあります。
明るく前向きな雰囲気の組織では少々の失敗も笑い飛ばし、どんどん仕事が進むので、いずれ必ず良い結果が出てくるのです。
おそらく、舩井幸雄自身が若い頃にいろいろな組織に遭遇し、ネガティブな空気の中で空回りすることもあったのではなかろうかと想像しています。そういうことがあるからこそ、「勉強好き、素直、プラス発想」「過去オール善」といった言葉で、スイッチを切り替えるように一気に空気を入れ替える必要性を感じたのではないでしょうか。
このことは、実務ノウハウを駆使することよりも遥かに重要なのに、最近時々それを忘れてすぐに実務の話に入ってしまうことがあり反省しています。
◆言葉ひとつで
業績不振の企業からコンサルを依頼される時、「こちらも余裕はない、成果が見られなければすぐに契約は切らせてもらう」というようなことを言われることがあります。
逆に「絶対に事業撤退したくない、どうかよろしく頼みます」と言われることもあります。
どちらも「苦しい状況なので真剣にやって良い結果を出して欲しい」ということを言いたいのだと思いますが、受け止める方の心情は正直大きく変わります。
同じように、経営者が現場に対して結果が出なければ事業撤退だとか、クビだ降格だと言うのは、危機感を持ってもらいたくて言うのだと思いますが、逆効果になるおそれがあります。
商売の結果は、努力の量や経営判断の理論的な正しさと短期的には必ずしも連動しません。風向きやタイミング、いろいろなことに左右されます。出てきた結果は受け入れるしかないのです。
それを結果次第ではクビとか降格とか言ってしまうと、雇われている側の心情としては危機感を持って命がけで頑張るよりも、そろそろ次の就職先を探す方が賢明かな、と思い始めるでしょう。
いろいろな選択肢を頭の中で検討するのは経営者として当然のことです。しかし、それを口に出すかどうか、言うとしたらどういう言い方をするかで、その後は大きく変わってしまうのです。
言葉ひとつですが、人を活かすも潰すも言葉次第なのです。
伝え方のテクニックとして上手な言い方をするということもありますが、もっと大切なのは事業に対する不退転の覚悟、そして取引先や社員をとことん大切にしようという気持ちかな、という気がしています。
◆再挑戦の機会
今から12年前、まだ私が前職で温浴チームのリーダーをやっていた頃、三陸海岸沿いの漁村の町から温浴施設開発の相談をいただき、成立可否診断をしました。
当時、診断結果は×に近い△ですと報告しました。
理由はマーケット規模の不足と、それを補うだけの経営資源を見出せなかったからでした。
しかし、地域の要望を受けてどうしても温浴施設を作りたかったそのお客さまは、私よりも調子いいことを言ってくれた他の設計コンサルタントに依頼して、開発を強行してしまいました。
そして蓋を開けてみれば、売上は私が予測した通りの水準になってしまい、その後の経営にはかなり苦労されたようです。
その後、2011年の東日本大震災がその海沿いの町に壊滅的な被害をもたらし、件の温浴施設も津波に流されてしまいます。
多くの方が亡くなり、元々少なかった人口がさらに2割も減少してしまいました。
それでも懸命に復興に取り組む中、やはり地域に温浴施設が欲しいという声が再び盛り上がってきたのです。
当時開発を担当した責任者の方から「結局は診断で言われた通りの数字になった。望月さんの言うことを聞いておけば良かった。今度こそじっくり相談したい。」と連絡があり、今日は12年ぶりに現地に向かっています。
正直なところ、当時は私も力不足でした。
温浴施設開発がうまくいくかどうかを検討しているだけではなく、本当に開業したいというお客さまの強い意志を見抜けなかったこと。
温浴施設開発は特に最初の計画が肝心で、そこで失敗すると後からリカバリーがききにくいという重要なポイントをうまくお伝えしきれなかったこと。
立地条件に合わせて柔軟な施設計画を作るノウハウが足りず、標準的なビジネスモデルの成立基準に当てはめて診断するだけだったこと。
たくさんの後悔があります。
再びいただいたこのチャンスに感謝しつつ、今度こそ被災地の復興にも貢献する温浴施設開発計画を全力で提案したいと思っています。
◆再挑戦の機会2
続きです。
現地で話を聞いたところ、津波で流された温浴施設出店の経緯はかなりひどいものでした。
調子のいいコンサルタントというのは、温浴業界で相当の実績を持つ某設計会社。
予測された売上は私の予測の2倍、経費の見込みも甘々で「燃料代は月額70万円超えることはない」とか言っていたのに蓋を開けてみれば毎月300万円を超える請求だったとか。
「現実離れしたバラ色の事業計画を作って施主を煽り、事業規模を膨らませて設計&プロデュース費用を稼ぐ」という悪質なやり方とすら思えます。
しかし、考えてみると新規参入とはいえ、事業計画を設計会社に作らせること自体が根本的な問題かも知れません。
例えば個人が独立して飲食店や雑貨屋さん等を開業するとしたら、必死に勉強して事業計画を自分で作るでしょう。
少々事業規模が大きくて複雑だからといって、他人に任せる、ましてや初期投資が膨らんだ方が美味しい立場である設計コンサルに任せることにはやはり問題があったと思います。
私としては、これまでも数値分析や事業計画作成のノウハウはできるだけオープンにしてきたつもりなのですが、今後はもっとオープンにすることで、温浴業界の間違いをなくして行きたいと思いを新たにしています。
◆ココロの問題
今日はあるスーパー銭湯の損益最適化診断のレポートをまとめています。
この診断は現地視察をした上で、損益計算書や日報月報、その他帳票類や販促物などをお預かりし、現状のままで運営を続けた時の損益予測と、各種改善の手を打った場合の損益予測の差、その解説をアウトプットするものです。
数ページの簡易診断レポートで費用30万円(税・旅費別)ですが、弊社のコンサルティングノウハウが凝縮されています。
現地視察をしても、漫然と雑談しているだけでは具体的な施策までお伝えするのは難しいのですが、数字を根拠にすると、何をすればどう変わるかを明確にお伝えすることができます。
思いつきや感性で言っているのではなく、事例情報に基づくルールをベースにお伝えするので、すべて実行可能な施策です。
後はどれくらいの精度とスピードでやり抜けるかです。現場に意欲と運営力があれば、自力でもどんどん進められると思います。
温浴事業の定期的な健康診断としても最適なツールだと思いますので、ぜひご利用いただければと思います。
ところで時に、経営者が業績を心配していても現場が業績を改善したいと思っていないような状況に出くわすことがあります。
本社規模が大き過ぎて現場の努力が評価されにくいケースや、経営者と現場責任者が不仲なケースなどです。
こうした場合はココロの問題なので、現場改善ノウハウはあまり威力を発揮できません。
考えてみると、わが師舩井幸雄は圧倒的な権威と人徳でココロの問題をスッ飛ばして経営指導にあたっていたような気がします。しかし私はまだ剥げていませんし、権威も人徳も足りない若輩者ですので、ココロの問題はとことん話し合うことでしか解決できそうにありません。
本来、人は誰でも健康でいたいはずですし、自ら健康になるための自然治癒力や免疫力、そして鍛えれば高まる能力を備えています。それは組織も同じ筈なのですが、時に病んでしまうことがあるのも同じなのでしょう。
以前はコンサルタントとしてノウハウばかりを追いかけていましたが、最近はココロの問題に行き当たることが増えているような気がします。私もそんな役割を求められる歳になってきたということなのでしょうか。
◆パッケージビジネス
いつの世も、人は分かりやすいもの、目に見えるものにすがりたいと思うもの。
だから、「これさえやれば儲かりまっせ!」的な話には弱い。
本当は自らの経営資源と与えられた環境の中で、どうやって最適解を見つけ出すかということが課題であり、答えは常に千差万別でしかない。
それは人生も商売もすべて同じこと。だれにでも当てはまる万能の成功手法なんてものは存在しないのです。
様々な経営理論が示しているのは、「そのように考え行動することが、多くの場合良い結果につながるであろう心掛け」ということに過ぎません。
他社事例を視察・研究するのはその心掛けを学ぶためであって、真似をするためじゃない。表面的な形だけを真似して簡単に成功できるなら誰も苦労しません。
かつて我が師、舩井幸雄が「力相応一番主義」という経営理論を提唱しました。
自分の力相応に一番になれるところ(商圏)、もの(商品)、対象(ターゲット)を見つけ、そこに経営資源を集中して一番を勝ち取ることが良い結果につながる。富士山や金メダルの例えを持ち出すまでもなく、一番と二番以下とは人の認知度や評価に雲泥の差がついてしまうのだから、これを経営に応用しない手はない…という心理学と心掛けの話です。
ところが、これがいつの間にか「地域で一番大きな一番店をつくればトップシェアを獲得して大きな売上を確保、出店は成功する」という「地域一番店理論」に変化します。力相応という重要なキーワードが抜け落ちて、とにかく一番店になれという単なる大型店舗開発競争となり、マーケットに不相応な過剰投資も行われました。そうやって無理な出店を重ねたのがダイエーやそごうです。
力相応一番主義という心掛けの話だったはずが、地域一番店理論として分かりやすく切り取られ、力相応でない競争が繰り広げられるのを舩井幸雄自身はどう感じていたのか。
私が船井総研に入社した頃は社内で地域一番店理論が花盛りで、その時代の真っ只中で育ったのですが、まだ大証二部に上場したばかりで中小企業に毛が生えたくらいの会社でしたから、社内のコンサルタントに対しても、クライアントに対しても、分かりやすく目に見える形で伝えるということが必要だったのかも知れません。
その後しばらくして、ベンチャー・リンクによるFC化ビジネスモデルが飲食業界を席巻しました。これも繁盛店の店づくりから運営方法までを丸ごとフランチャイズ化して売りまくるという、分かりやすく目に見えるようにしたパッケージビジネスでしたが、急成長で無理を重ね過ぎたのか、10年ほどで急降下してしまいました。
ダイエーやそごうもご存じの通りです。
パッケージビジネスは加盟店のためにあるのではなく、売る側(FC本部やコンサル)のためにある。本当の経営の答えは自らの最適解を探し続けるしかない。と私は思っています。
パッケージ化を否定するつもりはありません。資金に余力があり、短期的な成果を求めるなら完成度の高いパッケージを買う方が手っ取り早いでしょう。それはそれでひとつの選択肢だと思います。
いまの温浴業界にも、成功モデルとされる注目の繁盛店があります。
これらを形だけ真似ようとするのではなく、どのような心掛けでこれが生まれたのか?その心掛けは自店に応用できるものなのか?というところまで思いを巡らせていただけると、より多くのことが吸収できると思います。
温浴業界イベント
◆HOTERES JAPAN 2016
今日は 2016年2月15日です。今日から19日金曜日まで、ずっと東京ビッグサイトにいます。
今日は明日からの本番に備え、展示ブースの各種準備作業です。
展示ブースはTEAM THERMAEとしての共同出展、17日は弊社主催セミナー「温浴の未来を語ろう!」、18日には展示会場内無料セミナー「温浴の未来を大胆予測」講師と、やること目白押しの一週間です。
HCJ2016を主催する(社)日本能率協会様とは15年来のお付き合いで、温浴業界の展示会がまだひとつもなかった時から今日に至るまで様々な形の協力関係のもとやってまいりました。
今年はHCJ全体的に出展申込が好調(つまり飲食&宿泊業界が元気)であったため、温浴コーナー(ONSEN&SAUNA JAPAN)の拡大はあまり目立たないかもしれませんが、来年は温浴コーナーをさらに大きく発展させようと今から構想を練っています。
ぜひ年に一度は業界最先端の情報を仕入れるために展示会に来てください。
個々の温浴企業の活性化、それをサポートする側の企業のレベルアップ、そして展示会をはじめとして業界全体の発展と、いろいろな面からアプローチして温浴マーケットの拡大に努めています。
「温浴」はもっと発展し、人々の健康と幸福に貢献する使命がある!そう考えています。
◆インバウンド対策
HCJ2016は今日で3日目。セミナー講師もすべて終わり、ほっと一息ついているところです。
ところで、今年のホテレスは出展申込が多かったというのは前にも触れましたが、例年と一番大きく違うところは『インバウンド対策』コーナーかも知れないと感じました。
いま飲食や宿泊業界では、拡大する外国人マーケットの取り込みに真剣です。
かたや温浴業界でインバウンドの話になると、「外国人客は入浴マナーが…」「客層が変わって既存の日本人客が離れるのでは…」と、ネガティブなイメージが先行しています。
確かにそういう側面も否定できませんが、その類いの心配は他業界だって同様です。
マーケットの変化に積極的に対応することで飲食や宿泊業界が元気になっているという事実を考えれば、温浴業界でも、インバウンド対策をもう少し前向きに考えても良いのではないでしょうか。
「外国人に日本の風呂文化を教えたる!」くらいの勢いがあってもいいのかも知れません。
まずは、
・多言語対応(HP、館内表示)
・Wifi環境整備
・クレジットカード対応
という3つのポイントでインバウンド対策を進めてみてはどうか、と思っています。
◆テルマエJAPAN
昨日、(社)日本能率協会のホテレス担当の方と打ち合わせをしました。
まだ未公表ですが、来年の国際ホテルレストランショー内温浴コーナーの企画名称について、インパクトのあるネーミングを強くお願いした結果、『テルマエJAPAN 2017』になりそうです。
これまではAQUA&SPAといったやや分かりづらい名称が使われており、昨年はONSEN&SAUNAとしてもらいましたがちょっと特定分野に踏み込み過ぎとの評価もありました。
内容がイメージできて、広く温浴全体を表現する言葉として、『テルマエJAPAN』は期待できそうです。
展示会は業界の最新動向を知る良い機会。もっと大きく発展させるべく、弊社も微力ながら貢献していきたいと思います。
◆大サウナ博SAUNA EXPO2016にて
本日は大サウナ博というイベントにお邪魔しています。主催は日本サウナ熱波協会、今年の会場は横浜市鶴見区にあるファンタジースパおふろの国の駐車場です。
多彩な企画を組み合わせた楽しいイベントになっていて、業界関係者や温浴施設支配人がたくさん集まっています。
ハードやモノではなく、人がつくり出すエンターテイメントの面白さを実感させられます。
先日このメルマガでもご紹介した秋山温泉さんのタオルパフォーマンスをじっくり拝見することができました。技術はだいたい盗めましたので、あとは練習して完全に習得したいと思っています。
ところで会場となっているおふろの国(スーパー銭湯)ですが、すぐ隣にヨコヤマユーランド(健康ランド)があり、温浴施設2店舗が隣接しているという珍しい事例だったのですが、さらに2年前、至近に極楽湯のRAKUSPAという最新型巨艦店が出店し、3店舗がひしめく激戦地となったのです。
それから2年が経ちましたが、いまだに3店舗が並び立つ状態が続いています。
それぞれ影響し合いつつも、異なるコンセプトで、異なる客層を獲得しています。
もし首都圏の温浴施設視察をされるときは、ぜひ3店舗同時視察をしてみてください。
◆12.14 渋谷で@ニフティ温泉イベント
毎年年末恒例のニフティ温泉イベントが渋谷で開催されます。年間人気温泉ランキングの発表をはじめ、注目の情報をゲットしつつ温浴業界関係者との交流も図れるチャンスです。
望月も登壇してスベらないお話をする予定です。14日17:30開始の無料イベント、ご参加できる方はお席とお酒確保のため下記まで電話でご連絡を!
主催:ニフティ株式会社 03-6807-4541(担当:佐野・長谷川さんまで)
◆進化の予感
昨日のニフティ温泉イベントではお付き合いのある温浴施設がたくさん受賞・上位ランクインしたり、嬉しいことがいくつもありました。
ニフティさんらしく、IoT技術を使ってイベント参加者にその場でアンケートをとり、回答を瞬時に集計するという企画があったのですが、入墨問題や温泉マークなど最近気になることへの質問に対する集計結果が予想外に革新的でビックリしました。
いつも保守的な温浴業界と思っていましたが、変わろうとする意識は昔よりもずっと強くなってきているのかも知れません。
ロウリュ対決の企画では久々にタオルを振ったものの、秋山温泉の渡辺支配人の華麗なタオルパフォーマンスの前に完敗でした。これも進化する温浴業界を感じさせてくれました。
そして古くからお付き合いいただいている有馬温泉太閤の湯さんが年間人気温泉ランキングで堂々の全国2位になったこと。
神戸と首都圏のマーケット規模の差を考えれば実質的には日本一の人気温泉だと言ってもいいと思います。
廃業寸前だった有馬ヘルスセンターが復活して、さらに進化を続けていることは温浴業界にとって希望のひとつです。
私も皆さんに負けないようもっと進化しなければ、という思いを新たにした夜でした。
事例研究
温浴施設事例に学ぶ
◆さすが極楽湯
新しくオープンしたばかりの店は、見た目はきれいでも運営や営業方針が安定するまでしばらく時間がかかるものなので、すぐに見に行くことはあまりないのですが、今日はたまたま京王高尾山口駅にある「京王高尾山温泉 極楽湯」に行きました。
4ヶ月前にオープンして以来、お客さんがよく入っているという噂は聞いておりましたが、今日も平日昼間で観光オフシーズンにしてはなかなかの賑わいです。
館内に入ると、「さすが極楽湯、賢い!」と米澤専務と一緒に唸らされました。
設備アイテム、サービス、デザイン、どれも合理的でこなれていますが、特別驚くようなものではありません。
驚くべきはその「見切り」です。
駅利用者や観光客の大量集客を前提にしてコンセプトを組み立て、必要なものはきっちり揃えつつ、無駄なことは一切していません。
こういう立地条件に合わせた店づくりが適確にできるのは、日本最多の店舗数を展開してきた極楽湯だからこそでしょう。
競争に勝つことや先進的なことばかりに目を奪われているうちは、いつまで経っても極楽湯には敵わない。そう感じさせられた日でした。
※写真は館内にディスプレイ表示されている京王線の時刻表。FCで京王電鉄がやっているから出来ることですが、唯一これは先進的でした。
◆飲食事業の委託
昨日、竜泉寺の湯八王子みなみ野店に立ち寄り、レストランを利用しました。
「湯あがりキッチン一休」という226席の大型レストラン、スーパー銭湯の飲食部門受託を得意とする「本家さぬきや」さんが運営しています。
内容は非常に立派で、店づくり、メニュー、オペレーション、接客…いずれも温浴業界の平均的な飲食部門レベルと比較すれば格段の差があります。ざっと予測してみた売上も桁違いです。
「本家さぬきや」さんの受託件数は全国で既に100店舗を越えており、このような事例を見ると、多くの方が「やはり温浴施設の飲食はプロに委託するのが正解なのか?」という気になってくることでしょう。
そのようなご質問を受けることも少なくないのですが、もちろん、直営か運営委託か、あるいは場所貸しのテナントかを決めるのは総合的な経営判断であり、一般論としての正解はありません。
それを承知でいつも申し上げるのは、
・大きなリスクを張って設備投資をして、年間数万~数十万もの人を集客する温浴施設をつくっておきながら、そこで発生するビジネスチャンスを簡単に他社に渡してしまうのは惜しくないですか?
・直営なら事業コンセプトやトップの意思をダイレクトに反映できますが、他社に委託すれば意思統一やスピーディな意思疎通は難しくなります。
・スタッフの兼任や販促の連動など、他部門との連携は直営の方がやりやすい。
・手数料収入もいいですが、直営で利益が上げられれば他社が介在しない分、利益は大きくなります。
というようなことです。
これだけのメリットが分かっていながら、現実には「飲食のプロではない」という壁が大きく立ちはだかるのです。
もちろん、いくら頑張っても飲食部門が赤字続きだったり、お客様をがっかりさせるようなものしか提供できないとしたら、委託する方が良いでしょう。
逆に直営飲食がうまく行っている温浴施設は、飲食業の経験があるなど、やはり何かの経営資源を持っていることが多く、飲食の素人企業で直営がうまく行っている事例は多くありません。
飲食の直営化で良い結果を出すためにはどうしたら良いのか?これも長年追いかけている課題のひとつです。
◆堅調な理由
八王子温泉やすらぎの湯を視察しました。
開業から既に15年くらい経過していて、その後近隣に高尾山温泉極楽湯や竜泉寺の湯八王子みなみ野店など、強力な競合店が増えていますので、相当苦戦しているのではないかと予想していました。
ところが、施設の設計はさすがに古さを感じさせる部分がありますが、意外なほど館内は清潔で手入れが行き届いており、入館料も平日1,650円と値崩れせず、堅調な様子だったのです。
その主な理由は、
・繁華街立地であり、郊外型の競合店とは客層の棲み分けができている
・ホテル併設であるため、昨今の宿泊需要増に支えられて全体の収益が確保できている
・エクササイズスタジオや岩盤浴など、定期的に追加投資が行われている
・一人用サウナマットを使用するなどサウナの満足度が高く、一定のサウナファンが定着している。
といったことでしょうか。結果として値崩れやサービス低下を起こすこともなく、全体に良い状態が保たれているようです。
15年前といえば郊外型のスーパー銭湯がブームに乗ってどんどんグレードアップしながら次々出店していた時期で、そこに繁華街立地でどちらかというと健康ランドに近い業態でホテル併設というちょっと変わった出店形態だったことが、今になって大きなプラスにつながっているのです。
流行や時代の最先端を追いかけることは、時流に乗った上手な経営であるように見えますが、いつか必ず流れが変わり陳腐化する時が来ます。
温浴ビジネスは、源泉や施設の耐用年数という意味では少なくとも30年、あるいはもっと長いスパンで事業継続していくことが求められます。目先の時流に適応することよりも、立地条件や自社の資源を活かした戦略を持つことの方がより重要性が高いと言えるでしょう。
◆温浴施設の本質的な価値
企業によって様々な得手不得手がありますし、施設の設計も多種多様ですから、温浴施設は何で勝負すべきかを一概に言うことはできません。
しかし、「これぞ温浴の本質だ!」と思わず感銘を受けてしまう施設があります。
それがセミナーでもしばしば紹介する静岡のサウナしきじです。
飾らず、奇をてらわず、しかし要所要所で入浴する者を満足させる。そんな施設です。
「飲める水風呂」はかなり有名になりましたが、他にも随所に満足ポイントがあります。
例えばシャワー。油断しているとシャワーヘッドが踊りだすくらい水圧が強いのです。強烈な水圧と水量で、シャンプーや石鹸もあっという間に流れますし、身体に当てた時のマッサージ効果も充分すぎるほどです。
シャワーはどこにでもありますが、このように贅沢に湯水を使えるシャワーはなかなかお目にかかれません。(節水を考えると、どこでもおススメできることではないのですが。)
そして浴室内休憩スペース。露天がないのが残念ですが、それを補うためか小さい浴室面積にも関わらず休憩用のベンチと椅子に大きなスペースを割いています。サウナ→水風呂と来たら休憩タイムを入れるのがサウナ通の入浴法ですから、休憩スペースがしっかり確保されていることは嬉しい配慮です。
サウナも強烈に熱い高温ドライサウナと、薬草スチームが吹き出す中温サウナの2つがあり、好みや体調に合わせてたっぷり汗をかくことができます。ここも小さい浴室ながら大きな面積を割いています。
このように、どこの温浴施設にもある決して珍しくはないアイテムひとつひとつが、しっかり満足度を追究して提供されているのがしきじの魅力です。
新しさ、大きさ、豊富なバリエーション…そういった差別化要素がなくても品質を追究すればお客様はちゃんと評価してくれる。そのことをサウナしきじは教えてくれます。
◆熊本の雄
熊本市に「湯らっくすゲンキスクエア」という温浴施設があるのをご存知でしょうか。
http://www.genkysquare.com/
創業23年、私も十数年来のお付き合いをさせてもらっています。
ここは2階建ての施設なのですが、1階は低料金で利用できるスーパー銭湯業態、2階は別料金で館内着・飲食・休憩・マッサージ・ヨガスタジオ等が利用できます。全体として見ると健康ランドと同等の機能を持っています。
温浴設備も天然温泉のシャワーや、冷たい天然水をたたえた深い水風呂など、現代でも充分に通用する魅力を備えています。
創業社長はもう他界されていますが、このような革新的な業態を23年も前に作られたことは驚き以外の何者でもありません。
いくら内容がこなれていても、版で押したように似た施設ばかりが増えるようでは、業界の進化は停滞する一方ですから、革新的存在こそ業界の希望の星です。
今日はリニューアルのご相談とロウリュの実演に伺います。
現社長も創業者と同じようなパイオニア精神を持っていますから、時代に合わせて徐々に変化しつつ、これからもきっと地元に愛され続けることでしょう。
読者の皆様も熊本に行くことがあればぜひお立ち寄りください。たくさんの刺激を受けること間違いなしです。
◆進歩とは
今日は横浜のスカイスパYOKOHAMAにお邪魔しています。
ここは私が温浴の仕事を始めたのと同じ頃にオープンし、いつも何かとお手本にさせてもらってきた施設のひとつです。
奇をてらわず、バリエーションや目新しさを追い求めず、設備のクオリティと上質なデザイン、そしてしっかりとしたサービスレベルを保っています。
オープンしてから21年が経っていますが、いまだに浴室は清潔感にあふれています。
浴室で目立って変わったことと言えば、二股カルシウム温泉が人工炭酸泉になったことと、日に2~3回だったロウリュが毎時間(10回)に増えていることくらいでしょうか。
洗い場を使えば、その満足度はいまだに全国でもトップクラス。20年以上昔の設計とは思えません。
もちろん浴室以外のところはかなりリニューアルして手を加えていますが、浴室を大きく変えずに魅力を維持し続けているスカイスパを見ていると、この20年間で温浴業界のノウハウはどれほど進歩したというのだろうか?という疑問すらわいてきます。
考えてみれば、バーデンバーデンにフリードリッヒ浴場ができたのは1877年。
140年経っても健在なのですから、本来風呂屋という商売は先進性を追いかけるようなものではないのかも知れません。
歴史ある施設からは、色々なことを考えさせられます。
◆くまモンイベント
昨日の新聞記事に───熊本地震の被災地を応援しようと、宇都宮市鶴田町の温浴施設「宇都宮天然温泉ゆらら」は、十四日以降の毎週土曜日、熊本県のPRキャラクター「くまモン」が描かれたゴム製のおもちゃを浴場の湯船に約千個浮かべる。実施日には、売り上げの一部を義援金として被災地に寄付する。───
とありましたが、このような社会貢献型イベントはタイミングが良ければ大きな集客効果があります。今回の熊本地震の件に限らず、お客様との間に「このお風呂屋さんに来ると世のため人のためになる」という関係性ができるのは素晴らしいことだと思います。
ちなみに、こういった浴槽に浮かべるアヒル等のおもちゃは安いものだと1個あたり20〜30円で購入可能です。今回のくまモンのおもちゃも、仕入れサイトを調べてみたら30円〜でした。1000個まとめて購入しても30,000円です。
中にLEDランプが仕込まれているタイプのおもちゃを夜の露天風呂に浮かべるのも好評です。
こういった玩具のプレゼントは、入館料を100円、200円と値引くよりもよほど訴求力がありますし、仮にプレゼントでないものをお持ち帰りされてもあまりダメージはありません。
定番のアヒルや今回のくまモンをはじめ、低コストで様々な風呂のバリエーションを演出できますので、上手にご活用いただければと思います。
・記事リンク
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/list/201605/CK2016050902000179.html
・玩具仕入れサイト(くまモン)
http://d-kokuya.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=779015&sort=n
・イベント用品仕入れサイト(トチギヤ)
http://www.tochigiya.com/
◆サウナマーク
みなさんはサウナに入った後に身体に出てしばらく消えない、マダラの模様をご存知でしょうか?
私は以前からサウナマークと呼んでいます。一部のサウナマニアからは「あまみ」とも呼ばれているようですが、正式な名称は日本語にはまだありません。
身体をよく温めてから、しっかり冷やすと出るようですが、サウナによって出るときと出ないときがあり、どのような条件が揃うと出るのか、よく分かっていません。
しかし、このサウナマークが最も激しく出るサウナはいつも決まっています。
大阪なんばのニュージャパン スパプラザにあるストーンサウナ。言わずと知れた日本のロウリュ発祥の地です。
ここのサウナ室の作りには、半端でない数々のこだわりが投入されています。作ったご本人からいろいろ教わったのですが、当時若かった私には話が深すぎて全容を理解するには至りませんでした。
様々な工夫の相乗効果なのか何なのか、まだ解明できていない謎があるのですが、表面的な熱さだけでは計り知れない何かが身体に作用しているのは間違いないようです。
スパプラザのストーンサウナが今のような形になってから20年以上の時間が経っていますが、それに追いつき、越えるサウナがいまだに出てこないことは残念です。
古くからあって、今も続く施設には、先人たちの知恵と工夫がたくさん詰め込まれています。
目新しいだけでどれも似たようなニューオープンの施設をいくら見たところで、たいして学ぶことはありません。
視察に時間を割くなら、古くても輝きを失わない、老舗の温浴施設をじっくりと視察してみてください。
何十年という時を経て、どうしてその形でそこにあるのか、それを究明することが、事業を永続させる決め手につながると思っています。
◆音と癒し
視・聴・嗅(きゅう)・味・触という五つの感覚。人を癒すためには五感に優しい環境づくりが大切といったことがよく言われますが、その中で聴覚、つまり音の問題はこれまで一番軽視されてきたという話を某音響機器メーカーの人から言われたことがあります。
一般的に「音と癒し」と言えば、せいぜいヒーリングミュージックのBGMが思い浮かぶくらいではないかと思いますが、実は奥が深い世界が広がっています。
まずはじめは「不快な音を隠す」ことです。館内のあちこちで耳を澄ませば、いろいろな音が聴こえてきます。
それは良い音でしょうか?それとも不快な音でしょうか?
もし不快な音だとしたら、それをお客様の耳に届かないようにする方法はないのか、知恵を絞る必要があります。もちろんできる場合とできない場合があるとは思いますが。
設備機器の動作音なども気になるものです。機器の調整や、スポンジやゴムなどを使った対策で音を軽減できる場合もあります。
次に何を聞かせるのかです。一般にはBGMということになります。自然環境に恵まれている地域では川のせせらぎや鳥のさえずりを聴かせることができる施設もあり、素晴らしいことだと思います。
以前、ブログに峩々温泉の竹内社長が吐水口から露天風呂に注ぐ湯の音にこだわっている話を書いたことがありますが、風呂屋としては浴室空間に響く音にはこだわりたいところです。
音と癒しに関する新しい情報もいくつかあります。
・ハイパーソニック・サウンド
http://www.muji.net/lab/living/130925.html
・ソルフェジオ周波数
http://matome.naver.jp/odai/2134053740608056601
・水と振動の話
http://on-linetrpgsite.sakura.ne.jp/column/528hz.html
ちょっと怪しげな話もありますが、先日書いたように大切なのは理屈よりも客観的事実、自身で確かめた実感ですから、もし興味を感じたら、ぜひご自身で確かめてみてください。
そして最後は音響です。音響機器にこだわりはじめるとこれまた深い世界です。
・タイムズスパレスタの空間音響設計
http://www.timesspa-resta.jp/about/pursuit/
・エムズシステム
http://www.mssystem.co.jp/
これまであまり深く追究されてこなかった聴覚と癒しの関係。見落とされがちですが、大切な要素だと思います。
◆小よく大を制し、旧よく新を制す。
『竜泉寺の湯』といえば、昨今業界を席巻している低料金フルスペックの大型スーパー銭湯の代表格で、出店の噂がある地域では戦々恐々です。
この竜泉寺の湯が近隣にオープンして、3割減のダメージから復活したスーパー銭湯があります。
それが上星川満天の湯です。
満天の湯はオープン11年目、先日来館者累計500万人を達成しました。
11年前の施設ですから、最近のフルスペック型ではなく、岩盤浴もありません。
新しい竜泉寺の湯と比べるとかなり見劣りするのは否めません。当初は激しい客数ダウンに見舞われましたが3年間で見事に盛りかえしています。
どうやって対抗したのか?いろいろな側面がありますが、今回は3つの要素をお伝えしたいと思います。
それは「人」「清潔」「独自性」です。
入り口には全スタッフの顔写真が貼ってあり、館内POPもスタッフのキャラクターが前面に出ています。ブログはスタッフがニックネームを名乗るところから文章が始まる。「人」で勝負しようという温浴施設はまだ多くはありませんが満天の湯は本気で「人」を打ち出しています。
そして「清潔」。爆発的な集客力を誇る温浴施設の弱点は清潔感です。お湯の汚れ等、施設は客数に比例して汚れますから、竜泉寺の湯のような繁盛店はどうしても清潔感に難があります。逆に換水頻度をはじめ徹底的に清潔にこだわることで、その違いはお客様にもハッキリ伝わります。
さらに、漢方薬湯と炭酸泉を組み合わせた漢方炭酸泉(世界初)や炭酸シャワー(神奈川県初)、ロウリュサービスなど、相手がやってない独自の魅力を持つことで差別化を図っています。
プチリニューアルを繰り返しながら、今や満天の湯は一般入館料830円(会員630円)と竜泉寺の湯(600円)よりも高い価格設定。施設の規模や設備バリエーションで上回るような相手であっても、やるべきことをしっかりやれば十分に対抗できるという好例です。
◆温浴効果の見える化
今日は京王永山駅にある竹取の湯(旧 永山健康ランド)にお邪魔しました。
前に来たのはまだ岩盤浴ブームの頃でしたから十数年ぶりの訪問です。
当時、様々な素材や温度帯を組み合わせた複数の岩盤浴室(今で言うチムジルバン)を持つ施設のハシリでしたが、いまだに岩盤浴ゾーンは健在でたくさんのお客さんがいました。
長く続けている施設には面白い工夫があります。
今日見た中では岩盤浴ゾーンでのアイスノン貸出サービスと、サーモグラフィー。
アイスノンは他でも見たことがありましたが、サーモグラフィーは初です。
チムジルバンの中央にある常温の休憩ゾーンに大型モニターを設置し、自分の体温変化を映像で見ることができます。
調べてみたらサーモグラフィーカメラは数万円で販売されているので、大型モニターと組み合わせてもそれほどの投資にはなりません。
温浴効果の「見える化」ですね。
こんなことも自宅ではできない温浴施設の存在価値になると思いますし、口コミのネタにもなりそうです。
「なんとなく身体に良さそう」「なんとなく癒された」というレベルでは他の業界に負けてどんどんマーケットを奪われてしまいます。
温浴習慣こそが副作用のない最良の健康法であることをもっとうまく世の中に伝えて行きたいものです。
◆温故知新
大阪に来ると、用事のあるなしに関わらず必ずなんばのニュージャパンサウナを利用します。
個人的にあのサウナが特に気に入っているということもありますが、長い歴史のなかで変わったこと、変わらないことを見ていると、その価値がよくわかってくるのです。
例えば冷やしタオル。
浴場入り口に冷蔵ケースを設置し、その中に濡れたタオルを入れて冷やしているのですが、これが実に気持ちいいのです。
ロッカーの扉にぶら下げられたお忘れもの防止袋。
ジョッキで飲める生ジュース、一人用サウナマット、使い放題のタオルやサウナパンツ、飲用水に塩水…。
時代が変わり、風向きが変わっても、これらのサービスは変わっていません。
私にとっては常にお手本にしている施設のひとつであり、何度通っても勉強になります。
ニュージャパンサウナを見習い、そしてそれを越えるような施設がどんどん登場してほしいところです。
◆久しぶりの天山
メルマガのネタに取り上げておきながら、そういえばしばらく行ってなかったことに気づき、土曜日に箱根の天山に行ってきました。
混雑時間をはずすつもりで遅い時間帯に行ったのですが、それでもなかなか車を停める場所が見つからない、相変わらずの繁盛ぶりでした。
天山には複数の浴槽があり、それぞれ温度が違います。もう長袖でも寒さを感じるくらいの気温ですから、冷えた身体でいきなり一番熱い浴槽は無理だろうと考え、
適温の浴槽でしばらく温まってから熱つ湯にチャレンジ。
しかし、無理でした。足を少し入れただけですぐに断念。他のお客さんも足を入れては断念していたので今日は温度調整がちょっと熱めなのかも…
と思いながら他の浴槽や塩もみなどを楽しんで、仕上げにバイブラの水風呂からの外気浴。
そこで上がっても良かったのですが、いちばん好きな熱つ湯に入れていないことが心残りだったので、もう一度チャレンジしてみました。
すると、今度は大丈夫だったのです。足どころか肩までどっぷり1分くらいは浸かっていたでしょうか。
これはちょっと不思議でした。水風呂と外気浴で身体は冷えているはずですから、序盤でチャレンジした時よりも熱い湯との温度差はさらに大きくなっているはずです。
しばらく考えて、理由はおそらく血流だろうという推論に達しました。
長時間の入浴や温冷交代浴によって血管が拡張し血流がスピードアップしていて、体表に熱い湯があっても血液がすぐに熱を運び去ってくれるので熱さに耐えられるのではないかと。
もしかしてヨガの達人が燃え盛る炎の上を歩いたりできるのも同じ原理か?だとすると今の自分はヨガの達人並みか?等と妄想が膨らみました。
達人の話はさておき、熱い湯や熱いサウナが苦手という声はよく聞きます。そんな人のために、「先に血行を促進すれば入れるよ」と教えてあげれば、温浴の素晴らしさに気づく人がもっと増えるのではないかと思います。
それから、浴槽に仕切りを入れて湯に温度差を作り出す技術。これは設備的に温度調節をしているわけではないので、
大きな設備投資をせずに浴槽の温度バリエーションを増やす知恵です。また、露天風呂に設置された大きな塩壺。塩揉みには言わずと知れた素晴らしい効果があります。
私と長くお付き合いしている温浴施設の人なら浴槽仕切りや塩揉みの導入をしつこく勧められた覚えがあると思います。
導入すれば必ず「お客様が喜んでます。やって良かった!」という報告を聞くことができます。
温浴に携わっていれば一度や二度は天山に視察に行ったことがあると思うのですが、どうしてこれらをやってみようする施設がもっと増えないのかと、不思議です。
◆記帳な体験
先日、宮古島に行った際に、島内に2つある温浴施設のうちのひとつ「シギラ黄金温泉」に立ち寄りました。
なかなかお洒落なデザインの施設でプールやフィットネスジムなどもあり、それなりに楽しめるのですが、フロントで入館時に氏名住所電話番号を記帳させるという、日帰り施設にはあまり見られないオペレーションになっていました。
ホテルやペンションが立ち並ぶリゾートエリアの一角にあり、それらの宿泊施設と共通のオペレーションにしているということなのかも知れません。
フロントにレジが2台しかないため、ちょっと入退館者が重なるとすぐ行列になってしまう仕組みで、その上記帳に時間がかかるので、入館時も退館時も待たされることになりましたが、いろいろなことを考えさせられる体験でした。
フロントの処理スピードが落ちますが、フロント担当の人数やレジ台数を増やすとコストになるでしょう。
宿泊者名簿を持たなければならないのは旅館業法の定めですが、日帰りの温浴施設にはそう言った法的義務はありません。きっと中には記帳を拒否するお客様もいるでしょうから、そういう時どうするのかな、とか。
住所氏名を明かせないような事情がある人には利用しづらくなるので客層は良くなるのかな、とか。
記帳したカードは特に活用されることもなくしばらく保管して捨てられるのかな、個人情報流出トラブルのリスクがあるな、とか。
連絡先を教えるということは、浴室で倒れて救急車で運ばれた時は家族に連絡してくれたり、忘れ物があれば知らせてもらえるという安心感があるな、とか。
そして最も大きいことだと思ったのは、個人を特定した接客が可能になるということです。
一般的に温浴施設では「お客様」と一律に呼んで不特定多数向けの接客になっています。
POSシステムを入れてキーバンド清算にしても「ロッカー番号○番のお客様」となります。POSに会員制度が連動していれば個人名の特定は技術的に可能ですが、今のところそれを積極的に実現しているシステムはないようです。
サービス業として、「お客様」→「ロッカー番号○番のお客様」→「望月様」いずれの呼び方をするのかには大きな隔たりがあります。
このことも、日帰り温浴施設がサービス業としての生産性を高められなくなっている理由のひとつになっていると思うのです。
その昔、青山にある話題の高級レストラン「CASITA」に妻へのゴマスリと繁盛店視察を兼ねて行ったことがあります。
http://www.casita.jp/
予約して行ったら、入店から退店までずっと「望月様」を連呼され、ちょっと気恥ずかしくなったのを覚えています。
「今だけ」「ココだけ」「あなただけ」と限定感を訴求することは物事の価値を高めることにつながりますが、「あなただけ」のサービスをするためにはお客様個人の特定が欠かせないのです。
会員制度、予約、記帳。お客様個人を特定する手段がないわけではないのですから、あとはその活用方法を見出だせれば、新たな展開が広がってくる可能性があると思っています。
異業種に学ぶ
◆面白販促事例
事務所の近くでそれなりに繁盛しているラーメン店「紫龍」で、ちょっと面白いPOPを見つけました。
『土日祝日限定 捨てないで!! ハズレ馬券で半替え玉もしくはお好きな具材 一つプレゼント!』
店の立地は平日のビジネス客は激減しますが、近くにはJRAのウインズ場外馬券場があるため休日は競馬ファンが多く集まってくる場所なのです。
漫然と割引をするのは自らの価値を下げてしまいがちですが、このように狙いがハッキリしてる販促は、記憶に残りやすく話題性もあって非常に効果的だと思います。
温浴業界でも選挙の際に投票証明書を持参すると入浴割引、といったイベントがありましたが、証明書を発行してもらうのが面倒だったり、一過性で終わってしまうことを考えると、このハズレ馬券販促は秀逸です。
思わず私もここで紹介しているくらいですから、口コミのパワーもかなり期待できそうです。
温浴業界だけを見ていると小さな業界ですが、他の業界にも目を向けると学ぶべきことがたくさんあります。
◆消費の二極化
数年前に、自宅最寄り駅前に「テラスモール湘南」という大型ショッピングセンターができました。
今でも強烈な集客力で、休日には周辺の道路が慢性的に大渋滞しています。
名前の通り、テラスゾーンが多くあり、そこには美しい植栽とテーブル椅子やベンチがたくさん配置されています。
館内にも椅子やソファが多く、中には休憩だけではなくパソコンを開いて仕事をしている人も見かけます。
吹き抜けや高い天井、広い通路、曲線を多用したデザインなど、かなり贅沢で快適な空間になっています。
このショッピングセンター、実は私が今から25年くらい前に学んだ流通業の大型店舗企画のセオリーとは、真逆の店作りになっています。
昔は「売場有効率」と言って、バックヤードや通路など売場にならないスペースはできるだけ少なくして、いかに稼ぐ面積、つまり売場や賃貸可能な面積を確保するかが最重要でした。その意味ではテラスモール湘南は大変非効率な店舗なのですが、現実には大繁盛店となっています。
今はモノ余りの時代と言われます。消費体験という意味では大概の事を経験済みの人が増え、また商品自体を手に入れるのは通販でも事足りるようになってきています。
ショッピングはモノを買うことよりも、買い物するコトが目的にと変わってきたのです。それに対応した店作りをすることで集客力を高め、滞留時間を伸ばすことが結果として売上につながるようになったのです。
この業態に辿り着くまでに、大型店は閉店や業態転換を繰り返し、大手流通業界は勢力図がすっかり塗り替わってしまいました。
一方、コンビニエンスストアやドラッグストア、食料品店などは「近くて便利」であることがその最大の存在意義なので、時間をかけて遠くまで移動しなくても目的の商品が手に入るように、店作りは昔以上に効率を追求しています。
これが消費の二極化です。
最寄り購買と、買い回り(目的)購買とに二極化し、中間系は存在するのが難しい時代となったのです。
このような二極化現象は流通業に限ったことではなく、少し遅れて温浴業界にも必ず起きると考えています。
どっちつかずの中間系で大型化競争をするのは、かつての大手流通企業の二の舞になってしまう可能性があるということを、設備を伴う温浴施設は業態転換が難しい分、よく考えなくてはなりません。
◆ご当地グルメ
昼休みに事務所近くの日比谷公園でやっている「地元めしフェス クォーゼイin日比谷」に来ました。
http://kuohzei.jp/
全国各地のご当地グルメ+地ビールの祭典です。
4日間で30万人といわれるすごい集客力で、昼休み時間を外しているにも関わらず大変な人出になっています。
こういう飲食のあり方は温浴施設としても大いに参考になると思います。
総合的にメニューを揃えたレストランでなくとも、単品でも美味しさと楽しさがあれば、その方が温浴施設の利用動機と合っていると思うのです。
入浴するだけなら自宅の風呂があるのと同じで、空腹を満たすだけなら他にいくらでも選択肢があるのですから。
よく飲食部門の会議で「名物メニューを作りたい」といった議論になることがありますが、名物メニュー+その他メニューで総合的に対応するという考え方ではなく、全てが勝負メニューというところがこの「クォーゼイin日比谷」の魅力であり人気の理由ではないかと思います。
◆新築ホテルと民泊
最近、弊社事務所の周りでは、新しいビルを工事しているなと思ったらホテルだった、ということが多くなっています。
急増する訪日外国人数を背景に、各地の宿泊施設の稼働率も大きく伸びています。
しかし、そういった新築ホテルを見ていると不安も頭をよぎります。「オリンピックが終わったらどうなるんだろう?」と。
ホテルは温浴施設同様に息の長い商売です。ネガティブな言い方をすれば投資回収が遅いビジネス。
わずか数年スパンのマーケットの動きに踊らされ過ぎると、後で痛い目に遭うのは目に見えています。好調なら短期間で投資回収できるビジネスと同じ感覚で舵取りすることはできません。
一方で話題の民泊。草分け的存在のAirbnb(エアービーアンドビー)や、それを猛追する中国の自在客(ツーザイクゥ)などのサイトが、急増する宿泊マーケットを後押ししています。
元々住宅だった一軒家やマンションを使った宿泊サービスですから、マーケットの風向きが変わったところで、売却なり転用なり次の手を打つことは可能です。
住宅は不動産としては供給過剰でしたから物件はいくらでもあるでしょう。
法整備が追いつかず、トラブルや事故のリスクも指摘されるところですが、投資家にとっては急増するマーケットのパワーの前には些細なことでしかないようです。
急伸する新築ホテルと民泊。どちらに軍配があがるのでしょうか。
民泊の方が合理的で柔軟性があり、時流に乗っていることも明らかですが、かつて岩盤浴ブーム(専門店)が一気にしぼんでしまったこともあるように、世の中何が起きるか分かりません。
万事塞翁が馬だとすれば、自分の信じる道を悔いなく進むしかないということなのでしょうか。
◆名物単品
いろいろな飲食店に行って思うのですが、店を選ぶ理由のうち「美味しいものが食べられる」ということは当然重要な要素です。
接客や居心地、価格設定なども大切ですが、肝心のメニューに光るものがなければ、飲食店としての魅力は弱いものとなってしまうでしょう。
そして、美味しいものが食べられるということは、何も全てのメニューがハイレベルでなければならないということではなく、たった一品でもいいのです。
会社から徒歩圏の新富町によく行くラーメン屋さん『麺処 帯笑』があります。
http://tabelog.com/tokyo/A1313/A131301/13093154/
この店の最大の魅力は、実は「ラー油」です。
自家製のラー油をかけると、普通の豆腐やもやし炒めがたちまち美味しい料理に早変わりします。お持ち帰り用に瓶詰のラー油も販売していますが、人気のためすぐに在庫切れになってしまいます。
他のメニューも充分に美味しいのですが、ラーメンでも餃子でもなく、ラー油ひとつで店の存在価値が大きく変わってしまうのです。
そう考えると、温浴施設でも「まず何かひとつを飛びっきりの価値に磨き上げる」ということが効果的なのではないかと思い至ります。
飲食のメニューにしても、飲食業のプロでもないのにあれこれやろうとする前に、提供しているものの中から何かひとつ徹底的にこだわってみる。ラー油がそうであるように、どこにでもあるようなありきたりのものであるほどかえってその魅力が際立つということもあるでしょう。
浴室においても、何かひとつ。例えばしばしば話題にのぼるサウナしきじはとびっきりの水風呂です。
ひとつだけこだわれば他の部分はどうでも良いということではありませんが、中途半端な魅力をいろいろ持っているだけではお客様の印象にも残りませんし、無くてはならないというほどの存在にはなれません。
飛びっきりの魅力をひとつ持った上で、全体的なレベルアップに努力していくという手順で考えた方が、良い結果につながるようです。
◆オープンソース
弊社の米澤専務はIT業界出身なのですが、IT業界には「オープンソース」という考え方があることを教えてもらいました。
オープンソースとは、簡単に言うと「コンピュータプログラミングのソースコードを広く一般に公開し、だれでも自由に扱って良いとする考え方。またそのような考え方に基づいて公開されたソフトウェアのこと」です。
ITの世界が日進月歩で飛躍的な進歩を遂げている理由のひとつはこの考え方にあると思います。
知的財産を公開し、共有することでさらに業界全体の進化のスピードが速まる。これは素晴らしいことだと思います。
この考え方を温浴業界にも取り入れることはできないだろうか?と考えています。
特に温浴施設の開業に関わるノウハウは極めてクローズドになっており、はじめて温浴事業に取り組もうとすると分からないことだらけです。温浴施設の開発には、素人がちょっと勉強したくらいでは到底追いつかないくらい幅広く専門的な知識が必要なのです。
運良く経験豊富なコンサルタントや設計会社と出会えれば、それなりのセオリーに基づいた施設をつくることができますが、コンサルも設計も施工も経験不足だったりすると、かなり高い確率で悲惨な失敗をすることになります。
私自身も含めコンサルタントや設計会社にとってノウハウは商売のネタですから、一般公開することにはためらいもあります。
しかし、そうやって一部のコンサルタントや設計会社がノウハウを秘匿するから業界の進歩が遅れてしまうのだと思うのです。
仮に一部のコンサルタントや設計会社が仕事を独占すれば、日本中が同じような発想に基づいた温浴施設ばかりとなり、つまらないし何の進歩もありません。
癒し、健康、美容、レジャー、時間消費…あらゆるマーケットは競合関係にあり、温浴マーケットだけが市場規模を約束されているわけではありません。グズグズしていると、他の業界にどんどん持って行かれてしまい、気がついたら温浴マーケットが縮小という憂き目にあわないためにも、温浴業界の進化スピードを早めなければならない。
そのためにはオープンソースだ!ということ行きつくと思うのです。
このメルマガは、今のところどちらかというと現在温浴施設を運営している読者様が多いので、運営に関する情報を中心に書いておりましたが、今後は開業やハードに関する情報も意識して書くようにしたいと思います。そして、記事のストックが充実してきたら何らかの形で業界全体で共有化できるようにしていきたいと思っています。
◆人の噂も
弊社が入居するビルの隣に、チョウシ屋というコロッケパンやハムカツサンドを売る店があります。
創業昭和2年。昔懐かしい感じの店で、売っている商品も素朴に美味しいので、時折昼食用に購入していました。
この店が先月TV番組で紹介されたところ、ビルの前は連日何事かと思うような大行列になりました。
毎日午前中から行列になり、売り切れになるまで続くので、店の人たちも疲れてしまったのでしょうか、急きょ定休日を追加したりして凌いでいたようです。
ところが、昨日くらいから「あれっ?」と思うほど急に行列が短くなりました。
以前からそれなりに繁盛していて、しかも注文してから揚げ物を揚げるので少し並んで待つ店だったのですが、ほぼ普通の状態に戻ったようです。
元々長時間並んで待つほど特別な商品でもないので、ブームは一時的なものと思って眺めていましたが、見事に1ヶ月ちょっとで終息しました。
これまで、関係する温浴施設がTVに取り上げられたことは何度となくありましたが、だいたい1~2ヶ月くらいでTV効果は落ち着くようです。
人の噂も75日と言いますが、情報が溢れる現代社会ではその半分くらいで消費されてしまうということなのでしょうか。
マスコミ取材、特にTVは宣伝費をかけなくても強烈に集客してくれますので、店としては大変ありがたく、臨時ボーナスを貰ったような感じになりますが、問題は嵐が去った後です。
普段利用してくれていた常連客の足が遠退いてしまっている恐れがありますし、忙し過ぎて仕事が荒れていたり、スタッフが疲弊している可能性もあります。
私自身も顧問先でプレスリリースの配信をアドバイスすることがありますし、プレスリリースによるパブリシティ活用のセミナーが開催されたりするほどマスコミの影響力は大きなものがありますが、あまり強い薬に頼り過ぎるのは考えものです。
実力に対して認知度が極端に低い時は有効ですが、マスコミによる一時的な大量集客は反動にも気をつける必要があります。
◆クイックオペレーション
今から8年前、2008年に書いたブログでは「券売機からフロントサービスへ」ということを主張していました。
http://blog.aqutpas.com/2008/11/post-0f8f.html
それは設備を売る装置産業から接客サービス業への転換ということでもあり、今でも基本的にはそう思っていますが、現実には業態としてのバランスや、そこまでやり切れるのかという問題もあり、そんなに単純なことでもありません。
しかし先日良い情報をもらいました。あるコンビニエンスストアチェーンのFCオーナーさんと会話していた時に、「クイックオペレーション」という概念を教えてもらったのです。
コンビニのレジは1〜数台しかありませんので、ちょっとお客様が集中するとすぐに行列になります。繁盛店では店内に長い行列ができてしまうこともよくあります。
そんな時はレジ業務をできるだけ簡略化し、スピード重視に切り替えます。これをクイックオペレーションと呼び、通常の精算オペレーションと使い分けているそうです。
実は温浴施設でも同様の問題はあって、入館や退館が集中する日や時間帯には通常の受付精算業務以外のことまですべてやり切るのは至難の業です。
本来は新規客かどうかなどの入館者の見分け、会員制度の説明、館内サービスの説明などやりたいことがたくさんあるのですが、そんなに時間をかけていたら後ろに並んだお客様が怒り出してしまいます。
優秀なベテランスタッフなら自然に仕事の優先順位を判断して、本来のオペレーションからスピード重視まで無段階で上手に使い分けられるかも知れませんが、不慣れなスタッフはなかなかそうも行きません。
そんな時に、あらかじめ標準オペレーション、クイックオペレーションというように2〜3段階のやり方を決めておき、それを教えてしまえばミスも減り合理的です。
些細なことですが、他業種の人と話すといろいろな気づきをもらえることが多いです。
◆本物の味噌はどこへ
味噌の消費量がこの40年で半分以下に減少し、市場縮小に伴ってなじみのCMもいつの間にか放映されなくなっているとのニュース。
http://www.asahi.com/articles/ASJ7H4G9QJ7HULFA00W.html
この現象を日本人の食生活の変化、つまり外食や洋食の比率が高まったことが原因と説明することはできるでしょう。しかし、私は本当の理由はそうではないと思っています。
以前マクロビオティックの料理教室に通った時に教わったことなのですが、味噌は発酵食品の代表格のような存在と思われていますが、現在市販されている味噌の大部分は発酵食品とは言えないんだそうです。
本来の味噌づくりは、大豆を煮て、麹と塩を混ぜて一年以上寝かせてじっくり発酵させて出来上がります。
ところが現在流通している味噌は、温醸法とよばれる方法で3ヶ月程度人工的に発酵させ、そこで発酵を止めるためにアルコールを入れ、さらに味や保存性を高めるために添加物を入れ、長期間風味が変わらないように熱処理をするといった代物で、出来上がったものには酵母や酵素のチカラが残っていません。
目の前で実験を見せてもらったのですが、酵母が生きている味噌とご飯を混ぜて数時間放置すると、酵母の働きで米がドロドロに溶けたようになります。ところが有名メーカーの味噌と混ぜたご飯は数時間後にカチカチに固まってしまうのです。
メーカーがそのような味噌を作るようになった理由は単純です。製造に要する時間を短くし保存性を高めた商品の方が価格を抑えることができるし、賞味期限も長くなる。その方が競争上は断然有利だからです。
ところが、そのような商品ばかりが横行し、本当に美味しくて身体に良い味噌が市場から駆逐された結果、いつしか味噌の消費量そのものが減少してしまったのです。
一般的に経営判断とは市場原理に基づいて行われることが多いと思います。確かに短期的な勝ち負けは市場原理で決まってしまうことが多いのですが、長期的に見てそれが本当に正しいのかどうかは分かりません。
業界全体が価格や見栄えの競争に気をとられて本当に大切なものを見失っていると、結局は消費者に見放され市場全体の縮小という寂しい結果が待ち受けているのかも知れないのです。
◆危機感と変化
本業でしっかり集客でき、利益も出ているのに、あえて他業種のオペレーションを抱え込んでも煩雑になる。
物販は品揃え、売場づくり、店頭販促、商品知識、在庫リスク、廃棄ロス…いろいろ面倒なので仕入れするより委託に限る。
このような考え方が以前は常識でした。しかし、風向きが変わって本業の売上、利益率が低下する中、委託ではなく利益率の高い仕入れ方式に切り替え、在庫リスクと真剣に向き合うなかで販売力が磨かれ、今や店販品こそが大事な収益源です。
もはや限界まで薄利となった本業では消費税分すら稼げないので、本業はセルフ方式で極限まで省力化し、モノ売りではなくお客さまのライフスタイルのサポートやお悩みごとを解決することに全力を上げるようになったのです。
…これは温浴業界の話ではなく、ガソリンスタンド業界の話です。現在生き残っているスタンドはもはやガソリンをいくら売ってもリッター5円ほどの粗利しか残らないそうです。ビジネスとしては付帯収入なくして成立できないのです。
これから先もクルマ離れや高齢化によってガソリンスタンド業界にはさらに厳しい経営環境が待ち受けていることでしょう。
厳しいと分かっているからこそ、必死で変わろうとしているのです。
温浴業界では、そこまで危機感を持って変わろうとしている企業はまだ少数派です。
このままでは生き残れないとハッキリ気づいたところから、変化がはじまるのかも知れません。
◆ライフサイクルと広告宣伝
さまざまな業界にライフサイクル理論があてはまり、導入期から成長、成熟を経て安定(衰退)期へと移行していきます。
これは消費者の認知の拡大と成熟度に伴って起きる現象ですので、逆らうことのできない流れであり、どの業界でも生き残るためにライフサイクルに合わせてやり方を変えていきます。
広告宣伝手法で言えば、導入期には「イメージ訴求」から入ります。何となく良さげで素敵なイメージが伝われば消費者が動いてくれます。
温浴業界の場合は露天風呂で女性が入浴している後ろ姿の写真。昔はそれで充分に成果を上げることができたのです。
成長期にはお風呂の種類や大きさを競って訴求していました。これを「アイテム訴求」と言います。
そして成熟期、安定期には安さやお値打ち感を打ち出す「価格訴求」、企業のポリシーや人間性を打ち出す「メッセージ訴求性」へと変遷していきます。
では完全に成熟しきった業界はどうなるのでしょう。
成熟業界、例えば寝具業界ではいまターゲットをピンポイントに絞り込んで、価格ではなく価値を訴えています。
不眠に悩む人に対して快眠がもたらす効果で感情を揺さぶり、快眠を促進する技術を伝えることで需要を喚起するのです。
不眠対策だけでは市場がせまくなるので、身体を温める効果、防ダニ、夏のひんやり、肩こり腰痛対策など、まさに手を変え品を変えという感じです。
こう書いてみると、寝具業界と温浴業界の類似性に気づきます。身体を温めたり冷やしたり、不眠や肩こり腰痛対策などはほとんど同じような需要を相手にしているわけで、ある意味競合業界とも言えるでしょう。
競合相手がマーケットを絞って鋭く斬り込んできている時に、のんびり露天風呂の写真でイメージ訴求している場合ではないのです。
◆超繁盛店のノウハウ
今日、鵠沼海岸駅(神奈川県藤沢市)の近くにある埜庵というかき氷屋さんに行ってきました。
http://kohori-noan.com/
冬でも行列ができる有名なかき氷屋さんですが、実は真夏に利用するのは初めての体験でした。
あまりにも人気すぎるので、真夏の炎天下に長い行列を見ると、とても並ぶ気にならなかったのです。
ところが今日開店前に店の前に行ってみるといつもと様子が違います。行列がないのです。
店の人が整理券らしきものを配っていたので名前と人数を告げて受け取ってみると、「お客様のご案内時間は11時45分です。12時までにお戻りください」と書いてあります。
普通は整理券と言えば通し番号が振ってあり、いつ頃自分の順番が回ってくるか客側には予測がつかないので、結局店前を離れることができないのですが、この整理券には番号がなく、時間が書いてあるのです。
案内予定の時間は約一時間後でしたが、その間は他のことをして待つことができます。
全員が並んで待たなければならないシステムの店も多いですが、この方式だと代表でひとりが先に整理券を受けとれば良いというのもありがたいことです。
お客様を並ばせて席が空いた順番に入れていくのは店にとっては最大効率になりますが、炎天下にお客様を長時間並ばせることや店前に長い行列をつくることでの近所迷惑といった問題があります。
整理券を受け取っても結局来ないお客さんがいたり、思いのほか回転が良くて空席時間ができてしまったりすることもあるかも知れませんが、目先の最大効率よりもお客様やご近所に配慮したこの仕組みは素晴らしいと思いました。
行列で話題になった店が意外とその人気を長続きさせることができないのは、このあたりのことが影響しているのかも知れません。
温浴施設でもお盆休みや正月三が日などに入館制限をしたり整理券を配ることがあります。
そんな時にこの時間指定方式の整理券を使えば、せっかく来てくれたお客様が行列にうんざりして足が遠のくということを防げるかも知れません。
◆温浴施設のライバル
東京の上野・御徒町エリアに、以前から注目しているカプセルホテルとネットカフェの複合業態「おもてなしのお宿」があります。
最初にその存在に気付いたのはikiサウナを導入していたからだったのですが、試しに利用してみてそのきめ細かいサービスと満足度の高さにかなり驚かされました。
http://capsule-net.tokyo/shop_ueno/service.html
HDMIケーブルとか、電気毛布の無料貸出サービスなんて、温浴施設ではまだ見たことがありません。
浴場業である以上、温浴施設は浴室を中心にすえて物事を考えがちですが、その固定観念が取り払われるとここまで柔軟な発想が生まれるのかと感心します。
消費者は「ここは何の業種がメインなのか」なんて気にしていません。機会があったらぜひ視察してみて欲しい施設のひとつです。
◆値引きと存在意義
知り合いにネイルサロンを複数店舗経営しつつ、ネイルサロン業界の発展のために国際的に活躍しているパワフルな方がいらっしゃいます。
たまたま娘の同級生のお母さんだったので知り合ったのですが、その方がFacebookにネイルサロン業界の値崩れ傾向と存在意義を危惧する投稿をされているのを読み、考えさせられました。
結びの一文を引用しますと、
『低価格競争をするのではなく、ネイリストは、今!まさにネイルサロンに足を運んでくださるひとりひとりのお客様に感謝をし、通う楽しさを教えていかなければなりません。それができないと、元からネイルという文化が根付いていない日本ではこのビジネスは終わると思います。』
…ということなのですが、最後の『元からネイルという文化が根付いていない日本』という危機感は、私が温浴ビジネスを考えるときにいつも拠り所にしている感覚の真逆です。
温浴(風呂文化)は、古くから日本人の生活と密接に結びつき、昨日や今日登場したビジネスとは違う。風向きはいろいろ変わっても決してなくなりはしない商売だ、と言ってきましたし、今もそう思っています。
しかし、そこに甘えや油断があるから温浴業界は危機感がいまひとつ高まらないのかも知れません。
ネガティブな言い方をすれば、雑な値引き販促、乱暴な設備投資、上から目線のPOP、低賃金で人材を使い捨て…それでも成り立っちゃってるのが今の温浴ビジネスです。
美と健康、癒し、リフレッシュ、憩い、時間消費…似たような価値を提供しているビジネスは温浴施設の他にもたくさんあります。
日本人に根付いた風呂文化に甘えてあんまりのんびりしていると、どんどん他の業界にマーケットを削り取られてしまうのではと危機感を募らせています。
◆予約という概念
美容室、マッサージ、飲食店、宿泊施設…多くのサービス業種には「予約」という仕組みがあります。それがあるかないかは、事前にある程度計画して利用するのか、衝動的に利用するのかの違いによるようです。
同じ飲食店でもファーストフードやコーヒーショップは予約できません。ゲームセンターや低料金の整髪、パチンコ、温浴施設も非予約制です。計画的か衝動的かということと同時に、不特定多数を対象としているのかパーソナルサービスなのかということも関係しているのかも知れません。
ところで、温浴施設に予約という概念は本当に馴染まないのでしょうか?
「計画的か衝動的か、不特定多数かパーソナルか」というマトリックスで言うと、温浴施設はいずれも中間的なポジションだと思います。ということは予約システムがあっても不思議ではないと思うのです。
事実、高級スパなどでは予約制が採用されています。高級スパの情報を集めた予約サイトがあります。
http://www.ozmall.co.jp/spa/
店にとって予約制を採用するかしないかは大きな分かれ道です。
飲食店を見ていると分かりますが、予約客のために席を確保しておくことは最大効率の客席回転を諦めるということにもつながります。
それでも予約制を採用するメリットがたくさんあるから、予約制の店が存在しているのです。
・未来の売上を確保することができる
・お客様に待ち時間の負担を与えない
・お客様の来店日時をある程度コントロールできる
・お客様の情報を事前に確認した上で対応できる
・来店客数がある程度予測できるのでシフトを組みやすい
・予約制を採用していることで店としての格が上がる
…温浴業界も、積極的に予約制をアピールする施設が増えてくると、サービスの質や業界の格が上がるのではないかと思うのです。
最近はクラウドでネット予約システムを提供するサービスも出てきていますので、要注目です。
◆優先席
電車に乗っていてふと思ったのですが、いま電車やバスの優先席(Priority Seat)は全体の1~2割くらいの比率でしょうか。
今後超高齢化社会になってくると、この比率は半分、あるいはそれ以上に上がってくるのかも知れません。
ところで、温浴施設でも優先席という考え方はあっても良いのではないでしょうか。
特に浴室の洗い場。身体が不自由な人のために配慮したつくりには特になっていません。
たまに介護用風呂椅子を設置している施設を見かけますが、それ以上の配慮は特にないようです。
もし洗い場を優先席化するなら、例えば、
・優先席(Priority Seat)の分かりやすい表示
・洗い場ブースの両サイドには手すりを設置
・シャワーフックは複数箇所に設置
・椅子は大型で安定感のあるもの
・足元はしっかり滑り止め対策
・シャワーの節水タイマーはつけずにストップボタン式のシャワーヘッド
・緊急呼び出しベル設置
…といったことが考えられます。既存の洗い場ブースに少し手を加えればすぐにできることです。
もしできることなら面台や鏡とカランの位置、ブースの幅など設計段階から配慮できればベストですが。
これからの高齢化に向けて、健康増進やアンチエイジングといった積極的なスタンスと、バリアフリーなど身体が不自由な人にも優しいというスタンス、両方ともますます重要になってくるでしょう。
◆シダックス大量閉店
昨日『シダックスが8月末に全国で44店舗を一斉に閉店』というニュースが流れました。
http://toyokeizai.net/articles/-/133591?display=b
シダックスといえばカラオケ業界第2位の雄、閉鎖店舗には渋谷の本店も含まれるというからただ事ではありません。
記事を読み進むと、どうやらこれまでもかなり苦戦してリストラを進めていた様子です。
記事には『どんぶり勘定で暇な時間にもアルバイトが大勢いた』といった指摘もありますが、そんな理由で一斉閉店はしないでしょう。
シフト管理の問題だけなら、閉店する前に管理手法を変えるくらいの経営努力はできるはずです。
残った店舗もインバウンド対応とランチ需要などとパッとしない対策しか打てないとしたら、大幅な収益改善は期待できそうにありません。
これは、マーケットが大きく変化してしまったからだと思いました。
シダックスは大型店が多いだけに、方向転換も難しかったのでしょう。
郊外型カラオケ店は温浴施設同様に飲酒運転の規制強化のダメージを受けたはずです。
若い頃は飲み会のあとはカラオケというコースがお決まりでしたが、最近はお酒の飲み方が変わり、2軒目、3軒目とはしごするような飲み方は少ないようです。宅飲み(自宅で)とか吉飲み(吉野家で)なんていう新語も登場しています。
レジャーや時間消費という観点でもマン喫やスマホゲームなど多様化する一方です。
一世を風靡した郊外の大型カラオケ店が時代の変化に対応できずに閉店していく様は、いくら大きくて強くても環境変化についていけずに滅んでしまった恐竜のようにも感じます。
競争に勝つことは、生き残りの必須条件ではありません。
環境変化に耐え、進化する者が生き残るのです。
カラオケ業界の一大ニュース、他人事ではないと感じます。
◆ぬる燗佐藤が面白い
先日、帰宅途中の東海道線が人身事故のため品川駅で足止めになり、仕方ないので電車を降りて品川駅構内をウロウロしました。
以前は五反田に勤務していたこともあって、品川駅は詳しいつもりだったのですが、よく考えると久しぶりでした。
駅ナカのエキュートという商業施設を見たのですが、知らないテナントが何軒も入っていました。
その中でも衝撃を受けたのが「ぬる燗佐藤」です。
日本酒中心の居酒屋なのですが、全国各地の地酒が180種類以上という品揃え。半合500円という価格設定もいろいろ試せて魅力的なのですが、何よりも驚いたのは「冷やから熱燗まで11段階の温度設定から好みの温度を選べる」というところです。
http://www.tokyo-rf.com/restaurants/m15/
自分としては冷やと熱燗という2段階の温度しか頭になかったので、ビックリするとともに、いろんな温度を試してみたら面白そうだな、というイメージが浮かびました。
11段階の温度にこだわる日本酒マニアがどれだけいるのかという問題ではなく、このような常軌を逸したこだわり自体がエンターテイメントになるということなのでしょう。
これを浴槽やサウナ、水風呂の温度でやったらどうなるのか?などと妄想が膨らみます。
以前ドイツのミュンヘンで見たTherme Erdingにはサウナが27種類ありました。技術的な問題や費用対効果はさておき、ぬる燗佐藤の温浴施設版という考え方も決して荒唐無稽な話ではないのです。
◆行列するバナナジュース
以前会社のビルの隣にあるトンカツ屋さんの行列について書きましたが、今日も会社の近くで見慣れない行列を見つけました。行列の先にあったのは小さなバナナジュース屋さんです。
思わず並んでいる人に「これ、どうしてみんな並んでるんですか?」と聞いてみました。すると「バナナジュースが安くて美味しいから。あと、滅多に飲めないから。」というちょっと不思議な返事でした。
そこで、スマホで「東銀座 バナナジュース」とネット検索してみると、理由が分かりました。
ジュースに使うバナナが完熟していないとその日は開店しない。バナナを使い切ったらそこで閉店。だいたいいつも昼頃から15時くらいで終わってしまうようです。
滅多に飲めないという稀少性は結果論かもしれませんが、美味しいバナナジュースを作るための半端でないこだわりを感じます。それでいて一杯230円とお値段も手ごろ(最近値上がりして、以前は200円だったようです)。
バナナジュースといえば、ミキサーを入手したら誰でも一度は作ったことがある身近なメニューです。そんな身近なものだからこそ、こだわりの価値が光ります。例えば私はキャビアやフォアグラなどは滅多に食べたことがないので、それがいかに高品質なものであっても価値が分かりませんが、かき氷やバナナジュースなら普通に知っていますので、普通でないほど良いものならすぐに分かるということです。
ここで例によって温浴に置き換えていろいろ考えます。
温浴施設の風呂も多くの人が体験済みだからこそ、品質にこだわり抜けばその価値を分かってくれる人は増えているんだろうな、とか。
安価で身近なバナナジュースという商材でもこれだけの行列を作れるという事実。そしてこだわっていることが分かるからこそ、お客様は営業が不安定でも仕方ないと納得してくれる。かたや最近の温浴施設は長時間営業化するところが多いような。
もちろん、初期投資が小さくて変動比率が高いバナナジュース屋さんと初期投資が大きくて固定比率が高い温浴施設では事業構造が違いますから、同列に語ることはできませんが、主導権という意味では明らかにバナナジュース屋が握っており、温浴施設はお客様のニーズを汲み取ろうと必死になっています。
行列のできる風呂屋。いいお湯が出なくなったらその日は閉店する風呂屋。そんなことってできないものなのかと妄想を広げる私がいます。
◆タオルメーカーの倒産
今治タオルの老舗メーカーが民事再生法の適用を申請というニュース。
http://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20161006_01.html
平成4年には中国に生産拠点を構えていたということですから、時流の読みを根本的に間違えたということでもなさそうですが「高品質な今治タオル」というブランドが、かえって変化に適応するには足かせになってしまったのかも知れません。
タオルは消耗品ですから、急に需要がなくなったりはしません。売上が急激に落ちればドラスティックな対応もせざるを得ないわけですが、それなりにコンスタントな売上があるので、現状維持と守りで対処しがちになります。そうして打ち手が後手に回っているうちに気がつけばにっちもさっちも行かないところまで追い込まれてしまう…そんなケースでしょうか。
温浴施設も日常的にリピートしてくれるお客様が多く、日銭が入ってくるので「このままやっていてなんとかなるのか、それとも犠牲を払ってでも大きく変わらなければならない時なのか」の決断が鈍りがちな業種なのかも知れません。
苦境に立たされている温浴施設の状況を見ると、「あの決断が間違っていたから苦しくなった」ということではなく、ほとんどが「決断をしなかったから苦しくなった」というケースです。
もっと早めに競合対策の準備をしていれば…こんなにお客さんが減る前にリニューアルしていれば…。後悔しても時間は戻せません。
経営とは運営だけではありません。時には立ち止まって5年先、10年先を考える。常にアンテナを張って情報を集め判断材料や選択肢を増やす。そうやって決断すべき時には決断しなければ、変化して行く経営環境のなかで生き残ることはできないのです。
銭湯も含めれば今日も日本のどこかで、1日1件以上のペースで温浴施設が廃業しています。
たくさんの選択肢の中から打ち手を決断することができるのは、企業体力があるうちです。
◆進化型カプセル続々
以前上野と御徒町の間にある「おもてなしのお宿」という、ネットカフェとカプセルホテルが融合したような施設をご紹介しました。
サウナに先進的なikiストーブが使われロウリュまでやるので、温浴業界もうかうかしてはいられませんという意味で取りあげたのですが、またまた進化型カプセルホテルが登場してきました。
ネットで見ただけでまだ実体験はしていないのですが、「安心のお宿プレミア荻窪店」。(リンク先をぜひご一読ください)
異業種からいいところ取りをして全体の付加価値を高めつつ、本業のカプセルホテルの単価と稼働率を引き上げるその手法は同じです。
スーパーホテルがコストを極限まで削ぎ落として価格を引き下げ稼働率を上げているのとは対照的ですが、「眠るために必要なスペースは2m×1mのカプセルで十分」と割り切り、あとは備品や消耗品とサービスで価値をつけていくやり方の方がリスクを考えると賢いのかも知れません。
先日記事に書いた、行列するバナナジュース屋は数坪の小さな店ですが、バナナジュースは230円~でした。
一方で何億円もの投資をして、大きな建物と大掛かりな設備を構えた温浴施設にどうして客単価千円以下のところが多くあるのでしょう。客単価千円以下ではラーメン一杯と変わりません。
昨夜食べたラーメンはちょっとトッピングしたら千円を越えてしまいました。
経営構造が違うからと自分で書いていますが、やはり解せないのです。
安心のお宿プレミア荻窪店は一泊4,980円~とのこと。ちょっと古いカプセルホテルだと一泊2千円台が相場ですから、単純に+2千円以上の価値を備品・消耗品・サービスで作り出しているという計算になります。
そう考えると、温浴施設にできることもまだまだ無限にありそうです。
◆ユニクロ苦戦に思う
最近ユニクロの販売不振がしばしば話題になっています。値上げが良くなかったとか、飽きられたとか、いろいろな見方がされていますが、自分自身もそう言えば最近ユニクロで買い物してないなぁ、という自覚があります。
理由は「もう持っているから」です。下着や靴下は消耗品ですので定期的に買い替えますが、セーターなどはかなり昔に買ったものがまだ傷んでいないので、新たに買う必要がないのです。
流行に左右されるものだと、古いデザインは恥ずかしくて着られないことがありますが、単色の定番品だと流行はほとんど関係ありません。
私のタンスには20年前、30年前のあまり着ていない(まだ着られる)衣類がかなり入っております。
定番品は一度行き渡ってしまえば、よほどボロになるか大きく体型が変わるまで、もう買う必要がないのです。
だからファッション業界は必死に流行を作り出して需要を喚起する訳です。そこそこの品質と低価格を武器に流行と関係ない定番品を主力にしてきたユニクロは、戦略を大きく転換しなければいけない時期に差し掛かっているのかも知れません。
それに比べると温浴マーケットの場合は行き渡って終わりということがありません。
人が生きている限り、サッパリしたい、温まりたい、癒されたい、美しくなりたい、元気になりたいといった需要が永遠に発生し続けるのですから、ありがたい話です。
時には一過性の話題や低価格で集客することがあっても、やはり温浴の本質はリピートビジネスです。リピーターをしっかり維持できるだけの価値を持っているかどうかが大切なのです。
◆ささやかな工夫
顧問先のある駅の近くに、仕事帰りに時々寄る居酒屋「鳥貴族」があります。
メニューや価格設定で有名な鳥貴族ですが、店内の手洗いに爪用ブラシが2つ並べてぶら下がっていて、そこに「奇数日グリーン」「偶数日ピンク」とシールが貼ってあるのを見つけました。
連日同じブラシを使用しないことでしっかり乾燥させて雑菌の繁殖を防ぐための工夫と思われます。
工夫といっても些細なことで、それがどうした?と思うかもしれませんが、これを見た人の中には「こんなことにまで気を使って衛生管理に取り組んでいるんだ。きっと他のこともしっかりやっているに違いない。」と感じる人もいることでしょう。
これを本部がテクニックとしてアピールに利用するよう指導しているとは考えにくいので、たぶんこの店には真面目な店長がいるのでしょう。
これがもし手洗いボウルが汚れていたりハンドソープが空っぽになっていたら、真逆の印象を与えると思います。
アメニティの品質やセンスの良い家具選定といったことも大切ですが、 お客様はそういう細かいところも見ているのです。
「一事が万事」と言いますが、隅々まで気を抜くことはできませんね。
◆主力商品
先日、弊社のメンバーと仕事帰りに事務所近くにある高田屋という蕎麦居酒屋(チェーン店)に飲みに行きました。
この店は何度もリピートしているのですが、その理由のひとつにお目当てのメニューがあります。そのメニューとは大判かき揚げです。直径15cm、厚さ6cmくらいでサクサクのジャンボかき揚げは、初めて食べたときから忘れられなくなり、毎回行く度に注文していました。
ところが、先日行ったときにまた頼もうとしたら、「スミマセン、そのメニューはなくなりました…。」と言うのです。まさかあの人気メニューを廃止するなんてあり得ないだろうと思ってメニューを探したのですが、確かにありません。
一瞬「じゃあ、もう帰る!」と言いたいくらい残念な気持ちでした。実際、入店前にジャンボかき揚げが無いことがわかっていたら、他の店に行っていたかも知れません。
そのくらい、来店動機に直結している強い商品を、『主力商品』と呼びます。
主力商品は安易にメニュー改変の対象にしてはいけませんし、欠品も絶対に避けたい商品です。
今回は実力あるチェーン店である高田屋らしからぬメニュー変更でしたが、今後もジャンボかき揚げがどうなるのか、その動向をチェックしたいと思います。
ところで、温浴施設でも来店動機に結びついている主力商品が欠品してしまうことがあります。源泉のトラブルや、浴槽やサウナの設備故障などです。
洗い場のカランがひとつ調子が悪いといった問題とはレベルが違いますので、きちんとした対応をしないと、それこそ他の店に行ってしまう理由にもなりかねません。
・入館受付前にトラブル発生とお詫びを伝えること(HPやSNS、玄関前)
・問題が解消するまでの間、入館料割引などの措置を取ること
・復旧の見通しを知らせること
などです。
主力商品は、「故障中」の貼り紙ひとつで済ませるなんてことはできません。
主力商品を大切にして、その他の商品との扱いを区別することは、温浴施設も飲食店も小売店も皆に共通する基本なのですが、意外とできていないものです。
◆ブランドよりも近道
最近は駅ナカの商業施設がどんどん充実化してきていて、東京駅構内にも百貨店かと思うようなショッピングゾーンがあります。
そこでたまたま通りかかった中に気になる店がありました。
店名は「BIRTHDAY BAR」。なんと誕生日プレゼントをテーマに品揃えされた、25坪くらいのギフトショップなのです。
そこには必要性(ニーズ)はあまりないけど、欲しくなる(ウォンツ)商品がギッシリ並んでいます。
そして、4尺の棚3段を裏表2面使ってお風呂用品売場が作られており、入浴剤や石鹸、黄色いアヒルちゃんまで陳列され、たくさんのお客さんが群がっていました。
この光景にはショックを受けました。
以前から、美と健康をテーマにお風呂用品、スキンケア、ヘアケア、フィットネス、リラクゼーションなどの商品群を集めれば温浴施設でも立派な売場ができると考えていました。
しかし、ギフトという発想は正直なかったのです。
ギフト需要に対応するためには商品だけでなく、貰って嬉しい包装紙も大切です。それは素敵なラッピングという意味だけでなく、ショップブランドも含まれています。
しかし、○×の湯と印刷された包装紙がブランド力を持っている温浴施設はまだ全国に数えるほどしかありません。
だから、温浴施設にギフトは無理だろうと思っていたのです。
しかし、「BIRTHDAY BAR」はブランドで商売しているわけではないのです。
モノからコトへ、とよく言われますが、お風呂関連グッズではなく誕生日の贈り物として見たときに、安価な黄色いアヒルのおもちゃも入浴剤も素敵なプレゼントに生まれ変わらせることができる。そこに大きな可能性を感じます。
温浴施設では、「入浴剤を売ったら自宅の風呂に入ってしまうのでお客さんが来てくれなくなるかも…。」なんて後ろ向きなことを考えていますが、それはモノ売りの発想です。
コトを本気で追求すれば、来店目的になるくらいの強い魅力を作り出すことができるのです。それは、ブランドを構築するよりもずっと近道だと思います。
・BIRTHDAY BAR公式サイト
http://birthdaybar.jp/
◆冬のごほうび
JR東日本では東北の復興支援を目的に「行くぜ、東北。」キャンペーンを展開。この12月からは冬の東北の魅力を訴求する新たなキャンペーン「行くぜ、東北。SPECIAL冬のごほうび」をスタートしました。
http://ikuze-tohoku.jp/ikuze2016-gohoubi/
雪祭り、雪景色、イルミネーション、温泉、グルメ、お酒などを「ごほうび」と位置付け、これらの「ごほうび」を通じて冬の東北の魅力をお届けしようという企画なのですが、「冬のごほうび」って実にいい響きの言葉だと思います。
温浴施設の中には、上記のようなごほうび要素をいくつも持っているところが少なくないですし、地域のイベントや絶景ポイントなども組み合わせれば、立派なキャンペーン企画になると思います。
冬本番、そして冬休みに向けて、自店の冬の魅力を見直してみれば、東北地方でなくとも「冬のごほうび」はできそうですね。
運営現場的な話
◆常識の違い
昨日はちょっと大きな出来事で頭がいっぱいになっており、ハッと気がついた時にはもう夜の22時。そこから慌てて記事を書いて昨日の日付けで配信することはできたのですが、以前現場で体験したクレームが脳裏をよぎり、深夜の配信は見合わせました。
今回はそのことを書きます。
以前温浴施設の運営責任者をやっていた時、販促関係の仕事は私が一手に引き受けておりました。
そのひとつにメールマガジンの発行があったのですが、当時その施設のメルマガ会員は約2,500人になっていて、それなりに効果のある販促手段のひとつとなっていました。
イベントのご案内をはじめ、いろいろなテーマで記事を書いては配信していたのですが、ある日配信が深夜23時くらいになってしまったことがありました。
電話と違ってメールですから、読みたい時に読めば良いので配信は何時でも構わないだろうと思っていたのですが、実際はそうではありませんでした。配信した翌日に会員のお客様から「深夜の配信は非常識である」という主旨の苦情メールをいただきました。
私を含めて、友人とのコミュニケーションから仕事の連絡までメールやSNSなどの各種ツールを使いこなしている人たちは、頻繁に着信するメールやメッセージにいちいちその場で反応していたらきりがありませんので、着信音も消して、時間のある時に読むようになります。
しかし、世の中には滅多にメールを使わない人たちもいるのです。年配の方など、メルマガ会員登録ひとつにも苦労するくらいITや機械に疎いことだって決して珍しくありません。
そういう方たちにとっては、メールが着信すること自体があまりないので、着信音が出るようにして、着信するとすぐに読むのが普通だったりするのです。
子どもの頃、「人様の家に電話をするのは、朝は9時以降、夜は20時までにしなさい。」と教わった記憶があります。その時間帯以外の電話というのは一般的に緊急連絡であり、早朝や深夜に電話がかかってくると、何事が起きたのかと驚かせてしまい迷惑だということなのです。それと一緒のことが、メールにもまだあるのです。
例えば、ユニホームのズボンを腰履き(低い位置で履いて、下着が見えていたり裾がダブついている状態)にしている従業員がいたら、それは若い人にとっては普通のファッションセンスあっても、年配の人には非常にだらしなく見えるからきちんとズボンを上げなさい、と注意すると思います。
常識というのは世代や場所等によっても異なることが多々あります。服装、化粧、言葉遣い…接客業である以上、どのようなお客様に対しても不快感を感じさせないように気をつけなければなりません。
このメルマガを読んでおられる皆様はITに疎い世代ではないので、たぶん遅い時間のメールでも大丈夫なのかも知れませんが、その体験以来『メルマガの配信時間は夜20時くらいまでにしておかないといけない』という戒めが私の中に染みついており、昨夜は配信することができなかったのです。
でも日刊メルマガですから、今後は突然配信を休むようなことがないよう、いっそう気をつけたいと思います。
◆運営現場で思ったこと
「ママさんたちの雇用形態は本当にこのままでいいんだろうか?」…これは以前私が温浴施設の現場責任者をやっていた時に感じていた事です。
温浴施設には多くのスタッフが活躍しています。
一般的に温浴施設は午前中から夜遅くまで営業するので、特に昼間のシフトを埋めるためには主婦パートの存在が欠かせません。
温浴施設では、館内の巡回や清掃、レストランの厨房&ホール、フロントなどの部門に分けてスタッフを採用するのですが、実際には「誰にでもできる簡単なお仕事」ではなくて、イレギュラーなことも含めて日々様々な難題が発生します。
そんな時に、多彩でパワフルな力を持ったママさんたちに助けられたことが多々あるのです。
ちょっと思い出しただけでも、
・芸術的かつプロフェッショナルなPOPを制作できる人
・楽器演奏ができる人
・家が農業をやって野菜を安く持ってきてくれる人
・家が工場をやっていて、特殊工具を借りてきてくれる人
・実家が長野県で白樺の枝葉を大量に送ってもらえる人(※ヴィヒタ用)
・外国語が堪能な人
・オリジナルな飲食メニューを考案できる人
・スナックのママ並みに面白くて客あしらいがうまい人
・ロウリュトークが面白い人
…いろんな楽しくて頼もしいママさんたちがいました。
彼女たちの時給は決して高くありません。しかし、やっているのは柔軟で多彩な能力が求められる、非常に高度な仕事なのです。
もっと事業の収益性を高めない限り人件費を簡単にアップすることはできませんが、彼女たちの頑張りに甘えてばかりではなくて、もっと報いてあげられる事業にしなければ、という思いがいまだにあります。
◆素人とプロ
自転車の変速機のワイヤーが切れたので、新しいワイヤーを買ってきて自分で修理することにしました。
古いワイヤーを抜いて新しいのに取り替えるだけ、くらいに簡単に考えていましたが、実際にやってみると簡単ではありませんでした。
ワイヤーを逆さまから通すのが難しく、結局変速機を分解することになり、ラチェット機構の復元に手間取ったりして二時間くらい費やしてしまいました。
手順と要注意ポイントが分かっているプロならおそらく10分もかからない作業でしょう。
そう考えると例えばワイヤー交換の値段が2~3,000円であっても妥当な価格です。
自分でもやればできないことはなさそうだとしても、時間がかかり過ぎたり仕上がりがイマイチだったりすらなら、プロに頼んだ方が良かったということになります。
最短時間で最善の結果をコンスタントに出せるのがプロで、素人は不安定です。
以前、「設備に強いことで有名なかすかべ湯元温泉の清水支配人が『業者に頼むのは技術を盗むため』と語っていたのがとても印象に残っています。」ということを書きましたが、なんでもかんでも内製化するのが良いということではなく、きちんと費用対効果を判断して自分でやるか外注するかを上手に使い分けられることが大切ということでしょう。
◆後悔先に立たず
先日自宅の水道メーターの検針があったのですが、検診員の人から「今月はいつもの倍の使用量になっていますが、何かありましたか?」と聞かれました。
思い当たることがありました。トイレタンクのレバーの調子が悪く、流した後に戻らないでずっと水が溜まらず流れっぱなしになっていたことが何回かあったのです。
不調を放置せずにすぐに修理すれば良かったのですが今更後悔してもはじまりません。来月の水道代請求では泣く泣く倍の料金を支払うしかないのです。
家庭トイレの些細なトラブルでもこうですから、温浴設備の不調は時として深刻なダメージにつながります。
日常的なメーターチェック、わずかな違和感もそのままにせず原因を確認すること、軽微なことでも不具合があったらすぐに修理することが大切とあらためて思い知った次第です。
◆できるだけ実際にやってみる
顧問先には売上アップからコストダウンまで全方位で経営指導しますが、そのひとつとしてある施設で節水型シャワーヘッドへの交換を勧めたところ、「うちはすでに節水型シャワーに替えています」と言って何も動きがありません。
私の体感ではあまり良いシャワーヘッドとは思えなかったので、自宅で使っているシャワーヘッドを取りはずして持参し、現場で検証を行いました。
検証に使ったのは「三栄水栓 ミストストップシャワーヘッド」です。
やり方は簡単で、シャワーを10秒間出してバケツに水を溜め、その水量を比較するだけです。
結果は、現在使われている業務用シャワーヘッドの水量に対して、私が持参したものに交換すると3/4、つまり25%少ない水量でした。
シャワーの使用感はむしろ良くなっていて、ストップボタンやミストシャワーへの切り替え機能もついていますので、省エネと顧客満足度の両面から即交換した方がいいという結論に達しました。
この施設の場合、浄化槽なので下水道料金はかかっていないのですが、試算してみたら給湯だけで年間二千万円以上のガス代がかかっていましたので、シャワーを25%節水できたらおそらく年間400万円ほどコストダウンできる可能性があります。
以前に節水型シャワーヘッドに交換していたため、まさかさらに節水効果が出るとは思わなかったのでしょう。
通常は業務用製品の方が一般家庭用と比べて機能や耐久性に優れているものですが、分野によってはそうでない場合もあります。
何事も業者の言うことや机上のデータだけで判断せず、できるだけ実際にやってみることが大切だと、あらためて感じました。
◆ハローワークの活用法
弊社の超優秀なスタッフ、谷水さんがもうすぐ産休に入るため、代わりとなる人材を探しています。
今はハローワークから人材派遣まで多様な可能性を探っている段階ですが、以前温浴業界のご意見番である小野さんがブログに書いていた「ハローワークで求人を効率的にする方法(中小企業は求人媒体は無駄ですよね)」
を参考に、実際にハローワークまで足を運んできました。
事業主用の窓口での相談はそこそこに、まずは別フロアで真剣に職探し中の人たちに混じって求人の実態調査。
端末を使って希望する条件を入れて、合致する求人票を探すのですが、やっているうちに本当に自分が職探しをしているような気分になってきます。
小野さんが書いていた「ハローワークの求人シートの中で自由にメッセージを伝える事のできる個所は、1,仕事の内容 2,求人状況に関わる特記事項 3,備考欄 の三ヵ所、ここを重視して丁寧に書き込め」というコツはその通りでした。
何枚もの求人票を見る時に、どこで視線が止まるのか。あらかじめ用意された選択項目よりも、企業が自由に書けるメッセージが気になるのは当然のことで、それによって応募が増え、ミスマッチが減り、採用率がアップするわけです。
私も、いくつかコツらしきものを発見しました。
ひとつは職種欄。ここもある程度自由がきくところです。単に「営業事務」としか書いていないような求人票が多いのですが、「営業事務/BtoB通販業務の主担当【中央区】」と書くことも可能なのです。職種欄は必須のチェックポイントですからここに情報が乏しいのはもったいないことです。
もうひとつは仕事の内容に「経験不問」というキーワードを入れること。もちろん優秀な経験者が採用できるならそれに越したことはないのですが、そうでない人でも育成するつもりがあるなら必ず入れておくべきキーワードです。
職探しをしている側の心理として不採用になるのは面白くありませんから、経験者優遇かも?と思えば未経験者は応募するのを躊躇してしまいます。経験がなくとも素質や才能のある人が応募してくるチャンスを逃したくなければ、あえて「経験不問」という文字を入れておくのが得策です。
他にも細かいことはありますが、いずれにしてもこの求人票の書き方ひとつで採用状況は大きく変わってくるだろうことを実感しました。
温浴施設では年がら年中求人誌に広告を出しているところも少なくないですが、求人コストのかからないハローワークでうまく採用できるようになったら、長期的には大きな経費削減になるのではないでしょうか。
◆滑り止めソリューション
浴室の滑りは温浴施設にとってかなり重要な課題となっています。
私自身も足を滑らせてヒヤッとしたことは数えきれませんし、私の娘は小さい頃に泊まった温泉旅館で大浴場に入った時にはしゃいで走り出し、勢いよく滑って転んで後頭部を強く打ったことがあります。
脳震盪を起こしたらしく、翌日になって嘔吐したりして慌てて病院に連れて行ったことを覚えています。幸い大事には至らず今も元気ですが、浴室の滑りは一歩間違うと大事故につながりかねないことを痛感しました。
万一浴室の転倒事故が起きた場合、お客様の不注意で済むとは限りません。管理状態によっては施設側の責任が強く問われる可能性もあるのです。
実際、経年とともに浴室は滑りやすくなります。部位や要因によって対策もいろいろです。
滑りは、原因となっているぬめりや脂分の除去、床材に詰まった汚れの除去、滑り止め剤の塗布、滑り止めテープやマットなど様々な対処法があります。業者施工ならサンドブラストや滑らない床材への変更などの方法もあります。
いずれにしても原因を見極め、一日も早く最適な対処法を見つけ、滑らない状態を維持することが重要です。
私どもアクトパスが運営する通販サイト「浴場市場」では、現在各種滑り止め対策商品を10アイテムほど販売しています。
http://www.yokujoichiba.jp/shopbrand/ct221/
もし滑りでお悩みでしたら、ぜひお試しください。
◆トイレ修理に思う
以前書いた自宅トイレの水漏れ問題を抜本的に解決するために、トイレタンク内のボールタップとレバーの部品を取り寄せ、自分で交換修理をしました。
INAX製のトイレなので、INAXのホームページで部品の品番と金額を確認し、念のためいつも通販で使い慣れているamazonを検索してみたところ、半値以下の価格で販売されamazonに在庫あり翌日配送とのことだったので、迷わず購入。
一般的にこういった製品は水道工事店の販路を守るために、純正品のメーカー希望価格を高めに設定し、工事店の利幅が確保できるようになっています。
しかしメーカーの本音としては工事店であろうと通販であろうと、自社製品が売れて自社の利益が確保できればそれで良いという部分もあり、最近は工事店以外の販売ルートが徐々に拡大しているというところでしょう。
個人としては、自分の道具と技術で交換修理ができるのかどうかの見極めが必要ですが、もし水道屋さんを呼んでいたら何万円も請求された可能性がありますので、今回はamazonで買えたことに満足しています。
そういえば最近同じようなことがありました。前にもこのメルマガでおススメした三栄水栓のシャワーヘッド(節水能力が高い上にミスト切り替えやストップボタンもついた優れモノ)を、ある温浴施設に紹介しました。
さっそくamazonで在庫を確認したところ在庫が少なく、男女合計50箇所近いシャワーヘッドを一斉交換することができません。
仕方ないので普段から付き合いのある設備業者に相談してみたところ、「ウチを通すとかえって割高になりますよ。」と断られてしまい、結局その温浴施設は近くのホームセンターを通じてお取り寄せでまとめ買いする方法になりました。
メーカーが自社製品の値崩れや施工ミスによるトラブルを嫌い、販路として継続的に取引のある工事店ルートに絞りたいという気持ちもわかります。
以前ある浴槽設備を製造しているメーカーに「最近は修理やメンテナンスをできるだけ自分でやろうとする施設も多いので、取付工事の簡単なモノなら通販でも売れるはず。浴場市場で取り扱いたい」と持ち掛けたことがあるのですが、工事店ルートを崩せないということで断られた経験があります。
古いと言えば古い体質ですが、そんな業界事情だからこそ、温浴施設としては修理やメンテナンスをする時に何にも考えずにつき合いのある設備業者に頼るだけでなく、他の方法がないのかをちょっと調べてみたら良いと思います。
製品名や品番をネット検索するだけで、製品本体の価格がびっくりするほど安く売られていたり、自分で修理する方法をブログで紹介している人がいたり。
モノによっては大きなコストダウンになったり、自社に知識や技術が蓄積される機会になるチャンスかも知れません。
◆台風への備え
今日は日曜日ですので本来メールNEWSは休刊日ですが、大型の台風10号が接近しているので防災情報です。
個人向けですが、台風対策をまとめたページがよくまとまっていたのでシェアします。
http://m.huffpost.com/jp/entry/11733110
あと店舗として判断しなければならないのは、朝から営業するか休館するのかとか、途中休館の場合は移動できなくなったお客様や従業員の収容とケアといったこともありますね。
いずれにしても備えあれば憂いなし。対策不十分で被害を出すのが最悪で、空振りに終わってもそれで良いと思ってしっかり備えましょう。
◆汚れの種類と薬剤
最近、新しいスタッフが入社するのをきっかけに事務所のレイアウトを変えたり不用品を捨てたりして、かなりスッキリしてきました。
その中で、扱いに困ったのが会社備品として使っていた「自動消火式 業務用スタンド式灰皿 CEASE-FIRE(シースファイア)」。
浴場市場でも販売している商品ですが、大量の吸い殻を溜めることができ、自動消火式で水を使わないため掃除が楽。屋外喫煙コーナーに設置するのに最適な人気商品で、温浴施設だけでなく、建設現場や大型船舶などからもお引き合いをいただいています。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000001011/
以前は社内に喫煙者が複数いたので、自社製品の使用テストも兼ねて設置し気に入って使っていたのですが、全員タバコを吸わなくなってしまい、無用の長物と化していました。
まだ傷んでもいないので捨てるにしのびなく、引き取り手を探していたところ、ようやくお付き合い先の温浴施設の屋外喫煙コーナーに設置していただけることに。
せっかく置いていただけるのだからキレイに洗うことにしました。
タバコのヤニの除去には酸が有効であることは以前実験して判明していたので、クエン酸の粉末を購入して水に溶かしてスプレーに入れ、内側に真っ黒にこびりついたヤニにかけてみたところ、どんどん溶けて行きます。
あとは普通の洗剤と水で洗うとすっかりピカピカになりました。
汚れの洗浄は、その性質によって適する薬品が異なります。
浴室の代表的な汚れ
・油脂系…界面活性剤(いわゆる中性洗剤)。しつこい汚れはシンナーなどの溶剤で溶かすこともできる。
・黒カビ…塩素系カビ取り剤。壁には農薬散布ノズルで一気に噴霧。塩素で落ちないものは重曹を試す。
・ピンクぬめり…バスマジックリン消臭プラスが扱いやすい。
・カルシウム系…酸で溶かす。クエン酸は扱いやすい。トイレのサンポールは塩酸なので強力。
・鉄サビ、マンガン系…ニューフレッシュが定番です。
といった分類になっています。汚れと薬剤の性質が合致すれば、苦労せずに汚れがキレイに除去できるのです。
クレンザーなど研磨剤入りの洗剤を常用したり、研磨パッド、スチールウールなどを使うと、汚れを取ると同時に素材を傷めてしまうので、研磨はひどい汚れに対する最終手段と考えて普段はできるだけ使用しないことが内装の長持ちにつながります。
◆浴槽からの救出
先日このメルマガの第183号で「入浴してはいけない場合」の表示例を列記しました。
その中のいくつかは、自動車の危険運転の可能性を踏まえた発作性の疾患を警告するのと同様な文言を入れてあります。
かつて現場で経験したことなのですが、てんかんの持病を持ったお客様が入浴中に発作を起こしたことがあったのです。
浴槽内に沈んでしまい、知らせを受けて慌てて私も浴室に駆けつけたのですが、大柄で体重のある男性で、浴槽内から持ち上げようにも水で肌が滑ってしまい、なかなかうまく行かなかったのです。
幸いどうにかして浴槽から救出し救急車で搬送されて、その男性客は一命をとりとめることができましたが、浴槽に人が沈んでいるのを目の当たりにした時の焦りは忘れられません。
そんな経験から、入浴中に突発的に意識を失うような可能性のあるてんかんや薬物依存等の疾病については何らかの警鐘が必要と思ったのです。
ただ、「てんかん、薬物依存」等の言葉を不用意に持ち出すことは、人権にも関わりかねない問題のため、自動車運転免許更新の際の確認事項の文言を流用させてもらいました。
ついでに申し上げますと、浴槽に沈んで自力で出ることの出来ない状態にある人を救出するという想定は、温浴施設独特の救命救急訓練として、やっておいた方がいいと思います。
いざというときに落ち着いてしっかり対処できるように。
◆大掃除
本日は久しぶりの事務所出勤。少し前からやろうやろうと思ってなかなか手がつかなかった事務所の大掃除を今日こそやる決意です。
温浴施設でも新年を迎えるにあたって、普段手がつかなかった箇所の清掃をしようと考えているところも多いのではと思います。
清掃のノウハウについては施設毎の事情が違いすぎるので、コレといった決め手をお伝えするのは難しいのですが、浴場市場取り扱い品の中でも幾多の施設で特にご好評いただいているカビ取り剤がありますのでご紹介しておきます。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000001212/
『カビ取り除去剤』というしつこいネーミング(笑)ですが、効果は確かです。
専門業者さんに外注しなくても、農薬散布などに使う噴霧器を用意すれば自前作業でキレイにできます。
浴室の天井高がやたらと高い施設さんでは、壁の上部や天井の高所作業が難しいのですが、これを高所作業の専門業者さんに頼むと非常に高額になります。
そういう場合は動力ポンプの噴霧器を使い、さらに脚立とロングノズルを組み合わせると、5m以上の高所にも届くようになります。ただし危険を伴う作業になりますので、安全にはご配慮を。
スッキリとキレイな浴室にして、新しい年をお迎えください。
アクトパスのこと
◆オリジナル商品のご紹介
気が付けばこの日刊メルマガもずいぶん過去記事が増えてきました。我ながらよく毎日書くことがあるなとも思いますが、ちょっと力が入り過ぎな気もしています。何事も継続が大切ですので、今回はちょっと力を抜いて商品紹介をしてみたいと思います。
これまで弊社が開発してきたオリジナル商品群です。
■GFC加工木桶・腰掛け(発売:2007年頃)
木製の浴室用腰掛けや木桶は風情があり個人的にも好きなのですが、数ヶ月も使うと黒カビや腐りでダメになりやすく耐久性に難があります。そこで漆の食器を扱うメーカーさんが開発した、塗装ではなくグラスファイバーを含浸させる技術で木材自体の耐久性を高めました。
木の風合いを保ちながら耐水、防カビ性があり、長期間使用しても黒ズミ等が発生しません。私の経験では木桶と腰掛けを2年間使用したところで底部の摩耗などから交換しましたが、カビや腐りは皆無でした。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000000692/
■岩盤浴用木枕(発売:2008年頃)
元々はチムジルバンの元祖韓国からの輸入品を扱っておりましたが、木の割れや、整形不十分によるガタつきなどで何度かクレーム&返品となり、こりゃいかんと国産化を進め、宮崎県の木材加工工場で作ってもらっています。
形状は韓国で愛用されている木枕とほぼ同じです。GFC加工とポリウレタン塗装の2タイプがあります。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000001009/
■まんぼうくん1〜3号(発売:2009年頃)
岩盤浴で隣に横になっている人との間を隔てる衝立。それまで某大手家具メーカーが販売している数万円もする製品しかなかったのですが、日曜大工でも作れそうな単純な構造のわりに高価すぎると思い、自らデザイン(角型、丸形、波型)して上記の木材加工工場で作ってもらっています。
ちょっと魚のマンボウに似ているのでまんぼうくん。組み立て式です。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000000989/
■三大欲求刺激アロマ(発売:2010年頃)
アロマセラピーは単に良い香りを楽しむといったことだけでなく、頭痛を治したり集中力を高めたりといった具体的な効果効能があると言われています。
香りが人間の体調や気分に影響を与えることができるなら、人間の三大欲求といわれる食欲や睡眠欲、性欲を刺激してコントロールすることを目的に調合されたアロマオイルもできるのでは?と思ってアロマオイルメーカーの社長に訊ねてみたところ、やはりできるようです。
レストラン付近でこのアロマを漂わせて食欲を刺激すれば飲食売上アップ!という狙いです。睡眠欲と性欲のアロマについてはご興味ある方はお問い合わせください。(※注)悪用しないようしてください。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000001092/
オリジナル商品もまだまだありますので、いずれ続きを書きます。
◆オリジナル商品のご紹介2
今日は 2016年4月21日です。
リスクマネジメントのことを書いていたら熊本・大分の震災が起こり、また力が入り過ぎた文章が続いてしまったようです。
ここらへんでちょっと力を抜きたいと思います。漫画で得た知識ですが、バスケではこういうのをチェンジオブペースというらしいですね。
ということで、以前メルマガ第37号で書いたオリジナル商品のご紹介の続きです。
■25種類のアヒル隊長(発売:2012年頃)
浴槽に浮かべるアヒルのおもちゃ、温浴施設のイベントとしてもかなりメジャーになりました。このアヒルにも様々な製品がありますが、実際に使ってみると傾いたりひっくり返ったりしてちゃんと浮かばない製品や、音を鳴らすための穴が空いておりそこから水が入るので長時間経過すると菌が繁殖する恐れがある製品など、粗悪品の問題も出てきていました。
そんな時、たまたまパイロットインキさんの「アヒル隊長」で登録商標をとっているメーカーさんとご縁をいただき、温浴施設向けに「ちゃんと浮かんで、穴が塞がっている」アヒル隊長を企画製造してもらうことになりました。
しかし、それだけだと差別化ポイントとしては地味なので、米澤専務の発案で表情5種類カラー5種類で合計25種類のアヒル隊長シリーズということにして発売に至りました。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000000077/
■インターネット販促支援ツール「ニフパス」(発売:2013年頃)
昨今重要性が高まる一方のネット販促ですが、本気で取り組んで成果を上げようとすると担当者の負担はかなり大きなものになります。自分自身が現場で取り組んだ経験から、できるだけ少ない労力で最大限のネット集客効果を上げる方法を考え、ニフティ株式会社と共同開発したツールが「ニフパス」です。
ネット販促の手法は無限と言ってよいほどありますが、限られた労力とコストできっちり成果を上げようと考えるなら、これに勝るツールはないと思っています。まだ取り組まれていない方、まずは無料トライアルからのお試しをお勧めしています。
http://onsen.nifty.com/magazine/nifpas/
■スチームジェネレータ(蒸気発生器)「熱岩石」(発売:2013年)
以前はオリジナル商品といってもメーカーさんにお願いして既存商品を温浴施設向けにアレンジしてもらうような製品が多かったのですが、この熱岩石は完全オリジナルです。
言わずと知れたサウナでのロウリュのための蒸気発生器ですが、運搬式にすることによって、それまでロウリュを諦めていたガス遠赤外線ストーブ方式の施設でも多額の設備投資をせずにロウリュイベントを開催できるようになりました。
現在全国のロウリュ実施店舗のうちシェア約10%がこの熱岩石を使用しています。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000000078/
まだご紹介していないアクトパスのオリジナル商品もありますし、現在研究開発中の製品もあります。新しいモノを生み出す楽しさを感じています。
これからも引き続きコンサルティングのみならず、新商品開発による温浴ビジネスのソリューションにも取り組んでいきたいと思っていますので、「こんな商品があればいいんだけど」等、お困りのことがありましたらお気軽にご一報ください。
◆企業生存率
今日は 2016年3月31日です。おかげさまで、本日株式会社アクトパスは第10期の決算日を迎えることができました。
創業から今日までの10年間は想定外の連続で、当初のイメージとはかなり違った展開になっていますが、兎にも角にも生き残っていることに感謝です。
起業した会社の生存率には諸説ありますが、よく言われるのが100社起業したら10年後に生き残っているのは5社とか6社という数字です。10年後生存率はおよそ5%ということになります。
自分の周りを見渡すと、感覚的にはもっと残っているような気がするのですが、私がよく知っているのは温浴業界とコンサル業界ですから、どちらかというと潰れにくい業種なのかも知れません。
考えてみると、アクトパスが創業した2006年は温浴市場のピークで、スーパー銭湯や日帰り温泉が次々と開業するだけでなく、岩盤浴専門店が雨後の筍のように出店していた時期でした。しかしいま岩盤浴は温浴施設の中でこそ一定の人気を保っていますが、多くの専門店は姿を消してしまいました。
10年前には想像もできなかった現在があります。
一般に言われる「起業から30年後になると生存率は1%以下となり、ほとんど残っていない」というのは確かにその通りかも知れません。
温浴業界でも開業30年を超える施設はまだわずかです。
10年、30年という長い時間の中では、事業環境も大きく変わります。その中にはピンチもあればチャンスもあるでしょう。
苦しい時があっても潰れずに堪えていれば、必ずまたチャンスがめぐってきます。そういう意味では絶対に潰さない経営をすることが一番大切で、次に伸ばす時と整える時の見極めや、攻めと守りのバランスが重要なんだろうと思っています。
◆下駄サンダル
浴場市場でちょっと変わった商材の取り扱いをはじめました。
下駄サンダル撫子(なでしこ)というこの商品、下駄のようなサンダルのような。下駄部分は独立気泡発泡スポンジ製(EVA)で、軽量なのに優れたクッション性を備えています。汚れにくく、サラッとした肌触り。滑らかアーチラインで履き心地もグッド。鼻緒は樹脂製(PVC)なので、水濡れなんてお構いなし。雨の日でもそのまま使えるお洒落なデザインです。
日本製ですがまだ一般にはほとんど流通していないので、稀少性があります。
なぜこの商材を取り扱うかというと、ビーサン感覚で気軽に履けるのにお洒落な和風デザインという点が和風の温浴施設に似合うのではないかと思ったからです。
売店での販売を想定していますが、中庭等やテラス等でちょっとお客様に使ってもらうのも良いかと思います。
よろしくご検討ください。
http://www.yokujoichiba.jp/shopdetail/000000001377/
◆新規事業がスタートします
最近このメルマガで何度か大正生まれ91歳の女性が登場していましたが、その人とは、実は国内に3社あるサウナタイマーメーカーのうちの1社、泉産業の村山あさ社長のことでした。
先月のことですが唐突に村山社長が弊社にやってこられて、これまで長年続けてきた自分の事業を高齢のため弊社に譲渡したいとのお申し出。数ある取引先の中から弊社を選んでいただいた理由はハッキリしませんが、大変光栄なことなので謹んでお引き受けすることにしました。
新規事業と言っても、これまでも仕入れて販売していたサウナタイマーを製造から取り組むことになったというだけのことなので、浴場市場のお客様の立場から見るとあまり変化がないのですが。
それでも弊社としては、製造工場とのやり取りや、在庫を抱えること、資金繰り、製品保証やメンテナンス、デザインや梱包の仕様変更など、新たな取り組みがいろいろ必要となり、充分に新規事業としての重みがあります。
お引き受けする以上はこれまでのサウナタイマーの概念を一新するような新製品もいずれ開発してみたい、と意気込んでおります。
正式な事業引継ぎのタイミングは10月末に決まったので、村山社長にお会いしてから2か月足らずのスピーディな展開でした。
このようなことは、弊社の事業計画はもちろん、私の頭の中にも一切なかったことで、戦略も狙いも関係ありませんが、これからの弊社の事業としてはきっと大きな意味を持つことになるでしょう。
会社の運命は、必ずしも目標や計画、その達成努力によって決まるわけではないということを今更ながらに思い知らされました。
だからと言ってそれらを怠れば会社の存続が危うくなりますので、目標や計画に向かって頑張ることが無駄というわけではありませんが、運命を予測したり計画することはできません。
ひとつ言えることは、狙って引き起こしたことではなくても、物事には必ず原因があるということです。
サウナタイマーの件で言えば、取り扱い製品の幅を広げるために各方面を探しているうちに泉産業さんの製品を見つけ、お取引をお願いし、いろんな販売努力で販売数を伸ばし、毎回の発注のやりとり、弊社からの情報発信。そういったことのひとつひとつが積み重なり、村岡社長の心を動かすことになったのかも知れません。
良かれと思って前向きにいろいろ動いているうちに、それらが積み重なって意図せぬ幸運が生まれる。もしこれまでのお付き合いが雑な内容だったらこうはならなかった。そう思うと事業と人生は同じだなぁ、と思います。
日々の挨拶や礼儀、あるいは生活習慣をしっかりすることによって、円滑な人間関係や健康な身体を保つことができます。そうして地に足をつけて生きているうちに幸運な出来事も起きる。
逆にどんなに成功しても、お金や社会的名声を得ても、心を許せる友がいなかったり、病気になったり死んでしまっては何にもなりません。
目標達成や計画遂行に一所懸命になるのはいいのですが、その為に社員や取引先を必要以上に疲弊させたり関係を壊したりしてしまっては、何にもならないのです。
◆20年という時間
かつて初めてオープンのお手伝いした温浴施設が、間もなく開業18周年を迎えますので、私の温浴コンサルタントとしての活動は、そろそろ20年経つということです。
今から20年前、1990年代後半の温浴業界は、ライフサイクル的に成長期の真っ只中にあり、猛烈な勢いで成長していました。
自家風呂の普及に伴って従来からの銭湯が衰退していくのを尻目に、モータリゼーションや温泉掘削技術の進歩も追い風となって、大型温浴施設が続々と出店するようになりました。
その頃の温浴業界には、本格的にコンサルティング活動をしているところがなく、温浴事業者同士の横の繋がりも少なかったため、設計事務所や建設会社、あるいは設備や備品消耗品などを温浴施設に提供する事業者が温浴ビジネスをよく知る者として情報提供やアドバイザー的な役割を担っていました。
しかし、そこで飛び交う情報にはウソや誤解もたくさん入り交じっていて、そのことが温浴施設を経営する会社に混乱や損失をもたらしている場面に多く遭遇しました。分かりやすく言うと「悪い業者に騙された!」というようなことです。
繰り返されるそんな出来事への憤りもあって、振り返ればこの20年間は正確な情報と常識的な考え方の発信に努めてきた期間でもあったと思います。
個別のコンサルティング契約だけでなく、セミナー、展示会、メルマガ、ブログ、SNS…様々な手段を使って温浴経営に関する情報を発信してきました。
恣意的と思われないように、できるだけ客観的事実と数字で語るようにしてきました。
結果として、基本的なセオリーやノウハウがある程度皆に知られるようになり、「悪い業者に騙された!」という話は昔よりあまり聞かなくなってきたような気がします。
多少は温浴業界の進化をスピードアップするお手伝いができたのかな?と思う一方、他の業界から見ればまだまだですし、逆に最近はセオリー通りで個性のない施設が増えてしまったような気もします。
その昔舩井幸雄が、「どんなことでも、20年続けて取り組めば名人・達人のレベルになれる。しかし誰でも3年頑張ればその8割程度のレベルに到達することができる。」と言っていました。
物事の習得にもパレート曲線のような傾向があるということなのですが、その意味では20年続けてしまった私はそろそろ温浴の名人・達人の域なのでしょうか?
自分では分かりませんが、まだまだ知らないないことが多いですし、やりたいこともたくさんあります。
自分に残された仕事時間がどれだけあるのか分かりませんが、将来また自分の人生を振り返った時に自己満足に浸ってニヤケられるような結果を残していきたいものです。
◆本物かどうか
最近、ある画期的な技術による省エネというふれこみで、某メーカーさんから熱心なアプローチを受けています。
これまで、こういった様々な製品や技術のご相談には真摯に対応してきました。もしその製品や技術よって温浴ビジネスに良い影響があるのなら、それを普及させるのは弊社の役割だと思って無償でお手伝いをしてきました。
しかし、それらが温浴施設で大きな成果を上げられたのかといえば、そうでないことの方が多かったというのが実際のところです。
製品化というのは、実に難しいものです。
弊社はメーカーとして動くこともあるので痛感しているのですが、理論的・技術的には筋が通っていたとしても、経済的にメリットのある形で仕上げられるかどうか、状況がそれぞれ異なる現場で確実に成果を上げられるかどうか、安全性や耐久性はどうかなど、完成度の高い製品化として販売に至るまでには長く困難な道のりがあります。
そこを省略して早く売りたがる技術者やメーカーさんが実に多いのです。特定の条件を満たした温浴施設のリストが欲しいといった虫のいい要求をされることもあります。
そういう時に、弊社の米澤専務は「技術よりも実績が大事なので、実績を作ってから出直してきて」と言って突き放しています。本気で門前払いにしているわけではなくて、素晴らしい発想や技術を本物に育て上げて欲しくてそう言っているようです。
いまから20年くらい前に、故舩井幸雄から「本物の5条件」を教わりました。当時はそんなものなのかな?くらいに思いながらメモをとっていましたが、
1.つき合うものを害さない
2.つき合うものを良くする
3.高品質で安全、そして安心できる
4.単純でしかも万能である
5.経済的である
この5条件を満たすものは世の中にほとんどない、と言っていたことを今更ながらに思い知らされています。
だからこそ、本物を世に出していくことには大きな意義があるとも思っています。
あとがき
2016年1月から始めた日刊アクトパスNEWSも創刊から1年以上が経過し、300号を越えました。
これまでメルマガは週刊でしか配信したことがなく、日刊は初の試みでした。100号書くのに週刊なら2年もかかりますが、日刊だと4ヶ月で到達ですから超ハイペースです。
ネタが尽きるのではないかという不安もありましたが、何とか日々の気づきと過去の経験を組み合わせながら続いています。
おかげさまで情報を仕入れる意識が高まり、また文章化するために自分の中で結論に至るまで反芻するので、どんどん脳が活性化するようです。
かつて、師 舩井幸雄が「情報は出せば出すほど入ってくる」と言っていたそのもうひとつの意味がようやく分かったような気がします。
facebookやブログに代表されるSNSの時代は、誰もがネット上に発信源を持って言いたい事を発言できる、言わば誰もが表現者であり発信者の時代です。このことによって、温浴ビジネスのみならず、これからの世の中全体のレベルアップが加速していくのかも知れないと思ってワクワクしています。
著者プロフィール
株式会社アクトパス 代表取締役社長
望月 義尚(もちづき よしひさ)
1965年生まれ、東京都出身。1991年株式会社 船井総合研究所に新卒入社。開発指導本部に配属となり、不動産開発、店舗開発、新規事業、地域振興等多岐に渡る業務に携わる。
96年頃より温浴事業のコンサルティング活動をスタート。以降、船井総研温浴事業コンサルティングチームのチームリーダーとして日本全国で数々の繁盛店の開発や不振店の事業再生を実現する。代表的なプロジェクトは「おがわ温泉花和楽の湯開業プロデュース」「有馬温泉太閤の湯リニューアルプロデュース」など。
豊富な経験に基づくフィージビリティスタディは、抜群の精度と定評がある。
また、温浴事業のマーケティングやマネジメントをテーマにした各種セミナーの開催や国際ホテルレストランショーにおける温浴展示会の企画協力等、業界全体の発展に貢献。
2006年、より総合的な温浴事業プロデュースを目指して独立、株式会社アクトパス代表取締役に就任。
2011年より2年間大型温浴施設の現場責任者として施設運営にあたり、その経験がフィードバックされたコンサルティングはさらに実践的なものとなっている。
共著に「温浴施設の再生計画実務資料集(綜合ユニコム)」、「温泉百科事典(丸善出版)」がある。
現在、メールマガジン「日刊アクトパスNEWS」を毎日執筆中。
温浴百科2017
(おふろやさんビジネスの今と未来2017)
平成29年2月初版発行
定価[本体2500円+税]
著者:望月 義尚
発行所:株式会社アクトパス
http://www.aqutpas.com/
〒141-0061 中央区銀座3-11-5 第2中山ビル7F
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